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試行錯誤
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23 試行錯誤
あたりが少し明るくなってきたころ、目を覚ました。フェルはかすかな寝息をたてて、まだ眠っている。
寝ているフェルの姿を少し眺めた後、朝食の支度をする。
昨日精米したお米でご飯を炊く。水場は城門の近くにあった。
料理しながらフェルのサビだらけの剣を、地面に穴を掘って、水に溶かした重曹につけておいた。
途中でお湯の方がいいかもなと思って、プチファイアボールを何個も作って熱湯にしてみる。なんかその方がサビも取れる気がした。
朝食は干し肉とジャガイモのスープ。ご飯は一人一膳、余ったご飯は塩結びにする。
フェルを起こして、ふたりで朝食を食べた。
質素な朝食だったけどフェルは喜んで食べてくれた。
熱湯に漬けたのが良かったのかわからないけど、あんなにサビだらけだった剣のサビが剥がれ落ちてきていた。持ってたナイフで擦ると残りのサビも綺麗に剥がれた。
買ってきた砥石で少し時間をかけて丁寧に研げばそれなりの剣になった。もう少し上等の砥石があれば新品みたいになると思う。
サビの取れた剣をフェルが嬉しそうに素振りする。握るところの革もボロボロなので、依頼をこなした後で買いに行こう。
後片付けをして狩り場に向かう。
ホーンラビットは常設依頼なので朝ギルドに行く必要はない。
昨日隠しておいた倒木をまた使って川を渡る。
川を渡っているときに、河原で小さな砥石を見つけた。かなり上質なものだ。周りを探すと小さいけど同じ砥石が転がっている。もしかしたら少し上流に行けばもっと大きいものが転がっているのかもしれない。
今日は西側に向かって草むしりをした。
昨日よりはちょっと小慣れてきたので、とてもいいペースで作業は進む。抜いた草はマジックバッグにどんどん入れていく。
午前中の作業だけで、草むしりをした場所は野球場くらいのスペースになった。
討伐したホーンラビットは4体、全部一撃で首を狩られている。フェルすごいな。
フェルはサビが取れて生まれ変わった剣の使い心地に感動して、ホーンラビットを切るたび僕にお礼を言ってくる。
太陽が真上に来たので出来上がった野球場のすみっこでおにぎりを食べた。
「フェル。今日は切り上げてギルドに戻ろう」
そう言うとフェルは不思議そうな顔をする。
「何故だ?午後もやれば昨日よりももっとたくさん狩れると思うぞ?」
「このまま続けても昨日と成果はそんなに変わらないよ。せいぜい10匹ってところでしょ。1人当たり銀貨1枚ってところかな。それじゃあテントを買うのがいつになるかわからない。もっと効率的に狩りをしないと」
フェルが不思議そうに僕を見る。
「ケイのいう効率的というのがよくわからないが、具体的にどうするのだ?」
「まずはギルドでホーンラビットのことをちゃんと詳しく調べてみよう。たとえばホーンラビットがどんなものを普段食べているかわかれば、エサを使っておびき寄ることができるかもしれない。うまくいけば大量に狩れるはずだと思うんだよね」
フェルはイマイチ信じていなさそうだったが、とりあえず納得してくれて、今日はこれで引き上げることにする。
帰りに少し寄り道して川の上流に行ってみた。川は遠くの山の方から流れてきているようだ。川は山から続く森の奥から流れて来ている。これが多分地図にあった西の森だ。
森は少し嫌な気配がしたので入るのをやめて河原に降りた。
さっきの場所より大きな石が河原を埋め尽くしている。砥石は川の中に大きいものがたくさん転がっていたけど、危ないことはしないで取りやすいところで大きめの砥石を10個くらい探して拾った。
あとで道具屋で売ってみようと思う。
ギルドに行って素材の換金をする。全部で銀貨1枚と銅貨7枚になった。これで依頼を3回こなしたので僕たちはEランクになった。
受付に行ってこのあたりの魔物の情報が知りたいと言うと、2階に資料室があるという。案内されて資料室に行くと、司書さんだろうか、資料管理の係の人がいて、その人にこの辺りの魔物のことを知りたいと言うと、王都周辺の魔物の資料と、その生息地の地図を見せてくれた。
王都の周辺はかなり広範囲で農地になっている。北側に行けば平原が広がり、奥に森があってそこにはオークがいるらしい。
南の森にもオークはいるが、けっこう深いところまで入らなくてはいけないし、他にも強い魔物がいるようだった。Cランク推奨と書いてある。
ホーンラビットは基本的にどこでもいるようだ。森の比較的浅いところに住んでいて、その近くの平原にも多く住んでいる。
増えすぎると人里近くまで来て、畑を荒らすのだそうだ。なので害獣として定期的に駆除する必要がある。
麦の畑より野菜を育てている畑のほうが被害が多いみたい。
そういえばウサギにはニンジンをあげてたなと前世の記憶を思い出す。
ホーンラビットの肉は食べることができて、煮込み料理などに向いているとも書いてあった。
ホーンラビットを解体できたら食費がうくな。
干し肉も残り少なくなってきたし、ギルドで解体のやり方を教えてもらうことってできるのかな?
鹿や野うさぎなら適当に捌いて食べていたけど、魔物の解体はしたことはなかった。
両親が魔物に殺されたこともあり、村にいた時はじいちゃんに魔物の出るあたりに行くことを禁止されてたのだ。
他にもいろいろなことが書かれてあったのでこの機会に勉強する。何か書くものを持ってくればよかった。
フェルはギルドの訓練場に行ってる。新しい剣に少しでも慣れておきたいんだって。
2時間ほど資料室にこもって資料を読んだ。
下に降りて訓練場に向かう。
フェルを探すと、赤い髪の女性の冒険者と模擬戦をしていた。
すごいな。2人の剣が早すぎて見えない。
相手の冒険者もすごい。
フェルの動きについていけて、さらにまだまだ余裕がありそうだ。
僕ならきっと秒殺だ。
模擬戦を終えたフェルに手を振ると僕の方にやってきた。
バッグからタオルと水筒を出して渡す。
「すごいな冒険者というものは。みんな強者ばかりだ。さっきの相手は私より実際かなり強いぞ。上には上がいるものだ。私も負けないように鍛錬しなくてはな」
楽しそうに話すフェル。
ふと見るとさっきフェルの相手をしていた女性の冒険者がこっちに近づいてくる。
「あんた強いねー。私とほとんど互角だったじゃないか。おかげでいい訓練になったよ。あんたたち見ない顔だけど新人かい?私は赤い風のセシルっていうんだ」
僕とフェルは自己紹介してセシルさんと握手する。20代くらいのすらっとした色黒の女性で、Bランクだそうだ。セシル姉さんと心の中では呼ぼう。
赤い風って二つ名ですか?と僕が聞くとセシル姉さんは大笑いした。
「違う違う。私が所属してるパーティの名前だよ。二つ名なんて恥ずかしくていちいち名乗ったりしないさ。まあ私もけっこう長くやってるから一応、暴風って二つ名はあるけどね」
少し照れくさそうにセシル姉さんが言う
「あんたたちもうEランクにはなれたのかい?装備も全然揃ってないみたいだからまだ始めたばかりなんだろ?」
僕はさっきEランクになったばかりで、今はホーンラビットを狩っていることを伝えた。
「最初はみんなホーンラビットからはじめるもんさ。ほんとはゴブリンのほうが稼げるんだけど、今は南の森で大量発生しててね。新人にはちょっと危険だから立ち入りを禁止してるんだ。どうやら大規模な集落ができたようでね」
セシル姉さんは汗を拭きながらいろいろ南の森の事情を教えてくれた。
ゴブリンを狩りながら森で薬草や素材の採取をすれば新人でもけっこういい稼ぎになるらしい。キラーウルフがたまに出るから気をつけるようにと教えてくれた。
そして集団に出くわしたらすぐに木に登ってやり過ごすように言われた。
「明日あたしらパーティで調査に向かうんだ。南の森で採取もできないから今は大変だと思うけど、焦らず地道にやりなさい。危険なことはなるべく避けること。これが冒険者を長く続ける秘訣さ。それにしてもフェルだっけ、あんたの実力ならすぐにCランクになれると思うよ。剣の腕だけならBランクだ、このあたしと互角に打ち合えるんだからね」
「私などまだまだだ。セシル殿こそ素晴らしい腕前だ。こちらこそ良い鍛錬になった。稽古をつけていただき感謝する」
「あんたずいぶん堅苦しい話し方するんだね。元は騎士がなんかかい?まあ詮索はしないけど。あたしのことはセシルって呼び捨てでいい。敬語も必要ない」
「ではセシル。これからよろしく頼む。冒険者としてまだ始めたばかりなので、良かったら今度いろいろ狩りのことを教えて欲しい」
「構わないよ。なんかあったらなんでも相談しな。あたしはここに所属してるからたいてい夕方はここにいる。じゃあ、あんたたち、無理しないでこれから頑張るんだよ」
そう言ってセシル姉さんは訓練場に戻っていった。
帰りに受付で解体のやり方を教えてもらえないか聞いてみる。申請すれば無料で講習が受けられるらしい。時間は午後から夕方まで。
フェルは解体の経験があるので受けないそうだ。僕が講習を受けている間はまた訓練場に行くと言った。
道具屋に砥石を売りに行く前に、近くの市場に行ってみる。
けっこう質の良い野菜を路上で売っていた野菜売りのおじさんに、商品にならないクズ野菜をもらえないか聞いてみる。
そんなもの何に使うのかと聞かれて、ホーンラビットを退治するのに使うんだと言うとおじさんは驚いていたけど、それなら家にたくさんあるから明日持ってきてくれるという話になった。
おじさんは王都の近くで農家をやっていて、ホーンラビットの被害にはいつも困っているそうだ。
おじさんの店でキャベツとニンジンを多めに買う。「そのうち、うちの畑にホーンラビットを退治にしに来てくれ」そう言っておじさんは代金を少し値引きしてくれた。
市場を離れて、大通りにある道具屋で砥石を売ろうとしたけど買い取ってもらえなかった。
砥石の質の判断ができないから買取の値段を決められないとのことだった。
砥石を扱う大きな商会か、鍛冶屋に行けば買い取ってもらえるかもしれないと、道具屋の店主は言う。
仕方ないのであきらめて、ロープと、フェルの剣の持ち手に巻く革を買って店を出た。
屋台で何か買い食いしたかったけど今の所持金は銀貨3枚くらい。節約したいので我慢する。
そのあと公衆浴場まで歩いて、フェルと別れてお風呂に入った。
野宿をさせてしまってはいるが、フェルだって女の子だ。テントがないから体も拭けないし、せめてお風呂くらいは毎日入ろうと思っている。
脱衣所に無料の冷たい水があったのでそれを飲み、水筒だけじゃなくこっそり樽にも入れてマジックバッグにしまった。
公衆浴場を出たところにベンチがあったのでそこでフェルと待ち合わせをしていた。
ベンチに座ってフェルの髪を乾かしてあげる。フェルは僕に髪を乾かしてもらうのが好きみたいだ。僕もこの時間が気に入っている。ちょっと目のやり場には困るけど。
夕食は買ったキャベツでスープを作り、帰りがけにパン屋で買った売れ残りのパンと一緒に食べた。パンは半額だった。
質素な夕食だけど、スープはなかなか美味しくできた。野菜の質がいいからだと思う。またあのおじさんのところで野菜を買おう。
王都に来る途中で買った最後の桃で果実水を作って、フェルと一緒に飲んだ。
「苦労させてごめんね」
果実水を飲みながらそうフェルに謝った。
果実水を嬉しそうに飲みながらフェルは僕に微笑む。
「私は全く平気だ。むしろ毎日美味しい料理を作ってくれてありがたいと思っている、夕飯が待ち遠しいと思ったのは子供の頃以来だ。いつもありがとう。ケイ」
そう笑顔で言ってくれた。
それからフェルの剣を、河原で拾った砥石で時間をかけて丁寧に研いだ。
包丁の手入れは5歳の頃からやっているから刃物を研ぐのはかなり得意だ。たぶん僕には刃物磨ぎのスキルが生えてるはず。
スキルのレベルはわからないけど。
持ち手の部分に新しい革を巻いたら、剣は新品同様になった。
フェルに渡すととても喜んで受け取り、剣を光に翳して愛おしそうに見つめた。
眠くなったので毛布を被って横になる。
フェルは少し素振りをしてから寝るらしい。
毎日が試行錯誤だ。明日はうまく行くといいな。
フェルの素振りの音を聞きながらいつの間にか僕は眠ってしまった。
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読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いします。
作者の今後の励みになりますのでどうぞよろしくお願いいたします。
あたりが少し明るくなってきたころ、目を覚ました。フェルはかすかな寝息をたてて、まだ眠っている。
寝ているフェルの姿を少し眺めた後、朝食の支度をする。
昨日精米したお米でご飯を炊く。水場は城門の近くにあった。
料理しながらフェルのサビだらけの剣を、地面に穴を掘って、水に溶かした重曹につけておいた。
途中でお湯の方がいいかもなと思って、プチファイアボールを何個も作って熱湯にしてみる。なんかその方がサビも取れる気がした。
朝食は干し肉とジャガイモのスープ。ご飯は一人一膳、余ったご飯は塩結びにする。
フェルを起こして、ふたりで朝食を食べた。
質素な朝食だったけどフェルは喜んで食べてくれた。
熱湯に漬けたのが良かったのかわからないけど、あんなにサビだらけだった剣のサビが剥がれ落ちてきていた。持ってたナイフで擦ると残りのサビも綺麗に剥がれた。
買ってきた砥石で少し時間をかけて丁寧に研げばそれなりの剣になった。もう少し上等の砥石があれば新品みたいになると思う。
サビの取れた剣をフェルが嬉しそうに素振りする。握るところの革もボロボロなので、依頼をこなした後で買いに行こう。
後片付けをして狩り場に向かう。
ホーンラビットは常設依頼なので朝ギルドに行く必要はない。
昨日隠しておいた倒木をまた使って川を渡る。
川を渡っているときに、河原で小さな砥石を見つけた。かなり上質なものだ。周りを探すと小さいけど同じ砥石が転がっている。もしかしたら少し上流に行けばもっと大きいものが転がっているのかもしれない。
今日は西側に向かって草むしりをした。
昨日よりはちょっと小慣れてきたので、とてもいいペースで作業は進む。抜いた草はマジックバッグにどんどん入れていく。
午前中の作業だけで、草むしりをした場所は野球場くらいのスペースになった。
討伐したホーンラビットは4体、全部一撃で首を狩られている。フェルすごいな。
フェルはサビが取れて生まれ変わった剣の使い心地に感動して、ホーンラビットを切るたび僕にお礼を言ってくる。
太陽が真上に来たので出来上がった野球場のすみっこでおにぎりを食べた。
「フェル。今日は切り上げてギルドに戻ろう」
そう言うとフェルは不思議そうな顔をする。
「何故だ?午後もやれば昨日よりももっとたくさん狩れると思うぞ?」
「このまま続けても昨日と成果はそんなに変わらないよ。せいぜい10匹ってところでしょ。1人当たり銀貨1枚ってところかな。それじゃあテントを買うのがいつになるかわからない。もっと効率的に狩りをしないと」
フェルが不思議そうに僕を見る。
「ケイのいう効率的というのがよくわからないが、具体的にどうするのだ?」
「まずはギルドでホーンラビットのことをちゃんと詳しく調べてみよう。たとえばホーンラビットがどんなものを普段食べているかわかれば、エサを使っておびき寄ることができるかもしれない。うまくいけば大量に狩れるはずだと思うんだよね」
フェルはイマイチ信じていなさそうだったが、とりあえず納得してくれて、今日はこれで引き上げることにする。
帰りに少し寄り道して川の上流に行ってみた。川は遠くの山の方から流れてきているようだ。川は山から続く森の奥から流れて来ている。これが多分地図にあった西の森だ。
森は少し嫌な気配がしたので入るのをやめて河原に降りた。
さっきの場所より大きな石が河原を埋め尽くしている。砥石は川の中に大きいものがたくさん転がっていたけど、危ないことはしないで取りやすいところで大きめの砥石を10個くらい探して拾った。
あとで道具屋で売ってみようと思う。
ギルドに行って素材の換金をする。全部で銀貨1枚と銅貨7枚になった。これで依頼を3回こなしたので僕たちはEランクになった。
受付に行ってこのあたりの魔物の情報が知りたいと言うと、2階に資料室があるという。案内されて資料室に行くと、司書さんだろうか、資料管理の係の人がいて、その人にこの辺りの魔物のことを知りたいと言うと、王都周辺の魔物の資料と、その生息地の地図を見せてくれた。
王都の周辺はかなり広範囲で農地になっている。北側に行けば平原が広がり、奥に森があってそこにはオークがいるらしい。
南の森にもオークはいるが、けっこう深いところまで入らなくてはいけないし、他にも強い魔物がいるようだった。Cランク推奨と書いてある。
ホーンラビットは基本的にどこでもいるようだ。森の比較的浅いところに住んでいて、その近くの平原にも多く住んでいる。
増えすぎると人里近くまで来て、畑を荒らすのだそうだ。なので害獣として定期的に駆除する必要がある。
麦の畑より野菜を育てている畑のほうが被害が多いみたい。
そういえばウサギにはニンジンをあげてたなと前世の記憶を思い出す。
ホーンラビットの肉は食べることができて、煮込み料理などに向いているとも書いてあった。
ホーンラビットを解体できたら食費がうくな。
干し肉も残り少なくなってきたし、ギルドで解体のやり方を教えてもらうことってできるのかな?
鹿や野うさぎなら適当に捌いて食べていたけど、魔物の解体はしたことはなかった。
両親が魔物に殺されたこともあり、村にいた時はじいちゃんに魔物の出るあたりに行くことを禁止されてたのだ。
他にもいろいろなことが書かれてあったのでこの機会に勉強する。何か書くものを持ってくればよかった。
フェルはギルドの訓練場に行ってる。新しい剣に少しでも慣れておきたいんだって。
2時間ほど資料室にこもって資料を読んだ。
下に降りて訓練場に向かう。
フェルを探すと、赤い髪の女性の冒険者と模擬戦をしていた。
すごいな。2人の剣が早すぎて見えない。
相手の冒険者もすごい。
フェルの動きについていけて、さらにまだまだ余裕がありそうだ。
僕ならきっと秒殺だ。
模擬戦を終えたフェルに手を振ると僕の方にやってきた。
バッグからタオルと水筒を出して渡す。
「すごいな冒険者というものは。みんな強者ばかりだ。さっきの相手は私より実際かなり強いぞ。上には上がいるものだ。私も負けないように鍛錬しなくてはな」
楽しそうに話すフェル。
ふと見るとさっきフェルの相手をしていた女性の冒険者がこっちに近づいてくる。
「あんた強いねー。私とほとんど互角だったじゃないか。おかげでいい訓練になったよ。あんたたち見ない顔だけど新人かい?私は赤い風のセシルっていうんだ」
僕とフェルは自己紹介してセシルさんと握手する。20代くらいのすらっとした色黒の女性で、Bランクだそうだ。セシル姉さんと心の中では呼ぼう。
赤い風って二つ名ですか?と僕が聞くとセシル姉さんは大笑いした。
「違う違う。私が所属してるパーティの名前だよ。二つ名なんて恥ずかしくていちいち名乗ったりしないさ。まあ私もけっこう長くやってるから一応、暴風って二つ名はあるけどね」
少し照れくさそうにセシル姉さんが言う
「あんたたちもうEランクにはなれたのかい?装備も全然揃ってないみたいだからまだ始めたばかりなんだろ?」
僕はさっきEランクになったばかりで、今はホーンラビットを狩っていることを伝えた。
「最初はみんなホーンラビットからはじめるもんさ。ほんとはゴブリンのほうが稼げるんだけど、今は南の森で大量発生しててね。新人にはちょっと危険だから立ち入りを禁止してるんだ。どうやら大規模な集落ができたようでね」
セシル姉さんは汗を拭きながらいろいろ南の森の事情を教えてくれた。
ゴブリンを狩りながら森で薬草や素材の採取をすれば新人でもけっこういい稼ぎになるらしい。キラーウルフがたまに出るから気をつけるようにと教えてくれた。
そして集団に出くわしたらすぐに木に登ってやり過ごすように言われた。
「明日あたしらパーティで調査に向かうんだ。南の森で採取もできないから今は大変だと思うけど、焦らず地道にやりなさい。危険なことはなるべく避けること。これが冒険者を長く続ける秘訣さ。それにしてもフェルだっけ、あんたの実力ならすぐにCランクになれると思うよ。剣の腕だけならBランクだ、このあたしと互角に打ち合えるんだからね」
「私などまだまだだ。セシル殿こそ素晴らしい腕前だ。こちらこそ良い鍛錬になった。稽古をつけていただき感謝する」
「あんたずいぶん堅苦しい話し方するんだね。元は騎士がなんかかい?まあ詮索はしないけど。あたしのことはセシルって呼び捨てでいい。敬語も必要ない」
「ではセシル。これからよろしく頼む。冒険者としてまだ始めたばかりなので、良かったら今度いろいろ狩りのことを教えて欲しい」
「構わないよ。なんかあったらなんでも相談しな。あたしはここに所属してるからたいてい夕方はここにいる。じゃあ、あんたたち、無理しないでこれから頑張るんだよ」
そう言ってセシル姉さんは訓練場に戻っていった。
帰りに受付で解体のやり方を教えてもらえないか聞いてみる。申請すれば無料で講習が受けられるらしい。時間は午後から夕方まで。
フェルは解体の経験があるので受けないそうだ。僕が講習を受けている間はまた訓練場に行くと言った。
道具屋に砥石を売りに行く前に、近くの市場に行ってみる。
けっこう質の良い野菜を路上で売っていた野菜売りのおじさんに、商品にならないクズ野菜をもらえないか聞いてみる。
そんなもの何に使うのかと聞かれて、ホーンラビットを退治するのに使うんだと言うとおじさんは驚いていたけど、それなら家にたくさんあるから明日持ってきてくれるという話になった。
おじさんは王都の近くで農家をやっていて、ホーンラビットの被害にはいつも困っているそうだ。
おじさんの店でキャベツとニンジンを多めに買う。「そのうち、うちの畑にホーンラビットを退治にしに来てくれ」そう言っておじさんは代金を少し値引きしてくれた。
市場を離れて、大通りにある道具屋で砥石を売ろうとしたけど買い取ってもらえなかった。
砥石の質の判断ができないから買取の値段を決められないとのことだった。
砥石を扱う大きな商会か、鍛冶屋に行けば買い取ってもらえるかもしれないと、道具屋の店主は言う。
仕方ないのであきらめて、ロープと、フェルの剣の持ち手に巻く革を買って店を出た。
屋台で何か買い食いしたかったけど今の所持金は銀貨3枚くらい。節約したいので我慢する。
そのあと公衆浴場まで歩いて、フェルと別れてお風呂に入った。
野宿をさせてしまってはいるが、フェルだって女の子だ。テントがないから体も拭けないし、せめてお風呂くらいは毎日入ろうと思っている。
脱衣所に無料の冷たい水があったのでそれを飲み、水筒だけじゃなくこっそり樽にも入れてマジックバッグにしまった。
公衆浴場を出たところにベンチがあったのでそこでフェルと待ち合わせをしていた。
ベンチに座ってフェルの髪を乾かしてあげる。フェルは僕に髪を乾かしてもらうのが好きみたいだ。僕もこの時間が気に入っている。ちょっと目のやり場には困るけど。
夕食は買ったキャベツでスープを作り、帰りがけにパン屋で買った売れ残りのパンと一緒に食べた。パンは半額だった。
質素な夕食だけど、スープはなかなか美味しくできた。野菜の質がいいからだと思う。またあのおじさんのところで野菜を買おう。
王都に来る途中で買った最後の桃で果実水を作って、フェルと一緒に飲んだ。
「苦労させてごめんね」
果実水を飲みながらそうフェルに謝った。
果実水を嬉しそうに飲みながらフェルは僕に微笑む。
「私は全く平気だ。むしろ毎日美味しい料理を作ってくれてありがたいと思っている、夕飯が待ち遠しいと思ったのは子供の頃以来だ。いつもありがとう。ケイ」
そう笑顔で言ってくれた。
それからフェルの剣を、河原で拾った砥石で時間をかけて丁寧に研いだ。
包丁の手入れは5歳の頃からやっているから刃物を研ぐのはかなり得意だ。たぶん僕には刃物磨ぎのスキルが生えてるはず。
スキルのレベルはわからないけど。
持ち手の部分に新しい革を巻いたら、剣は新品同様になった。
フェルに渡すととても喜んで受け取り、剣を光に翳して愛おしそうに見つめた。
眠くなったので毛布を被って横になる。
フェルは少し素振りをしてから寝るらしい。
毎日が試行錯誤だ。明日はうまく行くといいな。
フェルの素振りの音を聞きながらいつの間にか僕は眠ってしまった。
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食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
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