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幕間 10
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236 幕間 10
領都に住むものたちが「お城」と呼ぶ小高い丘の上にある領主の館に、ガンツ、冒険者ギルドのギルドマスターであるローガン、そして辺境伯のアラン。
その3人が揃ってオークキングの装備を見聞していた。
その3人以外にはその部屋には誰もおらず、情報が漏れないよう細心の注意が払われていた。
「急に呼びつけるから何事かと思ったぞ。オヌシのせいで忙しいんじゃ、さっさと終わらせるぞ」
ガンツがそう言って巨大な槍を軽々と持ち上げる。
相当な重量があるはずだが、それを持ち上げるガンツに2人が驚くようなことはない。
「わかるか?ガンツ」
そう言うのは辺境伯のアランだ。
「今見とるとこじゃ、焦るな」
「さっさと終わらせるって言ったのはガンツ、あんたじゃねーか。俺だって忙しいんだ。早く帰らせてくれ」
ローガンがさらにガンツを急かす。
「うるさいのー。して、何が知りたいんじゃ?アラン」
ガンツが不機嫌そうにアランを見る
「その槍が迷宮産の物なのか、人の手によって作られた物かまずは知りたい。それがどこで作られた物なのか分かればなお良い」
「簡単じゃな。ワシでなくとも少し鍛治ができるものならすぐに見抜くぞ。それだけで良いのか?」
「ならばそれをどうやって運んだのか、分かれば助かる。そんな巨大な槍を秘密裏に運ぶことなど不可能に近い。わからないことだらけなんだ。なんでも良い。とにかく情報が欲しい」
「なんでもか、結局オヌシはいつもそうじゃ、難しいことはなんでも全部人に任せおる。たまには頭を使えと昔から言っておるじゃろ。まあ良い。作業しながら順番に説明して行くからの。なんかわからんことがあったらその都度言え」
ガンツは槍を木槌でコツコツと叩き音を聞く。その後、槍にさわり何やら確かめている。
ガンツが工具箱から持ち手のついた細長い棒を取り出す。その先は平たく加工されていた。
その工具を槍に当てがいクルクルと回す。あっという間に槍がどんどん分解されていく。
見ている2人は意味がわからないと言う顔で驚いている。
「まずのう、こんなもんが迷宮産であるわけが無かろう。一体どうやって運び出すんじゃ。大容量のマジックバッグか?もしそうだったとしてもそこに人間が関わってることに違いはないじゃろ。結局のところ結論は変わらんじゃろうが。じゃから頭を使えと言っとるんじゃ」
ガンツはどんどん槍を分解していく。あっという間に槍は薪木のような大きさに細かく分かれた。
「このくらいなら普通のマジックバッグでも運べるじゃろ。人の手で作られた物なのか聞いたな?もうわかるじゃろ。ある程度の腕がある職人の仕事じゃな」
「ガンツ、俺だって槍を詳しく調べたぜ?なんでそんな簡単にバラバラに出来んだよ。意味がわかんねーぜ」
「ローガン。オヌシも頭の使い方がなってないの。昔からお前ら2人はそうじゃ。なんでも殴ればなんとかなるとか思っとるじゃろ」
ガンツが2人を冷静に見てため息をつく。
「あのな。簡単に組み立てられんと困るじゃろ。じゃから仕組みがわかればこんな物バラすのは手間ではない。簡単に組み立てられるものは簡単に分解できるんじゃ。当たり前じゃろ。続けるぞ」
ガンツは呆れたようにそう言って説明を続けた。
そう言うガンツだったが、隠されたその仕掛けを瞬時に見抜くなど、世界中どこを探してもそんなことができる鍛治師はそうはいない。
簡単に組み立てられる巨大な槍。初見でそのことがわかる者など一体何人いるだろうか。
天才と言うのか。ガンツの言う当たり前が、見ている2人にはよくわからなかった。
「ケイならすぐに気づくと思うぞ。アイツは頭が良い。ワシの弟子になればワシ以上の魔道具職人になれると思うがの。全く残念じゃ」
ぶつぶつ文句を言いながらガンツはバラバラになった部品を見ていく。
「鉄がどこで取れたかも知りたいか?」
そう言うガンツにアランは人形のように何度も頷いた。
槍を削りその粉にガンツが火をつける。
パチパチと音を立てて燃えていく鉄を見てガンツは話を続けた。
「鉄は王国産じゃの。じゃが作られたのは帝国じゃ。帝国人が王国で作ったとは考えにくいの。奴らがこの技術を王国に漏らすようなことはすまい。この小さい部品があるじゃろ。これはネジと言うてな。昔、タカシから教えてもらったもんじゃ。この技術はワシのところでは公開しとらん。実際に魔道具に使うネジはワシのところでしか作っておらんのじゃ。魔道具に使うことがあってもこのネジを作る技術は秘匿しとる」
「なんでだ?ガンツ。昔からお前は世の中がもっと便利になれば良いとそう言ってたじゃねーか」
「このネジと言うものをタカシから聞いた時にな、大量に人を殺せる兵器の話も聞いたんじゃ。そのことは決して誰かに話してはいかんと釘を刺したつもりじゃったがの。アイツはネジのことまで頭が回らんかったんじゃろ。どうせ知識チートとか言っとったか?帝国あたりを旅している時に調子に乗ってベラベラ話したんじゃろ。アイツは頭は良いが気の回らん馬鹿じゃからの。じゃから彼女が出来んのだ。聖女が呆れて離れて行ったのがよくわかる」
「ちょっと待ってくれガンツ。なぜそれが帝国で作られたとわかるんだ?タカシが帝国でそのネジのことを話したことまでなぜわかる?」
アランがそう言うと、ガンツは思い出したように付け加える。
「すまんな。言うのを忘れとった。こういうものを作れる。というか作ろうという奴がまず限られる。一目でワシは誰が作った物か分かってはいたがの。ここじゃ。ここに刻印が隠されておる。これを作った奴もだいぶ頭が悪い。何故秘密の作戦に使う物に自分の銘を打つ必要があるんじゃ。褒められたいか、自慢したいかのどちらかじゃろ。これを作った鍛治師は帝国におる。武器というものの限界を追求するドワーフでワシとは昔から反りが合わんのじゃ」
「ガンツ、言ってることはよくわかった。だが何故王国産の鉄で帝国が武器を作れるんだ?戦争があってから武器の生産に使われるものは輸出を禁止しているはずだぜ?」
ローガンがガンツにそう尋ねるが、ガンツは手を止め困った顔をして2人を見る。
「ワシにそんなことがわかるわけなかろう。それを考えるのがオヌシらの仕事ではないのか?次は魔法の鎧じゃの。これも人の手によるものじゃ。理由はさっきとおんなじじゃ。なぜに背丈に合う鎧が都合よくそこにあるのじゃ。そんなわけ無かろう。ワシはもう興味がないが、探せばこれと同じ刻印が見つかるじゃろ。それからケイに渡した弓だけは迷宮のものじゃな。ワシも見せてもらったがあれと同じものを作るのはワシにも出来ん。まあやろうと思わんし、興味もないがな。あれが一番危険なシロモノじゃの。帝国の奴らはそれに気づかなかったようじゃが」
アランとローガンは静かにガンツの話を聞いている。
「使い方によってはタカシが言っておったような大量殺人兵器として使えるじゃろ。その価値とかを考えるよりは壊して捨ててしまった方が良い。間違っても金に変えるなんぞ考えん方がいいぞ。死人が増えるだけじゃ。魔龍だって簡単に殺せると思うぞ。遠くから全力の魔力をこめて矢を放てば良い。もし外れでもすれば山がひとつ吹き飛ぶかもしれんがの」
その話を聞いてアランとローガンはゴクリと唾を飲み込む。
昔戦った魔龍のことを思い出しているのかもしれない。
異世界から勇者と聖女を召喚し、壮絶な戦いの末に討ち取った魔龍を簡単に殺せてしまう武器。
それはもはや2人の理解を超えていた。
そしてアランは表情こそ変えなかったが、その弓を受け取らなくて本当に良かったと本気で考えていた。
「他になんかあるか?鉄の産地か?王都の南の公爵領じゃ。鉄の質は良いのじゃがの。精錬が甘い。ワシは使わんな。値段もちと高いしの」
はるか昔から奇人と呼ばれていた伝説の鍛治師は1時間足らずでアランが知りたいと思っていたこと全てを看破し、不機嫌そうに帰ろうとする。
「ケイがやってる屋台に行くのじゃ。早く行かんと売れ切れてしまうからの」
そう言い残して部屋を出ようとするガンツを懸命に引き止めて、2人はガンツと一緒に城を出た。
領都に住むものたちが「お城」と呼ぶ小高い丘の上にある領主の館に、ガンツ、冒険者ギルドのギルドマスターであるローガン、そして辺境伯のアラン。
その3人が揃ってオークキングの装備を見聞していた。
その3人以外にはその部屋には誰もおらず、情報が漏れないよう細心の注意が払われていた。
「急に呼びつけるから何事かと思ったぞ。オヌシのせいで忙しいんじゃ、さっさと終わらせるぞ」
ガンツがそう言って巨大な槍を軽々と持ち上げる。
相当な重量があるはずだが、それを持ち上げるガンツに2人が驚くようなことはない。
「わかるか?ガンツ」
そう言うのは辺境伯のアランだ。
「今見とるとこじゃ、焦るな」
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ローガンがさらにガンツを急かす。
「うるさいのー。して、何が知りたいんじゃ?アラン」
ガンツが不機嫌そうにアランを見る
「その槍が迷宮産の物なのか、人の手によって作られた物かまずは知りたい。それがどこで作られた物なのか分かればなお良い」
「簡単じゃな。ワシでなくとも少し鍛治ができるものならすぐに見抜くぞ。それだけで良いのか?」
「ならばそれをどうやって運んだのか、分かれば助かる。そんな巨大な槍を秘密裏に運ぶことなど不可能に近い。わからないことだらけなんだ。なんでも良い。とにかく情報が欲しい」
「なんでもか、結局オヌシはいつもそうじゃ、難しいことはなんでも全部人に任せおる。たまには頭を使えと昔から言っておるじゃろ。まあ良い。作業しながら順番に説明して行くからの。なんかわからんことがあったらその都度言え」
ガンツは槍を木槌でコツコツと叩き音を聞く。その後、槍にさわり何やら確かめている。
ガンツが工具箱から持ち手のついた細長い棒を取り出す。その先は平たく加工されていた。
その工具を槍に当てがいクルクルと回す。あっという間に槍がどんどん分解されていく。
見ている2人は意味がわからないと言う顔で驚いている。
「まずのう、こんなもんが迷宮産であるわけが無かろう。一体どうやって運び出すんじゃ。大容量のマジックバッグか?もしそうだったとしてもそこに人間が関わってることに違いはないじゃろ。結局のところ結論は変わらんじゃろうが。じゃから頭を使えと言っとるんじゃ」
ガンツはどんどん槍を分解していく。あっという間に槍は薪木のような大きさに細かく分かれた。
「このくらいなら普通のマジックバッグでも運べるじゃろ。人の手で作られた物なのか聞いたな?もうわかるじゃろ。ある程度の腕がある職人の仕事じゃな」
「ガンツ、俺だって槍を詳しく調べたぜ?なんでそんな簡単にバラバラに出来んだよ。意味がわかんねーぜ」
「ローガン。オヌシも頭の使い方がなってないの。昔からお前ら2人はそうじゃ。なんでも殴ればなんとかなるとか思っとるじゃろ」
ガンツが2人を冷静に見てため息をつく。
「あのな。簡単に組み立てられんと困るじゃろ。じゃから仕組みがわかればこんな物バラすのは手間ではない。簡単に組み立てられるものは簡単に分解できるんじゃ。当たり前じゃろ。続けるぞ」
ガンツは呆れたようにそう言って説明を続けた。
そう言うガンツだったが、隠されたその仕掛けを瞬時に見抜くなど、世界中どこを探してもそんなことができる鍛治師はそうはいない。
簡単に組み立てられる巨大な槍。初見でそのことがわかる者など一体何人いるだろうか。
天才と言うのか。ガンツの言う当たり前が、見ている2人にはよくわからなかった。
「ケイならすぐに気づくと思うぞ。アイツは頭が良い。ワシの弟子になればワシ以上の魔道具職人になれると思うがの。全く残念じゃ」
ぶつぶつ文句を言いながらガンツはバラバラになった部品を見ていく。
「鉄がどこで取れたかも知りたいか?」
そう言うガンツにアランは人形のように何度も頷いた。
槍を削りその粉にガンツが火をつける。
パチパチと音を立てて燃えていく鉄を見てガンツは話を続けた。
「鉄は王国産じゃの。じゃが作られたのは帝国じゃ。帝国人が王国で作ったとは考えにくいの。奴らがこの技術を王国に漏らすようなことはすまい。この小さい部品があるじゃろ。これはネジと言うてな。昔、タカシから教えてもらったもんじゃ。この技術はワシのところでは公開しとらん。実際に魔道具に使うネジはワシのところでしか作っておらんのじゃ。魔道具に使うことがあってもこのネジを作る技術は秘匿しとる」
「なんでだ?ガンツ。昔からお前は世の中がもっと便利になれば良いとそう言ってたじゃねーか」
「このネジと言うものをタカシから聞いた時にな、大量に人を殺せる兵器の話も聞いたんじゃ。そのことは決して誰かに話してはいかんと釘を刺したつもりじゃったがの。アイツはネジのことまで頭が回らんかったんじゃろ。どうせ知識チートとか言っとったか?帝国あたりを旅している時に調子に乗ってベラベラ話したんじゃろ。アイツは頭は良いが気の回らん馬鹿じゃからの。じゃから彼女が出来んのだ。聖女が呆れて離れて行ったのがよくわかる」
「ちょっと待ってくれガンツ。なぜそれが帝国で作られたとわかるんだ?タカシが帝国でそのネジのことを話したことまでなぜわかる?」
アランがそう言うと、ガンツは思い出したように付け加える。
「すまんな。言うのを忘れとった。こういうものを作れる。というか作ろうという奴がまず限られる。一目でワシは誰が作った物か分かってはいたがの。ここじゃ。ここに刻印が隠されておる。これを作った奴もだいぶ頭が悪い。何故秘密の作戦に使う物に自分の銘を打つ必要があるんじゃ。褒められたいか、自慢したいかのどちらかじゃろ。これを作った鍛治師は帝国におる。武器というものの限界を追求するドワーフでワシとは昔から反りが合わんのじゃ」
「ガンツ、言ってることはよくわかった。だが何故王国産の鉄で帝国が武器を作れるんだ?戦争があってから武器の生産に使われるものは輸出を禁止しているはずだぜ?」
ローガンがガンツにそう尋ねるが、ガンツは手を止め困った顔をして2人を見る。
「ワシにそんなことがわかるわけなかろう。それを考えるのがオヌシらの仕事ではないのか?次は魔法の鎧じゃの。これも人の手によるものじゃ。理由はさっきとおんなじじゃ。なぜに背丈に合う鎧が都合よくそこにあるのじゃ。そんなわけ無かろう。ワシはもう興味がないが、探せばこれと同じ刻印が見つかるじゃろ。それからケイに渡した弓だけは迷宮のものじゃな。ワシも見せてもらったがあれと同じものを作るのはワシにも出来ん。まあやろうと思わんし、興味もないがな。あれが一番危険なシロモノじゃの。帝国の奴らはそれに気づかなかったようじゃが」
アランとローガンは静かにガンツの話を聞いている。
「使い方によってはタカシが言っておったような大量殺人兵器として使えるじゃろ。その価値とかを考えるよりは壊して捨ててしまった方が良い。間違っても金に変えるなんぞ考えん方がいいぞ。死人が増えるだけじゃ。魔龍だって簡単に殺せると思うぞ。遠くから全力の魔力をこめて矢を放てば良い。もし外れでもすれば山がひとつ吹き飛ぶかもしれんがの」
その話を聞いてアランとローガンはゴクリと唾を飲み込む。
昔戦った魔龍のことを思い出しているのかもしれない。
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それはもはや2人の理解を超えていた。
そしてアランは表情こそ変えなかったが、その弓を受け取らなくて本当に良かったと本気で考えていた。
「他になんかあるか?鉄の産地か?王都の南の公爵領じゃ。鉄の質は良いのじゃがの。精錬が甘い。ワシは使わんな。値段もちと高いしの」
はるか昔から奇人と呼ばれていた伝説の鍛治師は1時間足らずでアランが知りたいと思っていたこと全てを看破し、不機嫌そうに帰ろうとする。
「ケイがやってる屋台に行くのじゃ。早く行かんと売れ切れてしまうからの」
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