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【本編】
伊藤さん
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伊藤さんは、私の質問に大口を開けて笑った。
「いいわねぇ。それよ、それ。
私が聞いて欲しかったのは。
みーんな、まるで地雷でも踏むんじゃないかって顔して避けていくんだから。
本心では、聞きたくてたまらないくせにね。
まあ、元々興味がないだけって人もいるかもしれないけど……少なくとも私だったら、気になって仕方ない筈よ」
そう言って、伊藤さんがジョッキに残っていた半分のビールを飲み干した。
最近離婚したばかりの伊藤さんは、仕事上の都合で元々旧姓を使っていた。
だから結婚しても離婚しても、“伊藤さん”は“伊藤さん”のままなのだ。
「んー……離婚した理由ねぇ。
色々あるけど……やっぱり一番の理由は、運命の相手じゃなかった、ってことなのかなぁ」
伊藤さんがジョッキの縁を指先でなぞる。
私は、ボタンを押して店員を呼ぶと、追加でビールを二つ注文した。
「なーんか違ったのよねぇ。
最初はさ、結婚するならこの人しかいない!って思ってたのに不思議なものよね。
一緒に生活する内に、少しづつ色んなことがすれ違ったり間違えたりしていって……ボタンの掛け間違えってやつ?
気付いたら、もう後戻りのいかないところまで来ちゃってたってわけ」
「“性格の不一致”ってことですか?」
「うーん……まあ、世間体にはそうなのかな。
っていうかね、性格が見事に一致する理想のカップルなんてのは、夢よ、幻想よ。
未婚のあなたに夢を壊すようなこと言うのは悪いんだけど……よく考えてみてよ。
違う母親の腹から産まれて、違う環境で育った男女が全く同じ価値観を持って息もピッタリで暮らしていけるなんて、冷静に考えたら有り得ないわよ!」
「まあ、言われてみれば確かにそうですよね」
「若いうちはさ、みんな恋に目がくらんで、これこそが真実の愛なんだー!って、思い込んじゃうのよね。
だから、結婚して理想と現実の差に愕然とするわけ。
こんな筈じゃなかったのに……ってね」
店員が新しいジョッキを二つ持って来てくれる。
私は、既に空になった二つのジョッキを店員に渡した。
「愛って言うのはさ、そんな簡単なもんじゃないんだって、その時初めて気が付くの。
オバサンの戯言だと思って聞いてくれて構わないけど、これだけは言わせて。
愛はね、見つけるものじゃないのよ。
一緒に育てて行くものなの」
「戯言だなんて思わないです。
私、一目惚れとか運命の相手とかいう類のものは信用ならないので」
「何言ってるのよ!
あんなイケメンな彼氏がいて、人は見た目じゃないなんて言わせないわよっ」
私は、二杯目のジョッキを飲み干すと、音を立てて机に置いた。
「彼氏なんかじゃないです……もう、どこで何をしてるのかすら知らないので」
「あら、別れちゃったの?
じゃあ、私が新しい彼女に立候補しちゃおうかしら♪」
「……どうぞ。オススメはしませんけど。
でも、本当に何処にいるのか分からないんです」
「……え、それって行方不明ってこと?
連絡つかないの??」
私が無言で俯いていると、伊藤さんは、別の意味に受け取ったようだ。
「やだ、警察には連絡したの?
何か事故に巻き込まれたとかなんじゃなくて??」
「…………いえ、そういうのではない、と思います。
……………元気そうに見えたし」
伊藤さんが益々訳が分からないといった顔をする。
「元気そうな姿を見たってことよね?
それなのに、何処にいるのか分からないの?」
私は、つまみに頼んだ焼き鳥を食べると、ため息をついた。
「伊藤さん……ほんと、愛って何なんでしょうね」
「いいわねぇ。それよ、それ。
私が聞いて欲しかったのは。
みーんな、まるで地雷でも踏むんじゃないかって顔して避けていくんだから。
本心では、聞きたくてたまらないくせにね。
まあ、元々興味がないだけって人もいるかもしれないけど……少なくとも私だったら、気になって仕方ない筈よ」
そう言って、伊藤さんがジョッキに残っていた半分のビールを飲み干した。
最近離婚したばかりの伊藤さんは、仕事上の都合で元々旧姓を使っていた。
だから結婚しても離婚しても、“伊藤さん”は“伊藤さん”のままなのだ。
「んー……離婚した理由ねぇ。
色々あるけど……やっぱり一番の理由は、運命の相手じゃなかった、ってことなのかなぁ」
伊藤さんがジョッキの縁を指先でなぞる。
私は、ボタンを押して店員を呼ぶと、追加でビールを二つ注文した。
「なーんか違ったのよねぇ。
最初はさ、結婚するならこの人しかいない!って思ってたのに不思議なものよね。
一緒に生活する内に、少しづつ色んなことがすれ違ったり間違えたりしていって……ボタンの掛け間違えってやつ?
気付いたら、もう後戻りのいかないところまで来ちゃってたってわけ」
「“性格の不一致”ってことですか?」
「うーん……まあ、世間体にはそうなのかな。
っていうかね、性格が見事に一致する理想のカップルなんてのは、夢よ、幻想よ。
未婚のあなたに夢を壊すようなこと言うのは悪いんだけど……よく考えてみてよ。
違う母親の腹から産まれて、違う環境で育った男女が全く同じ価値観を持って息もピッタリで暮らしていけるなんて、冷静に考えたら有り得ないわよ!」
「まあ、言われてみれば確かにそうですよね」
「若いうちはさ、みんな恋に目がくらんで、これこそが真実の愛なんだー!って、思い込んじゃうのよね。
だから、結婚して理想と現実の差に愕然とするわけ。
こんな筈じゃなかったのに……ってね」
店員が新しいジョッキを二つ持って来てくれる。
私は、既に空になった二つのジョッキを店員に渡した。
「愛って言うのはさ、そんな簡単なもんじゃないんだって、その時初めて気が付くの。
オバサンの戯言だと思って聞いてくれて構わないけど、これだけは言わせて。
愛はね、見つけるものじゃないのよ。
一緒に育てて行くものなの」
「戯言だなんて思わないです。
私、一目惚れとか運命の相手とかいう類のものは信用ならないので」
「何言ってるのよ!
あんなイケメンな彼氏がいて、人は見た目じゃないなんて言わせないわよっ」
私は、二杯目のジョッキを飲み干すと、音を立てて机に置いた。
「彼氏なんかじゃないです……もう、どこで何をしてるのかすら知らないので」
「あら、別れちゃったの?
じゃあ、私が新しい彼女に立候補しちゃおうかしら♪」
「……どうぞ。オススメはしませんけど。
でも、本当に何処にいるのか分からないんです」
「……え、それって行方不明ってこと?
連絡つかないの??」
私が無言で俯いていると、伊藤さんは、別の意味に受け取ったようだ。
「やだ、警察には連絡したの?
何か事故に巻き込まれたとかなんじゃなくて??」
「…………いえ、そういうのではない、と思います。
……………元気そうに見えたし」
伊藤さんが益々訳が分からないといった顔をする。
「元気そうな姿を見たってことよね?
それなのに、何処にいるのか分からないの?」
私は、つまみに頼んだ焼き鳥を食べると、ため息をついた。
「伊藤さん……ほんと、愛って何なんでしょうね」
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