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婚約のご挨拶に行く話
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しおりを挟む「これは……君の趣味かな?」
ヴィンセントにしがみつかれたレイリーは、先程とは違うニコリとした目が笑っていない笑顔をニコラスに向けた。
「……きみの?」
「ルーカスの口から随分な言葉が飛び出したみたいだけど、教えこんだのは君かな?」
「……!!い!いえ!違います!これには訳があって!」
「聞こうか」
「……長くなるのでどうぞあちらへ。申し訳ございません、気が利かなくて」
ニコラスは一度仕切り直そうと、レイリーとヴィンセントにソファを勧めた。
ルーカスがお茶を淹れるというので、その言葉に甘え本人がいない隙に全てを話す事にした。ルーカスがいたら多分ややこしい。ヴィンセントは黙ったまま未だにレイリーにしがみついている。
「ごめんね、ヴィンスは恥ずかしがり屋でこういう話は苦手なんだ」
「いや……なんかこちらこそすいませんというか……こんな事を聞くのは大変不躾なのですが、公爵家では閨の事は学ばないのですか?」
「……いや?ある程度は学ぶよ。もちろん。ある程度は、ね」
にこりと笑っているのに笑っていないようなレイリーを見て、あ、これ触れたらアカンやつや。そう何かを察したニコラスは、とりあえず微笑んでみた。
「あー……ごほん。それで、ルーカスなんですが、殿下にご教授頂いた後、ロマンス小説ではなく、官能小説を覚えるまで読み込んだみたいで」
「官能小説?」
「間違えたのか、なんなのか凄く読み込んでて……なので……なんというか……恥ずかしい言葉を言っているとは思ってないようで……」
「えぇ?………………あ~。有り得そう……」
レイリーはチラッとヴィンセントを見たあと苦笑いをした。
「……私のせいでもあるのかな」
そうレイリーは言うが
「いえ……事故というか、なんというか……」
とニコラスはそれしか言葉が出てこなかった。
丁度話が途切れた所でルーカスがお茶を運んできた。ニコラスはそれをすかさず手伝った。もうとりあえず喉というか、カピカピになった口を潤したかった。
四人分のお茶を用意し終えたルーカスは、満足そうに頷いて、ニコラスの膝の上に体を捻りこませて座った。
「?!」
「……あー、ルゥ。お客様の前だから……」
「?お客様とはいえレイ兄様と兄上だろう?家族だから何も問題ない」
「家族だから余計に……というか……」
「ルーカス!!はしたないぞ!!」
「?婚約者なのですし、婚姻するのだから良いのでは?『幼妻♂は発情期?!大好きな旦那様と妊娠確定!?イチャイチャらぶはめセックス』「ひぇっ」では妻は旦那様の膝に座るものだと書いてありました」
「…………」
ニコラスはもう何も言えない。何も考えられない。
「ニコラス君は、それでいいの?流されたりとか、逆に自分に惚れている相手を都合良く使ってあとでポイしようとか、そういう事じゃないんだよね?」
「それは有り得ません。俺はルーカスの事を愛しているので」
「ニコラスは僕が夜這いを仕掛けても手を出してこようとはせず、優しく諭して寝かせようとしてくれました。それを僕がわからせてほしいと頼んだのです、媚薬まで飲んで、身体から堕とそうとした、はしたない僕のおまんこ「~~~!!!!」が誰のものなのかカチカチおちんぽでぱんぱんしてわからせてほしいと!」
ニコラスは真っ赤な顔を両手で隠した。二人を説得する為にルーカスが頑張って話してくれているのはわかる。
でもちょっと喋らないで欲しい。
チラリと指の隙間から覗いたヴィンセントは、限界突破したのか、再びレイリーに抱き着きなるべく存在感を消したいのか、ぎゅっと身を縮めている。
「あー、わかった。二人はとても愛し合っているんだね」
「はい、レイ兄様のアドバイスのお陰です!」
「いや、私は……睨まないでヴィンスそんなつもりじゃなかったんだよ……」
そんなやり取りの後、再起不能のヴィンセントを除く三人でお茶をしながら歓談していた所、レイリーが机に置いてあったメモに
『早く帰って欲しいだろうからヴィンスを宥めるけど、ルーカスは話さないで欲しい。泊まると言い出すと思う』と書き出した。
それを見たルーカスは激しく首を上下する。
過保護で厳格な兄はきっとそう言い出すと思ったからだ。
「ヴィンス?」
「……」
「顔見せて?あぁ、ほら疲れちゃったんでしょう?帰って昼寝でもしよう?」
「……やだ」
「駄目だよヴィンス、仕事も残してきてるし昨日買ったケーキも食べるんでしょう?」
「……レイリーも一緒に?」
「じゃあそうしようかな?この前買ったブランケットも使ってみようか?二人で一緒に使うともっと暖かいよ」
「……じゃあ帰る」
いや誰?さっきまでいたイケメンでキラキラでキリッとしたレイリー殿下どこ?すっごい優しくて甘い顔してるけど……いや、イケメンでキラキラはそうなんだけどオーラ違いすぎない?
あと義兄様出だしとキャラ違いすぎるけど、えぇ?誰?……ていうか、え?この二人……?
そう思いながら思わずニコラスも黙って見ていると、レイリーはしーっと人差し指を口に当てながらウィンクを飛ばしてきた。
やだ、似合う……イケメンすぎる……。
視界にメモが入ってそちらを見ると、ルーカスは
『こんな兄上は初めて見た。レイ兄様に甘えすぎてて引いてる』と書いていた。
すっかり機嫌を直したヴィンセントは、「近日中に正式に挨拶に来い!」と言い残した。
こうして金色と銀色の嵐のようなものは去っていった。
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