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本編
ヴォルフ
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あれから毎日、暇があれば楽器を触っている。
ベンの部屋から聞こえてくる、テラスでの練習が王宮で少し噂となっていた。
ベンは出張で不在だ。少し遠い地方長官との会談だという。日帰りでは無理な距離のため、明後日帰ってくる。
「…さびしいな、レイ」
「うん、早く帰ってきてね」
「ああ」
出掛ける前も、そう言って二人で抱きあい、ちゅっちゅっと何度もキスをした。豹のゲットうんざりした顔で見ている。
「このバカップルめ、早く行けよベン、俺がレイを守ってやるから」
ベンにはゲットの言葉はわからないけれど、俺には通じる。ゲットにも守られている俺はなんだか幸せだなぁと思った。
ベンが出掛けたあと、俺は昼食をとるためにゲットと王族専用の食堂へと向かった。
部屋を出てすぐのT路路を曲がり、長い廊下を渡ろうとしたとき。
廊下をいっぱいに泥のようなものが塗りつけてあるのが見えた。幅が広くて跳んで渡れる距離じゃないので通れない。
「なんっじゃそりゃ!」
初めて見た景色に、豹のゲットが大声を上げる。
どうしよう、渡れない…というか、ここから出られない。部屋に陸の孤島状態にされてしまった。
ビチャビチャ!と背後で音がして振り向くと、後ろの廊下も泥が撒かれていた。バタバタと複数の人間が走っていく音がした。
困ったな、完全に道を閉ざされた。よく見ると、泥のなかに油や粉々のガラスが仕込まれてあり、もし思いきって渡っても、転んでしまったら大怪我する。
手の込んだ嫌がらせだな…。俺は腹が立つというよりあきれてしまっていた。
でもどうしようかな、うーん…。
「この幅ではレイを乗せてとぶにしても、俺のジャンプでも難しい広さだな…」
「ダメだよゲット、もしこの中に落ちたら肉球が怪我しちゃうじゃん」
「じゃあどうするんだよ!?」
「うーん、困ったなあ…」
俺はその場にしゃがみこんで考えてみるけれども、何の策も浮かばない。
「…これを撒いた奴らから皇后の臭いがプンプンする。あいつの手の者だな、俺の鼻を舐めるなよ」
「あ、そうなんだ。ゲット嗅覚いいもんね、なら確実だ」
「…えらく落ち着いてるな…レイ」
ゲットが驚いて俺にそう言った。
と、年の功…。俺は前世、演奏会で世界中を旅していた。長い人生、内戦に巻き込まれたりハイジャックされたりしたこともあったな。
でも、個人的に憎しみを向けられたことはなかった。
さーてどうするかな…。
「んな!何だそれ!?は?レイ!?」
突然名前を呼ばれ、顔をあげると。
ベンの兄、ヴォルフが驚愕の表情でそこに立っていた。
ベンの部屋から聞こえてくる、テラスでの練習が王宮で少し噂となっていた。
ベンは出張で不在だ。少し遠い地方長官との会談だという。日帰りでは無理な距離のため、明後日帰ってくる。
「…さびしいな、レイ」
「うん、早く帰ってきてね」
「ああ」
出掛ける前も、そう言って二人で抱きあい、ちゅっちゅっと何度もキスをした。豹のゲットうんざりした顔で見ている。
「このバカップルめ、早く行けよベン、俺がレイを守ってやるから」
ベンにはゲットの言葉はわからないけれど、俺には通じる。ゲットにも守られている俺はなんだか幸せだなぁと思った。
ベンが出掛けたあと、俺は昼食をとるためにゲットと王族専用の食堂へと向かった。
部屋を出てすぐのT路路を曲がり、長い廊下を渡ろうとしたとき。
廊下をいっぱいに泥のようなものが塗りつけてあるのが見えた。幅が広くて跳んで渡れる距離じゃないので通れない。
「なんっじゃそりゃ!」
初めて見た景色に、豹のゲットが大声を上げる。
どうしよう、渡れない…というか、ここから出られない。部屋に陸の孤島状態にされてしまった。
ビチャビチャ!と背後で音がして振り向くと、後ろの廊下も泥が撒かれていた。バタバタと複数の人間が走っていく音がした。
困ったな、完全に道を閉ざされた。よく見ると、泥のなかに油や粉々のガラスが仕込まれてあり、もし思いきって渡っても、転んでしまったら大怪我する。
手の込んだ嫌がらせだな…。俺は腹が立つというよりあきれてしまっていた。
でもどうしようかな、うーん…。
「この幅ではレイを乗せてとぶにしても、俺のジャンプでも難しい広さだな…」
「ダメだよゲット、もしこの中に落ちたら肉球が怪我しちゃうじゃん」
「じゃあどうするんだよ!?」
「うーん、困ったなあ…」
俺はその場にしゃがみこんで考えてみるけれども、何の策も浮かばない。
「…これを撒いた奴らから皇后の臭いがプンプンする。あいつの手の者だな、俺の鼻を舐めるなよ」
「あ、そうなんだ。ゲット嗅覚いいもんね、なら確実だ」
「…えらく落ち着いてるな…レイ」
ゲットが驚いて俺にそう言った。
と、年の功…。俺は前世、演奏会で世界中を旅していた。長い人生、内戦に巻き込まれたりハイジャックされたりしたこともあったな。
でも、個人的に憎しみを向けられたことはなかった。
さーてどうするかな…。
「んな!何だそれ!?は?レイ!?」
突然名前を呼ばれ、顔をあげると。
ベンの兄、ヴォルフが驚愕の表情でそこに立っていた。
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