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ジーンズ
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83 ジーンズ
「すみません。ギルドの依頼書を見てきたのですが……」
「あぁ、よく来てくれた。あれ?ずいぶん若いね。いくつだい?」
落ち着いた雰囲気の年配の男性が店の奥から出てきて言った。
「15です。王都には先月来ました。僕はケイって言います。今は冒険者の仕事をしていますが、いつかは街の中で仕事を探したくて。今回は受付の係の人にこちらの依頼を紹介されて来ました。よろしくお願いします」
「ギルドの人には経験者をってお願いしてたんだけどね。ピッタリの人材を紹介しますって昨日言ってたから、もっと年上の人だと思っていたよ」
「一応田舎の村では祖父がやってた食堂を手伝っていました。多少なら料理も出来ます。街で料理の仕事に就いたことはないのですが、受付の人もあなたなら大丈夫って言ってくれて」
「うちはご覧の通り小さな定食屋でね。いつもはうちの家内が手伝ってくれて、2人でやってるんだけど、あいつこの間階段から落ちてね。足の骨を折っちまった。ポーションである程度は治ったんだけど、医者が言うにはひと月は痛みが残るらしくてね。もういい年だし、あんまり無理させてもいけないと思ってギルドに依頼を出したんだ。ああ、私はホランド、定食屋ミナミの店主だ」
ホランドさんはそう言って僕を厨房に案内する。
「やってもらいたいのは客の注文を受けて料理を運ぶのと、代金を受け取ること、それから野菜を切って簡単なサラダを用意して欲しいんだ。多少は作りおくんだけど、野菜は切ってからだんだんと萎れてくるからね。うちではなるべく作り置きはしないでいるんだ。うちのメニューは大体3つ。唐揚げ定食。これが一番出るね。あとはスープと、オーク肉を素揚げしたものだね」
ホランドさんがキャベツを持ってきた。
「ちょっとこのキャベツ千切りにしてくれるかい?ある程度でやめていいから」
そう言われてキャベツを洗い、半分に切ってから千切りにする。
「ああ、もう大丈夫。なんだ普通にちゃんとできるじゃないか。すまないね試したりなんかして。明日から来れるかい?営業は11時からだから、いつも準備は9時くらいに始めるんだ。その少し前くらいに来てくれるかい。ケイくんだっけ。これからよろしく頼むよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
明日から定食屋ミナミで働くことが決まった。
そのあと店の中を説明してもらい、厨房も案内される。
どこに何があるか説明されて、ざっとだけどメモを取った。けっこう早口だったから殴り書きみたいになっちゃったけど。
夜は8時くらいに閉めるらしい。昼のピークが終わったら店を一度閉めて1時間の休憩。そのあとまた仕込みを始めて5時から8時まで営業する。
「ケイくんちょっと待っててくれるかい?うちの家内を紹介するよ」
そう言ってホランドさんは2階に行き、奥さんを連れてきた。
ホランドさんが肩を貸して奥さんがゆっくりと階段を降りてきた。
慌てて近くに行き、そこでけっこうですと声をかける。
「あら、ずいぶん若い子が来たわねー。あたしはマリナ。マリナおばさんでいいわ。もう少し痛みが取れたら店も手伝えると思うから、それまでどうかよろしくね」
店を出たらもう夕方近い。エリママの店でもう1着ズボンを買おうかな。あんまり不潔な格好はできないし。
あとシャツ?何色がいいかな。白でいいよね。たぶん。
エリママの店に行くと女性の店員さんが迎えてくれた。エリママとフェルはいますかと聞くと微笑みながら少々お待ちくださいと、店員さんが奥に消えた。
しばらくしてエリママとフェルが出てきた。
「フェル!仕事決まったよ。それで今日はもう1着服を買って帰ろうと思って。フェルもなんかたまには買ったら?今ならちょっとお金もあるし」
「私は、この前買ってもらった服で満足している。あまりこういう格好はする機会もないからな。服も特に傷んでいるわけではないし」
「もっとおしゃれしてもいいと思うけどね。エリーさん。今日は3男はいる?いたらまたこないだみたいな服を選んで欲しいんだけど……」
「あの子今日は仕入れに出てるのよ。明後日にならないと帰ってこないわ。ああ、そういえば、こないだの唐揚げ、美味しかったわ。ホーンラビットの肉には思えなかった。ありがとう」
そういえば僕、元王女様に王国で一番安いお肉を食べさせたのか。いいのかな。
「今日は私が選んであげるわ。フェルちゃんも興味があるでしょ。一緒に選びましょう」
というわけで2人に僕の服を選んでもらうことになった……んだけど。所詮は作業着だからね。フェル。そんな張り切って選んでもらうようなものじゃないんだけどな。
「これがいいわ。このシャツなら丈夫だし、シワが目立たないの。ズボンはそうね、今履いてるそのズボンの他にはどんなのを持ってるの?」
「え?今履いてるの以外はパジャマか、村ではいてた古いやつですけど」
「それじゃあ1本しか持ってないってことじゃない。それは良くないわ。少なくとも2日に一度は履き替えないと」
「じゃあこのズボンとおんなじのでいいです。迷わないで済むし」
「もう、あなたもあの子と一緒ね。自分の服にこだわりがないんだから。1本は黒にしましょう。汚れが目立たないわ。実家の厨房の料理人も黒だったもの。昔は黒の染料は高価だったんだけど、今はそうでもないからね。大丈夫よ。あと1本は……フェルちゃん。なんかある?」
「むぅ。ケイには青い色が似合うと思うがな……エリママ、動きやすいものでいい色はないだろうか?」
「そうね、これなんてどう?最近売り出した丈夫な生地で作られたものなんだけど、けっこう履き心地がいいみたいよ。体に合わせて少し伸びるから履いていくうちに体に馴染んでいくそうよ」
ジーンズだな。これ。ちょっとデザインは変わってるけど。
「農作業にちょうどいいって、私の兄も気に入ってるの。どうかしら」
ん?今、なんかさらっとすごいこと言ったような気がする。お揃いってこと?
王様がジーンズ?
聞かなかったことにしよう。どうせ会う機会なんてないだろう。
「じゃあその2つと、シャツは1着でいいです。なんか成長期がきてるみたいで。ズボンは少し折り返して履くので、長めにしてください」
エリママが店員さんを呼んで採寸してもらう。どのくらい裾を伸ばすか聞かれて手で足を触って大体の長さを伝える。
すぐに裾上げが終わって、試着室で履いてみる。黒いズボンは、あれだな。ちょっと学生服みたいだな。まあいいか。
ジーンズはこんな感じかな。こうやって折り返して。うん。いいかも。
「あら、折り返すのも悪くないわね。そうすると裏地も工夫してもいいかもしれないわ。いいじゃない、似合ってるわ」
「うむ。その青色のはケイによく似合っていると思うぞ。長く着れそうだし、良いと思う」
エリママに銀貨2枚支払って、僕は向かいのゼランドさんのところで時間を潰すことにした。もう少しやってから帰りたいとフェルが言ったからだ。
顔見知りになった店員さんと、話しながら商品を見て回る。
テントの下に敷けるマットとか、テントのそばに囲いを作りたいのだけど何かいいものがないか聞いていたら、ちょっとお待ちくださいと言い残して、店員さんは奥に走って行った。
戻ってきた店員さんはゼランドさんを連れてきた。
「ケイくん。またなんか新しいものを思いついたんだって?」
「いや、ただ、今のテントをもう少し快適にしたくて、まずは寒さをどうにかしようかなってそれだけなんですけど」
「テントに敷く敷物かい?マットって言ってたね。それは布団ではダメなのかい?」
「布団よりもっと畳みやすいのがいいんですよね。マジックバッグの中で容量が嵩張っちゃうから。あと今は布団を袋に入れて空気を抜いてからしまってるんですけど、風を通さないテントの生地で袋があるといいなって思います。空気が抜けるようにこう、弁をつけて」
カバンからノートを出して、欲しい商品の形を説明する。タープテントとエアーマット、あとは布団の圧縮袋だ。
「空気を送り込んだり、空気を抜いたりできる魔道具があればいいと思うんですよね。僕は生活魔法でできますけど、そうじゃない人でも使えるように」
そう言って適当に空気の通り道のように矢印をマットの空気入れの部分に書き入れる。魔道具っぽい絵も描いた。
「このテントは天井を高くして、周りに囲いを取り付けられるようにすれば、雨の日でもこの中で煮炊きができると思うんです。囲いをつけたら暖房の魔道具もそんなに高いものじゃなくてもいいかなって思って」
いつの間にか職人風の店員さんも出てきて、店先で小規模な会議のようなものが開かれる。
「これは、縫製の職人とも相談ですが、空気を逃さない縫い方というのを研究する必要がありそうですな。それからこの囲いですが、骨組みはなんとかなると思います。問題は強風に耐えられるかってことですね。この高さじゃ風が吹くとすぐ飛んでいきそうだ。かと言ってあまり重くもできないですからね」
「それは水樽を利用すればいいんじゃないですか?専用の形のものを作って一緒に売ればいいんですよ。きっとそれも売れますよ」
「なるほど、水なら比較的手に入れやすいか。それはいいですね」
僕はタープテントの絵に水樽の絵を描いた。
「ケイくん。その書いた紙もらっていいかな。ちょっと職人と相談したい」
いいですよと言ってノートを破いてゼランドさんに渡す。
「ケイくんの思いつきはなかなか面白いとガンツが言っていてね。店の者にはケイくんが私たちの知らない商品を探していたらすぐ私か3男を呼ぶように言っておいたんだ。驚かせて悪かったね」
「いえ、気にしないでください。言ってみて、僕も手に入るなら助かりますし」
「いや、これはいいかもしれないぞ。もっと簡単な作りの天幕はないのかと打診されていたりしてね。これはそれにぴったりだよ」
「水が手に入らなければ、地面に杭を刺してロープで固定すればいいかもしれませんね。たぶん杭も売れますよ」
もう仕方ない。騒ぎになってしまった。だったら思いつく限りいいものにしてもらおう。
そうかぁ、ガンツがピーラーをゼランドさんに見せた時もこんな感じかー。
ごめんね。ガンツ。丸投げしちゃって。
来週には試作品ができるそうだ。またその時店に来てくれと言われたので、来週また顔を出す約束をした。ゼランドさんは月曜は店にいるらしい。
来週店に行ったら特許料の話になるんだろうな。どうしよう。
「すみません。ギルドの依頼書を見てきたのですが……」
「あぁ、よく来てくれた。あれ?ずいぶん若いね。いくつだい?」
落ち着いた雰囲気の年配の男性が店の奥から出てきて言った。
「15です。王都には先月来ました。僕はケイって言います。今は冒険者の仕事をしていますが、いつかは街の中で仕事を探したくて。今回は受付の係の人にこちらの依頼を紹介されて来ました。よろしくお願いします」
「ギルドの人には経験者をってお願いしてたんだけどね。ピッタリの人材を紹介しますって昨日言ってたから、もっと年上の人だと思っていたよ」
「一応田舎の村では祖父がやってた食堂を手伝っていました。多少なら料理も出来ます。街で料理の仕事に就いたことはないのですが、受付の人もあなたなら大丈夫って言ってくれて」
「うちはご覧の通り小さな定食屋でね。いつもはうちの家内が手伝ってくれて、2人でやってるんだけど、あいつこの間階段から落ちてね。足の骨を折っちまった。ポーションである程度は治ったんだけど、医者が言うにはひと月は痛みが残るらしくてね。もういい年だし、あんまり無理させてもいけないと思ってギルドに依頼を出したんだ。ああ、私はホランド、定食屋ミナミの店主だ」
ホランドさんはそう言って僕を厨房に案内する。
「やってもらいたいのは客の注文を受けて料理を運ぶのと、代金を受け取ること、それから野菜を切って簡単なサラダを用意して欲しいんだ。多少は作りおくんだけど、野菜は切ってからだんだんと萎れてくるからね。うちではなるべく作り置きはしないでいるんだ。うちのメニューは大体3つ。唐揚げ定食。これが一番出るね。あとはスープと、オーク肉を素揚げしたものだね」
ホランドさんがキャベツを持ってきた。
「ちょっとこのキャベツ千切りにしてくれるかい?ある程度でやめていいから」
そう言われてキャベツを洗い、半分に切ってから千切りにする。
「ああ、もう大丈夫。なんだ普通にちゃんとできるじゃないか。すまないね試したりなんかして。明日から来れるかい?営業は11時からだから、いつも準備は9時くらいに始めるんだ。その少し前くらいに来てくれるかい。ケイくんだっけ。これからよろしく頼むよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
明日から定食屋ミナミで働くことが決まった。
そのあと店の中を説明してもらい、厨房も案内される。
どこに何があるか説明されて、ざっとだけどメモを取った。けっこう早口だったから殴り書きみたいになっちゃったけど。
夜は8時くらいに閉めるらしい。昼のピークが終わったら店を一度閉めて1時間の休憩。そのあとまた仕込みを始めて5時から8時まで営業する。
「ケイくんちょっと待っててくれるかい?うちの家内を紹介するよ」
そう言ってホランドさんは2階に行き、奥さんを連れてきた。
ホランドさんが肩を貸して奥さんがゆっくりと階段を降りてきた。
慌てて近くに行き、そこでけっこうですと声をかける。
「あら、ずいぶん若い子が来たわねー。あたしはマリナ。マリナおばさんでいいわ。もう少し痛みが取れたら店も手伝えると思うから、それまでどうかよろしくね」
店を出たらもう夕方近い。エリママの店でもう1着ズボンを買おうかな。あんまり不潔な格好はできないし。
あとシャツ?何色がいいかな。白でいいよね。たぶん。
エリママの店に行くと女性の店員さんが迎えてくれた。エリママとフェルはいますかと聞くと微笑みながら少々お待ちくださいと、店員さんが奥に消えた。
しばらくしてエリママとフェルが出てきた。
「フェル!仕事決まったよ。それで今日はもう1着服を買って帰ろうと思って。フェルもなんかたまには買ったら?今ならちょっとお金もあるし」
「私は、この前買ってもらった服で満足している。あまりこういう格好はする機会もないからな。服も特に傷んでいるわけではないし」
「もっとおしゃれしてもいいと思うけどね。エリーさん。今日は3男はいる?いたらまたこないだみたいな服を選んで欲しいんだけど……」
「あの子今日は仕入れに出てるのよ。明後日にならないと帰ってこないわ。ああ、そういえば、こないだの唐揚げ、美味しかったわ。ホーンラビットの肉には思えなかった。ありがとう」
そういえば僕、元王女様に王国で一番安いお肉を食べさせたのか。いいのかな。
「今日は私が選んであげるわ。フェルちゃんも興味があるでしょ。一緒に選びましょう」
というわけで2人に僕の服を選んでもらうことになった……んだけど。所詮は作業着だからね。フェル。そんな張り切って選んでもらうようなものじゃないんだけどな。
「これがいいわ。このシャツなら丈夫だし、シワが目立たないの。ズボンはそうね、今履いてるそのズボンの他にはどんなのを持ってるの?」
「え?今履いてるの以外はパジャマか、村ではいてた古いやつですけど」
「それじゃあ1本しか持ってないってことじゃない。それは良くないわ。少なくとも2日に一度は履き替えないと」
「じゃあこのズボンとおんなじのでいいです。迷わないで済むし」
「もう、あなたもあの子と一緒ね。自分の服にこだわりがないんだから。1本は黒にしましょう。汚れが目立たないわ。実家の厨房の料理人も黒だったもの。昔は黒の染料は高価だったんだけど、今はそうでもないからね。大丈夫よ。あと1本は……フェルちゃん。なんかある?」
「むぅ。ケイには青い色が似合うと思うがな……エリママ、動きやすいものでいい色はないだろうか?」
「そうね、これなんてどう?最近売り出した丈夫な生地で作られたものなんだけど、けっこう履き心地がいいみたいよ。体に合わせて少し伸びるから履いていくうちに体に馴染んでいくそうよ」
ジーンズだな。これ。ちょっとデザインは変わってるけど。
「農作業にちょうどいいって、私の兄も気に入ってるの。どうかしら」
ん?今、なんかさらっとすごいこと言ったような気がする。お揃いってこと?
王様がジーンズ?
聞かなかったことにしよう。どうせ会う機会なんてないだろう。
「じゃあその2つと、シャツは1着でいいです。なんか成長期がきてるみたいで。ズボンは少し折り返して履くので、長めにしてください」
エリママが店員さんを呼んで採寸してもらう。どのくらい裾を伸ばすか聞かれて手で足を触って大体の長さを伝える。
すぐに裾上げが終わって、試着室で履いてみる。黒いズボンは、あれだな。ちょっと学生服みたいだな。まあいいか。
ジーンズはこんな感じかな。こうやって折り返して。うん。いいかも。
「あら、折り返すのも悪くないわね。そうすると裏地も工夫してもいいかもしれないわ。いいじゃない、似合ってるわ」
「うむ。その青色のはケイによく似合っていると思うぞ。長く着れそうだし、良いと思う」
エリママに銀貨2枚支払って、僕は向かいのゼランドさんのところで時間を潰すことにした。もう少しやってから帰りたいとフェルが言ったからだ。
顔見知りになった店員さんと、話しながら商品を見て回る。
テントの下に敷けるマットとか、テントのそばに囲いを作りたいのだけど何かいいものがないか聞いていたら、ちょっとお待ちくださいと言い残して、店員さんは奥に走って行った。
戻ってきた店員さんはゼランドさんを連れてきた。
「ケイくん。またなんか新しいものを思いついたんだって?」
「いや、ただ、今のテントをもう少し快適にしたくて、まずは寒さをどうにかしようかなってそれだけなんですけど」
「テントに敷く敷物かい?マットって言ってたね。それは布団ではダメなのかい?」
「布団よりもっと畳みやすいのがいいんですよね。マジックバッグの中で容量が嵩張っちゃうから。あと今は布団を袋に入れて空気を抜いてからしまってるんですけど、風を通さないテントの生地で袋があるといいなって思います。空気が抜けるようにこう、弁をつけて」
カバンからノートを出して、欲しい商品の形を説明する。タープテントとエアーマット、あとは布団の圧縮袋だ。
「空気を送り込んだり、空気を抜いたりできる魔道具があればいいと思うんですよね。僕は生活魔法でできますけど、そうじゃない人でも使えるように」
そう言って適当に空気の通り道のように矢印をマットの空気入れの部分に書き入れる。魔道具っぽい絵も描いた。
「このテントは天井を高くして、周りに囲いを取り付けられるようにすれば、雨の日でもこの中で煮炊きができると思うんです。囲いをつけたら暖房の魔道具もそんなに高いものじゃなくてもいいかなって思って」
いつの間にか職人風の店員さんも出てきて、店先で小規模な会議のようなものが開かれる。
「これは、縫製の職人とも相談ですが、空気を逃さない縫い方というのを研究する必要がありそうですな。それからこの囲いですが、骨組みはなんとかなると思います。問題は強風に耐えられるかってことですね。この高さじゃ風が吹くとすぐ飛んでいきそうだ。かと言ってあまり重くもできないですからね」
「それは水樽を利用すればいいんじゃないですか?専用の形のものを作って一緒に売ればいいんですよ。きっとそれも売れますよ」
「なるほど、水なら比較的手に入れやすいか。それはいいですね」
僕はタープテントの絵に水樽の絵を描いた。
「ケイくん。その書いた紙もらっていいかな。ちょっと職人と相談したい」
いいですよと言ってノートを破いてゼランドさんに渡す。
「ケイくんの思いつきはなかなか面白いとガンツが言っていてね。店の者にはケイくんが私たちの知らない商品を探していたらすぐ私か3男を呼ぶように言っておいたんだ。驚かせて悪かったね」
「いえ、気にしないでください。言ってみて、僕も手に入るなら助かりますし」
「いや、これはいいかもしれないぞ。もっと簡単な作りの天幕はないのかと打診されていたりしてね。これはそれにぴったりだよ」
「水が手に入らなければ、地面に杭を刺してロープで固定すればいいかもしれませんね。たぶん杭も売れますよ」
もう仕方ない。騒ぎになってしまった。だったら思いつく限りいいものにしてもらおう。
そうかぁ、ガンツがピーラーをゼランドさんに見せた時もこんな感じかー。
ごめんね。ガンツ。丸投げしちゃって。
来週には試作品ができるそうだ。またその時店に来てくれと言われたので、来週また顔を出す約束をした。ゼランドさんは月曜は店にいるらしい。
来週店に行ったら特許料の話になるんだろうな。どうしよう。
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