39 / 63
【本編】
コウヤの行方
しおりを挟む
私は、伊藤さんと駅前で別れると、一人で電車に乗った。
どちらかと言うとお酒には強い方なのだが、久しぶりに呑んだせいか、少し悪酔いしてしまったらしい。
電車を降りると、ふわふわとした足取りで家へ向かう。
途中、パラパラと雨が降ってきた。
傘を持って来ていなかったので、歩くペースを上げる。
(そう言えば、コウヤを拾った夜も、雨が降っていたっけ……)
暗い夜道を歩きながら、あの夜のことを思い出す。
ちょうどコウヤを見つけた場所に差し掛かり、無意識に歩みを止めた。
もちろん、そこにコウヤはいない。
(何が〈運命の女神〉よ……!
結局、女なら誰でも良かったんだわ)
小降りだった雨は、次第に雨足を増し、私の髪の毛からコートを冷たく濡らしていく。
コウヤがいなくなってから、もう一週間が経つ。
あの日、動物愛護センターへ行った私は、担当の職員から次のことを聞かされた。
『昨日、保護した犬でしたら、獣医師の元で検査を受けています。
狂犬病や感染症を持っていないかチェックすることが目的です』
『獣医師? それじゃあ、今ここにはいないってこと?』
『はい。大きな犬でしたので、ここの検査機器では正確な検査が出来ないからと獣医師が言うもので……』
『検査って、どれくらい掛かるものなの?
すぐにここへ戻ってくる?』
『それは、獣医師に確認をしてみないと何とも……』
『じゃあ、どこへ行けば会えるのか教えて』
『それも私の判断ではお教えすることは出来ません』
『どうして? 別に連れ戻そうとなんてしないわ。
ただ会うだけだと言ってもダメなの?』
職員は、首を横に振る。
私は、一旦諦めたフリをして、職員にコウヤが戻ってきたら連絡が欲しいと電話番号と名前を伝えた。
そのまま動物愛護センターを出ると見せ掛けて、素知らぬ振りで反対側にある犬舎の方へと向かう。
ピンク色をした建物の中から犬の鳴き声が聞こえてくる。
建物の中へは入らず、ぐるっと外側を回って裏へと行く。
そこには、フェンスに覆われた敷地の中で、何頭かの犬たちが走り回っている姿が見えた。
運動不足を解消させるために設けられたドッグランだ。
ちょうどフェンスにもたれかかって犬たちの様子を眺めている若い女性職員が居たので、近寄って声を掛ける。
『すみません。
私、以前ここに里親募集のボランティアで何度かお世話になっていた者なのですが……』
『……あ、はい。なんでしょう?』
若い女性職員は、フェンス越しに私を振り返って答えてくれた。
『実は、以前お世話になった、こちらの獣医師の先生にお尋ねしたいことがありまして……今、こちらにいらっしゃいますでしょうか?』
『あー……東城先生ですね。
今、診療室で犬たちを見ています。
お呼びしましょうか?』
(やっぱり、ここに居ないなんて嘘だったんだわ)
『お願いできますか?
私の名前は、西野と申します』
『わかりました。西野さん、ですね。
先生に伝えて来ますので、少々お待ちを』
『ありがとうございます!』
私は、頭を下げると、その若い女性職員が建物の中へ入って行くのを見送った。
とりあえず、その場で彼女が戻ってくるのを待つことにする。
(コウヤのこと何て話そう……。
せめて二人きりにしてもらえたら、その場で人間に戻らせて、
何食わぬ顔でここを出る……とか?)
私がそんなことを考えていると、ふと視界の片隅に、建物の影から白衣を着た女性が歩いて行く姿が目に留まった。
ここで白衣を着ているということは、彼女が獣医師の”東城先生”だろうか。
彼女の隣には、背の高い男性が一緒に歩いている。
その見覚えのあるシルエットに、私は驚いて目を見開いた。
(コウヤ!!)
どちらかと言うとお酒には強い方なのだが、久しぶりに呑んだせいか、少し悪酔いしてしまったらしい。
電車を降りると、ふわふわとした足取りで家へ向かう。
途中、パラパラと雨が降ってきた。
傘を持って来ていなかったので、歩くペースを上げる。
(そう言えば、コウヤを拾った夜も、雨が降っていたっけ……)
暗い夜道を歩きながら、あの夜のことを思い出す。
ちょうどコウヤを見つけた場所に差し掛かり、無意識に歩みを止めた。
もちろん、そこにコウヤはいない。
(何が〈運命の女神〉よ……!
結局、女なら誰でも良かったんだわ)
小降りだった雨は、次第に雨足を増し、私の髪の毛からコートを冷たく濡らしていく。
コウヤがいなくなってから、もう一週間が経つ。
あの日、動物愛護センターへ行った私は、担当の職員から次のことを聞かされた。
『昨日、保護した犬でしたら、獣医師の元で検査を受けています。
狂犬病や感染症を持っていないかチェックすることが目的です』
『獣医師? それじゃあ、今ここにはいないってこと?』
『はい。大きな犬でしたので、ここの検査機器では正確な検査が出来ないからと獣医師が言うもので……』
『検査って、どれくらい掛かるものなの?
すぐにここへ戻ってくる?』
『それは、獣医師に確認をしてみないと何とも……』
『じゃあ、どこへ行けば会えるのか教えて』
『それも私の判断ではお教えすることは出来ません』
『どうして? 別に連れ戻そうとなんてしないわ。
ただ会うだけだと言ってもダメなの?』
職員は、首を横に振る。
私は、一旦諦めたフリをして、職員にコウヤが戻ってきたら連絡が欲しいと電話番号と名前を伝えた。
そのまま動物愛護センターを出ると見せ掛けて、素知らぬ振りで反対側にある犬舎の方へと向かう。
ピンク色をした建物の中から犬の鳴き声が聞こえてくる。
建物の中へは入らず、ぐるっと外側を回って裏へと行く。
そこには、フェンスに覆われた敷地の中で、何頭かの犬たちが走り回っている姿が見えた。
運動不足を解消させるために設けられたドッグランだ。
ちょうどフェンスにもたれかかって犬たちの様子を眺めている若い女性職員が居たので、近寄って声を掛ける。
『すみません。
私、以前ここに里親募集のボランティアで何度かお世話になっていた者なのですが……』
『……あ、はい。なんでしょう?』
若い女性職員は、フェンス越しに私を振り返って答えてくれた。
『実は、以前お世話になった、こちらの獣医師の先生にお尋ねしたいことがありまして……今、こちらにいらっしゃいますでしょうか?』
『あー……東城先生ですね。
今、診療室で犬たちを見ています。
お呼びしましょうか?』
(やっぱり、ここに居ないなんて嘘だったんだわ)
『お願いできますか?
私の名前は、西野と申します』
『わかりました。西野さん、ですね。
先生に伝えて来ますので、少々お待ちを』
『ありがとうございます!』
私は、頭を下げると、その若い女性職員が建物の中へ入って行くのを見送った。
とりあえず、その場で彼女が戻ってくるのを待つことにする。
(コウヤのこと何て話そう……。
せめて二人きりにしてもらえたら、その場で人間に戻らせて、
何食わぬ顔でここを出る……とか?)
私がそんなことを考えていると、ふと視界の片隅に、建物の影から白衣を着た女性が歩いて行く姿が目に留まった。
ここで白衣を着ているということは、彼女が獣医師の”東城先生”だろうか。
彼女の隣には、背の高い男性が一緒に歩いている。
その見覚えのあるシルエットに、私は驚いて目を見開いた。
(コウヤ!!)
2
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
黒豹の騎士団長様に美味しく食べられました
Adria
恋愛
子供の時に傷を負った獣人であるリグニスを助けてから、彼は事あるごとにクリスティアーナに会いにきた。だが、人の姿の時は会ってくれない。
そのことに不満を感じ、ついにクリスティアーナは別れを切り出した。すると、豹のままの彼に押し倒されて――
イラスト:日室千種様(@ChiguHimu)
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話
象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。
ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。
ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
【R18】突然すみません。片思い中の騎士様から惚れ薬を頼まれた魔術師令嬢です。良ければ皆さん、誰に使用するか教えていただけないでしょうか?
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライトノベルズ様の完結作、日間1位♪
※R18には※
※本編+後日談。3万字数程度。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる