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序章
勇者の誕生
しおりを挟むグランフェルナ城。
この国全土を納められている王の居城。
今日は城のバルコニーから生中継でお送りします!
……なんて呑気に構えてるような場面じゃないんだけどな。
俺はもう胃が痛くて今にもぶっ倒れそうだった。
お願い誰か胃薬持ってきて……。
じゃないと目の前にいる、めちゃくちゃ厳しい顔つきの王様の視線で殺されそう。
城の下には世界を魔族から奪い返す勇者の顔を一目拝もうと、街中…いや。
大陸を超えてやって来た商人や旅人まで、様々な人種で溢れかえっていた。
ゴーン……ゴーン……
勇者任命式が、時を告げる教会の鐘の音で始まる。
「レノ・ゼロムヴァース。
汝、我が国の剣となり盾となり、降りかかる邪悪な魔の手から全ての民を守ることを誓うか」
「はい、誓います」
「その身体に流れる血全てを、数千、数億の命のために潔く散らせる覚悟はあるか」
「私の命は全てこの国の、永劫の繁栄を約束する為に捧げましょう」
「……よろしい。
聞け、グランフェルナの民よ」
ザワついた人々の囁きは、王の一声で水を打ったように静まり返る。今か今かと待ち侘びるその視線が、俺の全身に肉片が残らないほどの穴を開けるように突き刺さる。
だがもう、後戻りはできない。
「今ここに勇者レノの誕生を宣言する。盛大に讃えよ!」
ワアアアッ!!と一斉に歓声が上がり、数え切れない拍手が沸き起こる。
国民は誰も勇者選抜のシステムを知らないのか、心から嬉しいって顔をしている。
きっとこの報せは故郷の村のルーファまで届くのだろう。俺の罪が形を変えて全世界へと伝わるのだ。
今、民に手を振って微笑む俺は上手く笑えているか?
「……」
ーーーまるで世界に俺一人が取り残された気分だ。
ーーー
かつて俺が師匠にたらふく酒を飲ませたとある酒場。
「っぷはーッ!お疲れレノ!今日は立派だったぞぉ~。さすが私の弟子だな。今日はいっぱい飲め!明日から旅立ちだからな、遠慮はするな!」
「飲みすぎないでくださいよ師匠?」
「うるしゃーい!」
「え、もう酔ったんですか!?……やれやれ」
勇者誕生の記念すべき日だからか、いつもより酒場には客が溢れ酒の追加を求める注文の声が後を絶たない。
ああ。この感じ、懐かしいな。
俺がまだ浜田 准の頃も似たようなところで働いてたっけ。
あの頃は疲れを忘れて働くことしか出来ない男だった。
傍に置きたい人もいないし、無趣味で、何の取り柄も個性もない人間だった。
こちらの世界に来たレノは、のんびり生きていく為に生まれた存在だったはず。顔だけが取り柄の俺は、故郷の可愛い幼なじみと、普通に恋愛して幸せになりたいと小さい時から思っていた。
それが今では天変地異みたいな出会いがあって、死に場所を用意された勇者になってしまったが。
「ちょっと師匠聞いてますー?俺の話ー…」
「聞いてる聞いてる。所々意味はわからんかったけど、その幼なじみのルーファちゃんが好きだったんでしょ~?」
「そうですよ~…俺もうぶっちゃけ勇者とか本当はなりたくなかったし、仲間も殺したくなかったんすよぉ……」
「レノ、キミ今日は私より酔ってるんじゃないかァ~?あんまり気に病むな、旨い酒を呑もうぜ。
勇者の晴れ舞台だから辛気臭い話はナシだ、いいね?」
「……うぃーっす」
背負った大きな宿命は、アルコールも手伝って俺の気をどんどん弱くしていく。
普段だったら絶対にこんな弱音は吐かない。
「なぁレノ。気晴らしに私のこと、抱く?」
「……は」
こりゃいかん。
飲み過ぎたな……師匠の言葉も幻聴が混じりだした。
まさかな、と思いつつ項垂れていた頭を師匠の方に向ける。
「……マジですか」
「……」
そこには六年間一緒に過ごした師匠は居らず、俺の知らない女性、アーノンさんが頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯いていた。
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