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【本編】

互いの想い

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コウヤの黄緑色の瞳が驚いたように見開かれる。
その吸い込まれそうな瞳を私は好きなった。

「ずっと言えなくて、ごめんね」

コウヤを取り戻しに動物愛護センターへ行った時、東城先生から問い詰められても結局、言葉には出来なかった。
あの時、私は、既に自分の気持ちを自覚していた。
言うタイミングがなかったわけではない。
ただ、それを口にする覚悟と勇気がなかったのだ。

コウヤは、何も答えない。
その沈黙が余計に私を不安にさせる。

「私のことなんて、もう呆れちゃった?」

「違うっ!
 ……そうじゃなくて……ただ、驚いて……」

コウヤが瞳を伏せる。

(喜んでくれるかと思ったんだけどな……)

コウヤが意を決したように顔を上げて私を見る。

「俺、ファムに謝らないといけないことが2つあるんだ」

「え……何のこと?」

まさか、これまでのことはなかったことにしてくれ、と言われるのだろうか。
私は、不安な気持ちを抱えながら、続きを待った。

「俺……今まで、ファムの気持ちも聞かずに、たくさんファムの身体を触って……本当にごめん!!
 でもそれは、ファムに気持ち良くなって欲しいって一心で触ってたんだ。
 その気持ちは嘘じゃない!
 でも、東城先生に言われたんだ。
 女性の同意を得ないで、好き勝手に触るだけじゃあ、体目当てだと思われるわよ、って言われて……」

「……へ?」

その予想外の内容に、身構えていた分、私は、思わず変な声が出た。
でも、コウヤは、申し訳なさそうな顔で頭を下げる。

「……そりゃあ、俺がファムの身体に触れたいって気持ちがなかった訳じゃあないけど、
 でもそれは、ファムが相手だったからで、別に女なら誰でもいいっていう訳じゃないからな!」

「……もしかして、それを気にして、最近、私に触ってこなくなってたの?」

「…………うん。
 ファムが俺のこと求めてくれるまで待とうと思ったんだ。
 身体目当てじゃないって、分かって欲しくて」

「なんだ……私のこと嫌いになったわけじゃなかったのね」

ほっとして、思わず笑えてしまう。
それにしても、コウヤは、一体、東城先生にどんな話をしていたのだろう。
色々と彼女に知られてしまっているのだと思うと、次に彼女と会う時、どんな顔をして会えば良いのか分からなくなる。

「俺がファムのことを嫌う筈がない!
 初めて会った時から、俺を救ってくれたファムのこと大好きだ。愛してる」

真正面から言われて、私は、照れくさくて思わずコウヤから視線を逸らした。

「……もう1つは?」

さっきコウヤは、私に謝りたいことが2つあると言っていた。

「もう1つは……ファムの名前を知らなったこと。
 最初に会った時から、俺、〝ファム〟って呼んでたから、聞いてもいなかったなって。
 これも東城先生に聞かれるまで気付かなかったんだ。……本当にごめん」

確かに思い返してみると、私は、一度もコウヤに自分の名前を名乗っていない。
コウヤが私のことを〝ファム〟と呼ぶので、気にもしていなかった。
でもそれは、それだけコウヤが私の上辺だけでなく、中身を好きになってくれていたということなのだろう。

「私の名前は、西野 芙亞那ふあな
 本当は、この名前、あんまり好きじゃなくて。
 だから、コウヤが〝ファム〟って呼んでくれるの、嫌じゃなかったよ」

芙亞那ふあな〟という名前は、
スペインに昔実在していた女王様の名前から取ったらしい。
歴史好きの母が教えてくれた。
一途に一人の伴侶を愛し貫いた女性の名前だと。

「フアナ……綺麗な名前だ」

コウヤが目を細めて微笑む。
こうして褒められると、自分の名前がほんの少しだけ好きになれそうな気がした。

(それに、〝フアナ〟と〝ファム〟って、少し似てるし。
 言われるまで特に違和感もなかったなぁ)

そう言えば、前に公園で純也と会った時、私がコウヤに〝ファム〟と呼ばれているのを聞いて、何故か純也が『そいつには、名前で呼ばせてるんだな』と言っていたのを思い出す。
あの時は、何のことか分からなかったけど、〝ファム〟を〝フアナ〟の愛称か何かだと勘違いしたのかもしれない。
純也と付き合っていた時も、私は自分の下の名前で呼ばれるのが嫌で、純也に苗字で呼んでもらっていた。
もしかしたら、純也は、そのことをずっと気にしていたのかもしれない。

「フアナ……愛してる」

コウヤの黄緑色の瞳が真っ直ぐ私の目を見つめている。
私も今度は、目を逸らさない。

「私も……コウヤのこと愛してる」

コウヤの黄緑色の瞳がふっと和らぐ。
そのままコウヤの顔が近付いてきて、私は、目を閉じた。
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