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【本編】

コウヤの行方

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私は、伊藤さんと駅前で別れると、一人で電車に乗った。
どちらかと言うとお酒には強い方なのだが、久しぶりに呑んだせいか、少し悪酔いしてしまったらしい。
電車を降りると、ふわふわとした足取りで家へ向かう。

途中、パラパラと雨が降ってきた。
傘を持って来ていなかったので、歩くペースを上げる。

(そう言えば、コウヤを拾った夜も、雨が降っていたっけ……)

暗い夜道を歩きながら、あの夜のことを思い出す。
ちょうどコウヤを見つけた場所に差し掛かり、無意識に歩みを止めた。

もちろん、そこにコウヤはいない。

(何が〈運命の女神ファムファタル〉よ……!
 結局、女なら誰でも良かったんだわ)

小降りだった雨は、次第に雨足を増し、私の髪の毛からコートを冷たく濡らしていく。

コウヤがいなくなってから、もう一週間が経つ。

あの日、動物愛護センターへ行った私は、担当の職員から次のことを聞かされた。

『昨日、保護した犬でしたら、獣医師の元で検査を受けています。
 狂犬病や感染症を持っていないかチェックすることが目的です』

『獣医師? それじゃあ、今ここにはいないってこと?』

『はい。大きな犬でしたので、ここの検査機器では正確な検査が出来ないからと獣医師が言うもので……』

『検査って、どれくらい掛かるものなの?
 すぐにここへ戻ってくる?』

『それは、獣医師に確認をしてみないと何とも……』

『じゃあ、どこへ行けば会えるのか教えて』

『それも私の判断ではお教えすることは出来ません』

『どうして? 別に連れ戻そうとなんてしないわ。
 ただ会うだけだと言ってもダメなの?』

職員は、首を横に振る。
私は、一旦諦めたフリをして、職員にコウヤが戻ってきたら連絡が欲しいと電話番号と名前を伝えた。
そのまま動物愛護センターを出ると見せ掛けて、素知らぬ振りで反対側にある犬舎の方へと向かう。
ピンク色をした建物の中から犬の鳴き声が聞こえてくる。
建物の中へは入らず、ぐるっと外側を回って裏へと行く。
そこには、フェンスに覆われた敷地の中で、何頭かの犬たちが走り回っている姿が見えた。
運動不足を解消させるために設けられたドッグランだ。
ちょうどフェンスにもたれかかって犬たちの様子を眺めている若い女性職員が居たので、近寄って声を掛ける。

『すみません。
 私、以前ここに里親募集のボランティアで何度かお世話になっていた者なのですが……』

『……あ、はい。なんでしょう?』

若い女性職員は、フェンス越しに私を振り返って答えてくれた。

『実は、以前お世話になった、こちらの獣医師の先生にお尋ねしたいことがありまして……今、こちらにいらっしゃいますでしょうか?』

『あー……東城先生ですね。
 今、診療室で犬たちを見ています。
 お呼びしましょうか?』

(やっぱり、ここに居ないなんて嘘だったんだわ)

『お願いできますか?
 私の名前は、西野と申します』

『わかりました。西野さん、ですね。
 先生に伝えて来ますので、少々お待ちを』

『ありがとうございます!』

私は、頭を下げると、その若い女性職員が建物の中へ入って行くのを見送った。
とりあえず、その場で彼女が戻ってくるのを待つことにする。

(コウヤのこと何て話そう……。
 せめて二人きりにしてもらえたら、その場で人間に戻らせて、
 何食わぬ顔でここを出る……とか?)

私がそんなことを考えていると、ふと視界の片隅に、建物の影から白衣を着た女性が歩いて行く姿が目に留まった。
ここで白衣を着ているということは、彼女が獣医師の”東城先生”だろうか。
彼女の隣には、背の高い男性が一緒に歩いている。
その見覚えのあるシルエットに、私は驚いて目を見開いた。

(コウヤ!!)

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