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初恋は
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27 初恋は
ゼランドさんに紹介してもらった鍛冶屋に行くには、今からだとちょっと遅い時間になってしまうし、何よりも僕の頭の中は醤油と味噌のことでいっぱいだった。とにかく早く帰って料理がしたい。
ゼランドさんの商会は公衆浴場からほど近い、中央寄りにあった。市場はもっと南門に近い。歩く距離は増えてしまうけど、フェルにお願いして、先に市場で食材を買わせてもらうことにした。
「ずいぶん嬉しそうだな。ケイ。見てるとこちらまで楽しくなってくるぞ」
道中フェルが僕に話しかけてくる。頭ひとつ分背が高いから少し見上げた感じになる。
「ずっと手に入れたいって思ってた物だからね。こんなに早く見つけられるとは思わなかったよ。ごめんね。お金けっこう使っちゃって」
「なに、私は全く構わないぞ。ケイはもっと自分のためにお金を使ってもいいのだ」
「それはフェルも同じでしょ。まあ僕たち貧乏だからねー」
そう言ってフェルも僕も顔を歪ませる。
「それに、その醤油とかいうものを使って美味しいものをまた作ってくれるのだろう?今から楽しみだ」
「そうだよ。僕の故郷の料理を作ってあげるから楽しみにしてて」
「故郷?ケイはあの村の生まれではないのか?」
「ごめん。間違えた。じいちゃんの故郷だよ。じいちゃん遠くの東の国の生まれなんだ」
「そうか、それでゼン殿もケイもこの辺ではあまり見ない黒髪なのだな。昔、一度だけ東の国から来た剣士を見たことがある。その者もケイやゼン殿と同じ黒髪だった。当時の騎士団長と王の御前で試合をしたのだ。私は遠くからしか見られなかったが、それは見事な腕前だったな。東の国ではこんな剣士がゴロゴロいるんだなと、当時10歳の私はその剣士に憧れたものだ」
「へー。もしかしてフェルの初恋の人?」
「そ、そんなわけあるか!私の初恋は今から始まるのだ。大体、遠すぎてその剣士の顔など見えなかったのだ。顔もわからぬ男を好きになるわけなかろう!私は……その……力の強い男より、優しくて思慮深い男の方がだな……」
フェルの顔がだんだんと赤くなり、最後の方は小声でよく聞きとれなかった。
「じゃあこれからもフェルに優しくするね。嫌われたくないしさ」
「ケ、ケイはいつも優しいではないか、これ以上優しくされると、私はどうしていいかわからん。おかしくなってしまいそうだ」
「あ、あそこのお肉屋さんに寄るね。今日は奮発してオーク肉だよ」
その店でオーク肉を300グラム買う。
店を出てまたフェルと歩き出す。
「あとはお米かー、ちょっと多めに買ってもいい?明日は1日狩りが出来るから、今日よりもっと稼げると思うし」
「いいぞ。私もお米は好きだしな。しかし、あんな風にホーンラビットを狩る方法があるとはな。全くケイの発想の柔軟なところには本当にいつも驚かされてばかりだ。15歳とは思えないほどいろいろ知っているしな。たまに年上と話していると錯覚してしまうほどだ」
前世の記憶があるからね。僕には。
そんな風に楽しく会話をしながら必要なものを市場で購入した。
そのあと公衆浴場に行ったが、急いで身体を洗ってすぐに出た。とにかく早く醤油を使った料理を食べたかったのだ。
いつもフェルの髪を乾かすベンチで、ツボに入った米を棒でついて精米する。あたりは薄暗くなって来ているから、ちょっと不審者っぽい。こんなところで何をやってんだと思ったけど。この衝動は止められなかった。美味しい和食には炊き立てのご飯が必要なのだ。
買ってきたお米は全部精米してしまった。ちょっと腕が痛い。
フェルが公衆浴場から出てきた。
南門を出て、早足でいつもの場所に行く。
やっと料理が出来る。今日は生姜焼きを作るのだ。
最初に大きな鍋にお湯を沸かして、買ってきた保存用の瓶を湯煎する。調味料を小分けにしたいのだ。樽のままでは使いにくい。
湯煎している間にお米を研いで水につけておく。
料理に使う水はいつもフェルが用意してくれる。門の前には水場があって誰でも自由に使える。フェルはいつも大きめの水樽を両脇に抱えて、平気な顔して持ってくる。うちのフェルってすごい。
湯煎が終わったところで、鍋でご飯を炊きはじめた。
ご飯が炊けるまでの間に、買ってきた調味料を瓶に小分けに入れていく。これまた買ってきた折りたたみの机がここで大活躍する。唐辛子は輪切りにして、タネと一緒に小さな瓶に入れた。
お肉を薄切りにしてボウルにいれて、その上に醤油、酒、みりん、砂糖を入れる。ボウルはじいちゃんの食堂から持ってきたものだ。お酒とみりんはそれっぽいのが市場で買えた。穀物のお酒とそれと同じ穀物から作った甘いお酒だ。そんなに高くはなかった。
肉の臭みが少しでも取れたらいいなと思って少しだけタレに唐辛子を入れた。
大さじ小さじみたいなものがあるといいな。明日テントを買う時に探してみよう。
買いたいもの、必要なものは今日買ったノートに書き込んでおく。
もうひと組のノートとペンはフェルにも渡すつもりでいたけど、帰ってきてから、フェルが鞄を持っていないことに気づいた。しまった、醤油と味噌で浮かれていた。
王都に着いたら買ってあげようとずっと思ってたのに。
フェルの鞄とノートに書いておいた。
キャベツを千切りにして、もらったクズ野菜から使える部分を切り出してサラダを作る。お酢と醤油、少し砂糖を入れて混ぜ合わせ、ドレッシングを作った。少し舐めると何か足りないような気がして、オリーブオイルを入れてみた。混ぜ合わせて味を見るとよりドレッシングっぽくなって美味しかった。
ご飯が炊けたので火からおろして蒸らしておく。
ご飯が冷めないように、ここからは手早く料理する。
大きめのフライパンに満遍なく油を敷いて煙が出るまで熱する。しばらく熱したら一度火からおろして少し冷ます。
油を拭いて、また火にかける。本当は何回か繰り返した方がいいんだけど、ご飯が冷めちゃうので、今日はこれでいいことにする。
焼き入れしたフライパンを火にかけて肉を焼いていく。少し弱目の火でじっくり焼く。
肉の両面に焼き色が付いたら、残ったタレを入れ弱火にする。
味見して、少し醤油を足した。醤油の懐かしい香りが鼻から抜けていく。早く食べたい。火を止めてお肉をよくタレに絡ませた。
定食のように盛り付けたかったが、そんないいお皿は持ってない。さっき肉を漬けてた深めの大きな皿を水洗いして、お肉をまとめてその皿に盛る。
サラダも同じ大きさの深皿に盛り付けた。フェルと分け合って一緒に食べよう。手持ち鍋に水を入れお湯を沸かす。次は味噌汁だ。ああ、コンロもう1個欲しいな。
キノコを刻んで入れてネギを入れる。
お湯が沸いたところで、火を止めて味噌を溶かす。一口味見すると、懐かしい優しい味が口の中に広がった。出汁がとれてないけど仕方ない。今はこれが精一杯。
素振りをしていたフェルにもうすぐできるよと声をかけて、味噌汁を器によそう。
ご飯もお茶碗によそいたいけど、持っていないので仕方なくお皿に盛った。揃えないといけないものがまだまだいろいろあるなぁ。
食事は机を使って立ったまま食べる。
椅子も欲しいな。一番安いやつでいいから。
これもノートに書いておく。
「んーーーーーーっ!」
お肉を一口食べたフェルは顔を歪ませながら、かわいくうめき声を発した。
どうやら気に入ってくれたみたい。
「これは!こんなに、美味しい、料理は初めてだ。それから、この、この肉の後にな、その、ご飯を食べるとまた肉が食べたく、なってだな……おお!このスープも美味い。ご飯によく合うぞ!」
フェルは興奮して食べながら、息継ぎをするみたいに味の感想を伝えてくる。ゆっくり食べなさい。話は後でもできるんだから。
「ケイ。サラダも美味しいな」
大きな器を手に持ってフェルはお箸でサラダを食べた。僕はその器を受け取ってかわりばんこでサラダを食べる。
なんかいいなこういうの、大きなお皿で分け合って食べるとなんか仲良しって感じがする。
これ以来我が家では、食事の時いろんな料理を大皿に盛り付けて、みんなで分け合って食べるようになる。
食べ終わったら2人とも無言になってしまった。食器を持って水場でフェルと洗い物をする。寝床に戻る帰り道は、どちらからともなく、2人、手を繋いでゆっくり歩いた。
淹れたてのまだ熱い麦茶を2人で並んで座って飲む。少しお砂糖も入れた。
それを飲んだフェルが「最初にケイが入れてくれたお茶もたしかこんな味であったな」そう言って僕の方に頭を乗せてその身体を委ねる。
その日は少し寒かったので、毛布を2枚重ねてフェルとくっついて眠った。
ゼランドさんに紹介してもらった鍛冶屋に行くには、今からだとちょっと遅い時間になってしまうし、何よりも僕の頭の中は醤油と味噌のことでいっぱいだった。とにかく早く帰って料理がしたい。
ゼランドさんの商会は公衆浴場からほど近い、中央寄りにあった。市場はもっと南門に近い。歩く距離は増えてしまうけど、フェルにお願いして、先に市場で食材を買わせてもらうことにした。
「ずいぶん嬉しそうだな。ケイ。見てるとこちらまで楽しくなってくるぞ」
道中フェルが僕に話しかけてくる。頭ひとつ分背が高いから少し見上げた感じになる。
「ずっと手に入れたいって思ってた物だからね。こんなに早く見つけられるとは思わなかったよ。ごめんね。お金けっこう使っちゃって」
「なに、私は全く構わないぞ。ケイはもっと自分のためにお金を使ってもいいのだ」
「それはフェルも同じでしょ。まあ僕たち貧乏だからねー」
そう言ってフェルも僕も顔を歪ませる。
「それに、その醤油とかいうものを使って美味しいものをまた作ってくれるのだろう?今から楽しみだ」
「そうだよ。僕の故郷の料理を作ってあげるから楽しみにしてて」
「故郷?ケイはあの村の生まれではないのか?」
「ごめん。間違えた。じいちゃんの故郷だよ。じいちゃん遠くの東の国の生まれなんだ」
「そうか、それでゼン殿もケイもこの辺ではあまり見ない黒髪なのだな。昔、一度だけ東の国から来た剣士を見たことがある。その者もケイやゼン殿と同じ黒髪だった。当時の騎士団長と王の御前で試合をしたのだ。私は遠くからしか見られなかったが、それは見事な腕前だったな。東の国ではこんな剣士がゴロゴロいるんだなと、当時10歳の私はその剣士に憧れたものだ」
「へー。もしかしてフェルの初恋の人?」
「そ、そんなわけあるか!私の初恋は今から始まるのだ。大体、遠すぎてその剣士の顔など見えなかったのだ。顔もわからぬ男を好きになるわけなかろう!私は……その……力の強い男より、優しくて思慮深い男の方がだな……」
フェルの顔がだんだんと赤くなり、最後の方は小声でよく聞きとれなかった。
「じゃあこれからもフェルに優しくするね。嫌われたくないしさ」
「ケ、ケイはいつも優しいではないか、これ以上優しくされると、私はどうしていいかわからん。おかしくなってしまいそうだ」
「あ、あそこのお肉屋さんに寄るね。今日は奮発してオーク肉だよ」
その店でオーク肉を300グラム買う。
店を出てまたフェルと歩き出す。
「あとはお米かー、ちょっと多めに買ってもいい?明日は1日狩りが出来るから、今日よりもっと稼げると思うし」
「いいぞ。私もお米は好きだしな。しかし、あんな風にホーンラビットを狩る方法があるとはな。全くケイの発想の柔軟なところには本当にいつも驚かされてばかりだ。15歳とは思えないほどいろいろ知っているしな。たまに年上と話していると錯覚してしまうほどだ」
前世の記憶があるからね。僕には。
そんな風に楽しく会話をしながら必要なものを市場で購入した。
そのあと公衆浴場に行ったが、急いで身体を洗ってすぐに出た。とにかく早く醤油を使った料理を食べたかったのだ。
いつもフェルの髪を乾かすベンチで、ツボに入った米を棒でついて精米する。あたりは薄暗くなって来ているから、ちょっと不審者っぽい。こんなところで何をやってんだと思ったけど。この衝動は止められなかった。美味しい和食には炊き立てのご飯が必要なのだ。
買ってきたお米は全部精米してしまった。ちょっと腕が痛い。
フェルが公衆浴場から出てきた。
南門を出て、早足でいつもの場所に行く。
やっと料理が出来る。今日は生姜焼きを作るのだ。
最初に大きな鍋にお湯を沸かして、買ってきた保存用の瓶を湯煎する。調味料を小分けにしたいのだ。樽のままでは使いにくい。
湯煎している間にお米を研いで水につけておく。
料理に使う水はいつもフェルが用意してくれる。門の前には水場があって誰でも自由に使える。フェルはいつも大きめの水樽を両脇に抱えて、平気な顔して持ってくる。うちのフェルってすごい。
湯煎が終わったところで、鍋でご飯を炊きはじめた。
ご飯が炊けるまでの間に、買ってきた調味料を瓶に小分けに入れていく。これまた買ってきた折りたたみの机がここで大活躍する。唐辛子は輪切りにして、タネと一緒に小さな瓶に入れた。
お肉を薄切りにしてボウルにいれて、その上に醤油、酒、みりん、砂糖を入れる。ボウルはじいちゃんの食堂から持ってきたものだ。お酒とみりんはそれっぽいのが市場で買えた。穀物のお酒とそれと同じ穀物から作った甘いお酒だ。そんなに高くはなかった。
肉の臭みが少しでも取れたらいいなと思って少しだけタレに唐辛子を入れた。
大さじ小さじみたいなものがあるといいな。明日テントを買う時に探してみよう。
買いたいもの、必要なものは今日買ったノートに書き込んでおく。
もうひと組のノートとペンはフェルにも渡すつもりでいたけど、帰ってきてから、フェルが鞄を持っていないことに気づいた。しまった、醤油と味噌で浮かれていた。
王都に着いたら買ってあげようとずっと思ってたのに。
フェルの鞄とノートに書いておいた。
キャベツを千切りにして、もらったクズ野菜から使える部分を切り出してサラダを作る。お酢と醤油、少し砂糖を入れて混ぜ合わせ、ドレッシングを作った。少し舐めると何か足りないような気がして、オリーブオイルを入れてみた。混ぜ合わせて味を見るとよりドレッシングっぽくなって美味しかった。
ご飯が炊けたので火からおろして蒸らしておく。
ご飯が冷めないように、ここからは手早く料理する。
大きめのフライパンに満遍なく油を敷いて煙が出るまで熱する。しばらく熱したら一度火からおろして少し冷ます。
油を拭いて、また火にかける。本当は何回か繰り返した方がいいんだけど、ご飯が冷めちゃうので、今日はこれでいいことにする。
焼き入れしたフライパンを火にかけて肉を焼いていく。少し弱目の火でじっくり焼く。
肉の両面に焼き色が付いたら、残ったタレを入れ弱火にする。
味見して、少し醤油を足した。醤油の懐かしい香りが鼻から抜けていく。早く食べたい。火を止めてお肉をよくタレに絡ませた。
定食のように盛り付けたかったが、そんないいお皿は持ってない。さっき肉を漬けてた深めの大きな皿を水洗いして、お肉をまとめてその皿に盛る。
サラダも同じ大きさの深皿に盛り付けた。フェルと分け合って一緒に食べよう。手持ち鍋に水を入れお湯を沸かす。次は味噌汁だ。ああ、コンロもう1個欲しいな。
キノコを刻んで入れてネギを入れる。
お湯が沸いたところで、火を止めて味噌を溶かす。一口味見すると、懐かしい優しい味が口の中に広がった。出汁がとれてないけど仕方ない。今はこれが精一杯。
素振りをしていたフェルにもうすぐできるよと声をかけて、味噌汁を器によそう。
ご飯もお茶碗によそいたいけど、持っていないので仕方なくお皿に盛った。揃えないといけないものがまだまだいろいろあるなぁ。
食事は机を使って立ったまま食べる。
椅子も欲しいな。一番安いやつでいいから。
これもノートに書いておく。
「んーーーーーーっ!」
お肉を一口食べたフェルは顔を歪ませながら、かわいくうめき声を発した。
どうやら気に入ってくれたみたい。
「これは!こんなに、美味しい、料理は初めてだ。それから、この、この肉の後にな、その、ご飯を食べるとまた肉が食べたく、なってだな……おお!このスープも美味い。ご飯によく合うぞ!」
フェルは興奮して食べながら、息継ぎをするみたいに味の感想を伝えてくる。ゆっくり食べなさい。話は後でもできるんだから。
「ケイ。サラダも美味しいな」
大きな器を手に持ってフェルはお箸でサラダを食べた。僕はその器を受け取ってかわりばんこでサラダを食べる。
なんかいいなこういうの、大きなお皿で分け合って食べるとなんか仲良しって感じがする。
これ以来我が家では、食事の時いろんな料理を大皿に盛り付けて、みんなで分け合って食べるようになる。
食べ終わったら2人とも無言になってしまった。食器を持って水場でフェルと洗い物をする。寝床に戻る帰り道は、どちらからともなく、2人、手を繋いでゆっくり歩いた。
淹れたてのまだ熱い麦茶を2人で並んで座って飲む。少しお砂糖も入れた。
それを飲んだフェルが「最初にケイが入れてくれたお茶もたしかこんな味であったな」そう言って僕の方に頭を乗せてその身体を委ねる。
その日は少し寒かったので、毛布を2枚重ねてフェルとくっついて眠った。
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