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序章
勿忘草
しおりを挟む帰り道。
揺れる荷台の中、パシッ!乾いた音が夜の闇に溶けた。
叩かれた頬は熱を帯び、未だ俺の脳はこの状況に追いついていなかった。
ルーファは涙をいっぱい溜めて、こちらをキッと睨んでこう言った。
「嘘つき……今度一緒に『ぱふぇ』作るって約束したじゃない!
どうして急にいなくなっちゃうのよバカレノ!」
「ごめん、ルーファ……。パフェは俺が村に帰ったら一緒に作ろう、な?」
「いつ帰ってくるかもわからないくせに!」
「本当にごめん。でも、必ず帰る。それまで待ってて欲しい」
まるで痴話喧嘩だ。
毛布にくるまって顔を膝に埋める姿はとてもか弱い。
出来ることならこのままこの子と一緒に村で成長していきたかった。
だけど、死ぬ前の俺が出来なかったことを、今の父さん母さんには返したい。
金銭面で両親に楽をさせてあげたい、と願わない子供はいないだろう。
それに、俺も老後はのんびり余生を過ごしたいしな。
こっちが本音に近いかもだけど……。
ルーファは察しのいい女の子だから、それ以上はもう何も言ってこなかった。
行きとは違ってシンとした空気の帰り道は、自分が原因とはいえ少し息苦しかった。
村に帰り、両親に事の説明をすると父さんはただ一言、「応援するぞ」と。
心配性の母さんは「アンタ一人で大丈夫なの!?ご飯は毎日しっかり食べるんだよ!」とかなんとか色々言われたけど、最終的には渋々サーカス団に加入することを認めてくれた。
アーノンさんには『一度サーカス団に入ると、次はいつ親しい人と会えるかわならないから悔いのないようにちゃんとお別れしてくること』と念押しされた。
俺が村を発つのは二日後。
随分と急だが、五日後には町からサーカス団も移動するらしいので仕方の無いことだった。
それまでにはなんとかしてルーファと仲直りしないと。
俺は変わらずあと二回、あの子に『可愛い』と言い続けよう。
・・・
そして迎えた出発の日。
昨日は声を掛けてもガン無視された。
彼女はまだ子供だ、おっさんの俺はめげない!
木陰で難しそうな顔をして本を読んでいる彼女を見かけて、俺は自分の部屋から急いでアレ(残念ながらパフェではない)を持ってきて彼女の元に走った。
「……」
「俺今日ここを発つよ。もちろんまた帰ってくるけど、最後に見る顔がそんな不細工な顔じゃあな~……」
「っ!いつも可愛いって言ってたじゃない!」
「あ、やっとこっち向いた」
「!」
「ルーファは、そうやって前を向いてた方がいいよ」
ぼそりと、誰のせいよ、と聞こえた気がして思わず苦笑いしてしまった。確かに悪いのは俺だもんな。
座ってる彼女の目線までしゃがんで、俺は彼女の耳元に花を一輪掛けてやる。
昨日無視された後、一人で花畑を探し回って、摘んだ淡い青色の花。
ルーファの瞳と同じ色。
「これ、って……」
「勿忘草」
「レノ、あなたってキザね」
「だろ?」
ついに彼女からこぼれた笑みは、俺が今まで見た表情の中で一番美しかった。
「ルーファは……やっぱり可愛いな!」
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