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貴方の犬にしてください
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しおりを挟む夕食を終え、「もう今日は休むから下がっていい」とレヴィ以外を下がらせたリシュアンは、(こっそり紛れて自分の部屋に戻ろうとしたレヴィを捕まえて)ニッコリと笑って、
「レヴィ、寝る前にお風呂にしようね」
と仰った。
始めて抵抗らしい抵抗を見せて脱衣所の扉の前から座り込んで動こうとしないレヴィは、また顔を真っ赤にして泣きそうになっていた。
「ひひひひひ!一人で!一人で入れます!」
「ダメだよ、何度言わせるの?犬のお世話は飼い主の仕事だよ?」
「ででで!でも!」
「レヴィ?」
「~!!……ううう、でもっ」
「なんで嫌なの?」
リシュアンの望みは全て叶えたい、それなのに出来ない、恥ずかしくて理由も言えなくて、レヴィは「ぅ~っ」と本当に子犬になったように小さく唸る事しか出来なくなっていた。
「……はぁ」
しばらく困ったようにレヴィを見つめていたリシュアンの口からでた溜め息に、レヴィの体は大きく跳ねる。
「ごめ、ごめんなさい、ごめんなさい、う、うぅっ、はいります、はいるからっ、すて、すてないでっ、すてないでくださいっ、ごめんなさい、りしゅあんさま、ごめんなさいっ」
体をギュッと縮めて、胸元を握りこんで、また涙がボロボロとこぼれ落ちた。
そんなレヴィを見て、リシュアンは苦く微笑むと、レヴィの前にしゃがみこんで目線を合わせる。
そっと手を胸元から外してやり、怯えさせないように、その手を優しく包み込んだ。
「こちらこそ、ごめんねレヴィ。そんなに嫌だなんて気付けなかった」
「ちがっ、ちがうんですっ」
「ちゃんと、レヴィは人間だって分かってるんだけどね、甘えすぎちゃったね」
レヴィがふるふると横に首をふると、もう一度リシュアンは苦く笑った。
「これからの事もあるし、ちゃんと話そうか。言い訳がましいけど、聞いてくれる?」
そう言ってレヴィが頷くのを見て、手を繋ぎ脱衣所からでたレヴィとリシュアンは、ソファに横並びで座った。
目の前のテーブルにはリシュアン自らが淹れたハーブティーが湯気を立てていた。
「俺は産まれた時から皇子でしょう?しかも第一。だからずっと国のため、民のために生きてきた、し、これからもそうやって生きていく。死ぬまでね。それが悲しいとか辛いとかそんなんじゃなくてね?そういうものなんだなって思ってて。幸い環境や周りの人々にも恵まれてるし、家族の仲も良好。でもだからこそ、近付いてくる人は第一皇子の俺しか見てないんだろうな、とか我ながら子供じみた事を思ってしまっていてね」
自分の事を話しているはずなのに、どこか他人の話をしているようなリシュアンに、レヴィは黙って話を聞いていた。
「だから、レヴィに『俺が皇子辞めたらどうする?』って聞いた時の返事がすごく嬉しかった。なんの躊躇いもなく『一生懸命働きます!』とか言って、あぁ、この子はどこまでも着いてきてくれるつもりなんだなって、リシュアン・エイヴァリー第一皇子だけじゃなくて、ただのリシュアンになってもこの子には関係ないんだなって」
その言葉を聞いて強く頷くレヴィを見たリシュアンは本当に嬉しそうに笑って、でもその後すぐに顔を曇らせた。
「だから、調子に乗ってしまったんだ。本当にごめんね。……捨てないでって言ってたから辞めないでいてくれるとは思うんだけど、もし嫌なら首輪も外すし、普通の護衛としてこれからもお願いしたい、部屋も自分の部屋に戻ってもいいよ」
「……その返事する前に、次は俺の話聞いてくれますか?」
「いいよ、この際だしなんでも言って?」
レヴィは、大きく深呼吸をすると、目にグッと力を入れた。
どうしてかリシュアンの前では、涙腺が言う事を聞かないからだ。泣いてしまわないように、慎重に言葉を選んだ。
「昨日も言った通り、俺は二年前オークキングを倒したリシュアン様を見てから、ずっとずっとリシュアン様のことだけ考えて生きています。最初は純粋に強さに憧れて、少しでもリシュアン様みたいになりたいって思って、訓練も、魔法も、とにかくがむしゃらにこなしました。リシュアン様と仕事したことある上司や先輩や同僚にリシュアン様がどんなだったか教えてもらったり、あんまお酒飲めないのに酒場に行って噂話も聞いたり。……みんな、みんなリシュアン様のこと褒めるんです、悪く言う人なんて一人もいなくて。強いだけじゃなくて、人格も素晴らしいなんてすごいって思って、さらに尊敬しました」
レヴィの話を聞いているリシュアンは、少し恥ずかしそうに苦笑いしていた。
「リシュアン様のこと、どんどん好きになって、もう止まらなくて。凱旋の時とか、少しでも近くでみれるように頑張ったりしました最前列でリュシアン様におかえりって言いたくて。そんなことばっかりしてたら、俺がリシュアン様のこと大好きなのが騎士団で有名になっちゃって……。団長が護衛騎士募集してる話持ってきてくれて、もしダメでも直接話出来たことを一生の思い出にしようって思って……たんですけど……直接リシュアン様あんな間近で見てしまって頭が真っ白になりました。んで願望が口から出ちゃって……」
「ふふっ、そうだったんだね」
「はい、でもリシュアン様は気持ち悪がらないで俺の事拾ってくれました」
「気持ち悪くないよ、嬉しかった」
「俺、本当にリシュアン様が大好きなんです。直接お話させて頂くのは今日で二日目とかなのに、毎秒毎秒好きになっていって、どうしようって……でもなんて言うか、好きとか愛してるとかじゃ足りなくて……」
「それで犬になりたいだなんて言ったの?」
「はい、俺は何も持ってないから、俺を丸ごと差し出すしかないのかなって思って。別に犬じゃなくても、手足でも盾でも剣でも。もう二年前から俺は、全部リシュアン様のものなんです。リシュアン様に迷惑じゃなければですけど。でもやっぱり俺は浅ましくも願ってしまいました」
レヴィは、リシュアンがどういう顔をしているのか確認するのがとても怖かった。
リシュアンにとったら二日前に初めて出会った奴にこんな重たい感情をぶつけられたら気持ち悪いんじゃないかと思ったからだ。
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