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本編
お引き取りされました。
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広間じゅうがクスクスと嘲るような雰囲気に包まれていた。
シュワルツ卿はすこぶる評判が悪い存在だ。陛下に呼ばれても全く王宮へは来ず、なのにたまに来る。あの全身黒づくめは奇異しかなく、誰とも打ち解けない。
年齢も不詳、あのフードに包まれた体はボロボロだとか、人目にふれることを憚る容姿だからだとか、散々な陰口を叩かれていた。
いつからか暗い沼地に立つ辺境の城に住み、何してるかもわからない。人外か悪魔だとも噂されている、全く得体の知れない人だった。ここでの階級は伯爵。何故貴族として、いつからこの国に存在できているのかも全く謎な家柄なのだ。
そんなシュワルツ卿が、俺を欲しいなんて…。
面白そうだ!
こんな腐った王宮でバカ王子に敷かれてのたれ死ぬくらいなら、悪魔に身を売るほうがいい。
「行きます」
俺は即座に返答した。
広間の空気が貴族たちのどよめきで動く。
「レイ!」
ウッド王子が大声で俺の名前を呼んだ。渋々振り向くと、コブつきのように転生者の女の子をくっつけたままウッド王子が怒りに震えながら俺を睨み付けている。
「ここで誰のお陰で暮らしていけたんだ?恩知らずめ!その服も、装飾品も、全て俺が与えてやったものなのに!」
うわー未練たらしい…。公爵だよ俺、ここで自分で暮らしていく金くらいあったわ…。これはパーティーだからって、無理やり着せられた服だもん。指輪もピアスも全てウッド王子が「俺色に染まれ~」とか訳のわからないことを言って俺を着せかえ人形のようにしたんじゃん。
全て、今日、俺に婚約破棄の辱しめを受けさせるために仕組んだくせに。泣いてすがる俺を見たかったのだろうに、残念なこった。
はあ、とため息をつき、俺はためらいもなく胸のシルクタイをしゅるっとほどいた。白いシャツのボタンを外し、スルスルと脱ぎ捨てる。
真っ白な胸とピンクの乳首が露になり、広間じゅうが息を呑んでしん、と静まり返る。
指輪とピアスを無造作に外してそこらへ放り投げる。そしてベルトに手をかけてボトムを脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になるとウッド王子を睨み付けた。
「この体は、これだけは俺のものですので、文句は言われる筋合いはない…お連れください、シュワルツ卿」
俺は黒づくめのシュワルツ卿にスッと手を差し出した。
しばらく俺を見つめていた卿は、カツカツと俺に近づくとその真っ黒なベルベットのローブを脱ぎ、俺を包む。
「喜んで」
彼の長い黒髪が至近距離でばさりと流れるように溢れ、俺は目を奪われてしまった。
シュワルツ卿が顔に手をかけ、黒いマスクをずらすと…。
広間にいた人間が一瞬息を止めたのがわかった。
うわぁイケメン…!
シュワルツ卿は長い髪と少し日に焼けた褐色の男らしい肌の、とんでもなくイケメンな男性だった。
そしてノースリーブの肩から見えた黒い見事な赤い刺青のようなアザ。
噂に聞いたことがある、そのアザの持ち主は。
遠方にある超大国、ガルデスフィールの王家の者の証。魔術と武にすぐれた、世界一を誇る超大国だ。
そして、この国はガルデスフィールの末端の属国にすぎなかった。
ベン・シュワルツ卿と、白い俺とは真逆な容姿。
卿は俺を抱き上げると、ウッド王子に言い放った。
「ウッド王子、お前の婚約破棄は、この私、ガルデスフィール王国第二王子、ベン・シュワルツ・ガルデスフィールの前で間違いなくここに成立したことを認める」
静まり返る広間。
ウッド王子が蒼白になり、転生者の女の子は悔しさとわけのわからない怒りでめちゃくちゃブサイクな表情になっていた。
俺はというと。
ベン・シュワルツ・ガルデスフィール…。
長いな、覚えられるかなと本気で考えていた…。
シュワルツ卿はすこぶる評判が悪い存在だ。陛下に呼ばれても全く王宮へは来ず、なのにたまに来る。あの全身黒づくめは奇異しかなく、誰とも打ち解けない。
年齢も不詳、あのフードに包まれた体はボロボロだとか、人目にふれることを憚る容姿だからだとか、散々な陰口を叩かれていた。
いつからか暗い沼地に立つ辺境の城に住み、何してるかもわからない。人外か悪魔だとも噂されている、全く得体の知れない人だった。ここでの階級は伯爵。何故貴族として、いつからこの国に存在できているのかも全く謎な家柄なのだ。
そんなシュワルツ卿が、俺を欲しいなんて…。
面白そうだ!
こんな腐った王宮でバカ王子に敷かれてのたれ死ぬくらいなら、悪魔に身を売るほうがいい。
「行きます」
俺は即座に返答した。
広間の空気が貴族たちのどよめきで動く。
「レイ!」
ウッド王子が大声で俺の名前を呼んだ。渋々振り向くと、コブつきのように転生者の女の子をくっつけたままウッド王子が怒りに震えながら俺を睨み付けている。
「ここで誰のお陰で暮らしていけたんだ?恩知らずめ!その服も、装飾品も、全て俺が与えてやったものなのに!」
うわー未練たらしい…。公爵だよ俺、ここで自分で暮らしていく金くらいあったわ…。これはパーティーだからって、無理やり着せられた服だもん。指輪もピアスも全てウッド王子が「俺色に染まれ~」とか訳のわからないことを言って俺を着せかえ人形のようにしたんじゃん。
全て、今日、俺に婚約破棄の辱しめを受けさせるために仕組んだくせに。泣いてすがる俺を見たかったのだろうに、残念なこった。
はあ、とため息をつき、俺はためらいもなく胸のシルクタイをしゅるっとほどいた。白いシャツのボタンを外し、スルスルと脱ぎ捨てる。
真っ白な胸とピンクの乳首が露になり、広間じゅうが息を呑んでしん、と静まり返る。
指輪とピアスを無造作に外してそこらへ放り投げる。そしてベルトに手をかけてボトムを脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になるとウッド王子を睨み付けた。
「この体は、これだけは俺のものですので、文句は言われる筋合いはない…お連れください、シュワルツ卿」
俺は黒づくめのシュワルツ卿にスッと手を差し出した。
しばらく俺を見つめていた卿は、カツカツと俺に近づくとその真っ黒なベルベットのローブを脱ぎ、俺を包む。
「喜んで」
彼の長い黒髪が至近距離でばさりと流れるように溢れ、俺は目を奪われてしまった。
シュワルツ卿が顔に手をかけ、黒いマスクをずらすと…。
広間にいた人間が一瞬息を止めたのがわかった。
うわぁイケメン…!
シュワルツ卿は長い髪と少し日に焼けた褐色の男らしい肌の、とんでもなくイケメンな男性だった。
そしてノースリーブの肩から見えた黒い見事な赤い刺青のようなアザ。
噂に聞いたことがある、そのアザの持ち主は。
遠方にある超大国、ガルデスフィールの王家の者の証。魔術と武にすぐれた、世界一を誇る超大国だ。
そして、この国はガルデスフィールの末端の属国にすぎなかった。
ベン・シュワルツ卿と、白い俺とは真逆な容姿。
卿は俺を抱き上げると、ウッド王子に言い放った。
「ウッド王子、お前の婚約破棄は、この私、ガルデスフィール王国第二王子、ベン・シュワルツ・ガルデスフィールの前で間違いなくここに成立したことを認める」
静まり返る広間。
ウッド王子が蒼白になり、転生者の女の子は悔しさとわけのわからない怒りでめちゃくちゃブサイクな表情になっていた。
俺はというと。
ベン・シュワルツ・ガルデスフィール…。
長いな、覚えられるかなと本気で考えていた…。
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