貴方の犬にしてください

えびまる

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皇子様の犬について

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 その日はレヴィが護衛騎士を休む日だった。
 雇い入れた当初は休みの日もずっと隣にいたのだが、それってどうなのだろう。と思ったリシュアンは定期的に、そして離れようとしないレヴィに強制的に休み(というかリシュアンから離れる時間)を取らせている。
 予定を聞いてみると、「うーん、午前中は騎士団の訓練に参加して、昼から市場にでも行ってきます!早めに帰ります……あ、久しぶりに部屋……じゃなくて物置?の片付けでもしましょうかね?」と何度も首を傾げながら告げてきた。
 レヴィはリシュアンの部屋で寝泊まりしているので、城の中にあるレヴィの部屋はレヴィの私物が置いてあるだけの物置でしかなかった。

「ふぅん。俺もレヴィと市場行きたいなぁ」
「えー!!俺もリシュアン様と市場行きたいです!!」

 さっきまで首を傾げまくってたのに、今は耳をピーンと立ててしっぽをブンブン振り回す幻覚が見えた様な気がした。目もキラキラと輝いている。

「ま、現実的じゃないけどね」

 そうリシュアンがいうと、幻覚の耳としっぽはしゅーんと垂れ下がる。

「ちぇ……そうですよね……あー、やっぱりお休み無しとかダメですか?リシュアン様と一緒にいたいです、別に警護しなくてもそばに居ちゃダメですか?」

 次はくぅーんくぅーんと子犬の様な鳴き声の幻聴も聴こえた気がした。じっとレヴィを見るとうるうると目をうるませ始める。完全におねだりする時の表情だ。

「ダメだよそれは。365日俺に張り付いててどうするの」
「どうもこうも俺が嬉しいだけです!うぅ……犬がご主人様といちゃいけない休暇だなんて……」
「今度俺もゆっくり出来る時間作るからさ、ほら、もうそろそろ時間でしょ?いっておいで、怪我に気をつけてね」
「うぅ……はぁい……」

 レヴィは肩をこれでもかと落としながら部屋を出ていった。ちなみにこういうやり取りはレヴィの休暇の度に行われている。
 そして、リシュアンにはレヴィの他に護衛などいない。影はずっと張り付いているが、リシュアンは強い。護衛騎士をというのは、リシュアンがレヴィを傍においておきたいが為の名目に過ぎない。
 なのでリシュアンとしても365日レヴィに張り付かれていてもなんら問題はないし、一緒にいたいのだが一応、念の為、なんとなーく休みを与えている。
 皇子の護衛はブラックなんて言われてしまうのも避けておきたいし。

 ――

「はぁ……」

 執務室で粗方の机仕事を終えたリシュアンは、ふと窓の外を見る。空はオレンジ色と紺色のグラデーションを作り出していた。
 夕方早めに帰ってくると言っていたが、レヴィはまだこの部屋に顔を出していない。
 ならばリシュアンの部屋だろうか、と思い部屋に帰るもレヴィはいなかった。

 (そういえば、私室の掃除するって言ってたな……)

 そう思い出したリシュアンは、レヴィの私室へと足を進めた。

「レヴィ?」

 コンコンと何度かノックはしたものの、返事が帰ってこない。もしかしたらまだ帰っていないのかもしれないと思いつつ、一応ドアノブに手をかけてみるとガチャリとドアが開いた。

「……レヴィ?」

 再度呼びかけてみるも返事は無い。
 いくら何でも勝手に部屋に入るのは……と葛藤しつつ、少しの好奇心がリシュアンの足を部屋の中へと進ませる。

 パッと見た限りでは、カーテンは締め切られていて、一度も使われてないベッドには、服が畳んで積まれていた。
 レヴィはリシュアンの部屋では、リシュアンの本を読んでいたり二人で酒を飲んだり、色んな意味で寝ていたりするので、レヴィが綺麗好きなのか部屋が汚いタイプなのかわからなかった。
 ざっと見る限りでは、綺麗にしていると思う。
 物置だけど。
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