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皇子様の犬について
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しおりを挟む「あー、可愛い、俺の犬はほんっっと可愛いね、よしよしいい子いい子。あー可愛い。癒される」
サザンドラ帝国第一皇子、リシュアン・エイヴァリーは堅苦しい会議を終え、一目散に自らの執務室に戻ると、今日もまた可愛い飼い犬を抱きしめ撫でくりまわしていた。
「うぅ……リ、リシュアン様も会議頑張りましたね!あそこの川、次に大雨が来たら氾濫しそうだったので予算が通って安心しました」
「ふふっ、ありがとうレヴィ」
何故犬が人語を話すのか……。そう、リシュアンの犬は犬だとは呼ばれているが、立派な青年だった。名はレヴィ・ダルトン。一応リシュアンの護衛騎士で、以前は騎士団に所属していた。犬呼ばわりは双方同意の上である。
リシュアンは満足するまでレヴィを撫で回し、顔面にちゅっちゅとキスの雨を降らしまくったあと、羞恥心でむにょむにょしているレヴィの唇を奪った。
「んっ、ふぅっ、り、しゅあさまっ……!」
「んー?っ、はあっ、どうしたの」
「……っ、し、して欲しくなっちゃうから、だめです……」
「……はぁ、レヴィ……かわいい……」
レヴィは、自他ともに認める程リシュアンにめろめろで、すぐにへにゃへにゃになってしまうので、こうして意見を言ってきた時はリシュアンはなるべく聞き入れるようにしていた。
何にもない日は、朝だろうが昼だろうがレヴィはすんなり受け入れて二人でイチャイチャしている事もあるのだ。
ダメだと言う時は本当にダメなんだろう。
しかし、余りにもへにゃへにゃしているので、心配になりこっそり騎士団の訓練を見に行ったこともあるが、すぐに見つかって駆け寄ってきたので無意味だった。
なのでリシュアンはレヴィがシャキッとしている所を見たことがない。
そもそもの始まりはレヴィが「犬にしてください」と言ってきた事だったが、曲がりなりにも皇子のリシュアンがそれをすんなり受け入れたのは、レヴィには話していないが、リシュアンがレヴィを知っていたからに他ならない。
そうでなければ、初対面で犬にして欲しいという男など怪しすぎるし、怖い。
――――
今から約一年前。
リシュアン専属の影により『やたらリシュアンの事を探っている男がいる』との話が回ってきた。
とりあえず泳がせて、探らせると、その探っている人物は騎士団に所属しており、ここ最近頭角を現し始めたと噂になっていた人物だった。
「レヴィ・ダルトンねぇ……私の事を狙う動悸が全く分からないな。もう少し探ってみてくれ」
「はっ」
そんなやり取りからしばらくして判明したのは、『レヴィはとんでもないリシュアンファン』だということだった。
「……つまり私のファンで私の事が知りたくて色んな人に話を聞いていた……ということ?」
「は、今や騎士団内、城下町ではレヴィ・ダルトンは第一皇子殿下の大ファンとして有名のようです」
「…………そう。まあ害がなくてよかった。ありがとう、下がっていい」
「はっ」
影の手前、表情に出さない様に気をつけていたがリシュアンは内心動揺していた。
本人の耳に入るぐらい熱心なファンってなに?と。
それからというもの、騎士団の視察や魔獣討伐後の凱旋の度にレヴィを認識するようになった。
なるほど影の言う通り、周りの人々に冷やかされつつリシュアンの姿が良く見える場所を譲ってもらったりしている。
凱旋の際には隣にいた小さな男の子を抱き上げて一緒に『おかえりなさーい!』と叫びながら手を振っていた。
バチッと目が合った様な気がしたので、微笑んで手を振ってみたら顔を真っ赤にして男の子と喜んでいた。
いつしかリシュアンもレヴィを目で追うようになっていた。純粋に好意を寄せられるのは嬉しかったし、国のため、民のため日々勤しんでいるリシュアンにとって、レヴィが見せてくれる笑顔は民の反応が返ってきているように思えて、更に精進せねば、という気持ちにさせてくれた。
そこから紆余曲折を経て、リシュアンを全身全霊で愛してくれるレヴィは、リシュアンにとってもかけがえのないものとなった。
犬だとは言いつつ、することもめちゃくちゃしているし、リシュアンだってレヴィの事を愛している。
その辺の話はした事がないが、レヴィにも伝わっているとは思うし、皇帝陛下の父を始め家族にだって紹介している。
母も妹もレヴィを可愛がってくれているし、弟達は……まあ、よくわからないが概ね認めてくれている。
リシュアンはレヴィが来てからというもの、人生が楽しくて仕方がなかった。
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