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夢なのか

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 64 夢なのか

 風呂に入ってぼんやりと今後のことを考えていた。
 
 今回の報酬でフェルの装備は揃えられる。もしかしたら残ったお金で王都で部屋を借りて住むこともできるかもしれない。
 
 そうなったらこの先、僕はどうしたいんだろう。
 冒険者としてずっとやっていくんだろうか。
 格上のモンスターを相手に戦ったり、誰かの護衛をしたり、そういう冒険者として活動するのは、想像してみたけれど、なんだかしっくりこなかった。

 街で何か仕事を探そうかな。
 安定している仕事で、帰ってきたフェルを、「おかえり」って言っていつも迎えてあげられるような。

 フェルはきっと冒険者としてこの先もやっていくだろう。怪我したりしないか心配だけど、フェルは強い。僕なんかじゃ相手にならないくらいに。
 きっと冒険者として充分やっていける。
 
 僕は……。狩りをするのは嫌いではないけれど、もっと格上の魔物相手に戦いを挑んでいくような、そんな冒険者としての生活がいまいち想像できなかった。
 
 それにたぶん僕は人を殺せない。
 フェルの身に危険が迫って、相手を殺さなきゃいけない状況になったとして、そしたら僕は……。
 
「どうした?ケイ。さっきからずっと何か考えこんでいるようだが」

 フェルの髪を乾かしながらも今後のことをずっと考えていたら、心配そうにフェルが尋ねてきた。

「うん。これからのことをちょっとね」

 フェルも少し考えていることがあるようで、なんとなくその後無言になってしまった。

 髪の毛が乾いたフェルに声をかける。できるだけ明るい声で言ったつもりだ。

「果実水を作ったんだ。今日手伝ってくれた農家のご主人が、梨をくれてね。まだ少しぬるいかもしれないけど飲む?」

「いつの間に作ったのだ。もちろんいただくぞ。梨は私の好きな果物なのだ」

 フェルがぱぁっと明るい笑顔になる。

「お昼の支度をしてる時に合間にね。ほんとはフェルが喉が渇いてるかなって急いでつくったんだけど、出しそびれちゃった。ちなみにすりおろして絞った残りはトマト鍋の隠し味になりました」

 そう言うとフェルはクスリと微笑んだ。
 
 果実水は宿に着いてから冷やしたのでまだ少しぬるかったけど、もらった梨が良かったのか爽やかな甘さが身体に染み込むようで美味しかった。

「来週の遠征が終わると、この先ホーンラビットを独占的に狩ることはできなくなるだろうな」

 果実水を飲みながら真剣な表情でフェルが言う。

「私は、不器用で。剣を振るうしかない他になんの取り柄もない女だ」

 そんなことないと、僕が言う前にフェルはさらに言葉を続ける。

「だがケイは違う。私と違ってきっとこれからなんでもできるはずだ。私に付き合って冒険者を続ける必要はない。私はもう1人でもやっていける。こうしてケイのおかげで装備も整い、セシル姉さんたちのおかげで、今後ギルドでも上手くやっていけそうだ。私なんかに構わないでケイはケイのやりたいことを自由に選んで良いのだ。」

 そう言ってフェルは俯く。

「だが……もし……ケイが良かったらなのだが……その……」

 俯きながらフェルがたどたどしく言葉を繋いでいく。

「これからも……私と一緒にいてもらえないだろうか?」

 最後の言葉は顔をあげて、僕の目を真剣に見つめながらフェルが言う。

「フェル。……僕の方こそお願いしたい。……たとえそれぞれ違う仕事を始めたとしても、僕はフェルと一緒にいたい。フェルが嫌じゃなければだけど、フェルが仕事を終えて家に帰ってきたなら、おかえりって笑顔で迎えてあげたい。そして料理を作ってフェルに食べてもらいたい。フェルの食べている姿を見ているのが好きなんだ。うれしそうに、表情をコロコロ変えて、本当に美味しそうに食べてくれる。その姿を見ているだけで僕は幸せな気持ちになれるんだ」

「な、なんだ!人を食いしん坊みたいに言って!大体ケイの作る料理が美味しすぎるのがいけないのだ。……つい食べ過ぎてしまう。もっと簡単な料理で良いのだ。いつも何か手の込んだ料理を作って……」

 フェルは顔を真っ赤にして言うが、最後の方はよく聞き取れなかった。

「それに……一緒にいないとなんか落ち着かないんだ。こうして宿で別々の部屋に泊まるだけなのに、最初の日はなんか眠れなくて、少し寝坊しちゃったんだよ」

「そ、そうかそれは良くないな。あ、ああ、よくない。明日はギルマスが指揮を取るだ、だ、大事な日だからな。寝坊しないよう私もこの部屋で眠ることにしよう」

 そう言ってフェルは立ち上がる。
 その肩が少し震えているような気がした。

 その後ベッドに入っていつものように並んで寝た。すぐに眠気に襲われて、そのあとはよく覚えていないんだけど。

「ケイ……私をはしたない女だと思うか?」

 夢なのか実際に聞かれたのかはよくわからない。どちらでもいいや。
 とりあえず。

「そんなこと一度も思ったことないよ」

 そう答えておいた。

 
 
 
















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 今後ともフェルのこと、よろしくお願いします。



 
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