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本編
息を止めたい。
しおりを挟むあれからどれくらい眠っていたのだろう。
瞼の裏から光を感じる。
俺を呼ぶ声、女の人の声、聞こえる……。
遠い昔に聞いた……息が詰まりそうな白い部屋の中で。
「レノくん、気が付きましたか」
「女神……」
「ロロです。久しぶりですね。お元気でしたか?」
細い肩から胸に流れる美しい金髪。
にこりと微笑むその顔、忘れもしない。
この女に転生先を決められたせいで、俺は二度目の人生もこんなにめちゃくちゃにされたんだ。
俺は……。
「うぅ……っ、何を、するのです!?神に……対して、無礼ですよっ!」
「うるさい黙れ」
「カハッ」
白い首をぎゅうっと両手で締め上げる。
首筋に浮かび上がる血管は、人間と同じものにしか見えない。
神と言えど、その身体は無力な人間と何ら変わりないじゃないか。
今この場でコイツを殺したら、俺はどうなる?神か?
それとも、この何も無い真っ白な空間に一生孤独か。
ーーーどちらでもいい。
俺はもう息をすることに疲れた。
じたばた暴れる彼女を乱暴に下ろしてやる。
「それで…?今度俺はお前にどうされるんだ?」
「ゲホゲホッ!」
「ほら、咳き込んでちゃわからないぞ、っと!」
「ッ~~~!?」
肩を地面に踏みつける。
神に痛みなどあるものか、ヒトの皮を被った化け物が。
緋の瞳に浮かぶ涙は女の武器だろ?
そんなものに俺の心は何も痛まないし、何も感じない。
本当に痛かったのは、勇者を信じて共に旅をし、最後まで戦ってくれた彼女たちだ。
「……初めて会った時、言いましたが……私は『哀れな子羊を次の生命へと導く』者。
幸運にも、あなたにもう一度その機会が訪れたのです」
「ああ、それは理解してる。言い方を変えよう。
『次の生命とは何だ?』と聞いている。
以前お前に要望したのは、『のんびりとした生活』だったはずだが?
これは一体どういう事だ」
「どう、と聞かれても……」
「勇者になる未来がお前には見えていたんじゃないのか!?」
「……」
言葉は語らずも、真っ直ぐに俺を見上げる視線がその答えだろう。
しかし、不思議と彼女から後ろめたさや罪悪感を微塵も感じられないのがまた加虐心を煽る。
グッ、と踵を肩に押し込んだ。
「ふふ、神ですから、全てわかりますよ。
ですが、あなたに与えた新たな生命。どのような道を歩もうとあなたの勝手です。違いますか?」
「……全部俺のせいだって言うのかよ」
「実際にそうでしょう?」
抉るように深く、心臓に突き刺さる。
力ではこちらが有利な状況でも、ロロは俺の未熟な精神を的確に突いてくる。
あの日、俺がサーカス団に入っていなかったら。
あの時、俺が魔王を殺せるほどの力を持っていたら。
後悔ばかりが浮かんでくる。
自分の人生の選択肢や仲間の死を人のせいにして……。
今度こそ本当に生きる価値のない俺を、何故この女は見放してくれないのだ。
放心状態の俺の足を優しく払い立ち上がると、慈しむような女神スマイルを俺に寄越す。
「簡単です、ロロが女神だからですよ。
澱んだ心のレノくんには何を言っても無駄でしょうから、早速転生先に送りますね!
これ以上私の美しい身体を弄ばれても困りますし」
「……は?えっ!?」
待て、
その二文字は虚しく届かず、足元に現れたいつかの見覚えのある魔法陣が、またしても俺を宇宙へと吸い込んでいくのだった。
『あなたは転生先を知っているはずですよ』
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