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透明なグラスに注がれた、さまざまな色とりどりの飲み物がカウンターに並ぶ。ビール、蒸留酒、赤ワイン、蜂蜜酒にシードル。
「フェル。まずは飲み物の種類を覚えなさい。グラスはそれぞれ違うからそれも一緒に覚えて」
フェルが昨日買ったメモ帳に名前を書き写していく。
挽肉をキャベツに巻きながら僕もサンドラ姉さんの話を聞く。
フェルがそれをメモしたら、別の長めのグラスを持って来て、サンドラ姉さんは蒸留酒の水割りと、蜂蜜酒の水割りを作った。フェルがその分量と氷の量をメモする。
「あとはもうやりながら覚えるしかないわね。とりあえず今日はビールの用意ができるようになればいいから」
今日はロールキャベツもちゃんと仕込みに間に合った。師匠に味を見てもらって確認してもらう。ロールキャベツはもう少しスープの味を濃くするように言われる。
挽肉に混ぜた胡椒は次からもう少し強めにした方が良いと言われた。
今、レシピ帳にそれを書くと怒られちゃうから、言われたことは心に留めて、別の作業に移る。
今日のサラダも僕が作る。
今日の夜の営業は、師匠がハンバーグを焼き、姉さんは他の一品料理とオークのステーキを作る。ロイはスープ担当だ。
師匠はロイに気を抜かずよく見ておけと言っていた。
夜の営業が始まる。
フェルのまだ辿々しいオーダーの声を聞いて、料理を用意していく。
ビールはなるべくフェルに注がせるようにとサンドラ姉さんが僕に言った。
全体の仕込みがようやくわかって来たので、一品料理でも使う材料がわかる。
オーダーの声を聞いて、先回りでサンドラ姉さんのために材料と使う皿を用意する。
ハンバーグは皿を用意するだけでいい。
ビーフシチューなどはロイの様子を見てお皿を温めれば良かった。
ガンツが作ってくれたタマゴのスライサーのおかげだろうか、いや、フェルが給仕をやってくれてることが大きいだろう。厨房の中がちゃんと見える。これまでは正直訳も分からずやっていたところがあった。
「ケイ、ハンバーグのタネをもう1つ用意しろ」
そう言われて急いで肉をミンサーで引いていく。ピーラーを使い、ニンジンの皮を剥き、グラッセに使う分と、みじん切りに使う分を用意した。
ニンジンのグラッセのレシピは今朝来た時に、仕込みの合間でレシピ帳に書き写していた。
タマネギとニンジンを炒めている横で同時に作った。
風魔法で粗熱を取り、少し放置する。
手を洗うついでに洗い物を片付けた。
今日のビーフシチューが売れ切れて、少し手が空いたロイにサラダをお願いして、ハンバーグをひたすら整形していく。
出来上がったハンバーグを師匠が取りに来て、ニンジンのグラッセを味見していった。
特に師匠からは何も言われなかった。
さらに30個ハンバーグのタネを追加で作り、保冷庫にしまう。
また手を洗うついでに洗い物を片付けた。
手が空いたので食材の補充をして、ホールに行き食器を下げるのを手伝った。
フェルが飲み物のオーダーに苦労していたからだ。今日はかなりビールが出る。
フェルは何度もビールの樽を入れ替えていた。軽々とビールの樽を持ち上げるから、街娘のような格好をしたフェルは見ていてかなり違和感を感じる。
ロイとサンドラ姉さんが驚いていた。
お客さんが引いて落ち着いて来た店内をフェルと掃除する。
師匠が賄いを食えと言って、残ったロールキャベツを出してくれた。僕が作ったやつだ。
レシピ帳を整理する前に、まずはロールキャベツを食べてみる。確かに師匠の言うとおりだ。塩気はこれくらいがちょうど良くて、そのスープの味が染みた肉はもう少し辛めの方が良い気がした。みじん切りも細かすぎたかも、ハンバーグより少し荒めでいいかもしれない。
「充分美味しいと思うが……ケイにはこれより美味しくなる自信があるのであろう。楽しみだな。またさらに美味しいものが食べられる」
何気なくフェルが言った言葉が嬉しかった。気づいたことはレシピ帳に書いておく。仕事中に書くと怒られるけど、賄いを食べたりしている時なら大丈夫だった。
なんかもう少し香味野菜を入れてもいいな。セロリなんてどうだろう。あとでサンドラ姉さんに聞いてみようかな。
でもちゃんとしたロールキャベツが作れるようになってからだな。まずはこのレシピをきちんと自分のものにしなきゃ。
少し色気を出して、昼のスープにニンジンの葉を入れたことを少し後悔した。
食べ終わって、フェルに洗い物をしてもらいながら夜の在庫をノートに記入した。
師匠にノートを渡す時に挽肉を少し分けて欲しいとお願いした。
師匠は好きにしろと言ってくれた。
ロイが賄いを食べ終わるまで、カトラリーや、厨房の片付けをして、在庫の確認と明日のスープのレシピを写したら、フェルと店を出てお風呂に入りに行く。
いつものように髪を乾かしながらフェルと今日あったことを話す。
僕が満席になったらそれ以上お客さんは増えないって思ったことを話したら、フェルもなるほどと言ってくれた。
「要するに、はじめからその人数の客を相手にしていると思えばいいのだろう。なるほど、徐々に敵が増えてくるとそれが心労に繋がっていくからな。はじめからその人数の敵と戦うと考えればかなり気が楽だ。明日は私もそう思うことにしよう」
食堂は戦場と違うが。
フェルが今日の依頼の合間に香草を摘んできてくれていた。ちょうどお昼を食べたところにいっぱい生えていたのだそうだ。
寝るまでの時間に、香草の処理をして、ロールキャベツを作った。
煮込むのは明日やることにして挽肉をキャベツに包んだものを用意しておいた。
次の日。フェルと一緒に市場まで走り、帰って来たらロールキャベツを作る。
スープは昨日作ったコンソメを入れて作った。
スープの味はまだ小熊亭のものには敵わないけど、少し野菜の大きさを変えたのは正解だったと思う。
「昨日よりロールキャベツが味わい深いな」
フェルもそう言ってくれた。
今日はフェルは仕事を休みにしてエリママのところに行くそうだ。
お土産に昨日寝る前フライパンで作ったクッキーを持たせる。
味見をしたいとフェルが言っていたが、明日のお楽しみだと言って食べさせなかった。
お昼はゼランドさんたちと一緒に食べるみたい。お茶受けにでもしてくれたらいいなと思って昨日作ってみた。
途中まで一緒に行き、小熊亭に向かう曲がり角でフェルと別れた。
店の鍵を開け、窓を開ける。
掃除を終わらせてスープの準備に取り掛かった。
今日のスープはトマトベースの鶏肉スープだ。
小熊亭には時間停止のマジックバッグがある。容量ギリギリいっぱい使っているのであまり食材を入れることはできないが、お肉とトマトソースがそこには入っている。
年に2回ほど、トマトが安い時期にまとめて作って保存しておくのだそうだ。
マジックバッグは時間停止なので、実際に使うトマトソースはそこから出して1週間熟成したものを使う。そのマジックバッグの管理は師匠がやっている。
時間停止のマジックバッグはかなり高価だ。小熊亭にあるものは大体馬車ひとつ分くらいの容量があり、買うならば金貨500枚でも買えるかどうかという値段らしい。正直あまり触りたくはない。
鳥の骨で出汁を取り、バラした鶏肉を仕分けていく。
出汁をとっている間に仕込みの野菜の準備をする。野菜の皮をむいているとロイが来た。
「ケイくんいつも早いっすねー」
「ロイ、挽肉の準備をお願い。野菜はもうこっちで全部終わらせちゃうから」
「了解っす。サラダは昨日と同じでいいみたいっすよ」
「うん。そうみたいだね。ボードに書いてあるのって、そう意味だよね」
「そうっす。食材に特に指示がない時は前の日と同じってことっす」
「わかった。そっちもやっとくね」
スープの出汁がとれた頃、サンドラ姉さんが来た。
サンドラ姉さんに今日のスープで使う香草やスパイスのことを教えてもらって、ひとつひとつ入れる意味を確認しながら作った。サンドラ姉さんは僕がいろいろ細かく聞いても、嫌な顔せずひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
スパイスの組み合わせというものが、もちろんこれだけで理解できるわけではないけど、普段なんとなく入れていたものでも再確認することで少しレシピの意味がわかった気がする。師匠がまだ来てないから、気づいたことはどんどんメモに書いていった。今日のスープはレシピ通りに美味しくできたと思う。
サンドラ姉さんにも味見をしてもらって合格点をいただいた。
師匠が来て味見をしてもらう。
師匠は「これで行く」としか言わなかった。
今日は僕がお茶を入れ、開店前に少し休憩する。ロイは今日はハンバーグ担当。師匠はオークステーキ。サンドラ姉さんはサラダを担当する。
今日は僕はホールだけをやれと言われた。
洗い物以外はやらなくて良いそうだ。
料理ができないことに少しがっかりしたけれど、店を開けて30分くらいして気が付いた。
サンドラ姉さんの仕事の仕方がすごいのだ。
今日はやたらと料理が順調に出るなと思っていたら、サンドラ姉さんが、最後全ての料理を仕上げて僕に渡してくることに気付いた。
サンドラ姉さんはサラダやスープを出すのはもちろん、師匠やロイに合わせて、付け合わせの盛り込みや食材の補充、仕込みの追加など全部1人でやっている。
まるで厨房全体をサンドラ姉さんが操っているかのようだった。
少しでも手が空いたらサンドラ姉さんの仕事を見に行き、とにかく目に焼き付けた。
サンドラ姉さんが賄いを作る横で、夜の分の仕込みをしながら、昼の営業のことを聞いてみた。
何がどうなのか細かいことは全く分からないのだけど、とにかく馬鹿みたいに「どうしたらサンドラ姉さんみたいな仕事ができるようになりますか」と聞いたら、客の声を聞いて作業を始めるところまでは良いけど、そこからさらに皆がどう動くのかを考えながら作業するのだと言われた。
たとえばロイはまだ焼き場に慣れていない。
お皿をどんどん並べていくと焦ってしまう。近いオーダーの分だけお皿を並べてあげればそれを見てロイは安心する。
師匠はあまり振り向いて作業はしないので必要なものは左手側にそっと置けば勝手に使うらしい。出来上がったものを勝手に持って行って仕上げをして出せばいい。
師匠もロイに合わせて料理を仕上げているので、それに合わせてあとはロイの分を待って出せばいいそうだ。
「冒険者の連携と変わらないわ。あなたこの前、ライアンに連携を教わったんでしょう?この間ライアンが店に来て面白い若い奴がいるって言ってたわよ。弓使いのウサギってケイのことでしょ。もう1人の凄腕の女剣士はフェルね。ライアンたちから連携することを習ったんだとしたら、そのうち上手くできるようになるわ。まあ焦らず今は周りをよく見ることね」
サンドラ姉さんの雰囲気から、元冒険者のような雰囲気は感じていたけど、ギルマスと知り合いだったくらいだからそれはもうすごい高ランクの冒険者だったのだろう。
厨房でも連携して作業をするのか。
そういう発想は全くなかった。
透明なグラスに注がれた、さまざまな色とりどりの飲み物がカウンターに並ぶ。ビール、蒸留酒、赤ワイン、蜂蜜酒にシードル。
「フェル。まずは飲み物の種類を覚えなさい。グラスはそれぞれ違うからそれも一緒に覚えて」
フェルが昨日買ったメモ帳に名前を書き写していく。
挽肉をキャベツに巻きながら僕もサンドラ姉さんの話を聞く。
フェルがそれをメモしたら、別の長めのグラスを持って来て、サンドラ姉さんは蒸留酒の水割りと、蜂蜜酒の水割りを作った。フェルがその分量と氷の量をメモする。
「あとはもうやりながら覚えるしかないわね。とりあえず今日はビールの用意ができるようになればいいから」
今日はロールキャベツもちゃんと仕込みに間に合った。師匠に味を見てもらって確認してもらう。ロールキャベツはもう少しスープの味を濃くするように言われる。
挽肉に混ぜた胡椒は次からもう少し強めにした方が良いと言われた。
今、レシピ帳にそれを書くと怒られちゃうから、言われたことは心に留めて、別の作業に移る。
今日のサラダも僕が作る。
今日の夜の営業は、師匠がハンバーグを焼き、姉さんは他の一品料理とオークのステーキを作る。ロイはスープ担当だ。
師匠はロイに気を抜かずよく見ておけと言っていた。
夜の営業が始まる。
フェルのまだ辿々しいオーダーの声を聞いて、料理を用意していく。
ビールはなるべくフェルに注がせるようにとサンドラ姉さんが僕に言った。
全体の仕込みがようやくわかって来たので、一品料理でも使う材料がわかる。
オーダーの声を聞いて、先回りでサンドラ姉さんのために材料と使う皿を用意する。
ハンバーグは皿を用意するだけでいい。
ビーフシチューなどはロイの様子を見てお皿を温めれば良かった。
ガンツが作ってくれたタマゴのスライサーのおかげだろうか、いや、フェルが給仕をやってくれてることが大きいだろう。厨房の中がちゃんと見える。これまでは正直訳も分からずやっていたところがあった。
「ケイ、ハンバーグのタネをもう1つ用意しろ」
そう言われて急いで肉をミンサーで引いていく。ピーラーを使い、ニンジンの皮を剥き、グラッセに使う分と、みじん切りに使う分を用意した。
ニンジンのグラッセのレシピは今朝来た時に、仕込みの合間でレシピ帳に書き写していた。
タマネギとニンジンを炒めている横で同時に作った。
風魔法で粗熱を取り、少し放置する。
手を洗うついでに洗い物を片付けた。
今日のビーフシチューが売れ切れて、少し手が空いたロイにサラダをお願いして、ハンバーグをひたすら整形していく。
出来上がったハンバーグを師匠が取りに来て、ニンジンのグラッセを味見していった。
特に師匠からは何も言われなかった。
さらに30個ハンバーグのタネを追加で作り、保冷庫にしまう。
また手を洗うついでに洗い物を片付けた。
手が空いたので食材の補充をして、ホールに行き食器を下げるのを手伝った。
フェルが飲み物のオーダーに苦労していたからだ。今日はかなりビールが出る。
フェルは何度もビールの樽を入れ替えていた。軽々とビールの樽を持ち上げるから、街娘のような格好をしたフェルは見ていてかなり違和感を感じる。
ロイとサンドラ姉さんが驚いていた。
お客さんが引いて落ち着いて来た店内をフェルと掃除する。
師匠が賄いを食えと言って、残ったロールキャベツを出してくれた。僕が作ったやつだ。
レシピ帳を整理する前に、まずはロールキャベツを食べてみる。確かに師匠の言うとおりだ。塩気はこれくらいがちょうど良くて、そのスープの味が染みた肉はもう少し辛めの方が良い気がした。みじん切りも細かすぎたかも、ハンバーグより少し荒めでいいかもしれない。
「充分美味しいと思うが……ケイにはこれより美味しくなる自信があるのであろう。楽しみだな。またさらに美味しいものが食べられる」
何気なくフェルが言った言葉が嬉しかった。気づいたことはレシピ帳に書いておく。仕事中に書くと怒られるけど、賄いを食べたりしている時なら大丈夫だった。
なんかもう少し香味野菜を入れてもいいな。セロリなんてどうだろう。あとでサンドラ姉さんに聞いてみようかな。
でもちゃんとしたロールキャベツが作れるようになってからだな。まずはこのレシピをきちんと自分のものにしなきゃ。
少し色気を出して、昼のスープにニンジンの葉を入れたことを少し後悔した。
食べ終わって、フェルに洗い物をしてもらいながら夜の在庫をノートに記入した。
師匠にノートを渡す時に挽肉を少し分けて欲しいとお願いした。
師匠は好きにしろと言ってくれた。
ロイが賄いを食べ終わるまで、カトラリーや、厨房の片付けをして、在庫の確認と明日のスープのレシピを写したら、フェルと店を出てお風呂に入りに行く。
いつものように髪を乾かしながらフェルと今日あったことを話す。
僕が満席になったらそれ以上お客さんは増えないって思ったことを話したら、フェルもなるほどと言ってくれた。
「要するに、はじめからその人数の客を相手にしていると思えばいいのだろう。なるほど、徐々に敵が増えてくるとそれが心労に繋がっていくからな。はじめからその人数の敵と戦うと考えればかなり気が楽だ。明日は私もそう思うことにしよう」
食堂は戦場と違うが。
フェルが今日の依頼の合間に香草を摘んできてくれていた。ちょうどお昼を食べたところにいっぱい生えていたのだそうだ。
寝るまでの時間に、香草の処理をして、ロールキャベツを作った。
煮込むのは明日やることにして挽肉をキャベツに包んだものを用意しておいた。
次の日。フェルと一緒に市場まで走り、帰って来たらロールキャベツを作る。
スープは昨日作ったコンソメを入れて作った。
スープの味はまだ小熊亭のものには敵わないけど、少し野菜の大きさを変えたのは正解だったと思う。
「昨日よりロールキャベツが味わい深いな」
フェルもそう言ってくれた。
今日はフェルは仕事を休みにしてエリママのところに行くそうだ。
お土産に昨日寝る前フライパンで作ったクッキーを持たせる。
味見をしたいとフェルが言っていたが、明日のお楽しみだと言って食べさせなかった。
お昼はゼランドさんたちと一緒に食べるみたい。お茶受けにでもしてくれたらいいなと思って昨日作ってみた。
途中まで一緒に行き、小熊亭に向かう曲がり角でフェルと別れた。
店の鍵を開け、窓を開ける。
掃除を終わらせてスープの準備に取り掛かった。
今日のスープはトマトベースの鶏肉スープだ。
小熊亭には時間停止のマジックバッグがある。容量ギリギリいっぱい使っているのであまり食材を入れることはできないが、お肉とトマトソースがそこには入っている。
年に2回ほど、トマトが安い時期にまとめて作って保存しておくのだそうだ。
マジックバッグは時間停止なので、実際に使うトマトソースはそこから出して1週間熟成したものを使う。そのマジックバッグの管理は師匠がやっている。
時間停止のマジックバッグはかなり高価だ。小熊亭にあるものは大体馬車ひとつ分くらいの容量があり、買うならば金貨500枚でも買えるかどうかという値段らしい。正直あまり触りたくはない。
鳥の骨で出汁を取り、バラした鶏肉を仕分けていく。
出汁をとっている間に仕込みの野菜の準備をする。野菜の皮をむいているとロイが来た。
「ケイくんいつも早いっすねー」
「ロイ、挽肉の準備をお願い。野菜はもうこっちで全部終わらせちゃうから」
「了解っす。サラダは昨日と同じでいいみたいっすよ」
「うん。そうみたいだね。ボードに書いてあるのって、そう意味だよね」
「そうっす。食材に特に指示がない時は前の日と同じってことっす」
「わかった。そっちもやっとくね」
スープの出汁がとれた頃、サンドラ姉さんが来た。
サンドラ姉さんに今日のスープで使う香草やスパイスのことを教えてもらって、ひとつひとつ入れる意味を確認しながら作った。サンドラ姉さんは僕がいろいろ細かく聞いても、嫌な顔せずひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
スパイスの組み合わせというものが、もちろんこれだけで理解できるわけではないけど、普段なんとなく入れていたものでも再確認することで少しレシピの意味がわかった気がする。師匠がまだ来てないから、気づいたことはどんどんメモに書いていった。今日のスープはレシピ通りに美味しくできたと思う。
サンドラ姉さんにも味見をしてもらって合格点をいただいた。
師匠が来て味見をしてもらう。
師匠は「これで行く」としか言わなかった。
今日は僕がお茶を入れ、開店前に少し休憩する。ロイは今日はハンバーグ担当。師匠はオークステーキ。サンドラ姉さんはサラダを担当する。
今日は僕はホールだけをやれと言われた。
洗い物以外はやらなくて良いそうだ。
料理ができないことに少しがっかりしたけれど、店を開けて30分くらいして気が付いた。
サンドラ姉さんの仕事の仕方がすごいのだ。
今日はやたらと料理が順調に出るなと思っていたら、サンドラ姉さんが、最後全ての料理を仕上げて僕に渡してくることに気付いた。
サンドラ姉さんはサラダやスープを出すのはもちろん、師匠やロイに合わせて、付け合わせの盛り込みや食材の補充、仕込みの追加など全部1人でやっている。
まるで厨房全体をサンドラ姉さんが操っているかのようだった。
少しでも手が空いたらサンドラ姉さんの仕事を見に行き、とにかく目に焼き付けた。
サンドラ姉さんが賄いを作る横で、夜の分の仕込みをしながら、昼の営業のことを聞いてみた。
何がどうなのか細かいことは全く分からないのだけど、とにかく馬鹿みたいに「どうしたらサンドラ姉さんみたいな仕事ができるようになりますか」と聞いたら、客の声を聞いて作業を始めるところまでは良いけど、そこからさらに皆がどう動くのかを考えながら作業するのだと言われた。
たとえばロイはまだ焼き場に慣れていない。
お皿をどんどん並べていくと焦ってしまう。近いオーダーの分だけお皿を並べてあげればそれを見てロイは安心する。
師匠はあまり振り向いて作業はしないので必要なものは左手側にそっと置けば勝手に使うらしい。出来上がったものを勝手に持って行って仕上げをして出せばいい。
師匠もロイに合わせて料理を仕上げているので、それに合わせてあとはロイの分を待って出せばいいそうだ。
「冒険者の連携と変わらないわ。あなたこの前、ライアンに連携を教わったんでしょう?この間ライアンが店に来て面白い若い奴がいるって言ってたわよ。弓使いのウサギってケイのことでしょ。もう1人の凄腕の女剣士はフェルね。ライアンたちから連携することを習ったんだとしたら、そのうち上手くできるようになるわ。まあ焦らず今は周りをよく見ることね」
サンドラ姉さんの雰囲気から、元冒険者のような雰囲気は感じていたけど、ギルマスと知り合いだったくらいだからそれはもうすごい高ランクの冒険者だったのだろう。
厨房でも連携して作業をするのか。
そういう発想は全くなかった。
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