妖精王の娘〜私が妖精界へ行くことになった長い理由(ワケ)〜

風雅ありす

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3.百花展

6.

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 ラムファは、まるでこれまで一緒に過ごせなかった時間を取り戻そうとでもいうように麗良に付いて回って片時も離れようとしない。
少し前までは、それをあからさまなご機嫌とりにしか思えず、あざとさしか感じなかったが、やむない事情があったことを聞いてからは、麗良の中でラムファに対する見方に変化が生まれた。

 不器用な人なのだ。
胡蝶に対しても、麗良に対しても、接し方が極端すぎて誤解されてしまう。

(母さんにも、同じようにすればいいのに)

 また麗良の中にずるい気持ちが顔を出す。
ちょうどその時、店員が食後のデザートを持ってきたので、麗良の思考はそれきり打ち切られた。
デザートは、抹茶のアイスとケーキにわらび餅までついている。
それらを美味しそうに頬張る麗良をラムファが嬉しそうに見つめていた。

 ラムファが次のメニューを注文しようとするのを麗良が止めて、まだ買い物が済んでないからと言い含めてレジへと向かう。
今回は、ラムファがお金を支払おうとしたのだが、レジを打ってくれた女性の店員がラムファに見とれて会計を打ち間違えてしまうというハプニングがあった。
麗良が見ていなかったら、間違えた会計のまま支払ってしまっていただろう。
女性店員はこちらが申し訳なくなるほど頭を下げて謝罪してくれたが、ラムファが優しく微笑むのを見ると顔を真っ赤にして倒れてしまった。
店内が騒ぎになってしまったので、麗良は慌ててお金を支払うと、逃げるようにラムファを連れて店を出た。

「お願いだから、誰かれ構わずフェロモンをまき散らすのはやめてよね」

 ラムファは、麗良の言っていることの意味が分からないようで、不思議そうな顔で首を傾げている。
その表情があまりにあどけないので、麗良は思わず笑ってしまった。

 結局、無難な贈り物として花を選ぶことにした。

 花束をもらって喜ばない女性はいない。

 しかし、ラムファは何故か納得のいかない顔をしている。
どうやら初めて会った時の麗良の態度を根に持っているようだ。

「今度は、常識の範囲内でね」

 とは言いながらも、ラムファに常識が通用しないことは分かっている。
ここは自分が特別な花束を選んでみせようと張り切り、園芸店のある一階に戻るためエスカレーターへ向かった。
エスカレーターの手前に《百花展》と書かれたイベントの案内版が出ていた。
どうやらこの上の階で開催しているらしい。それを見たラムファの顔がぱっと輝き、麗良を振り返って言った。

「ここにも花があるよ、行ってみよう」

 そう言って、麗良が止める間もなくエスカレーターを昇って行ってしまう。

「ちょっと、そこは花を売ってるんじゃなくて、展示してるだけで……」

 しかし、ラムファは、あっという間にエスカレーターの上の方へと歩いて行ってしまい、麗良の声は届かない。
麗良は溜め息を吐くと、ラムファを追って昇りのエスカレーターを歩いて行った。


 ラムファは、普通の速さで歩いているようだったが、麗良とは足の長さが違う所為か追いつくことが出来ない。
それまで麗良の歩く速さに合わせてくれていたことに今更ながらに気が付き、胸が切なくなった。
ラムファは、目的のものを見つけて気が焦っているのだろうか。
麗良は大声を上げるわけにもいかず、そのまま、早足でラムファを追い掛けた。
やがてラムファの大きな背中が《百花展》と書かれた入口を中へ入って行くのが見え、麗良は慌てた。
あそこには、良之と青葉がいる筈だ。

(どうしよう……おじい様に見つかったら……)

 麗良の背筋がひんやりと冷たく感じた。
良之と青葉を驚かせようと後からこっそり覗きに行った花展で、冷たい扱いを受けた時のことを思い出し、足がすくむ。

 あの時以来、麗良は、一度も花展を訪れたことがない。
良之に叱られたからというのもあったが、あの時感じた居心地の悪さが麗良を自然と花展から遠ざけていた。

 このまま知らない振りをして帰ってしまおうか、と思った。
それか、ここで待っていれば、ラムファが麗良のいないことに気が付いて戻って来てくれるかもしれない。
そう思って、入口から出てくる人を待ったが、ラムファが出てくる気配はない。

(もしかして、おじい様に見つかったのかしら。
 だとしたら、私が一緒って、分かってしまうわよね)

 麗良の顔が青くなる。
そもそもラムファが一人でこんな場所まで来られる筈がないのだ。
それに、普段からラムファが麗良の傍をずっと付いて離れないことは良之も知っている。
麗良は、今にも良之が入口から顔を出すのでは、と思うと逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
でも、ラムファをこのまま放っておくこともできない。
さっと中へ入って、ラムファを捕まえたらすぐに出ればいい。
そう思い直すと、意を決っして入口へと足を踏み入れた。

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