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【本編】
二つの心
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白と黒の髪の毛に、少し混じった茶色の毛。
少し離れているが、見間違うはずが無い。
それは、人間の姿に戻ったコウヤだった。
私は、コウヤの元へ駆け寄ろうとし……足を止めた。
コウヤが笑っている。
一緒に歩いている白衣の女性も同じように笑いながらコウヤの腕に自分の手を添えている。
艶やかな黒髪をストレートに伸ばした、綺麗な女性だ。
二人は、仲睦まじく寄り添いながら隣の建物の中へと消えて行く。
私は、その場に根が生えたように、ただ突っ立っていた。
長い時間が経ったような気がした。
先程、獣医師を呼びに犬舎へ入って行った若い女性の職員が戻ってきて、私に声を掛けた。
『すみません~お待たせして……東城先生なんですが、ちょっといま席を外しているみたいでして、要件だけ聞いても良いですか?』
「…………え。……あ、いいえ。
もう、帰ります……要は、済んだので」
『え? え? でも……』
「お手数をお掛けしました」
そう言って私は、戸惑う女性職員にお辞儀をすると、足早にその場を後にした。
(……どういうこと?
あの人とコウヤは、一体どういう関係なの?)
どくどくと心臓が嫌な音を立てて鳴く。
私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。
色んな疑問が頭に浮かんでは、答えより先に次の疑問が浮かんでくる。
(綺麗な人だったな……)
見るからに美男美女でお似合いのカップルに見えた。
まるで昔からの知り合いのような親しさが感じられた。
(もしかして、私がいつまで経っても、コウヤになびかないから、今度はあの人に乗り換えたの?)
そんな疑問が浮かんだのは、それだけ二人が親密な関係に見えたからだろう。
同時に、コウヤの真っ直ぐ私を見つめる黄緑色の瞳が目に浮かぶ。
コウヤは、そんな男ではない。
……そう、信じようと思った。
信じたかった。
きっと、何か理由があって、あの人と一緒に居るだけなのだ、と。
(でも、コウヤは、どんなに離れていても私の匂いを辿って、会社にまで迎えに来たのよ。
あんな近くに居て、私に気が付かないはずが無いわ)
相反する考えが頭の中でせめぎ立てる。
今までコウヤが私にくれた言葉の数々が頭に浮かび、それが逆に私の心を暗くする。
(やっぱり、誰でも良かったのかな。
番になってくれる人間の女性なら……)
純也だって、そうだった。
私と付き合っていながら、百合と親しくして、遂にはキスまでする仲になっていたのだから。
気が付くと、家の前の扉が目の前にあった。
どこをどうやって帰ってきたのかまるで記憶にない。
扉を開けようとして、カギが掛かっていることに気づく。
(……あれ、なんでカギ……ああ、そうか。
カギを開けないと…………)
カバンの中から鍵を取り出そうと中を探るが、何故かカギが見つからない。
カバンの中は、財布、定期入れ、スマホ、ハンカチ、メモ帳……色んな物がごちゃごちゃと邪魔をして、カギを見つけることが出来ない。
(………やだ、カギ、確かここに入れた筈なのに………)
その時、私の手の甲に透明な液体が零れたのに気が付く。
それが私の涙だと気が付くまで時間が掛かった。
少し離れているが、見間違うはずが無い。
それは、人間の姿に戻ったコウヤだった。
私は、コウヤの元へ駆け寄ろうとし……足を止めた。
コウヤが笑っている。
一緒に歩いている白衣の女性も同じように笑いながらコウヤの腕に自分の手を添えている。
艶やかな黒髪をストレートに伸ばした、綺麗な女性だ。
二人は、仲睦まじく寄り添いながら隣の建物の中へと消えて行く。
私は、その場に根が生えたように、ただ突っ立っていた。
長い時間が経ったような気がした。
先程、獣医師を呼びに犬舎へ入って行った若い女性の職員が戻ってきて、私に声を掛けた。
『すみません~お待たせして……東城先生なんですが、ちょっといま席を外しているみたいでして、要件だけ聞いても良いですか?』
「…………え。……あ、いいえ。
もう、帰ります……要は、済んだので」
『え? え? でも……』
「お手数をお掛けしました」
そう言って私は、戸惑う女性職員にお辞儀をすると、足早にその場を後にした。
(……どういうこと?
あの人とコウヤは、一体どういう関係なの?)
どくどくと心臓が嫌な音を立てて鳴く。
私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。
色んな疑問が頭に浮かんでは、答えより先に次の疑問が浮かんでくる。
(綺麗な人だったな……)
見るからに美男美女でお似合いのカップルに見えた。
まるで昔からの知り合いのような親しさが感じられた。
(もしかして、私がいつまで経っても、コウヤになびかないから、今度はあの人に乗り換えたの?)
そんな疑問が浮かんだのは、それだけ二人が親密な関係に見えたからだろう。
同時に、コウヤの真っ直ぐ私を見つめる黄緑色の瞳が目に浮かぶ。
コウヤは、そんな男ではない。
……そう、信じようと思った。
信じたかった。
きっと、何か理由があって、あの人と一緒に居るだけなのだ、と。
(でも、コウヤは、どんなに離れていても私の匂いを辿って、会社にまで迎えに来たのよ。
あんな近くに居て、私に気が付かないはずが無いわ)
相反する考えが頭の中でせめぎ立てる。
今までコウヤが私にくれた言葉の数々が頭に浮かび、それが逆に私の心を暗くする。
(やっぱり、誰でも良かったのかな。
番になってくれる人間の女性なら……)
純也だって、そうだった。
私と付き合っていながら、百合と親しくして、遂にはキスまでする仲になっていたのだから。
気が付くと、家の前の扉が目の前にあった。
どこをどうやって帰ってきたのかまるで記憶にない。
扉を開けようとして、カギが掛かっていることに気づく。
(……あれ、なんでカギ……ああ、そうか。
カギを開けないと…………)
カバンの中から鍵を取り出そうと中を探るが、何故かカギが見つからない。
カバンの中は、財布、定期入れ、スマホ、ハンカチ、メモ帳……色んな物がごちゃごちゃと邪魔をして、カギを見つけることが出来ない。
(………やだ、カギ、確かここに入れた筈なのに………)
その時、私の手の甲に透明な液体が零れたのに気が付く。
それが私の涙だと気が付くまで時間が掛かった。
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