上 下
10 / 28
序章

勇者の誕生

しおりを挟む


グランフェルナ城。

この国全土を納められている王の居城。

今日は城のバルコニーから生中継でお送りします!
……なんて呑気に構えてるような場面じゃないんだけどな。
俺はもう胃が痛くて今にもぶっ倒れそうだった。
お願い誰か胃薬持ってきて……。

じゃないと目の前にいる、めちゃくちゃ厳しい顔つきの王様の視線で殺されそう。


城の下には世界を魔族から奪い返す勇者の顔を一目拝もうと、街中…いや。
大陸を超えてやって来た商人や旅人まで、様々な人種で溢れかえっていた。

ゴーン……ゴーン……

勇者任命式が、時を告げる教会の鐘の音で始まる。


「レノ・ゼロムヴァース。
汝、我が国の剣となり盾となり、降りかかる邪悪な魔の手から全ての民を守ることを誓うか」

「はい、誓います」

「その身体に流れる血全てを、数千、数億の命のために潔く散らせる覚悟はあるか」

「私の命は全てこの国の、永劫の繁栄を約束する為に捧げましょう」

「……よろしい。
聞け、グランフェルナの民よ」

ザワついた人々の囁きは、王の一声で水を打ったように静まり返る。今か今かと待ち侘びるその視線が、俺の全身に肉片が残らないほどの穴を開けるように突き刺さる。

だがもう、後戻りはできない。

「今ここに勇者レノの誕生を宣言する。盛大に讃えよ!」

ワアアアッ!!と一斉に歓声が上がり、数え切れない拍手が沸き起こる。
国民は誰も勇者選抜のシステムを知らないのか、心から嬉しいって顔をしている。

きっとこの報せは故郷の村のルーファまで届くのだろう。俺の罪が形を変えて全世界へと伝わるのだ。
今、民に手を振って微笑む俺は上手く笑えているか?

「……」


ーーーまるで世界に俺一人が取り残された気分だ。



ーーー


かつて俺が師匠にたらふく酒を飲ませたとある酒場。

「っぷはーッ!お疲れレノ!今日は立派だったぞぉ~。さすが私の弟子だな。今日はいっぱい飲め!明日から旅立ちだからな、遠慮はするな!」

「飲みすぎないでくださいよ師匠?」

「うるしゃーい!」

「え、もう酔ったんですか!?……やれやれ」

勇者誕生の記念すべき日だからか、いつもより酒場には客が溢れ酒の追加を求める注文の声が後を絶たない。

ああ。この感じ、懐かしいな。
俺がまだ浜田 准はまだ じゅんの頃も似たようなところで働いてたっけ。
あの頃は疲れを忘れて働くことしか出来ない男だった。
傍に置きたい人もいないし、無趣味で、何の取り柄も個性もない人間だった。

こちらの世界に来たレノは、のんびり生きていく為に生まれた存在だったはず。顔だけが取り柄の俺は、故郷の可愛い幼なじみと、普通に恋愛して幸せになりたいと小さい時から思っていた。
それが今では天変地異みたいな出会いがあって、死に場所を用意された勇者になってしまったが。

「ちょっと師匠聞いてますー?俺の話ー…」

「聞いてる聞いてる。所々意味はわからんかったけど、その幼なじみのルーファちゃんが好きだったんでしょ~?」

「そうですよ~…俺もうぶっちゃけ勇者とか本当はなりたくなかったし、仲間も殺したくなかったんすよぉ……」

「レノ、キミ今日は私より酔ってるんじゃないかァ~?あんまり気に病むな、旨い酒を呑もうぜ。
勇者の晴れ舞台だから辛気臭い話はナシだ、いいね?」

「……うぃーっす」

背負った大きな宿命は、アルコールも手伝って俺の気をどんどん弱くしていく。
普段だったら絶対にこんな弱音は吐かない。

「なぁレノ。気晴らしに私のこと、抱く?」

「……は」
   
こりゃいかん。
飲み過ぎたな……師匠の言葉も幻聴が混じりだした。
まさかな、と思いつつ項垂うなだれていた頭を師匠の方に向ける。

「……マジですか」

「……」

そこには六年間一緒に過ごした師匠は居らず、俺の知らない女性、アーノンさんが頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯いていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...