8 / 9
【第一章】聖女
5. 謎の男
しおりを挟む
オタリは、眉を八の字にすると、私を憐れむような目で見つめた。
「それは、恐ろしい思いをされましたね。
さぞ、驚かれたことでしょう。
私に何か力になれることがあれば良いのですが……
ちなみに、その見知らぬ男というのは、どんな男だったか、何か特徴などはありますかな」
(特徴…………あの時、確か突風が吹いて、フードが………)
私は、気を失う前のことを思い出そうとした。
誰もいない葉桜の並木道、黒いフードを被った男が私をじっと見つめている――――。
あの時、私は、何かを見た気がするが、全く思い出せない。
思い出そうとすればする程、それは、まるで頭に霧がかかったように象を結ばず、何故か頭痛がした。
オタリは、じっと黙って私の答えを待っている。
何か答えなくては、と思い、とりあえず覚えているだけのことを話すことにする。
「えっと…………それが、黒いフードを頭から被っていて…………顔は、見えませんでした」
私の答えに、オタリが怪訝な顔つきで自分の顎を手で触る。
「はて、それはおかしいですね。
顔が見えなかった、というのでしたら、何故、その者が男だと分かったのですか?」
「え……それは………女の人にしては、背が高かったし、肩幅とかも………あっ、声!
声が男の人でした。
私が知らない言葉で、何かを言っていたような…………」
「何と言っていたのですかな?」
私は、もう一度記憶の中を探ってみた。
聞いていると耳の後ろがぞくぞくするような低い男の声。
でも、何と言っていたのか、思い出せない。
「…………すみません、覚えていません。
ただ、私の知らない言葉でした」
オタリは、何か考え込むような仕草をすると、後ろに控えていた二人の男たちに向かって何かを小声で話し掛けた。
一方は、私をここへ連れてきた男の人だ。
砂色の短髪に、気弱そうな顔にはソバカスが浮かんでいる。
並んで見ると、色は違うがオタリと似ている服を着ているのが分かった。
上下の繋がったワンピースのような服で、腰の辺りにベルトを締めている。
まるで聖職者が着ているような服だ。
彼がオタリの言葉に対してボソボソと何か答えながら首を横に振ると、今度は、もう一方の男がハキハキとした口調で答えた。
「いえ、私の方にも不審な男の情報は上がってきておりません」
その男は、よく日に焼けた肌に、赤銅色の髪を短く切り揃え、他の二人よりも長身で体格が良く、見るからに軍人風の装いを醸し出している。
門を守っていた男たちと同じく西洋の騎士のような格好をしているが、青いマントを羽織っている。
「どうやら、あの場所には、貴方様以外の者は誰もおられなかったようです。
その男が何者なのかは、分かりません。
ですが、我々に言えることは、ただ一つ……」
オタリは、勿体ぶるように間を置くと、自分の胸に手を当てて感情のこもった声で続けた。
「貴方様が、我々の待ち望んだ聖女様である、ということです」
「それは、恐ろしい思いをされましたね。
さぞ、驚かれたことでしょう。
私に何か力になれることがあれば良いのですが……
ちなみに、その見知らぬ男というのは、どんな男だったか、何か特徴などはありますかな」
(特徴…………あの時、確か突風が吹いて、フードが………)
私は、気を失う前のことを思い出そうとした。
誰もいない葉桜の並木道、黒いフードを被った男が私をじっと見つめている――――。
あの時、私は、何かを見た気がするが、全く思い出せない。
思い出そうとすればする程、それは、まるで頭に霧がかかったように象を結ばず、何故か頭痛がした。
オタリは、じっと黙って私の答えを待っている。
何か答えなくては、と思い、とりあえず覚えているだけのことを話すことにする。
「えっと…………それが、黒いフードを頭から被っていて…………顔は、見えませんでした」
私の答えに、オタリが怪訝な顔つきで自分の顎を手で触る。
「はて、それはおかしいですね。
顔が見えなかった、というのでしたら、何故、その者が男だと分かったのですか?」
「え……それは………女の人にしては、背が高かったし、肩幅とかも………あっ、声!
声が男の人でした。
私が知らない言葉で、何かを言っていたような…………」
「何と言っていたのですかな?」
私は、もう一度記憶の中を探ってみた。
聞いていると耳の後ろがぞくぞくするような低い男の声。
でも、何と言っていたのか、思い出せない。
「…………すみません、覚えていません。
ただ、私の知らない言葉でした」
オタリは、何か考え込むような仕草をすると、後ろに控えていた二人の男たちに向かって何かを小声で話し掛けた。
一方は、私をここへ連れてきた男の人だ。
砂色の短髪に、気弱そうな顔にはソバカスが浮かんでいる。
並んで見ると、色は違うがオタリと似ている服を着ているのが分かった。
上下の繋がったワンピースのような服で、腰の辺りにベルトを締めている。
まるで聖職者が着ているような服だ。
彼がオタリの言葉に対してボソボソと何か答えながら首を横に振ると、今度は、もう一方の男がハキハキとした口調で答えた。
「いえ、私の方にも不審な男の情報は上がってきておりません」
その男は、よく日に焼けた肌に、赤銅色の髪を短く切り揃え、他の二人よりも長身で体格が良く、見るからに軍人風の装いを醸し出している。
門を守っていた男たちと同じく西洋の騎士のような格好をしているが、青いマントを羽織っている。
「どうやら、あの場所には、貴方様以外の者は誰もおられなかったようです。
その男が何者なのかは、分かりません。
ですが、我々に言えることは、ただ一つ……」
オタリは、勿体ぶるように間を置くと、自分の胸に手を当てて感情のこもった声で続けた。
「貴方様が、我々の待ち望んだ聖女様である、ということです」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~
水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。
それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。
しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。
王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。
でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。
※他サイト様でも連載中です。
◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。
◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる