貴方の犬にしてください

えびまる

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クリスマスデート

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 そしてクリスマス当日。

 クリスマスにデートをしよう!という話だったが、ここサザンドラ帝国にはまだクリスマスという文化は定着していないし、リシュアンもレヴィもクリスマスを体験した事がなかったため、二人きりで外食をしただけのような気がする。

 侯爵は『いつもよりムードのある店で』と言っていたが、リシュアンが外食する際はいつもどうしても個室になるのでそれもいつもとあまり変わらなかった。
 リシュアンは頭の片隅でこれでいいのだろうか、と疑問に思いつつレヴィが楽しそうにしていればそれで良かった。

「はぁ……あのフィレ肉めっちゃ美味しかった」
「うん、赤ワインのソースも良かったね」
「ねっ!ケーキも美味しかったですね~、幸せ!」
「レヴィが喜んでくれて良かったよ」

 そんな話をしながら、今日は馬車ではなく二人で手を繋ぎながら徒歩で城まで帰ることにした。
 街から城までは街灯があり道も明るいが、今日は寒さが厳しく歩いてる人はまばらだった。

「またクリスマスデートしましょうね」
「うん、また来年だね」
「あ、そうだ。いっその事ノルランドでクリスマスデートしましょう!視察がてら!サザンドラにクリスマス持って帰ってきて、定着したらみーんながこんなに幸せな気持ちになれます!きっと!」
「ふふふ、そうだね」
「商人も喜ぶだろうし、恋人がいなくても家族や友人と楽しく過ごせたらきっと寒くても楽しいです」
「うん……いい子だね、レヴィは」
「へへ、サンタのおじいちゃん来ますかね?」
「どうかな」
「えぇ~」
「侵入者を許したら訓練し直しだもんね?」

 そう言ってリシュアンは繋いでいた手を少し強く引き、レヴィの唇を奪った。ちゅっとリップ音を立てて離れた唇をペロリと舐める。

「ん、甘い。クリーム付いてたんじゃない?それとも元々甘いのかな?」
「り、リシュアン様ってば……」

 レヴィはリシュアンの台詞の甘さに顔が真っ赤に染まるのを感じていた。
 空いている方の手で唇に触れ、先程の感触を思い出す。

「……リシュアンさまぁ」
「もう、情けない声出さないの。帰ってからね」

 そうリシュアンに言われたレヴィは繋いだ手にきゅっと力を込め、帰り道を急かすように歩き出した。


 ――――

「んむ、んんっ……、りしゅあ、さま、ふ、ん……」

 いつものリシュアンの部屋に入るなり、レヴィはリシュアンに襲いかかるようにキスをしてリシュアンの服を脱がしていく。

「んっ、は、レヴィ、どうしたの?そんなに焦らなくても大丈夫だよ、んっ……」

 どこか焦っている様に必死にキスをしてくるレヴィの肩を優しく掴み、落ち着かせる様に頬を撫でる。
 するとレヴィは蕩けた顔でリシュアンに擦り寄り、首筋にキスをしながら口を開いた。
 
「はぁっ、おれ、うれしくて、リシュアン様、恋人同士の日なのに俺とデートしてくれたから、俺は犬なのに、今日はリシュアン様の恋人になれたみたいだったから、それで……」

 そんなレヴィの顔を両手で包み込み再び顔を上げさせたリシュアンは蕩けるような笑顔でレヴィを見詰めた。

「レヴィは……俺に恋人が出来てもいいんだ?」
「……ぇ」
「恋人が出来たら、当然デートはその恋人とすることになるし……いつか結婚だってするかもしれないけど」
「……っ」
「それでもいいんだ?」

 レヴィは先程までの高揚感が一気に足元から崩れていったような気分になっていた。
 リシュアンに優しく顔を固定されて俯くことも出来ない。リシュアンの暗く輝く赤い瞳に目を見開いた自分の顔が映っている。
 はっ、はっ、と興奮は覚めてしまったのに呼吸が浅く荒くなる。
 それなのにリシュアンは美しく微笑んでいるのだ。
 聞かれたことに答えなくては。
 はやく、はやく。

「……だ、だっておれは、犬だからっ」
「……うん、そうだね俺のかわいい犬だね」
「だから、いつかリシュアン様に恋人ができて、結婚して、子どもができて……っ」

 リシュアンに恋人が出来たり、結婚する事はとてもめでたい事のはずだ。お世継ぎだっていつか産まれて、立派な皇帝になっていく。
 とてもめでたくて素晴らしいことだというのにこの気持ちはなんだ。
 リシュアンの犬になる前にも考えていたはずなのに、犬になれて幸せすぎて考える事から逃げていたのだ。

 目の前のリシュアンの瞳がゆらゆらとボヤけていく。
 悲しいことは無いはずなのに涙が止まらない。

「……レヴィ?」
「ごめ、っごめんなさい……」
「何がごめんなさい?」
「りしゅあんさまに、恋人ができるのっ、やです、結婚も、りしゅあんさまの、およめさんも、っ、こどももだいきらいっ、りしゅあんさまっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」
「レヴィ……」
「やだぁっ、りしゅあんさまはっ、俺のご主人様なのにっ、他の人のこといい子って、可愛いって言っちゃやです、っく、りしゅあんさまに幸せになって欲しいのに、やだって言うのごめんなさい、ぅう~」

 レヴィは話している内にどんどん悲しくなって、子どもの様に声を上げて泣き出してしまった。
 リシュアンに幸せになって欲しい、だがリシュアンが自分以外を見るのがたまらなく嫌だ。
 その二つの気持ちに挟まれて身動きが取れない。

「おれのこと、じゃまになったらっ!ころしてください~、絶対いじわるしちゃうからぁ!うわああぁ」
「もー、ほんっっとかわいいんだから、わかったからレヴィ、泣き止んで?ほら深呼吸だよ」
「っ、ぐすっ、りしゅあんさまに、ころしてほしいっ……」
「殺さないよ……」
「でもぉ……!」
「全部レヴィがなればいいんじゃない?」
「え?」
「恋人にも結婚相手にも、子どものお母さんにも」
「ふぇ?」
「全部レヴィがそうなればレヴィは殺して欲しいとは思わないだろうし、俺は可愛い犬を恋人にも伴侶にも出来て万事解決。でしょう?」

 ボロボロと涙が止まらないまま、ぽかんと口を開けてリシュアンを見詰める。

「俺いつも言ってる筈だけどなぁ、愛してるよって。伝わってない?」
「……は、え……え?」
「そうか、俺の力不足だったんだね。レヴィは俺からの愛を信じられてないんだもんね」
「い、いや、そんな……え?」
「じゃあもっと分かってもらうしかないなぁ。俺は犬も恋人も伴侶も最初から全部レヴィにするって決めてるって」

 にやりと笑ったリシュアンの顔が、いつか見たオークキングを屠っている時の顔と重なった。
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