上 下
4 / 93
本編

お引き取りされました。

しおりを挟む
広間じゅうがクスクスと嘲るような雰囲気に包まれていた。

シュワルツ卿はすこぶる評判が悪い存在だ。陛下に呼ばれても全く王宮へは来ず、なのにたまに来る。あの全身黒づくめは奇異しかなく、誰とも打ち解けない。
年齢も不詳、あのフードに包まれた体はボロボロだとか、人目にふれることを憚る容姿だからだとか、散々な陰口を叩かれていた。

いつからか暗い沼地に立つ辺境の城に住み、何してるかもわからない。人外か悪魔だとも噂されている、全く得体の知れない人だった。ここでの階級は伯爵。何故貴族として、いつからこの国に存在できているのかも全く謎な家柄なのだ。

そんなシュワルツ卿が、俺を欲しいなんて…。



面白そうだ!


こんな腐った王宮でバカ王子に敷かれてのたれ死ぬくらいなら、悪魔に身を売るほうがいい。

「行きます」

俺は即座に返答した。

広間の空気が貴族たちのどよめきで動く。

「レイ!」

ウッド王子が大声で俺の名前を呼んだ。渋々振り向くと、コブつきのように転生者の女の子をくっつけたままウッド王子が怒りに震えながら俺を睨み付けている。

「ここで誰のお陰で暮らしていけたんだ?恩知らずめ!その服も、装飾品も、全て俺が与えてやったものなのに!」

うわー未練たらしい…。公爵だよ俺、ここで自分で暮らしていく金くらいあったわ…。これはパーティーだからって、無理やり着せられた服だもん。指輪もピアスも全てウッド王子が「俺色に染まれ~」とか訳のわからないことを言って俺を着せかえ人形のようにしたんじゃん。
全て、今日、俺に婚約破棄の辱しめを受けさせるために仕組んだくせに。泣いてすがる俺を見たかったのだろうに、残念なこった。

はあ、とため息をつき、俺はためらいもなく胸のシルクタイをしゅるっとほどいた。白いシャツのボタンを外し、スルスルと脱ぎ捨てる。
真っ白な胸とピンクの乳首が露になり、広間じゅうが息を呑んでしん、と静まり返る。

指輪とピアスを無造作に外してそこらへ放り投げる。そしてベルトに手をかけてボトムを脱ぎ去り、一糸まとわぬ姿になるとウッド王子を睨み付けた。

「この体は、これだけは俺のものですので、文句は言われる筋合いはない…お連れください、シュワルツ卿」

俺は黒づくめのシュワルツ卿にスッと手を差し出した。
しばらく俺を見つめていた卿は、カツカツと俺に近づくとその真っ黒なベルベットのローブを脱ぎ、俺を包む。

「喜んで」

彼の長い黒髪が至近距離でばさりと流れるように溢れ、俺は目を奪われてしまった。

シュワルツ卿が顔に手をかけ、黒いマスクをずらすと…。


広間にいた人間が一瞬息を止めたのがわかった。

うわぁイケメン…!

シュワルツ卿は長い髪と少し日に焼けた褐色の男らしい肌の、とんでもなくイケメンな男性だった。

そしてノースリーブの肩から見えた黒い見事な赤い刺青のようなアザ。

噂に聞いたことがある、そのアザの持ち主は。

遠方にある超大国、ガルデスフィールの王家の者の証。魔術と武にすぐれた、世界一を誇る超大国だ。

そして、この国はガルデスフィールの末端の属国にすぎなかった。


ベン・シュワルツ卿と、白い俺とは真逆な容姿。
卿は俺を抱き上げると、ウッド王子に言い放った。

「ウッド王子、お前の婚約破棄は、この私、ガルデスフィール王国第二王子、ベン・シュワルツ・ガルデスフィールの前で間違いなくここに成立したことを認める」

静まり返る広間。
ウッド王子が蒼白になり、転生者の女の子は悔しさとわけのわからない怒りでめちゃくちゃブサイクな表情になっていた。

俺はというと。

ベン・シュワルツ・ガルデスフィール…。

長いな、覚えられるかなと本気で考えていた…。











    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。

櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。 でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!? そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。 その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない! なので、全力で可愛がる事にします! すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──? 【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

メグル
BL
人気俳優が、「遊び慣れた金持ち社長」に枕営業を仕掛けたつもりが、実は「童貞のガチ恋ファン」だったために重すぎるほど溺愛される話。 人気俳優でいるためなら努力でも枕営業でもなんでもする、爽やかイケメン俳優の波崎アオ。特別ドラマの主役獲得のために、スポンサーである大手企業の社長に就任した伊月光一郎にいつものように枕営業を行うが、一見遊び慣れたモテ男の伊月は、実は童貞でアオのガチ恋ファンだった。一夜を共にし、童貞を奪ってしまったために思い切り執着され、スポンサー相手に強く出られないこともあって仕方なく恋人関係になるが…… 伊月の重すぎる愛情に恐怖を感じながらも、自分の求めていたものを全てくれる伊月にアオもだんだん心を開いていく、愛情激重の執着スパダリ社長(30歳)×根は真面目で寂しがりな枕営業俳優(23歳)の重すぎ恋愛ストーリーです。しっかりハッピーエンドです。 ※性描写は予告なく何度か入ります ※本編+番外編 完結まで毎日更新します

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

僕に翼があったなら

まりの
BL
僕は気がつけば大きな鳥の巣にいた。これって生まれ変わった? 全てを忘れて鳥として育てられ、とりあえず旅に出る。だけどなんでみんな追いかけて来るの?  派手な魔法も剣での活劇もございませんがたぶん、おそらくファンタジー。注:主人公は鳥に育てられたので実際より精神年齢が低いです★自サイトからの移植です

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

処理中です...