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【第一章】聖女

6. 異世界からの来訪者

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「え……そんなっ、どうして、そんなことが分かるんですか?
 というか……そもそも、その聖女って、一体何なんでしょうか?」

まるで知っていて当たり前のように話をされるので、改めて聞くのは憚られたが、それが分からないと話が進まない。
だから、思い切って聞いてはみたものの、そんなことも知らないのかという目で見られたらどうしようかと内心どきどきだった。
しかし、私の心配を他所に、三人は驚く素振りも怒る様子もなく、オタリが一人会得しているように頷いた。

「お話いたしましょう。
 この世界に伝わる聖女伝説と、我々、聖女協会のこと、そして、貴方様の役割と定めについて……」

聖女伝説?
聖女協会?
聞いた事のない言葉ばかりで、私の頭は、混乱してしまう。
そして、何よりも、オタリの妙な言い回しに、私は、違和感を持った。

「この世界?
 ……まるで、私が違う世界から来たみたいに言うんですね」

冗談かと思い、苦笑混じりに訊ねたが、オタリは、神妙な顔つきで黙ったまま私を見つめている。
まさか、と思いつつ、後ろの二人にも視線をやるが、二人とも黙ったまま、にこりともせずに私を見つめている。
一方は、砂色の髪、もう一方は、赤銅色の髪。
髪を染めているにしては、根元から綺麗に色づいている。
オタリは一見黒髪かと思ったが、よく見ると青紫色がかっていて、その瞳の色も、よく見ると灰色に近い薄い青色をしている。
三人とも、どう見ても、日本人には見えない。

その時、私の脳裏に浮かんだのは、ここへ来る前に洞窟があった丘の上から見た景色だ。
見たことの無い風景。
見たことのない建物。
見たことのない人たち。
私は、急に不安で足がすくんだ。

「…………あの、ここは、一体どこなんでしょうか?」

私が震える声で訊ねると、オタリが答えた。

「ここは、聖都アルサラム。
 聖女協会の本拠地が置かれており、聖女信仰の中心となる聖なる都。
 かつて聖女様がこの世界を訪れた初めの地、と言い伝えられています」

まるで聞いた事のない地名に頭がくらくらする。
そして、やはりオタリの口から紡がれた先程と同じ言葉が私を更に動揺させた。

「この世界を、訪れた……?」

「はい。聖女様は、この世界とは異なる世界からいらっしゃったのです」

貴方様と同じように、とオタリが続けるのを私は、ただ呆然と聞いていた。

「一から順を追って、ご説明致します。
 長くなると思いますので、そちらにお座りください。
 立ったままでは、お気持ちも落ち着かないでしょう。
 今、お飲み物をご用意致します」

私は、オタリに促されるまま、柔らかな赤い長椅子に腰掛けた。
テーブルを挟んで向かいの長椅子にオタリが腰掛けると、どこからともなくティーポットが目の前のテーブルの上に現れた。
暖かな湯気をたてて赤色の液体がティーカップに注がれるのを見つめていると、少しづつ気持ちが落ち着いてくる。
どうぞ、と柔らかな女性の声がしたので顔を上げると、そこには、ティーポットを手に微笑むメイド服姿の若い女性がいた。
どうやら私が呆然としている間に、彼女が飲み物を用意してくれたようだ。

「混乱されるのも、無理はありません。
 ですが、これから私が話すことは、全て真実です。
 どうか落ち着いて、私の話を聞いてくださいますか」

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