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本編

叱られました。

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兵舎のナンパから救い出され、ベンに部屋まで連れて帰られた俺は少し怒られた。

ソファに腰かけたベンが隣に立つ俺を見上げる形で不機嫌に眉をしかめている。

うぉ、怖ぁ。

「たまたま今日の公務が軍の仕事で、私が兵舎を通りがかったからよかったものの。突然ゲットが走っていくから何事かと思えばレイがあんな危険な目に遭っていようとは…何故そこにいた?胆が冷えたぞ」

ため息をつきながらベンが肘おきに持たれて頬杖をつく。不機嫌全開だ。

「ごめんなさい…。王宮をもっとちゃんと知りたくて…でも広すぎて迷ってしまったんだ」

俺が正直に答えると、ベンが腕を引いて俺を膝に座らせた。

「何故またそんな好奇心を?」
「…」

俺は黙りこんだ。ベンに迷惑をかけたくないからという理由だったのに、結果的にめちゃくちゃ迷惑をかけてしまったからだ。

「レイ、そういう隠し事は好きじゃない」

ベンの眉間が更に険しくなった。そして少し悲しげな目をする。俺の胸がきゅーんと痛んだ。

「…もっと、ここに早く馴染みたくて、ベンに頼りきりの足手まといになりたくなかったから…でも、田舎者の俺にはここは広すぎちゃって。…ごめんなさい」
「俺のため?」
「うん…」

俺がこくりと頷いたとたん、ぎゅっと抱き締められ、ベンの厚い胸に額が沈む。

「いきなりこのガルデスフィールに連れてきて、レイがまだ会ったばかりの私のことを好きかどうかもわからなくて不安だったが…そんな風に考えてくれていたとは、嬉しいな」

俺の髪に何度もキスをくれるベン。そのキスを髪にではなく唇に欲しいと思ってしまった俺は顔を上げる。するとベンがすぐにそれをわかってくれたのか、俺の唇にキスが降りてきた。

「んっ、ん…」

自然と声が漏れる。胸が疼いて仕方がない。彼の首に手を廻して何度もキスを重ねた。

俺の不安をベンはわかってくれているんだな。彼の役に立ちたいな…喜ばせたい。

不意に過去のことがフラッシュバックされた。

前世、俺は独り身の音楽家だった。周囲に人は溢れていたけれど、誰とも結ばれずに楽器を愛した。

「ねえ、この国には楽器ある?」
「楽器…?」


俺はすぐにある部屋に連れていかれた。そこは音楽室のようで、たくさんの楽器が所狭しと置いてある。大国の収集量は圧巻だった。

「ここには世界中のあらゆる楽器がある、いきなり楽器なんてどうしたんだ?レイ」
「うん…使ってみてもいい?」
「ああ」

前の国では元婚約者の王子によって俺は楽器を禁止されていた。俺が楽器を愛することを奴は一切許さなかった。くだらない嫉妬。奴は自分が愛されてないことを知っていたから余計に俺に意地悪をしたのかもしれない。

壁にかけてあった、バイオリンによく似た弦楽器を手に取り隣にある弓を持つ。
そして軽く調律をして、俺は思うままに弾き始めた。

美しい旋律が響く。俺の耳に、首にビリビリと電流のような喜びが走った。

ベンが目を丸くする。

簡単な曲だったけれども、俺の腕は鈍っていなかった。





















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