4 / 41
プロローグ
5人の王子たち
しおりを挟む
レヴァンヌ城の謁見の間にて、玉座に向かって5人の王子たちが横1列に並んでいる。
玉座には、王冠を被って豊かな髭を蓄えた貫禄のある中年男性が腰掛け、
年若い王子たちに親しみやすい笑顔を向けていた。
「本日は、遠い所から我が国へよくぞ参られた。
国を挙げて歓迎しよう」
レヴァンヌ国王その人である。
5人の王子たちの中で1番背の低い黒髪の少年が1歩前に出ると、丁寧な所作でお辞儀をした。
「こちらこそ。
この度は、アイリス王女の生誕祝にお招き下さり、誠にありがとうございます」
遠い東にある琳 王国から来た、【琳 楊賢】王子だ。
すると、空色の髪をした青年が1歩前に出た。
「私からも御礼を。
アイリス王女が16歳の誕生日をお迎えになること、心より嬉しく思います」
北西にあるエルバロフ国から来た、【リュグド=エルバロフ】王子だ。
彼が柔らかな物腰で上半身を傾けてお辞儀すると、
綺麗に切り揃えられた空色の髪がさらりと音を立てて彼の顔半分を覆い隠した。
二人の言葉を聞きながら、国王が満足そうな表情で頷く。
「ありがとう。
このような立派な貴殿達を迎えることが出来て、我が娘のアイリスもさぞ喜ぶことだろう」
見事な金色の髪を肩まで伸ばした背の高い青年が1歩前に出た。
「その姫君は、今どちらに?
本日は、お顔を拝見させて頂けるのでは?」
マフィス国から来た【オーレン=マフィス】王子だ。
まるで作り物のように美しく整った顔立ちをしている。
国王は、その問いかけに、深刻そうな表情で顔を曇らせると、ううむ、と唸った。
「……実は、そのことで私の口から話さなければならない事があります」
楊賢が眉をぴくりと動かすと、真っ先に口を開いた。
「……と、言いますと?」
国王は、どうしたものかと視線を宙に泳がせると、深いため息を吐いた。
「昨夜、何者かが我が城へ侵入し……我が娘、アイリスを浚ってしまったのです」
その衝撃的な事実を聞いた5人の王子たちは皆、驚きの声を上げる。
燃えるような赤い髪をした一番体格の良い青年が一歩前に出て、声を上げた。
「浚われただとっ?!」
ジグラード国の【アラン=ジグラード】王子だ。
髪と同じ色の瞳に怒りの炎が灯っている。
それまでずっと黙っていた、オレンジ色の髪をした少年が一歩前に出ると、悲痛な叫び声を上げた。
「ひどいっ!
一体、誰がそんなことを……?」
レジェンス国の【リアード=レジェンス】王子だ。
まだ幼さの残る顔立ちをしてはいるが、この中で一番アイリスと歳が近い。
(本当は、またアイリスが自分から城を抜け出したんじゃろうが……
そんなこと、国賓である王子たちには言えんからな)
内心とは裏腹に、国王は、娘を誘拐された父親を必死で演じてみせた。
もし、婚約前に姫が逃げ出したと解れば、深刻な外交問題になる。
どうやら今のところ誰も疑ってはいないようだ。
国王は、5人の王子それぞれの反応を確認すると、難しそうな面持ちで首を横に振った。
「残念ながら……犯人は、まだ解らない」
その言葉に王子たちが深刻そうな表情で俯く。
これでは、生誕祝いや婚約の話どころではない、といった様子だ。
しかし、オーレンだけは、どこか納得のいかない顔で国王を見上げた。
「……腑に落ちないな。
何者かは知らんが、そう簡単に城の警備を掻い潜り、アイリス王女を浚う事が可能だろうか」
それを聞いて、他の王子たちの顔に疑念が浮かぶ。
「た、確かに……。
警備の厚い城内にわざわざ忍び込んでくる輩なんて……正気の沙汰とは思えませんね」
リュグドがオーレンの言葉に同調して、考えるような仕草をする。
国王は、内心焦った。
(ほぅ、なかなか鋭いの……
確かこの中で一番の年長者じゃったか。
顔だけじゃなく、頭も切れそうじゃわい。
……じゃが、ここはどうしても納得してもらわんといかん)
「それとも……
この城は、そう易々と何者かの侵入を許す程、警備が緩いとでも仰るのか?」
オーレンの挑発するような口調に、
国王がどう説得しようかと思案していると、王子たちの後方から声が上がった。
「全ては、私の過失です」
王子たちが一斉に声のした方を振り返った。
そこには、軍服を身に纏い、栗色の髪を一つに束ねた青年が立っていた。
「彼は?」
楊賢が国王を振り返って訊ねた。
「おお、これは失礼。ご紹介が遅れましたな。
……ルカ、ご挨拶を」
国王に〝ルカ〟と呼ばれた青年は、右の拳を自分の左胸に当てて敵意がないことを示すと、
王子たちに向かって真っすぐ一礼して見せた。
「この国で近衛隊長を務めさせております、ルカ=セルビアンと申します。
以後、お見知りおきを」
アランが相手の力量を見極めるかのように、ルカの頭から足まで視線をやった後、
どこか面白がっているような表情で口笛を吹いた。
「ふーん、近衛隊隊長さんにも手に負えなかった、と。
よほどの手練れらしい」
そんなことはどうでもいい、というようにオーレンが冷めた目で国王を振り返った。
「だから姫はここにはいない。
よって、この婚約話はなしとしてくれ、とでも?」
国王が慌てて両手を上げる。
「とんでもない。
むしろ、その事で、貴殿らにお願いがあるのです」
その言葉に、リアードが振り返り、首を傾げる。
「どういうこと?」
(しめしめ、ルカのお陰で話が逸れたわい。
これで本題に入れる……)
国王は、内心ほっとしながら話を切り出した。
「わざわざ来国して下さったというのに、誠に心苦しいのですが……」
国王は、5人の王子たちが見上げる中、堂々と悲劇の父親を演じ続けた。
「どうか姫を見つけ出し、連れ戻して下さらないだろうか?
ついては、姫を無事に連れ戻して下さった王子に姫を承りたい」
玉座には、王冠を被って豊かな髭を蓄えた貫禄のある中年男性が腰掛け、
年若い王子たちに親しみやすい笑顔を向けていた。
「本日は、遠い所から我が国へよくぞ参られた。
国を挙げて歓迎しよう」
レヴァンヌ国王その人である。
5人の王子たちの中で1番背の低い黒髪の少年が1歩前に出ると、丁寧な所作でお辞儀をした。
「こちらこそ。
この度は、アイリス王女の生誕祝にお招き下さり、誠にありがとうございます」
遠い東にある琳 王国から来た、【琳 楊賢】王子だ。
すると、空色の髪をした青年が1歩前に出た。
「私からも御礼を。
アイリス王女が16歳の誕生日をお迎えになること、心より嬉しく思います」
北西にあるエルバロフ国から来た、【リュグド=エルバロフ】王子だ。
彼が柔らかな物腰で上半身を傾けてお辞儀すると、
綺麗に切り揃えられた空色の髪がさらりと音を立てて彼の顔半分を覆い隠した。
二人の言葉を聞きながら、国王が満足そうな表情で頷く。
「ありがとう。
このような立派な貴殿達を迎えることが出来て、我が娘のアイリスもさぞ喜ぶことだろう」
見事な金色の髪を肩まで伸ばした背の高い青年が1歩前に出た。
「その姫君は、今どちらに?
本日は、お顔を拝見させて頂けるのでは?」
マフィス国から来た【オーレン=マフィス】王子だ。
まるで作り物のように美しく整った顔立ちをしている。
国王は、その問いかけに、深刻そうな表情で顔を曇らせると、ううむ、と唸った。
「……実は、そのことで私の口から話さなければならない事があります」
楊賢が眉をぴくりと動かすと、真っ先に口を開いた。
「……と、言いますと?」
国王は、どうしたものかと視線を宙に泳がせると、深いため息を吐いた。
「昨夜、何者かが我が城へ侵入し……我が娘、アイリスを浚ってしまったのです」
その衝撃的な事実を聞いた5人の王子たちは皆、驚きの声を上げる。
燃えるような赤い髪をした一番体格の良い青年が一歩前に出て、声を上げた。
「浚われただとっ?!」
ジグラード国の【アラン=ジグラード】王子だ。
髪と同じ色の瞳に怒りの炎が灯っている。
それまでずっと黙っていた、オレンジ色の髪をした少年が一歩前に出ると、悲痛な叫び声を上げた。
「ひどいっ!
一体、誰がそんなことを……?」
レジェンス国の【リアード=レジェンス】王子だ。
まだ幼さの残る顔立ちをしてはいるが、この中で一番アイリスと歳が近い。
(本当は、またアイリスが自分から城を抜け出したんじゃろうが……
そんなこと、国賓である王子たちには言えんからな)
内心とは裏腹に、国王は、娘を誘拐された父親を必死で演じてみせた。
もし、婚約前に姫が逃げ出したと解れば、深刻な外交問題になる。
どうやら今のところ誰も疑ってはいないようだ。
国王は、5人の王子それぞれの反応を確認すると、難しそうな面持ちで首を横に振った。
「残念ながら……犯人は、まだ解らない」
その言葉に王子たちが深刻そうな表情で俯く。
これでは、生誕祝いや婚約の話どころではない、といった様子だ。
しかし、オーレンだけは、どこか納得のいかない顔で国王を見上げた。
「……腑に落ちないな。
何者かは知らんが、そう簡単に城の警備を掻い潜り、アイリス王女を浚う事が可能だろうか」
それを聞いて、他の王子たちの顔に疑念が浮かぶ。
「た、確かに……。
警備の厚い城内にわざわざ忍び込んでくる輩なんて……正気の沙汰とは思えませんね」
リュグドがオーレンの言葉に同調して、考えるような仕草をする。
国王は、内心焦った。
(ほぅ、なかなか鋭いの……
確かこの中で一番の年長者じゃったか。
顔だけじゃなく、頭も切れそうじゃわい。
……じゃが、ここはどうしても納得してもらわんといかん)
「それとも……
この城は、そう易々と何者かの侵入を許す程、警備が緩いとでも仰るのか?」
オーレンの挑発するような口調に、
国王がどう説得しようかと思案していると、王子たちの後方から声が上がった。
「全ては、私の過失です」
王子たちが一斉に声のした方を振り返った。
そこには、軍服を身に纏い、栗色の髪を一つに束ねた青年が立っていた。
「彼は?」
楊賢が国王を振り返って訊ねた。
「おお、これは失礼。ご紹介が遅れましたな。
……ルカ、ご挨拶を」
国王に〝ルカ〟と呼ばれた青年は、右の拳を自分の左胸に当てて敵意がないことを示すと、
王子たちに向かって真っすぐ一礼して見せた。
「この国で近衛隊長を務めさせております、ルカ=セルビアンと申します。
以後、お見知りおきを」
アランが相手の力量を見極めるかのように、ルカの頭から足まで視線をやった後、
どこか面白がっているような表情で口笛を吹いた。
「ふーん、近衛隊隊長さんにも手に負えなかった、と。
よほどの手練れらしい」
そんなことはどうでもいい、というようにオーレンが冷めた目で国王を振り返った。
「だから姫はここにはいない。
よって、この婚約話はなしとしてくれ、とでも?」
国王が慌てて両手を上げる。
「とんでもない。
むしろ、その事で、貴殿らにお願いがあるのです」
その言葉に、リアードが振り返り、首を傾げる。
「どういうこと?」
(しめしめ、ルカのお陰で話が逸れたわい。
これで本題に入れる……)
国王は、内心ほっとしながら話を切り出した。
「わざわざ来国して下さったというのに、誠に心苦しいのですが……」
国王は、5人の王子たちが見上げる中、堂々と悲劇の父親を演じ続けた。
「どうか姫を見つけ出し、連れ戻して下さらないだろうか?
ついては、姫を無事に連れ戻して下さった王子に姫を承りたい」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
書道教師はクールな御曹司に甘く手ほどきされました
水田歩
恋愛
旧題:墨痕鮮やかなる愛の軌跡〜書道教師は御曹司に甘くてほどきされました〜
仁那の書道教室へ松代武臣が習いたいと訪れた。家業である【菓匠まつしろ】を継ぐには書道を修めなければならないからだ。
仁那は初恋の人と同姓同名の彼に、思わず兄・和登の親友かと訊ねる。
なぜか松代は彼女を、親友のストーカーだと思い込んでしまう。
和登に負い目をもつ松代は、仁那に色仕掛けをしかけて親友から追い払おうと画策する。
初出:ムーンライトノベルズ様
他、ベリーズカフェ様【R15版】、
エブリスタ様に投稿中
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる