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コンソメ

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 120 コンソメ

 まだ暗いうちから起きて、お弁当の支度をする。オーク肉を薄切りにしてすき焼き風の味付けにする。
 食べやすい大きさに切って、昨日の肉じゃがのあまりを隣に添えた。
 
 卵はだし巻き卵にしてみる。肉味噌と小魚でまた出汁をとってみたけど、ちょっと不満だ。これは僕が後で食べることにして、出汁の配合を変えてもう一度作った。

 オレンジを絞って果実水を作る。
 そうこうしていたら、タマゴと牛乳を買いに行ってくれていたフェルが戻ってくる。
 買って来てくれた新鮮なタマゴを2個使ってオムレツを作る。半熟にしてふんわりと作った。焼いたベーコンと一緒に朝ごはんとして出してあげた。僕も一緒に食べる。
 失敗しただし巻き卵を結局フェルも食べた。失敗作だとは言ったけど、これはこれで美味しいと言ってくれた。
 
 後片付けをフェルに任せておにぎりを握る。ふりかけ、ごま塩、梅干しと、もう定番になってしまったおにぎりを紙に包んで、お弁当と一緒にフェルに渡した。もちろん果実水の入った水筒も、限界まで冷やしてから、さらに中に氷を2個入れて渡してあげる。

 ギルドに向かうフェルを見送って、弓の練習をしたら出勤だ。
 
9時前に店に着き、窓を開けて店内の掃除から。ホコリを外に掃き出したら、店の前の掃除をする。テーブルとカウンターを拭いていたらロイが来た。

「昨日は大変だったっすよ。ケイくん。これ今日のスープのレシピっす。師匠がこれで作れって言ってたっす」

 今日のスープはニワトリが一羽丸ごと入った鶏肉のスープだ。ニワトリを捌いて肉を食べやすい大きさに切っていく。手羽肉は骨のまま入れることにした。
 鳥のガラは後でロールキャベツのスープの出汁に使う。丁寧に洗って少しお酒をふりかけてから保冷庫に入れた。
ニンジンも丁寧に洗って、皮も出汁に使った。僕の貧乏性が爆発する。ニンジンの皮って意外と栄養があるんだよ。

 ニワトリの骨と野菜くずを弱火で煮込んでる間に、今日使う野菜をどんどん仕込んでいく。ロイはミンサーで挽肉を量産している。

「やっぱりケイくんがいると仕込みが早いっすね。サンドラさんが来る前にハンバーグのタネも作ってしまうっす」

 ロイがニンジンと玉ねぎを炒めている間に、スープを作る。濾したスープの出汁ガラは、ちょっと思うところがあったのでとっておいた。
 
 軽く炒めた鶏肉とベーコン、玉ねぎを入れて、別で下茹でしていたニンジンを入れる。このやり方はレシピに書いてあった。
 この方がニンジンをより甘く煮込めそうだと思った。

 この前のことを反省して、なるべく効率よく動くことを意識して仕事をした。

「おはよう。あら、もうそこまで出来てるの?私がやることがほとんどないじゃない」

 サンドラ姉さんが出勤して来た。

「コーヒーを淹れてあげるから、アンタたちそれが出来たら少し休みなさい」

 ハンバーグはもう3分の2は出来上がっていた。

 サンドラ姉さんがハンバーグを作る作業に入って、僕はスープの仕上げをする。
 塩と胡椒で味を整えて味見をすると、まだ何か足せそうな気になってしまった。
 ニンジンの葉っぱをみじん切りにして、少し魔法で乾燥させたものを仕上げにスープに混ぜた。かき混ぜて少しだけ火を通したら完成。
 
 村で作ってた時もなんとなくそう思っていたけど、ニンジンの葉っぱはニンジンを入れたスープにすごくよく馴染む。
 レシピが少し変わっちゃったけど、美味しく出来たと思う。
 あとは師匠がなんと言うかだけど、なんとなく大丈夫な気がした。

 サンドラ姉さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、レシピ帳に今日のスープのレシピを書いて、気づいたことはすみっこの方に書いておく。

 書き終わってからさっき取り分けておいたスープの出し殻を以前肉味噌を作った時のように、食べられるところだけ丁寧に取り分けた。少し食べてみるとしっかりした鳥の味と、野菜の甘みが残っている。
 これを使ってコンソメの元が作れないか考えていた。保存瓶に入れて保冷庫にしまっておいた。

 師匠が出勤して来て店のチェックを始める。味を見てもらうためにスープを持っていく。この瞬間はいつも緊張する。

「ニンジンの葉か。サンドラの影響か?まあ悪くねえ。これで行く」

 良かった。合格点をもらえた。

 少し冷めてしまったコーヒーを飲み干して、師匠の指示でサラダを作る。
 ロイがクルトンを作ってくれた。サンドイッチを作る時にどうしても端切れが残ってしまっていたらしい。子供の頃はこんがり焼いてロイたちのおやつになっていたらしいけど、今はほとんど処分していたそうだ。ロイにとても感謝された。

 パンの切れ端は無料でつけてくれることになったので、材料費も揚げ油とラードだけで済む、クルトンは小熊亭で正式に採用された。

 今日のサラダはキャベツを中心に刻んだニンジンととうもろこしを混ぜて皿に盛り、彩りにきゅうりを添える。トマトも入れたいところだけど、今の時期は高いからトマトは使えない。
 茹で上がったとうもろこしの実を包丁で綺麗に外していく。
 刻んだニンジンは少し塩を振っておいておいた。

 キャベツはどうかな。ミナミでは営業中に切っていたけど、小熊亭は忙しいからな。
 サンドラ姉さんに相談したら、自信があるならやってみなさいと言われた。
 今日はメアリーさんが休みだから、ホールの仕事はほとんど僕がやらなくてはいけないらしい。でも合間にキャベツを切るくらいは大丈夫だと思う。
 
 師匠もその話を聞いていたけど何も言わなかった。

 昨日フェルに選んでもらったハンカチを頭に巻いて営業中の看板を出しに行く。
 表にはもう行列が出来ている。
 人数を聞いて、次々に席に案内する。
 お水を配りながら注文を聞いていった。

 サラダと一緒にカトラリーを配り、厨房に戻る。メインのセットの食器を順番に並べていく。今日もロイがハンバーグを焼く。サンドラ姉さんはそれのサポートと、指導をしている。
 お客さんの人数分スープのカップを温めて、外に並んでる人にメニュー表を渡した。
 オススメを聞かれたらオーク肉のステーキということにしている。だってとっても美味しいのだもの。

 常に店は満席だけれど、考えてみればお客さんの人数が、それ以上増えないってことでもある。そう考えると、昨日より気持ちに余裕ができた。
 付け合わせのブロッコリーが足りなくなって来た。保冷庫から取り出して補充する。
 気持ちに余裕ができたことで少し周りがいつもより見えるようになった。

 昼の営業が終わりに近づいてお客さんがまばらになったので手が空いた時に夜の部の仕込みを始めてしまうことにした。
 鶏ガラでロールキャベツ用の出汁をとり、ビーフシチューの出汁も煮込み始める。
 食器を全部下げて洗い物を済ませると、師匠が僕のところに来た。
 やばい。勝手なことしたって怒られんのかな。確かに言われてないことまでやっちゃってるし。

「昼と夜、これから食糧庫の在庫をノートに書いて俺に渡せ。鮮度が気になるものには印をつけとけ」

 そう言ってノートを渡される。
 さっそく今日の昼の在庫を書いていく。
 
 師匠の意図はよくわからなかったけど、食糧庫の中の在庫をとにかく全部書いて持って行った。

 賄いはロイが作ってくれた。クルトンたっぷりのサラダをみんなで取り分けて、ロイが焼くのに失敗したハンバーグをトマトソースで煮込んだものを食べた。
 形が悪かったり、焼きすぎたものらしい。

「煮込みハンバーグはいつも焼き方をはじめたばかりの新人が賄いで作るのよ。こうしたらまだ食べられなくはないから」

「失敗の味がするっす。これから頑張るっす」

 ロイが悔しそうにハンバーグを食べる。
 
 食後ロイと洗い物を片付けて、厨房でお茶を飲む。ハンバーグの焼き方で、苦労しているところなどの話をロイから聞いた。

 料理の提供の速度を上げるために肉に少し熱を通しておくのだそうだ。その火の入れる加減がまだ安定しないから焦げたり、まだ生だったりして形が崩れてしまうのだそうだ。
 鉄板の場所によって温度が違うから、それにも気をつけなければいけないし、とにかく大変だとロイが言う。

 その話を聞きながら、僕は横でコンソメスープの素の開発をする。マジックバッグからニンジンとセロリを出す。ホランドさんの塩ダレを作ろうとこの間買って来たものだ。
 さっき瓶に入れておいた出し殻とニンジンとセロリをミキサーに入れて細かくする。
 少し舐めてみて、玉ねぎを半分入れてまたミキサーをかけた。
 味見をしてみる。このままでもいいかもしれないけどもう少し肉の味が強い方がいいな。悩んだ末、サンドラ姉さんに話して、店のベーコンを少しもらった。

「何?スープの素?それをお湯に溶かすとスープが出来るの?」

 サンドラ姉さんはコーヒーを飲みながら僕の作業を見ている。

「これを火にかけて乾燥させればいけるような気がするんですけどね」

「だったらそれにじゃがいもを混ぜてみなさい。別の料理の調味料を作る時そうするの。仕上がりがパラパラになるからやってごらんなさい」

 そうアドバイスされてじゃがいもを一個加えてペースト状になるまでミキサーで混ぜた。最後にかなりキツめに塩で味付けて混ぜ合わせる。

 出来上がったものをフライパンで炒めていく。乾燥するまでけっこう時間がかかりそうだ。弱火にして様子を見守る。

 これ魔法でできないかな?

 水の魔法は空気中の水分を集めて水にする魔法だ。じゃあ、この炒めているものから水分を集められないかな?

 火を止めてコップをフライパンの上に持ってくる。イメージを固めて水を作る。
 コップに半分くらい水が溜まる。
 そしてコンソメの素は。

 お、けっこう乾いてる。
 あとは弱火で固まりを崩すように炒めたらパラパラの粉が出来上がった。

「なんかいい匂いがするっすね」

「うん。なんかいけそうかも」

 油を吸う紙の上に置いて、しばらく放置して冷めるのを待った。出来上がりを食べてみるとそれらしい味になってる。

 休憩時間ももう終わるので、いったん邪魔にならないところにそれを置き、仕事に戻った。








 






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