上 下
48 / 63
【本編】

東城先生の正体

しおりを挟む
白銀の狐は、その場で自分の身体を見せつけるようにくるりと回って見せると、さっと治療台の上へと飛び乗った。
そして、再び人間の姿へと戻っていく。

「その呼び方は、あまり好きじゃないんだけど……
 ……まあ、この世界じゃ、他に呼び方がないようだから、仕方ないわね」

少し不服そうな声で長い黒髪をかき上げたのは、人間の姿をした東城先生だった。

「コウヤの他にも<獣人ベスティアン>がいたなんて……
 ……もしかして、この世界の人たちが気付いていないだけで、他にもたくさん居るんですか?」

「たくさん、かどうかは分からないけど、
 まあ、居る所には居るわね。
 だから、私がこうしてここで見張ってるのよ。
 コイツみたいな考え無しがここへ連れて来られても助けてあげられるように」

コウヤがむっとした表情で抗議の視線を送る。
しかし、口に出さないところを見ると、言い返せないようだ。

「えっと、それじゃあ……東城先生は、その……」

「コウヤの<運命の女ファムファタル>じゃないのかって?」

東城先生が私の言葉尻を継ぐ。
そして、私の表情を見て、満足そうな笑みを浮かべた。

「俺の<運命の女ファムファタル>は、ファムだけだ」

東城先生が口を開くより先に、コウヤが私を見て言う。

「あら、その子とはまだ〝契り〟を交わしていないんでしょう?
 それなら、私にもまだチャンスはあるわよね」

「〝契り〟って……?」

「男と女の契りって言ったら、1つしかないでしょ」

私は、自分の顔がかっと熱くなるのを感じた。
つまり、肉体関係を持つという意味だろう。
東城先生は、治療台から降りると、コウヤに向かって色目を使いながら近付いて来る。

「私は、いつでも良いのよ。
 あなたのこと結構気に入ってるし。
 それに……私たち、身体の相性は悪くなかったでしょう?」
「なっ……?!」

「……おい、それ以上ファムを傷付けるようなことを言うなら、いくら先生でも許さないぞ」

コウヤが怖い顔をして東城先生を睨み付けるので、私は、自分がからかわれているのだと分かった。

「あ~らら、怒らせちゃったかしら。
 冗談よ、冗談。
 でも、お互いまだフリーなわけだし、可能性がゼロってわけではないわよ、ね」

そう言って、東城先生が今度は私に向かって含みのある笑みを向ける。
私の反応を試しているのだろう。

「俺の<運命の女ファムファタル>は、ファムだけだ」

「……ハイハイ。
 つまんない男ねー。
 それ以外のセリフ言えないのかしら。
 ……まあ、いいわ。
 とにかく、私は、この考え無し男が噛み付いたっていう人間に悪い影響を及ぼす細菌かウイルスを持ってないかどうか、身体の隅から隅まで検査してあげてたってわけ」
「それじゃあ、コウヤは、どこも悪くないの?」
「ああ、何も問題ない」

コウヤが私を安心させようと優しく微笑みかけてくれる。
それを見て、私は、ほっとしたけれど、まだ色々と疑問は残っている。

「……えっと、それじゃあ、コウヤが帰って来なかった理由って……その検査を受けていたから……?」
「半分正解。
 いくらなんでも検査に二週間もかからないわ。
 私たち、賭けをしてたの」
「賭け?」
「そう。
 あなたが彼を追い掛けてやって来るかどうか」
「どうして、そんな賭け……」
「どうして?
 そりゃあ、あなたが彼にハッキリした態度を取らないからでしょ。
 イケメンに言い寄られて、優しく愛を囁かれて……私は求められてるって思えて、自己陶酔するのは気持ちが良かった?」
「私、そんなつもりは……」
「そんなつもりじゃなくても、私から見れば、そうとしか見えないのよ。
 どうして彼にハッキリ自分の気持ちを伝えなかったの?
 あなたなんか好きじゃない、嫌いだって、ハッキリ相手に伝えてあげる方が相手のためだわ。
 ただ曖昧な関係をズルズルと続けてたって、お互いが後で後悔するだけよ」

東城先生は、何か思い詰めた表情で少し視線を下にやったまま吐き捨てるように言った。
まるで身に覚えがあるような態度だ。

「……まあ、あなたの所へ帰るって聞かない彼を引き止めておくのもそろそろ限界だったし。
 残念ながら、あなたの本音は聞けなかったけど、全く脈がないわけでもなさそうだし、ね」

良かったわね、と東城先生がコウヤに向かって言う。
そして、私の耳元に口を近付けると、私にだけ聞こえる声で囁いた。

「自分の気持ち、ちゃんとあなたの口から伝えなさい。
 いなくなってから後悔しても、遅いのよ」

そう言った東城先生の表情は、ひどく悲しげだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...