上 下
205 / 236

ベスト3

しおりを挟む
 206 ベスト3
  
 2人で手を繋いで街を歩く。
 ギルドがある北門とは逆にむかって歩いていった。

 中央広場の真ん中には噴水があってその噴水を取り囲むように屋台が並んでいる。
 東西南北と真っ直ぐ伸びる大通りの真ん中はロータリーになっていてその真ん中が中央公園と呼ばれている。

 屋台はロータリーの外周にそって数多くの店が出店されていた。
 公園のベンチに座って屋台の料理を食べている人が見える。

「フェル。どこから回ろうか」

「まずは下見だ、ケイ、真ん中をぐるっと回ろう」

 フェルが楽しそう。

 お互いに好きって告白したあの夜から、フェルの表情が柔らかくなった気がする。
今までどこか肩に力が入っているような雰囲気がとれ、女性っぽい柔らかな空気を纏うようになった。
 話し方は相変わらずだけど、なんかフェルは変わった。
 今のほうがずっといい。

 ずっとこの先も一緒にいたいな。フェルと。

 フェルに引っ張られて、噴水を一周。
 気になる屋台を覗きこみ、しょっちゅう僕に、「あれはなんだ、ケイ」「これはどういう食べ物なのだ?」と嬉しそうに聞いてくる。
 よくわからないものもあるけど、大体なんとなくわかった。わからないときは素直に店の人に聞いてみた。

 噴水回りの屋台に串焼き屋は3軒。どの店も3種類の串焼きを出していたから合計9本か。
 僕が気になった店は飴細工の屋台だ。
熱して柔らかくなった飴をヘラやハサミを使って動物の形にする。どの世界にも似た様なものはあるんだなとか思っていたけど……なんかちょっと変だな。
 
 たこ焼きっぽいのとかホットドッグっぽいのとか、焼きそばもどき。
 串焼き屋の一つにはフランクフルトがあった。
 なんかいびつに地球の料理が混じってる気がする。縁日のお祭りみたいなんだ。

 小熊亭の看板メニューはハンバーグだし、なんとなく転生者の気配を感じる。

 まあいいか、気にしてもしょうがない。

「2軒目の串焼き屋の隣にあった屋台のスープ飲んでみたいな。なんか磯の香りがしたんだよね。お肉ばかりじゃ栄養偏ってしまうよ。スープが、野菜多めのものが多かったから、野菜とかはスープにしてこの辺りの人たちは食べるのかな」

 ずっと下を向いて悩んでいたフェルが顔を上げた。決まったかな?

「まず串焼きは全種類買う。それからケイが言ってた、たこ焼きというのか?あの丸い食べ物が食べてみたい。あとはスープだが、これはケイが食べたそうにしていた2軒目の串焼き屋の隣りのスープにしよう。あれは確かに美味そうだった」

 あごに手を当てながら話すフェルが可愛くて頭を撫でる。
 フェルがちょっと恥ずかしそうにする。

「ケイ、あまり人前ではこういうことをするな。恥ずかしいではないか」
 
 少し顔を赤くしてフェルが言う。

 串焼き9本を持つのは難しかったが、3軒目に寄った串焼き屋のおじさんが笑いながらお皿を貸してくれた。あとで返せばいいみたい。
 どこか座って食べるところがないかと聞くと東側の角にちょっとした飲食スペースがあるらしい。

 そのあとフェルと手分けして、僕はスープ、フェルはたこ焼きを買いに行き、その飲食スペースの前で落ち合うことにした。

 飲食スペースはそこそこ広かった。
丸いテーブルを囲んで折りたたみのイスが4脚。
 前世でよく見た光景だ。

 フェルは一口ずつ串焼きを味わって食べていく。
 一つ口に入れるたび考え込んだり、頷いたり。
 やばい。かわいい、何この子。

 僕はスープをいただく。塩ベースの魚のあらのお吸い物だ。あ、ちょっと醤油も使ってるな。
 
 しっかり出汁が取れてていい味だ。おにぎり持って来てこのスープと一緒に食べたいな。

 たこ焼きもどきはたこ焼きというより明石焼きだった。魚介ベースの具のないスープがついていて、このスープに浸して食べるのだそうだ。買ってきたフェルが教えてくれる。

 中身はちゃんとタコが入っている。スープも美味しい。ちょっと刻んだネギをいれるともっと美味しくなるのにな、そういえばお好み焼きのソースをこの世界でまだ味わっていないことに気づく。
 きっとたこ焼きに合うソースを作れなかったんだ。なんか納得した。
 
 領都で材料いっぱい買って、王都に帰ったら師匠と研究してみようかな?
 お好み焼きのソース。
 また材料費が、原価が、とか怒られちゃうかな。

 師匠も10年前の領都の戦争に参加してたんだろうなと、僕は思っている。
 領都の冒険者も知ってる、鉄壁という二つ名。
 哲学にも思えるくらいうるさく言われる、安くて腹一杯になる料理。

 戦後の領都で炊き出しとかしてたんじゃないかな?だとしたら師匠の考え方にも納得できる。
 師匠の年を考えると、当時、全盛期の二つ名持ちの冒険者が、戦争に全く関わっていなかったとは考えにくい。

 ガンツと仲がいいこと、ハンバーグという料理。ハンバーグってそもそも安い肉でも柔らかく食べられるように考え出された食べ物じゃなかったっけ。

 高級なものより、お金がなくてもお腹いっぱいになれる料理をとにかく師匠は好む。
 原価はいくらだとかうるさくいうのは、安くて美味しくてお腹がいっぱいになる料理を提供する。こういうコンセプトでお店をやっているからだ。

 どういった経緯で王都に店を出すことになったかまではよくわからないけど、きっといろいろあったんだろうな。
 戦争に参加したっぽい人たちは誰もが昔のことを話したがらない。それはやっぱりそういうことだよね……。

「ケイ!聞いてるのか?」

 ちょっと思考の海に深く潜りすぎてしまった。

「ごめん。フェル。ちょっと考え事してた」

「聞いてなかったのか?私が一口ずつ食べたから今度はケイの番だ。その丸い食べ物と交換しよう。そのスープも飲んでみたが、結構美味しいな、でもケイの作る味噌汁の方が何倍も美味しいぞ。今度似たような具で作ってくれ」

 フェルとお皿を交換して、串焼きを食べる。

 王都ではフェルとこんな時間を過ごしたことなかったな。
 帰ったら休みの日はフェルと出かけよう。
 休みの日は外食でもいいかもな。
 でもオムライスも作ってあげないと。

 これからのフェルとの生活を考えると楽しいことばかりだ。

 フェルと出会えてよかった。
 幸せだよ。

「美味しかった串焼きを3本、もう一度買うのだ」

 フェルが楽しそうにそう言い出す。

 僕はもうお腹いっぱいだけど、フェルはまだまだ食べられるみたい。

 そのベスト3を買うついでに食器を返す。

 1位と2位はあの食器を貸してくれたおじさんの屋台の串焼きだ。
 フェルが興奮気味に、この周りの串焼き屋の中で一番ここの串焼きが美味しかったと説明すると1本銅貨3枚を、2本で銅貨5枚にまけてくれた。
 
「また来てくれよ、にいちゃんたち!」

 屋台を離れる僕らにおじさんが声をかける。
 フェルが大声で力説したから、僕らのあとでその串焼き屋に行列ができた。

 公園の中のベンチが空いていたので2人で座ってフェルはあっという間に串焼き3本を食べてしまった。
 まだ食べられそうだとフェルが言うので、デザート、ということにして飴細工の屋台に並んだ。

 どうやら中央公園の名物屋台みたい。大人気で行列ができていた。

 僕はホーンラビット、フェルはオークの形で注文しておじさんが手早く飴の形を整えていく。

 僕のはかわいいウサギにツノが生えたもの。フェルのオークはテディベアみたいなものになった。

 オークの飴はかわいいかどうかは僕には謎だったけど。

 お互いの注文した飴細工を、ここはどうだとか、ここは似てるとか、さんざん鑑賞しあってから食べた。

 飴を舐めながら北門の方へ歩く。
 市場によって買い物をして帰ろうと言う話になったからだ。
 途中大きな建物の前を通る。
 3階建ての大きな建物の看板には、商業ギルドと書かれていた。

 足を止めて建物を見上げる。

「ケイ、せっかくだから屋台の出店の説明だけでも聞いてみたらどうだ?」

 フェルが勧める。

 確かに。聞いてみるだけでもいいかもしれない。
 出店料とか、ルールとか。

 2人して急いで飴を食べて、口をキレイに拭いたあと商業ギルドの中に入った。



 
















しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...