私の王子様~アイリス姫と8人の王子~【ルカ編】

風雅ありす

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ルカ=セルビアン 編【真実ED】

【真実ED】アイリス姫の死

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私は、心の中だけで、お父様とお母様、国のみんなへ別れを告げた。

「私は、あなたが探している “アイリス姫”なんかじゃない。
 ただの “アリス”よ」

これが私の出した結論だ。

(お父様、お母様、ごめんなさい。
 親不孝な娘を許してください)

誰に責められても仕方がない。
国を捨てた王女と後ろ指を指されたとしても、これだけは譲れない。

“アリス”として旅をしたこの三日間、とても楽しかった。
それだけで満足できなくなってしまうくらいに、楽しかったのだ。

私は、もうレヴァンヌ国の王女アイリスには戻れない。
これからは、一人の女であるアリスとして生きて行きたい。
それが私の心からの願い。

「そうか……では、一つ、取引をしないか」

「取引?」

「俺は、 “アイリス姫”が死んだという証を手に入れるまで、自分の国へ帰ることができない。
 あんたがその “アイリス姫” ではないのなら、また俺は、次の “アイリス姫”を探すことになる。
 だから……あんたが、その証を俺にくれないか」

「証って……こ、この首は、一つしかないんだから、
 はい、どうぞ……なんて、あげられるわけないでしょう!」

私は、慌てて自分の首を抑えた。

「聞いた話によると、 “アイリス姫”は、とても美しいマゼンタ色の髪をしているらしい。
 この国でも珍しい色だとか。
 あんたのその髪の色は、マゼンタ色だろう」

そう言って、白い男が私の髪を指さす。
私は、彼が言おうとしている言葉の意味を悟った。

「…………いいわ。
 こんな髪の毛で命が助かるのなら、いくらでもあげる」

「アリス、何を……!」

私は、ルカが止めるより先に、持っていた短剣を自分に向けると、
髪の毛を掴み、迷うことなくそれを切った。

ぱらぱらと落ちる私の髪の毛を見て、ルカが顔を青くする。

「何てことを……お前がそんなことをする必要は……」

「いいえ、あるわ。
 私たちのためだけじゃなくて、あなたのためでもあるのよね」

私は、笑顔で切り取った髪の束を白い男に差し出した。
ルカが警戒する中、白い男がこちらへ近づいて来て、それを受け取る。

「…………ありがとう。恩に着る」

白い男は、受け取った私の髪の束を大事そうに懐へしまうと、
颯爽と身を翻し、闇の中へと姿を掻き消して行った。
腕に重症を負っているとは思えない速さだった。

「どういうことなんだ……」

訳が分からないといった顔でいるルカに、私は教えてあげた。

「あの人も、自分に背負わされた運命から逃げたかったってことよ」

それでも理解できないでいるルカに、私は、これでいいの! と笑い掛けた。

きっとあの白い男は、私の正体に気付いていたのだ。
それでも、私を逃がす代わりに、自分の運命からも逃れる術を手に入れようと考えた。
だから、私があの髪を渡したことで、お互いにとって良い結果になった……そう思いたい。

「……ルカ、ありがとね」

「何だ、今更。俺がお前を守るのは、当然のことだろう」

(当たり前の事? ……そう、今までは、私もそう思ってた。
 いつも何も言わずにルカが私を守ってくれていたから。でも……)

「……当たり前なんかじゃない」

「え?」

「だってそうでしょ?
 こんなに傷だらけになってまで私を守ろうとするなんて、
 義務や忠義だけで出来るわけない!」

ルカは答えない。
私は、ずっと聞きたくて聞けなかった問いを口にした。

「どうして、ここまでして私を守ってくれようとするの?」

ルカの私を見る瞳がふっと優しく細められる。

――この命を懸けて、君を守ると誓おう。――

――俺の女神を…………――

「アリスは、もう覚えてないだろうけど……
 昔、まだ俺が子供だった頃、盗みをして兵士に捕まった事があるんだ。
 あの頃の俺は、両親を亡くして、盗みをしなければ生きていけなかった。
 だから、盗みをする事に、何の罪悪感も抱いていなかったんだ」

私は、初めて聞く昔のルカの話に驚いたけれど、今は黙ってルカの話に耳を傾けることにする。

「生きる目的も、意味もない人生だと思っていた。
 だから、処刑所へ連れて行かれても、生への執着はなかった。
 むしろ、死んで飢えに苦しむ事がなくなる方が嬉しいとすら思っていた」

ルカがそんな自分を恥じるように目を伏せた。
その仕草を見て、私は、胸が切なくなる。

「でも……アリスが俺の前に現れた。
 “遊ぼう”って、無邪気に笑ってた。
 傍にいた兵士が、俺のことを処刑しなきゃいけないんだって伝えたら、
 お前…… “じゃあ、お仕置きしなきゃね。”って言ったんだ。
 それも、兵士の腰に挿してあった剣を抜いて、俺の頭の上からバッサリ」

「……え?」

一瞬、私は別の人の話かと耳を疑った。
何故なら全く身に覚えがないからだ。
ルカは、その時のことを思い出したように笑った。

「はは。本当に、あの時は驚いたよ。
 傍にいた兵士も驚いて、言葉が出なかったくらいだ。
 俺には、自分に何が起こったのかまるで解らなかった。
 でも、足下に落ちた自分の髪の毛を見て、自分がまだ生きているんだって……初めて実感した」

(……ああ。首じゃなくて、髪の毛を切ったのね。
 そりゃそうだわ。じゃなきゃ、今ここにルカが生きているわけがないじゃない)

私は、ほっとすると同時に、
ん? これって本当に私の話? と頭を捻った。

「呆然としてた俺に向かって、お前は言ったんだ。
 “髪の毛が長いと遊ぶのに邪魔でしょ”って。
 その時、俺は解ったんだ。
 自分は、この人を守る為に生まれてきたんだって」

「……な、何よ、それ。
 私ったら、ただルカの髪の毛を切っただけじゃない。
 たかがそんな事くらいで……」

「たかが、じゃない。
 アリスが俺の髪の毛を切った時、俺の中で何かが吹っ切れた。
 それまで何の目的も生きがいもなく、ただ生を繋いできただけの卑しい人生を送ってた……
 そんな俺を、お前が断ち切ってくれたように思えたんだよ」

「…………私、そんなの記憶にないわ」

「まぁ、そうだろうな。
 あの時のお前は、まだ小さかったから、覚えてないのは当然だよ。
 それに、お前にとっては、ただの遊びくらいにか思ってなかったんだろう」

とにかく、とルカは言葉を続けた。

「アリスは、俺に生きる目的を与えてくれた。俺が存在する意義を。
 だから、この命に代えても、アリスを守ると、その時、自分に誓ったんだ」

「……だから、私を命懸けで守ろうとしてくれたの?」

「…………あぁ」

私は、大きく息を吸った。

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