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婚約のご挨拶に行く話

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 ブラックモア家に挨拶に行く日程の調整もすんだ。
 ニコラスは段々緊張感が高まっていく。ルーカスはしれっとしているが、ニコラスからすると相手は格上の公爵家。緊張しないわけがないのだった。

「緊張する……」
「……?」

 そのニコラスの口からポロっと零れた言葉に、ルーカスは首を傾げる。学園での授業を終え、何となく二人で帰るようになり、部屋に着くやいなやニコラスのそばを離れないルーカス。黙ってじっと見つめられていると大きな黒猫を飼っているような気分だ。行動は犬っぽいし、他の人から見れば黒豹だとしても、ニコラスにとっては可愛い可愛い黒猫だった。

「はぁ……」

 ルーカスの両頬を両手で包み込むと、首を傾けたまますりすりと顔を擦り付けてきた。

「かわいいなぁ……」

 こんなに緊張するのも、逆に頑張らないとと思えるのもルーカスのせいで、おかげ。出来物一つない頬をムニムニと揉んでもルーカスの可愛さは変わらなかった。

「よっし!!」
「!!」
「ルゥ、俺頑張るな!」
「?あぁ……僕も頑張る」
「俺走り込みしてくるわ!」
「わかった」

 来るべき日のために出来る事と言えば、挨拶を考えること、手土産を考えること、あと『息子さんを俺にください!』と言った後ぶん殴られても歯を食いしばって耐えることだ!とよく分からない方向に決意を固めたニコラスは、とりあえず体力を付けるための走り込みを始めたのだった。


 ――

 ノーランド家に挨拶に行った時と同じく、ブラックモア家からも迎えの馬車が来た。
 やはり馬車の中でもいちゃいちゃしたが、あの兄の事を考えルーカスの顔を蕩けさせないようにギリギリで我慢した。ルーカスは少し不服そうだがこれも二人の為だ、今自分も含めルーカスを甘やかしている場合ではない。

 ニコラスの読み通り、馬車を降りると立派な豪邸に感動する前に、仁王立ちのヴィンセントとにこやかな顔のレイリーが立っていた。

「ただいま、兄上、レイ兄様」
「うむ」
「おかえり、ルーカス。ニコラス君もいらっしゃい、よく来たね」

 ――『いらっしゃい、よく来たね?』レイリー殿下のお住まいは王城なのでは?……ニコラスは自分のツッコミ体質を恨んだ。し、貴族として勉強を頑張った自分を褒めた。口に出してしまうこと無く、笑顔で耐えたのだ。すごい。偉い。

「本日は、ご多忙の中お時間を割いて頂きましてありがとうございます」
「可愛いルーカスと未来の旦那様のニコラス君の為だからね。ヴィンスの事も心配だったし……」
「むっ、私は心配されるような事などしないではないか。よく来た、ニコラス・ノーランド。愚弟がいつも世話になっている。歓迎する」

 (あれ?大丈夫そう……?)

 興奮していないヴィンセントは、意外にというと失礼だが、常識のあるまともな人物に見えた。

「自分だってレイ兄様にお世話になりっぱなしのくせに……」
「なんだと!?」
「まあまあ、二人とも。ほら、中に入ろう?」

 ルーカスが珍しくじっとりとした目でヴィンセントを睨んでいた。仲が悪いというより、喧嘩するほど仲がいいという感じがする。

 ルーカスの両親は絵に書いたような立派な方々だった。厳格そうでダンディな父に、おっとりとした女性の母。

「つきましては、ルーカスにはノーランド家へ輿入れして頂くことになります」
「あぁ。それで問題ないよ」
「ルーくんったら将来の話とかしても全部無視ちゃうからどうするのかしらってずっと思ってたのよ、お嫁さんになりたかったのね」
「はい」
「ルーカスはおっとりとはしているが、ブラックモア家の名に恥じない様きちんとした教育は受けているよ。必ずノーランド家の役に立つと思う。私としてもあのノーランド家と縁が繋げるのは喜ばしい限りだよ」
「そう言って頂けて有難く存じます」
「ニコラスくんがルーくんの良さに気付いてくれて母はとっても嬉しいわ」
「ルーカスは大変勉学が優秀ですし、性格もとても穏やかでいつも癒されています。変な言い方かもわかりませんが、見た目も中身もとても可愛らしいです」

 ルーカスの顔を見つめながら微笑んでそう言うと、ルーカスの保護者たち四人の空気が変わった。

「そう!そうなんだよニコラス君!ルーカスは見た目も中身もとても可愛い!」
「そうなのよ!なのに人よりちょーっと魔力が多くてちょーっと属性も多くてちょーっと魔法が得意だからってみんな遠巻きにして!」
「ルーカスは魔力を暴走させたことは無いし、ちゃんと本人の努力によってコントロールだって完ぺきに出来ている」
「そうだよねぇ、ルーカスは小さい頃から陰で努力するタイプだからね。今回はまあその努力が暴走して子宮つくって夜這いなんてしちゃ……あ」
「……レイリー」

 レイリーは綺麗な二重の切れ長の目を更に見開いた後、苦笑いをした。家族同然の存在しかいない中で気が緩んだのだろうか。
 その後咎めたヴィンセントは凄く呆れた顔をしていた。

「ルーカス、どういう事だ」

 ルーカスの父がぐっと眉間に皺を寄せてルーカスを睨む。
 ルーカスが口を開くと不味いと咄嗟に判断したニコラスはすぐ様土下座をした。もう、それは見事に。
 もう誰の顔も見れなかった。床の木目だけを目をかっぴらいて見つめた。

「申し訳ございません!!堪えきれなかった私に全て非があります!!ルーカスという人間がどういう人間なのか分かっているつもりだったのに、心が通じ合えた喜びから、その日に関係を結んでしまいました!!嫁入り前の息子さんに手を出してしまい大変申し訳ございません!!」

 ニコラスは、それはもう必死だった。誰にも口を挟ませないように(特にルーカスに)必死に叫んだ。
 お願いだから口を開くなルーカス……!!と強く願いながら。

「ルーカスは、情けない私の為に身体を張って思いを伝えてくれただけなのです!私の為に、私の将来を考え、自分の身体に負担を掛け、気持ちを伝えてくれただけなのです!それを!私が!!!」
「父上!!」
「ルーカス!!」

 終わった。
 ……と思ったが、ルーカスはいそいそとニコラスの隣で同じように土下座の体制を取りだした。

「僕は、ニコラスが好きです。ニコラスはこう言ってくれましたが、僕がニコラスを好き過ぎて暴走してしまった結果なのです」
「ほう」
「レイ兄様が言った通り、ニコラスに相談もせず……というか、気持ちが通じ合う前に勝手に子宮を作り夜這いしました。ニコラスはそれを優しく諭し、許し、心が通じ合ったと分かった後も手も出さず寝かしつけようとしてくれました。それを僕が抱いて欲しいと頼み込んだのです……ニコラスのおち」
「ごほん!ごほん!!父上!!!」
「……なんだヴィンセント」

 神はここに居た。今絶対に『ニコラスのおちんぽ』と言いそうになっていたルーカスの言葉をデカい咳払いで誤魔化してくれた神。ヴィンセント・ブラックモア。
 ニコラスはその神の神々しい姿を、少し泣きそうになりながら見上げた。

「ルーカスの言ったことは本当のようです。先日寮へ赴き尋ねた話と相違ありません」
「……そうか。ニコラス君、うちの息子が申し訳なかった。そして、そんな息子を庇って許してくれてありがとう」
「とんでもございません。してしまったことは事実ですし、ルーカスだけに非があるわけではないので」

 ルーカスの父は疲れたように眉間を揉みほぐしていた。
 だが母の「いいじゃない、結果ラブラブになれたんだし、ルーくんの今まで見たことない表情もニコラスくんは引き出してくれたわぁ。ニコラスくんには感謝しかないし、ルーくんが幸せそうなんだものぉ、それでいいじゃない!これから先、孫だって出来るのよ?貴方もおじいちゃんになれるのよー?」という言葉で「よし!末永く仲良くな!」ということで落ち着いた。

 
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