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差し入れ

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 106 差し入れ

 市場まで走ってタマゴと牛乳を買う。
 今日はパンも買った。たまには良いよね。
 肉屋に寄って腸詰とハムも買う。

 牛乳を温めるのをフェルに任せて、スクランブルエッグを作り、腸詰も焼く。

 残っていた野菜を適当に刻んで、ホランドさんの塩ダレをあえる。
 縦長のパンを真横に切って、フライパンにバターを溶かしてパンを焼く。

 パンが焼けたら手早くスクランブルエッグを乗せ、胡椒を少し、腸詰を乗せてケチャップをかける。そしてパンで蓋をして、ちょっと贅沢なホットドッグをつくった。
 もう一個は腸詰の代わりにハムを挟む。
 フェルはもう少し食べるかなと思ったのでホットドッグはもう一個余分に作った。

 フェルがマグカップに牛乳を注いでくれて、朝食にする。
 天気がいいからタープの囲いは外した。

 久しぶりにゆっくり朝食が取れたかも。
 
 ケチャップの好きなフェルは、かわいいけど悲鳴にも似た声をあげて口いっぱいにホットドッグを頬張った。
 そんなフェルを眺めて楽しんで、僕もホットドッグを食べる。たまにはこういう洋食っぽい朝ごはんもいいね。いつもより豪勢な朝ごはんをゆっくり食べる。

「今日の朝ごはんは素晴らしく美味しかった。いや、いつも美味しいのだが、たまにはパンも良いな。けちゃっぷによく合う」

 そんなフェルの口にタマゴが付いていたのでそれを取ってやる。

 フェルに今日はどうするのか聞かれたので、ライツに差し入れした後はガンツのところに行こうかと思っていると伝えた。
 夕方に迎えに行くから一緒にお風呂に行って帰ろうと言うとフェルは笑顔で頷いた。

 フェルをお店の前で見送って、ゼランド商会で少し買い物をする。
 メモ帳代わりのノート、保存瓶とプリンに使う容器。

 ふと思いついてフェルの髪をとかすブラシを買った。少し高かったけど、店の人にオススメされた小さめのものを買った。

 そのあと歩いてライツの工房に向かう。
 最近は歩く時も魔力循環をしている。魔法は上達していない。ただ前よりも事象を引き起こすのが楽になった気はする。出力は相変わらず変わらないのだけど。

 工房に行くとライツは外で何か作業をしていた。お弟子さんだろうか、ライツがいろいろ指示を出して木材を切らせている。
 ちょっと待ってろと言われたので、工房の中で待たせてもらう。長くなりそうなので、勝手にコンロを使って麦茶を作った。外は寒いから暖かいお茶はみんな喜んでくれるだろう。

「悪いな。待たせてしまって。ちょっと大きな仕事が入ってな。南区の拡張工事のことは知ってるか?」

 休憩をとりにきたお弟子さん達に暖かい麦茶を配りながら僕は頷いた。

「悪いな。お茶なんてやらせちまって。それでな、その拡張工事が大幅に前倒しで始まることになったんだ。城壁もだいぶ広がるらしいな。今スラムで働きたい者を募集かけてるらしいぜ。体が不自由でも何かしら仕事を任されるから希望する奴らは多いだろうな。うちでもいい仕事をする奴がいたらこの際雇っちまえって話になってんだ」

「へぇーまた急にどうしたのかな」

「あのホーンラビットの討伐の結果らしいぜ。これから王都の人口が急激に増えていくんだそうだ。詳しい理屈は俺には良くわからねーが、5年後には倍近く増える計算になるらしい」

 ホーンラビット如きでそんな大袈裟なと思ったけど、そんなふうに王都の発展に協力できたとしたならよかったなと思う。

「ん、なんだこれ。差し入れか?」

 ライツに作ってきたプリンを渡す。

「ライツに弓を調節してもらったお礼だよ。あの弓は僕が作ったやつなんだけど、すごく使いやすくしてもらったから」

「あれは単に俺がやりたかったからやっただけだぜ。体に合わねーもんいつまで使ってんだって思ったからイライラしてな」

 あの弓は父から教えてもらって初めて作った弓だった。思い入れもあったから手直ししてくれたのが本当に嬉しかった。これからもずっと使っていけそうだ。

「お?なんだこれ菓子か?わざわざ作ってくれたのか。おい!これ保冷庫の中に入れてこい。ケイの差し入れだ」

 一番若そうなお弟子さんがプリンを入れた箱を受け取って奥にしまいに行く。

「このところ忙しいから助かるぜ。若いやつも喜ぶだろう。わざわざありがとな」

「いいんだよ。あの弓大事に使うね。もちろんあのライツの弓も大切に使うけど。最近結構力がついてきて、あの弓も結構引けるようになったんだよ。あ、そうだ。僕のお世話になってる赤い風って冒険者のパーティがいて、そこでスカウトをやってる人がライツに弓を作って欲しいって言ってるんだ。ライツ作ってくれる?」

「赤い風って、そこのスカウトっていや、たしか神速とか言われてるやつだろ?良いぜ。今度工房に来いって言っとけ、今は少し忙しいからちょっと時間がかかるだろうが、身体に合わせたやつを作ってやるよ」

「ありがとう。リンさんも喜ぶよ。リンさんがライツの弓を見てさ、すごく良い弓だから私も作って欲しいって言ってて。今の弓は店で売ってる物の中からいろいろ選んだ上で一番相性が良かったやつを使ってるんだって。自分にピッタリ合った弓が欲しいらしくて。引き受けてくれるとうれしいよ。今度会ったら言っておくね」

 ライツは褒められたのが嬉しかったのか、少し照れている。

「おう。任せとけ。あー、そうだ、ケイ、ちょっとこっち来い、手を見せてみろ」

 言われた通りにライツのそばに行って手を見せる。

「よし、それでちょっと俺の手首を握ってみてくれ。そうだ。よしよし」

「どうしたの?ライツ」

「あーなんだ、弓の握りを調節しただろう?あれでよかったのか気になってな。問題なさそうだ」

「うん。ライツが調整してくれたらすごく手に馴染むんだ。本当に感謝してるんだよ」

「そんなに手間じゃなかったから構わねえよ、あ、お前矢が足りなくなってんじゃねえか?弟子に練習で作らせてるからまた持ってけよ。マジックバッグを持ってるんだったらとにかく矢は多すぎるくらい持っておけ」

 そう言ってライツはたくさんの矢を僕にくれた。お金を払うと言っても、弟子の修行も兼ねているからと言って受け取ってくれなかった。
 なんでみんな僕が何かお礼をすると倍にして返してくるんだろう。嬉しいけど、お世話になりすぎじゃない?

「倉庫にあっても邪魔になるだけだからな。また足りなくなったら取りに来い」

 ライツの工房を出て、ふと気づいた。ゼランドさんも何か返してくるのかな。フェル。お願いだからあんまり高価なものは受け取ってこないで。

 ガンツの工房に行くとちょうどお昼休みだった。厨房を借りて適当に自分のご飯を作って食べた。

 ガンツも手を見せてみろと言って僕の手を触り何か考えている。
 なんか、変だな。ライツもガンツも。

「暇ならちょうどいい。また仕上げ研ぎをやってくれんかの。だいぶ溜まっとる」

 そう言われてひたすら仕上げの研ぎ作業をやらされる。

「これ何本あるわけ?多くない?」

「年末じゃからな。お前が来てくれてよかった。ちゃんと給金も払うからしっかり働け」

 とあるお弟子さんが言うには、僕が仕上げで研いだ方がよく売れるらしい。
 ガンツ工房のためならばと、100本以上の、包丁やら剣やらを研ぎまくった。
 全部終わったあとでお弟子さんがお茶を持ってきてくれる。
 笑顔でこれからも定期的に来てくれると助かると言われる。
 
 この人、最後は納品直前の箱を開けてちゃっかり持ってきてたよな。あれ絶対完成してたやつだよ。

 ガンツがお金を払おうとしたから、保温の箱が欲しいと言って、現物支給にしてもらう。ガンツは困った顔をしていたが、ため息をついて、そのあと笑った。

「そういえばクライブのところで働くことになったそうじゃな。珍しくクライブが嬉しそうにしてたぞ」

「ガンツは小熊亭の主人と知り合いだったの?ときどき名前が出てきていたから、気にはなってたんだけど」

「あいつは古い知り合いでな。ワシと一緒に王都に来て、そのあと料理人の仕事についたんじゃ。店を出す時はワシもライツも協力しての。ワシらもたまに食いに行くんじゃが、なかなかの料理人じゃろう?」

「クライブさんが喜んでるかどうかはわからないけど、小熊亭でこれから頑張って修行したいと思っているんだ。僕、小熊亭ってすごく良い店だと思うんだ。これから頑張らないと」

「やりたいことが見つかったのは良いことじゃな。クライブは愛想は悪いが、悪い人間ではない。慣れるまでは皆苦労するがの」

「みんな腕のいい料理人だから、ついて行くのが大変そうだよ」

「まぁはじめは大変じゃろう。じゃがきっと良い経験になるじゃろ。あせらず頑張ることじゃな」

 ガンツに年末の予定を聞かれて、特に何も考えていないと言ったら、その日は工房に来いと言う。寝るところも用意しておくと言っていた。ライツも仕事が終わったら来るらしい。年越しは家族で過ごすのが王都では普通なんだそうだ。
 家族として扱ってもらえているのが嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、僕の顔はおかしなことになっていた気がする。

 そろそろフェルを迎えに行く時間になって、ガンツの工房を出た。お弟子さんも揃って見送ってくれた。







 


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