上 下
125 / 236

貧乏とお米

しおりを挟む
 126 貧乏とお米

 今日もギルド前でフェルと別れて店に向かった。
 昨日ロイからもらったパンは朝食に食べた。
 レーズンパンと角切りにしたリンゴを練り込んだパンはとっても美味しかった。
 これからたまにロイの店でパンを買おう。
 ご馳走だと思えるほど、もらったパンは美味しかった。

 たまにはパンを食べよう。そう思ってはいるけれど、米の値段と比べてしまうとなかなか手が出ない。
 割引もしてもらっちゃってるし、とにかく貧乏とお米は相性がいい。
 塩むすびなんて10個握っても原価は銅貨1枚いかないのだ。

 小熊亭でも出せばいいのにと思う。だけど入ったばかりの新人がそんなことを提案するのは少しためらわれた。

 ロイの美味しいパンに絶妙にあう今日のオムレツを、フェルは絶賛していた。
 勝手に王宮のオムレツと名前をつけている。
 ギルド前で別れた時もなんだか機嫌が良かった。
 今朝のオムレツはお弁当にも入れたから楽しんでくれるといいな。

 店に着いて、淡々と開店の準備をする。
 こなれてきたわけではないけど、開店の準備なんて実家でやってきたこととそう変わらない。それに昔から割と仕込みの作業は好きなのだ。
 ロイも来て2人でどんどん作業を進める。

「ケイくんが来てものすごく仕事が楽になったっすよ。夜の分もこの時間でここまでできちゃうなんて考えられないっす。そのうちメニューも増えるんじゃないっすか?今までは仕込みが間に合わないからあきらめていたんで」

 食糧庫の在庫を調べながら、ロイとそんな風におしゃべりをした。ウスターソースを撹拌するのも忘れずにやる。

 ハンバーグはもう仕込みが終わった。
 今はロールキャベツをロイがやっている。
 サンドラ姉さんは今日は休みだ。できるだけ朝のうちに仕込みを進めておきたい。

 師匠が来てスープの味を見てもらう。今日も問題ないと一言だけしか言われなかった。

「ロールキャベツができてんなら先に煮込んでしまえ。ある程度煮込んだら火を止めて置いておけば味が染みて美味くなる」

 師匠がそう言ったので、ロールキャベツの鍋をを温めた。
 キャベツの巻き方はロイにも教えてある。

 昼の営業は順調に終わって、予想以上に出過ぎたオークステーキの下拵えをしていく。厚切りにしたオーク肉にお酒を振りかけて、少し置いたら水気を拭くのだ。

 賄いはロイがハンバーグを焼いた。
 師匠がそれを食べてロイにアドバイスをする。横でそれを横で聞いて必死に記憶する。

 昼休みにガンツの工房まで走って、明日厨房を貸して欲しいとお願いに行った。
 ガンツにはパスタを作りたいのだと説明した。

 店に戻るといつもは2階で作業してるはずの師匠が厨房に降りてきていた。

「ケイ。手を洗ってこい。今日からビーフシチューの仕込みを変える。教えてやるから次からお前がやれ」

 急いで手を洗って準備する。
 どうやら前の日に準備することにするようだ。確かにその方が美味しくなる。
 
 いつものように出汁をとり、炒めたタマネギと洗った内臓、すじ肉を煮込むのだけど、今日はスネ肉もそこに入れる。スネ肉は大きめに切り、表面を軽く焼いたら赤ワインをフライパンに入れ、アルコールを飛ばす。それを鍋に加えて弱火で煮込む。
 師匠が塩を少し入れて鍋をかき混ぜたら、味見用の皿にスープを入れて僕に渡してきた。

「このくらいの薄味でいい。煮込んでスープの量がこの半分になったら火を止めて置いておけ。残りは明日作業する」

 師匠はそう言って2階に上がって行った。

 ロイと2人でそのあと何度か味見して、その味を必死に覚えた。

 夜の営業は師匠のアドバイスを受けたロイが安定してハンバーグを焼き続け、気がつけばあっという間に営業時間が終わっていた。

 師匠の作った賄いを食べて、フェルと2人で洗い物を片付ける。
 食糧庫の在庫をノートに書き込んだら今日は終わりだ。

 お風呂に入りに行き、フェルの髪を乾かしながら明日の昇格試験のことを聞く。
 
 試験は模擬戦をするそうだ。Bランク以上の冒険者と模擬戦をして、勝敗ではなく内容で判断されるらしい。
 フェルも特に心配はしてないそうだ。
 実は僕もそんなに心配していない。フェルなら間違いなく合格するだろう。
 
 Dランクになれば、ある程度行動が自由になり、単独での森での採取や討伐の依頼が受けられるそうだ。
 ランクにはフェルは興味があまりなかったけど、今までより自由に依頼が受けられると知って昇格試験を受けようと思ったのだそうだ。

 家に帰って、フェルは素振りを始めた。
 僕はレシピ帳の整理の続きをする。

 明日はガンツの工房で待ち合わせることにしている。昼ごはんを作って待ってると約束をした。

 次の日、朝、目覚めて時計を見ると6時25分。いつも起きている時間だ。
 レシピ帳を整理しながら寝てしまったのだろうか。起きると枕元にレシピ帳が置いてあり、僕はフェルに抱きしめられていた。抱き枕みたいにされている。
 
 暖房の魔道具のスイッチをつけてテントの中が暖まるのを待つ。
 
 フェルはすごいなぁ。もうDランクか。冒険者を始めてひと月と少し。普通は半年くらいかかるらしい。3か月で早い方。サリーさんからはそう聞いていた。
 
 そのフェルに今は押さえ込まれている。
 
 さっき逃げようとしたらガッチリ決められてしまった。仰向けで気をつけの体勢から動けないでいる。

 でも悪い気はしない。こんな僕でも頼られているんだ、そういう気にさせてくれるから毎朝救われている。

 抑え込みなら動けないから変なことも出来ないし。

「フェル。そろそろ起きて。遅刻しちゃうよ」

 そう言って呼びかけると少しフェルの力が抜ける。
 片手が自由になったのでフェルの頭を撫でて起こした。

 走り込みを終わらせてご飯を炊く。昨日もらってきた余ったオーク肉に衣をつけてとんかつを手早く揚げる。
 タマネギを切って軽く炒めて、少し透き通ってきたら水を入れて砂糖を入れた。
 
 タマネギが柔らかくなってきたらお醤油を砂糖と同じくらい入れて火を止める。
 冷ましながら少し味を馴染ませるのだ。
 その少しの時間で弓の練習をした。
 弓の練習はできるだけ毎日続けている。
 時間がなくて5分だけという日もあったりするけど、毎日10回、ライツの弓を引くようにしている。

 フライパンをもう一度温めて、お酒とみりんを入れる。味見して醤油をもう少しだけ足した。
 食べやすい大きさに切ったオークカツを入れてフライパンに蓋をする。
 タマゴを2回に分けて流し入れて火を止める。
 お味噌汁はネギとワカメで簡単に作った。
 素振りをしているフェルに声をかけてテーブルに朝ごはんを並べた。
 少なめに盛ったご飯に卵とじを丁寧にのせたらカツ丼の出来上がり。
 残ったカツ煮は大皿に入れる。

「大きなお椀がないからおかわりしてね。カツ丼っていうんだ。縁起がいいので作ってみたよ」

「縁起とはなんだ?」

「東の国言葉で、物事の良し悪しっていうのかな、幸運や不運の前兆?そんな意味の言葉だよ。縁起がいいといいことが起こるんだ。カツ丼は勝負に勝つとかけているんだよ」

「何か難しい話になってしまったな。すまない。つまりこれを食べると良いことが起こるということだな。ありがとう。ケイ」

 そのあとフェルはご飯を3杯おかわりして、「名残惜しいがこれ以上食べると動きづらくなる」そう言ってお茶を淹れはじめた。

 フェルが淹れてくれたお茶をゆっくり飲む。そのあと2人で後片付けをしてギルドに向かった。

 冷たい麦茶の入った水筒を渡して、フェルに頑張ってと伝えて別れた。
 
 市場に行って買い物をする。フェルの好きそうな果物とかを少し高かったけど奮発して買った。
 ゴードンさんの野菜売り場に行くと、とても感謝された。ゴードンさんは討伐されたゴブリンの死体を処理するのを手伝ったらしい。
 その数に驚いたそうだ。

「あんな高ランクの冒険者が来てくれるなんて思わなかった。ケイくんが心配してたから来たとか言ってたよ。おかげで集落は安全になった。ありがとう」

 がっちり握手をされてそう言われた。
 
 いったいどれだけ狩ったのか。
 全滅させてきたとか言ってたもんな。

 いろいろ野菜を仕入れて店を離れた。
 お肉屋さんで、ハンバーグの材料を買って、乾物屋でキノコを買う。
 実はここで売ってるキノコが美味しいことにこの前気づいた。フェルが王宮のオムレツと呼ぶそのオムレツはここのキノコのみじん切りを入れている。生のものでも乾燥したものでもそんなに味は変わらない。乾燥したものは一度水で戻さないといけないから少し手間がかかるのだけれど。

 割とお金を使っちゃったけど、仕方ない。
 でもお店で賄いをいただいてるし、食費ってけっこう抑えられているんだよな。
 勉強のために少し使う食材を増やそう。
 まずは小熊亭のレシピを研究かな。
 使ってる肉をホーンラビットに置き換えたらどうなるんだろう。少し興味がある。

 買ったものを全部マジックバッグにしまったらガンツの工房に向かった。
 












しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

処理中です...