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序章
レノ・ゼロムヴァースの最期
しおりを挟む玉座の間まで案内された俺たちを待っていたのは、飲みかけの紅茶入りティーカップと食べかけのマカロンを持て余したダークエルフの王だった。
明らかにお昼のおやつを邪魔した感が満載。
なんだか申し訳ないことをした気がする。
「フォンダン様、お連れしました」
「下がれ。ようこそ人間たちよ」
「……ぐッ!」
「「きゃあっ」」
これは……殺気と魔力?
脚が震えて冷や汗が全身から噴き出す。
荷物持ちのキャルラはこの異常な空気にへたりこんでしまった。
冗談じゃない。剣を交えずともわかる。
とても人間が戦って勝てる相手じゃない。
俺たちの持てる力を全部使ったとしても……塵にされるのは目に見えている。
「ワシは見ての通り、主たちに優雅なティータイムを中断されて気が立っておる。用件は手短に頼みたい。
だが、事と次第によってはその命を奪うが問題ないな?」
どうせ勝てない相手。
選択肢は何も無いし誤魔化す必要も無い。
ここで一秒でも長く生きる意味は最早何の意味もないのだ。
「魔王のお前を殺しに来た。この地のダークエルフ達が垂れ流す魔瘴によって、罪のない人間達が苦しんでいる。俺はそれを止めに来た」
「……ほう?では貴様が勇者だな」
「ああ、そうだ」
「全てワシら魔族が悪いと。そう教わってきたのだな、憐れな人の子よ。
真実を知ろうとしない怠惰で下劣な下等生物が、我を滅ぼそうなど……笑止」
「?どういう……」
「言ったであろう、手短にと。貴様と交わす言葉はもう無い。ここで醜く死んでゆけ」
「ッ!!!」
キィィンッ!!
玉座から動かない王は長い爪をこちらに向けると、真空刃のようなものを飛ばしてきた。
頬を少しかすったものの、このラグナロクでいなして躱す。一撃が重い……まともに跳ね返せねぇ!
「惑星の神々よ、踊り狂え叫び給へ。万象の理を無に帰し、新たな世界へと我らを導き給へ。深淵より来たりて今ここに我が望みを……究極魔法メテオッ!!!」
唯一この世界でガーネットしか使い手のいない、宇宙から隕石を召喚し降り注がせる究極魔法メテオ。
これは俺達も発動を実際に見るのは初めてだった。
バキバキッ!!!ガラガラッ!!!
ドォーン!!!という耳をつんざく破壊音と共に、美しかった城はみるみる姿を変えて瓦礫と化す。
無数に降り注ぐ灼熱を纏う隕石の前に、炎の中へ消えていく魔王。
その姿は見えない。
俺たちの勝利を垣間見た気がした。
「けほっ……あら、アリスの出番なかったかしら」
「油断は禁物だよ」
「皆、魔王の姿を確認するまでは一瞬も気を抜くな」
「はあい」
「!!!」
次第に薄くなる煙。
揺れる炎の中で、ニィ、と笑う魔王が俺には見えてしまった。
これが本物の怪物の王……。
「ガーネット!ヤツはまだ生きている!
もう一度メテオを撃つんだ!はや、く…?」
「ガハッ……う、」
振り返ると四人分のビリビリに破れた衣類の切れ端、流れ出す鮮血が俺の足元を汚していた。
何があった、いつの間に……全く反応出来なかった……!
「そんな、みんな……!フォンダン、貴様絶対にぶっ殺すッ!!!」
「ふん、素晴らしい殺気だ。来い、勇者。その一撃くらい受けてやろう」
「舐めるなァァァア!!!」
行くぞ、ラグナロク。
この一撃に俺の……勇者の全てを込めて終わらせてやる……!
・・・
「ハァッ、ハァ……ッ」
「我に傷を負わせた勇者よ、貴様を称えよう。かすり傷程度でも、今まで味わったことの無い感覚は我にとって実に甘美である。また来世に我と対峙しに来い」
「………ッ」
ちくしょう、ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう………!!!
やっとここまで来たっていうのに!
俺が一体何をしたって言うんだ。
ただのんびり暮らしたかっただけなんだよ。
一生羊飼いとして、毛を刈って売って……っていう悠々自適な生活を送っていくはずだったんだ。
なのに、どうして……。
俺は勇者なんかに……!
「眠れ。子羊よ、安らかに」
ーーープツッ
怪物の後ろで禍々しい雰囲気を纏った大きな繭が眩い光を発したように見えた。
必死すぎて気付かなかった……玉座の後ろにあんなに大きい繭があったんだな。
周り、見えて無さすぎてホント勇者失格だわ俺。
パーティーみんな死んでるだろうし。
俺もすぐそっちに向かうよ。
あー、それにしてもアレ今にも何か生まれそう…。
まあ、もう俺には関係ないことだけど。
「ルー……ファ、」
綺麗になったであろう君にまた会いたかった。
・・・・・・
「……レノ?」
気のせいかしら、懐かしい声に呼ばれたような気がしたのだけど。
すぐ帰ると言ってずーっと待ちぼうけだわ。
帰ってきたら絶対にタダじゃ許さないんだから!
『ぱふぇ』作るって約束したもの。
「早く帰ってきなさいよバカ……」
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