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序章
花の出迎え
しおりを挟む三日ほど歩いた俺たちは城を目前にして、唖然と立ち尽くしていた。
「なん…だ、このメルヘンチックな城はぁぁあ!?」
「まあ、素敵なお城だわ!」
「綺麗な花壇……きっと毎日しっかりとお花のお世話をしてるのでしょうね」
「ちょうちょ~」
「あっ、こらこらキャルラ!離れちゃ危ないぞ」
白が基調とされたこの建物の外見は、某テーマパークの『シンデレラ城』にとてもよく似ていた。
花壇の花もそうだが、門を入ってからここまで続く花畑は美しいもので、何度も『不浄の地』か振り返って確認した。
「行くぞ、みんな」
ギィイ。
大きく立派な扉を開き、一歩、また一歩と踏み込んで行く。
豪華絢爛なシャンデリアが俺たちを見下ろす。内装も磨かれた大理石のような床からこだわり抜かれていて、思わずため息をついてしまう。
って、いかんいかん。集中しろ俺。
あとはこの世界を脅かす魔王を見つけて殺すだけ。
見とれてる暇なんてない。
それにしてもだ。
「……なあ、レノ。この城なんかおかしくないかい?」
キャルラの後ろをついて行くアーノン師匠が、口を半開きにさせる彼女たちに代わって声を出す。
「ええ。俺も思ってました」
「何かの罠かな?」
「……」
歩みを進めるにつれてその違和感は大きく、しかし確実なものへと変化する。
何故ならダークエルフ族の母子や青年など、様々な年頃のエルフたちが城の中を普通に闊歩しているのだから。
しかも彼らは、俺たち勇者一行に何の敵意も示してこない。それが逆に不気味だった。
エントランスから上階に繋がる階段の上り口に、動かずじっとこちらを見つめるダークエルフの女性がいる。
目が合うと、メイド服に包まれた彼女が丁寧にお辞儀をした。
「ようこそいらっしゃいました、人間の方々。本日はどのようなご用件で遥々いらっしゃったのでしょう?」
「どのような、って……」
人間がこんな城まで来るのに理由は一つしかないだろ?
それとも俺は今何かを試されているのか?
射抜くような深い藍色の瞳が鋭く静かに刺さる。
正直に『お前らの魔王を殺しに来た』と、言うべきか。
……『観光していたら道に迷ってしまって』は苦しすぎるか。
うーん、何が正解なんだ……。
「マオウを倒しにきたのん!!!」
「「オイィィィィイ!!!」」
バカなの?!キャルラバカなの?!
撫でて撫でて!って顔でこっち見んな可愛いな!
なんで正直に言っちゃうんだよォ……。俺必死に考えてたじゃん今ー!
待って待って、メイドさんめっちゃこっち見てるし。
これじゃいきなりバトル不可避だから!!!
ゆっくりと腰に差した剣の柄を握りしめて構える。
みんなを守れるように、瞬きひとつするな。
「……。承知しました。
では、フォンダン様に取り次いで参りますので少々お待ちくださいませ」
「え。はい……」
浅くこちらに頭を下げると、彼女は階段を上り上階へと姿を消してしまった。
とりあえずこの場の命は繋いだが、変な汗をかいたわ。
キャルラの頭に軽くチョップを入れておく。
しばらくしてメイドさんが帰ってきた。
「お待たせ致しました。ご案内致します」
いよいよ十八年の命に幕を閉じる時が来るんだな。
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