貴方の犬にしてください

えびまる

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貴方の犬にしてください

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 あんなに目の前でボロボロ泣くという失態を犯したにも拘らず無事、護衛騎士に選ばれたレヴィは翌日朝から再び王城に呼ばれリシュアン直々に説明を受けていた。

「じゃあ明後日から城に住んでもらうからね」
「は、はい」
「もう騎士団長に話はしたから、寮の荷物全部こっちに持ってきておいてね、部屋は後で案内するとして……あー、でもあれだなレヴィは俺の犬になるんだから俺の部屋に住むよね?」
「……え?!」
「え?外飼がいい?」
「え?……え?」
「なあに?犬になりたいって嘘だったの?」
「い、いえ!なっ、なりたい……で、す」
「そ?よかった。じゃあ俺の部屋で生活すればいいし、部屋は物置みたいな感じで使ってね」
「で、ですが殿下と同じ部屋で寝泊まりなど……!」
「どちみち護衛なんだから、ずっと一緒にいる方が効率いいじゃん。別に休みの日は何もしなくても、傍にいるだけでいいしさ」
「わ、わかりました……」

 リシュアンの顔は笑っているはずなのに、見えない圧に押され了承してしまったレヴィの頭の中は、どうしようという言葉で埋め尽くされた。
 こんな劣情を抱いている浅ましい気持ちを悟られないようにしないといけないのに、二十四時間一緒にいて果たして隠し通せるのか。
 うっかり口を滑らせたばかりにとんでもない事になってしまった。

 それにしても、リシュアンが一体どういうつもりなのかわからない。本気で犬にしてくれるつもりなのか、冗談のつもりなのか……。
 しかも、リシュアンの一人称が『私』から『俺』に変わっている……!
 レヴィの心は焦ったり、ときめいたりで忙しい。

「あ、俺生き物飼ったことないんだよね……後で愛犬家で有名な侯爵のとこに教えて貰いにいこうか」
「はっ、はい……」
「それと首輪も買わなきゃね、何色がいいかな」

 真顔で繰り出される犬扱いに、感情の置き場所が見つからなかった。

 驚く事に、リシュアンは昼食もレヴィと取りたがった。同じテーブルで食べるなんて恐れ多いと慌てふためくレヴィを、またあの目が笑ってないニッコリとした笑顔で黙らすと軽く好き嫌いを聞いた後、自身と同じメニューをレヴィにも食べさせた。
 緊張しつつも、素直に残さず食べると
 
「綺麗に食べられたね、いい子いい子」

 と、綺麗な笑顔で頭をくしゃっと撫でられた。
 褒められて顔を赤く染めて目をうるませるレヴィを見てうんうんと満足そうに頷いていた。
 その笑顔を見ると、なんだか全てがどうでも良くなるし、マナーを必死に勉強したかいがあったなーと思う。

 ――昼食を済ませたあとレヴィが連れてこられたのは、本当に愛犬家で有名な侯爵のタウンハウスだった。

「いやぁ、殿下が犬に興味を示してくださるとは!」
 
 いつも遠くから見る侯爵は、ダンディなおじ様というイメージだったのに、大好きな犬の話が出来るのが嬉しいのかニコニコと目尻を垂らしている。
 その広めに設計された庭には豊かな芝生が敷かれ、ダルメシアンが二匹、ヨークシャーテリアが一匹、ダックスフンドが一匹の計四匹が自由に遊び回っていたが、侯爵が二回手を叩くとさっとこちらに走り寄ってきた。

「おすわり」

 侯爵がそう命令すると、さっと綺麗に四匹が並んで姿勢よく座る。

「わぁ、すごく躾られているね」
「はい、いくら可愛くても躾は必要です。巡り巡ってこの子たちの為になりますからね」
「へぇ」
「例えば他所の人様や犬を噛んでしまったり、言うことを聞かず飛び出して不幸な事故に合うのを防いだり。私は狩りにもこの子達を連れて行く事もありますからな、躾は信頼関係。私を群れのボスだと思って貰えなければならないのです」
「なるほど」
「大切なのは褒めてあげることだと私は思っています。ちゃんと命令を聞けたら褒める、出来るようになるまで根気よく、感情のままに叱りつけたりしないこと。ですが、駄目なことをした時はきっちりと叱ります、そこでメリハリを付けないと甘えて命令を聞かなくなりますからね」
「……ふむふむ。メリハリか」
「褒めてもらえると嬉しいし、やる気が出るのは人間も犬も同じですから」
「……たしかに、そうだね」

 リシュアンはメモを取りながら真剣に犬の躾の話を聞いているが、それを見ているレヴィはなんとも言い難い顔をしてリシュアンの少し後ろに控えていた。
 自分にするために真剣に話を聞いているのだと思うと、嬉しいやら恥ずかしいやら。
 もちろん侯爵は人間のレヴィに対する躾の話だとは思っていないのだから、ここでレヴィが口を挟むのも変になるのだ。
 
「レヴィも褒められたら嬉しいもんね?」
「え?!そ、そうですね……!!」
「そうでしょう、そうでしょう!犬も同じですよ」

 たった二回だけしかリシュアンには褒めてもらってないけど、そんなに嬉しそうに見えるのだろうか。
 まあ、一回目なんて号泣してしまっているし、嬉しくなさそうなわけないか……。
 そう思ったら、更に恥ずかしくなってしまった。
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