元勇者ですが、魔王の孫に転生することが決まりました。

春乃スイーツ

文字の大きさ
上 下
20 / 28
閑話

■孤高は恋焦がれる(後編)■

しおりを挟む



■序章『二人の旅立ち』~『終焉の地』の間の閑話です。
今回は勇者パーティーの魔法使いガーネットが仲間になるまでのお話です。


ーーーーーーーーーー


真面目そうな生徒だなーと思いつつ後ろからこっそり内容を覗き込むと、確認できた単語は『さり気ないボディタッチ』やら『名前で呼んでみる』…。
どうやら恋愛指南書のようだ。

あまりにも真剣に読んでいて俺の気配に気づかないので、思わず吹き出してしまう。


「ぷふっ!」

「!?」

すんごい勢いで首をぐりん!とこちらに向ける。
フクロウか!と一瞬ツッコミそうになった。


「あ、ごめんごめん。黒魔法じゃなくて、すごく真剣に恋愛術について学んでるみたいだったから……」

「いえ……恥ずかしいところを見られてしまったわ」

恥ずかしそうに俯いてしまう彼女の横顔は、林檎のように赤く可愛らしい。
そりゃあ学生だから恋愛くらいするだろう。 
エリートだからと言って二十四時間魔法のことばかり考えるってこともないだろうし。
好きな男の子を振り向かせたいと頑張る女の子は素敵だ。

いいぞ、若者よ。青春を謳歌したまえ。


「君の恋、実るといいね」

「え……?」

「振り向かせたい子がいるんじゃないのかい?」

「ち、違うの……そういうのではなくて、」


首を横に振って、まじまじと俺の顔を見つめる彼女。
な、なんだ……俺が勇者だってバレた……?


「?あなた……魔力がほとんど無いわ。
この学園によく入れたわね、変なの」

「ハハハ……」

「それに、私のことも知らないみたいだし」

「?君って有名人か何かなの?」

「ガーネットって名前、聞いたことない?」


ガーネット、とはさっきすれ違った女の子達が探していた人物の名前だ。
はっ、とした顔を一瞬してしまったからか、彼女の表情が少し曇ったように見える。
何か、ワケアリか?


「私この学園で一番黒魔法使いの才能があるって言われてるの。今はこの特殊なブレスレットで魔力を封じ込めているから、転校生のあなたには普通の女の子にしか見えないでしょうけど。
そのせいで私、同級生どころか学園の生徒皆に近寄り難い存在だって思われてるみたい……」

「でも、君の友達とさっきすれ違った」

「……取り巻きのことかしら。彼女たちは友人ではないわ。
魔法研究の講義で私とグループを組んで点数を稼ぐハイエナのようなものよ」


ハァ、と吐いた深いため息は優等生にしかわからない悩みなんだろう。


「そんな君が恋愛指南書を読む理由は?」

「……恋をしてみたい」

「こい?」

「そう。学生が勉学に励むのは義務だわ。
私は当然の事をして優等生と言われてるけど、みんなは違う。
逆に他のみんなが当然のようにしてることを私はしていないの。
それが、恋愛」


まあ、漫画でもよくあるよな。
ガリ勉のキャラは決まって楽しいことには疎いものだ。
人生に必要なのはありったけの知識を頭に詰めるだけじゃない。
これからの風景を色鮮やかに見せるたくさんの経験が大事だ。
楽しいことだけじゃなく、辛いことも悲しいことも全て。
最期に良かったと思い出せることは多い方がいい。

一度死んだ身だから解る。
仕事人間に駆け抜ける走馬灯はつまらないものだ。


「ガーネット、君は綺麗だ。頭も良いようだし、振る舞いも女性らしい」

「な、何」

「今はまだその夢が花開かなくても、きっとこれから君の魅力に気付いて押し寄せる男はたくさんいるはず。
少なくとも俺は君が気に入ったし」


俺はにこりと笑いかける。
ガーネットは真っ赤な顔でぱくぱく金魚のように口を動かすも、出てくるのは空気だけで声にならない。
はは、可愛い。


「君が気を付けなければいけないのは、同級生とコミュニケーションをとることもそうだけど、人を見る目を養うことだ。
素敵な恋愛をした時に怪しい男に騙されないようにね」


…と、おじさんが出来るアドバイスはこれくらいかな?
学園一の魔法使いを仲間にしたかったけど、こんな甘酸っぱい悩みを聞いちゃあ誘えねえなあ、誘えねえよ。
学園二位くらいで手を打つとするか。

名残惜しい気もするが、彼女の横を立ち上がる。


「じゃあ」

「あ、」

「うん?」

「あなたは悪い男の人?」

「俺?……さあ、どうだろうね。
少なくとも他人に誇れるような事は何も無いかも」

「私、そんな風に男の人に褒められたの生まれて初めてだわ。
恋をするなら、あなたがいい……!」


あーらら、本当に可愛い顔しちゃって。
おじさんすぐ都合のいい方に鵜呑みにしちゃうよ?
 
せっかく上げた腰をまた下ろし、ガーネットの震える唇に噛み付いてやる。


「んッ、~~~!」


長い長いキスは、彼女の瞳を濡れさせる。
裏庭でこういうことするの、背徳感があっていいわ。
くせになりそう。

それじゃあちゃんと、返事をもらおうか。
俺のために残りの人生捧げるって。


「俺、勇者だけどそれでも一緒にいてくれる?」



「!……ええ、喜んで」


ーーーーーーーーーー

黒魔法使いのガーネット、陥落。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...