フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

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充分だ

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105 充分だ

「面接はどうだったのだ!?」

 訓練所にフェルが飛び込んできた。走ってきたのか少し息を切らしている。

「……うん。来年、年明けて3日後にやる気があるなら来てもいいって」

「よかったではないか!ケイはあの店のことを気に入っていたからな。どうした?あまり嬉しそうではないが……」

「うん……まあちょっとあとで話すよ」

 フェルは返り血ですっかり汚れていたので公衆浴場に行くことにする。
 いつもより早い時間だったから客はあまりいなかった。

 髪を乾かしている時もフェルは僕の顔を心配そうに見ていた。

「果実水を飲もう。今日はかなり稼げたからな。私が奢ろう」

 屋台で果実水を買ってベンチに座ってそれを飲む。フェルは僕が話すのをずっと待ってくれている。その心遣いが嬉しかった。

 明日はフェルは冒険者の仕事は休みにしてエリママのところに行くそうだ。
 年内はもう冒険者の仕事は受けないことにしたらしい。明日はお弁当はいらないそうだ。たまには朝はゆっくりするのも良いと思うのだとフェルが少し照れながら言った。

 家に戻ってプリンを大量に作った。お土産に持って行ってもらおう。
 ついでにライツのところにも差し入れに行こう。忙しいかな?まぁ行けば誰かしらは工房にいるよね。

 蒸しあがったプリンの容器の粗熱が取れたら保温箱に氷を入れてしまっておく。

 パキンと、製氷皿を使って簡単に氷を作る僕を見てフェルが驚いていた。
 本当に詠唱がいらないのだなと感心している。前に氷の魔法を使うところを見たことがあるらしいが、その時の魔法使いはかなり時間をかけて詠唱していたそうだ。

「コツさえ掴めれば簡単だよ。多分誰でもできちゃうんじゃないかな?」

 フェルは不思議そうに僕を見る。

 フェルが紅茶を淹れてくれてタープテントの中で飲んだ。
 簡単な囲いだけれど、テントの中は暖かい。

「フェル。あのね。やっぱり僕、小熊亭で修行したいって思っているんだ。あの店の料理はとっても美味しいし、何より味と値段のバランスがいいと思ってて……高級な料理なんて、こないだの遠征で食べたくらいだけど、なんかそれは僕の作りたいものと違うって言うか……」

 フェルは静かに僕の話を聞いてくれている。テーブルの上に置いたあかりの魔道具に照らされるフェルはとても美しい。吸い込まれてしまいそうで少し目を逸らした。

「将来はじいちゃんみたいに食堂をやってみたいと思ってる。まだどうなるかわからないけど、その食堂はみんなが気軽に食べられるような値段にして、いろんなお客さんが来てくれるようなそんな店にしたい。そのためにも小熊亭で修行して、しっかりとした実力をつけたいんだ」

 フェルは黙って頷いた。その優しい表情を見て、亡くなった母のことを思い出してしまった。大きくなったら母のような薬師になると言ってたこともあったっけ。その度に母は、あなたはあなたの好きなことをやりなさいと笑顔で言っていた。

「気になってるのは、僕が働き出したことで、フェルを1人にさせちゃうってことなんだ。仕事を始めたら最初は余裕がないかもしれない。あ、お弁当は作るよ。絶対。それは譲れないんだけど……たまには手抜きになっちゃうかも。フェルが依頼から戻ってきても、僕の仕事はまだ終わっていないかもしれないし、寂しい思いもさせちゃうかもしれない。1人で夜このテントで待っているのも辛いよね」

 椅子に座って僕の話を聞いていたフェルが立ち上がり、僕を後ろから抱きしめる。ふわっと石鹸の香りがする。

「私のことは気にしなくても良いのだ。最初に決めたであろう。どちらかに何かやりたいことができたらそれをお互い応援しようと、ケイのおかげで私は冒険者としてやっていけそうだ。セシル達とも上手くやれているし、周りの冒険者たちも親切だ。少し柄は悪いがな。しかし悪い奴らではない」

 優しくフェルが抱きしめてくれて、緊張と不安と罪悪感のようなものが少しずつ解けていく。

「私も稼げるようになってきたからな。今までケイが応援してくれたおかげだ。だから今度は私の番だ。ケイの働く店に仕事が終わったら食べに行こう。そして帰りに風呂に寄って2人で一緒に帰るのだ。私はあの髪を乾かしてもらっている時間が好きなのだ。ケイに髪を乾かされながらその日あったことをお互い話す。私はそれで充分だ。ケイに心配をかけるつもりはない。危険なことはしないと約束する。私は1人でもちゃんとやれるぞ。だからケイはケイのやりたいことに集中して良いのだ」

「ありがとう。フェル……。僕、小熊亭で頑張ってみるよ」

 フェルは僕を抱きしめている腕にほんの少し力を込めた。














 
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