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貴方の犬にしてください
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しおりを挟むリシュアンの部屋に戻ると、レヴィが大切に持っていた紙袋を奪われた。
いそいそとテーブルの上に紙袋を置き、楽しそうに包装を解いていくリシュアンに、レヴィはドアの前から動けなくなる。
コンコン、とノックの音がし、執事の声がすると、リシュアンは入室の許可を出し、何着かのスーツが部屋に運び込まれてきた。そのスーツの高級感に目を見開いて固まっていたレヴィは、執事やメイド達の動きを見て、邪魔にならないように無意識にドアの前から少し移動してからも固まっていた。
ササッと運び込まれて、ササッと執事とメイド達が退室していく。
「レヴィ?」
リシュアンの呼び掛けにハッと硬直を解いたレヴィは、今日見てきた犬達のようにリシュアンのもとに駆け寄る。
それを見たリシュアンは、手に赤い首輪をもつと、
「おすわり」
と言った。
頭で考えるよりも先に、体が動き、レヴィはリシュアンの前で跪いた。
「いい子だね、レヴィ。じゃあこれ付けて飼い主の魔力の登録、しようね」
リシュアンの首輪を持った綺麗な手が、レヴィの首に周りカチャカチャと音を立てた。
その音だけで、また背筋がゾクゾクして、息が上がってしまう。
リシュアンの美しい顔が思ったよりも近付いてきて、思わずギュッと目を閉じた。
「殿下ぁ……」
「じっと出来て偉いね、レヴィ。さ、魔力を流すよ。魔力を流したら、俺以外これは外せないけどいいね?」
「はいっ、貴方の犬にしてくださいっ……」
「うん、いくよ」
レヴィが首を縦にふると、瞼の裏がパァっと明るくなって、魔力が首輪に流されているのを感じた。
――これで、本当に殿下の犬になれた。
そう感じたレヴィは、ただそれだけで馬鹿みたいに泣いてしまった。
脳みそが多幸感で溶けて、もう何も考えられなかった。犬になれた、これで俺は殿下の物になれた。それだけが頭を支配していて、首輪を付けられただけなのに、喘ぎ声のような吐息が止まらない。
喘ぎながらレヴィの体はビクビクと小さく震えていた。
リシュアンは、それを一部始終見ていた。
成人も済ませた男が、リシュアンに首輪を付けられ、リシュアンの魔力を登録され、リシュアンの所有物になるのを。そしてそれを、心の底から喜んでいるのを。
目を閉じたままボロボロと涙を流し、小さく喘ぎながら、とろとろに溶けた恍惚とした表情で、震えている。
こんな傍から見れば変態的な行為で、この男はこんなにも喜んでいる。
普段から敬われる立場にあるリシュアンは、どこか冷めた目で世間を見ていた。
敬われるのは、産まれ持った地位があるからだろうと。それにあやかろうと擦り寄ってくるもの、媚びを売ってくるもの、貴族、派閥。
そのどれも好きでも嫌いでもなかった。
そういうものだと思っている。
もちろん、その立場に甘えず努力もしてきたつもりでいるし、国のため、民のために危険な任務にも自ら進んでついた。
それが産まれ持った義務だから。
だがしかし、この男はどうだ。
何がきっかけなのかはよく分からないが、ひたすらにリシュアン自身を真っ直ぐと見つめている。
犬にしてください、と言われ、どこまでしたら怒り出すかという好奇心を満たすために本気で犬扱いしてみた。
それなのに、怒るどころか首輪を付けられ涙を流しながら喜んでいる。
――あぁ、これは俺のものだ。俺の、俺だけの。
普通なら引いてしまうかもしれない程に自分に傾倒する男を見て、浮かんできたのは喜びだった。
愛情、支配欲、所有欲、征服欲……酷くしたい、でも優しく甘やかしたい、誰にも見せたくない、誰かに自慢して歩きたい。
そういうものが体の中から湧き上がるのを感じる。
そして、その感情はすべてただ一人、目の前で涙する自分のものに注がれるのだ。
「……あぁ、よく似合ってるよレヴィ。かわいい、かわいいね」
そううっとりと囁いて、リシュアンはレヴィを優しく抱きしめた。
「あっ、ぁ……殿下っ」
「なあに?」
「ひっ、ぁ、嬉し、嬉しいです……ありがとうございますっ」
「あぁ……お前はほんとうに可愛いね。もうこれで一生俺の犬だよ」
「いっしょう……?」
「そうだよ、一生、死ぬまで、ずーっと。それが飼い主の責任だからね。途中で捨てたりなんか出来ないよ?」
ぱちぱちと瞬きをする、蕩けたアメジストの瞳を覗き込み、一語一句、脳みそに刻み込むようにリシュアンは囁いた。
「あぁっ、うれしい……おれ、死ぬまで、でんかの……」
「そうだよ、レヴィ。お前は死ぬまでずーっと俺の犬だよ」
その言葉にレヴィは何度も何度も頷いた。
「でも、呼び方が気に食わない。殿下なんて妹もいれたら、あと三人もいるじゃないか」
「えっ……」
「リシュアンだよ、レヴィ。ほら、呼んでみて」
「ぁ……、っ、り、リシュアン様……」
「あぁ、もうほんとお前はかわいいね……!いい子いい子、レヴィ、いい子だね……!」
「リシュアン様、りしゅあんさま、すきです、だいすき、おれのごしゅじんさま、りしゅあんさま」
「そうだよ、レヴィ。俺のかわいい犬。お前は俺の物だよ」
再びギューっと抱きしめられたレヴィは、リシュアンの首筋に甘えるように頭を擦り付けた。
リシュアンに抱きしめられていると、嬉しくてドキドキして、そしてとても安心出来た。
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