妖精王の娘〜私が妖精界へ行くことになった長い理由(ワケ)〜

風雅ありす

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2.花と緑と弾丸と

2.

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 ここの植物園には、十を超える園庭と六つの温室があり、ゆっくり見て歩くと、全部を見終えるのに半日以上を要する。
六つの温室を全て見終わり、バラ園を見て回っているところで、ラムファが空腹を訴えた。
お昼時刻にはまだ少し早かったが、園内にあるレストランで昼食をとることにした。

 空いている席につくと、麗良は、いつもここに来ると注文するパスタセットを、青葉は和食定食を注文した。
ラムファは、青葉に一通りメニューの内容を説明されると、しばらく険しい顔でメニュー表と睨めっこをしながら悩んでいたが、結局、気になる物を全て注文するという暴挙に出た。
唐揚げポテトセット、カルボナーラ、カツカレー、天ぷらうどん、和食定食、ラーメン……と、それら一品一品を店員がテーブルの上に並べていくと、引きつった顔で見守る青葉と麗良を他所に、ラムファは、軽くぺろりと完食してしまった。

 最後に、パンケーキセットとソフトクリームを食べて、やっとラムファの胃袋は満足したようだ。
食べた量に反して、その腹部が全く変わらないのを見て、やはり人間ではないというのは本当かもしれない、と麗良は思った。

 会計の際、パパに任せない、と言って見たこともない大きな金貨を懐から取り出したラムファを二人が慌てて止めた。
結局、青葉が全額支払うことになり、麗良は、目を白黒させている店員からラムファを遠ざけようと一緒に店の外へ出た。
 店の前には、花で作られた迷路が広がっていて、花の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

「全く、何考えてるのよ……日本円くらい両替しときなさいよね」

 とは言いつつ、ラムファの言う国の通貨が日本円に両替できるのかどうかは謎だ。
見たこともない硬貨だったが、本物の純金でできていそうな重厚感を放っていた。
あれ一枚で一体いくらになるのだろう、と考えていると、唐突にラムファがこちらを振り返って言った。

「アオバは、レイラの恋人なのか」

 一瞬、麗良は何を言われたのか分からなかった。
ぽかんとした表情で自分を見返す麗良をラムファが真剣な表情で受け止める。

「好いているんだろう、彼を」

 こちらを向いているラムファの向こうでは、花の迷路をカップルが手を繋いで歩いている姿が見える。
 ようやく自分が今何を聞かれているのか理解すると、麗良の頬が赤く染まった。

「そ、そんなわけないでしょ。
 青葉は、おじい様の花弟子で、私の……私の…………」

 続く言葉が見つからず視線を右往左往する麗良を見て、ラムファが納得したように頷く。

「つまり、レイラの片思いなのだね」

 その言葉に、レイラが弾かれたように顔を上げた。

「な、何言ってるのよ。別に青葉のことなんて何とも思ってないわ。
 そりゃ、長く一緒に住んでる家族みたいなものだもの、大事には思っているけど、恋人になりたいとか、好きだとか、そんな風には……」

 ラムファは、ほっとした顔で笑った。

「よかった。アオバはよくない。
 彼は、レイラのことを異性として好きだとは思っていないし、彼では、君を幸せにはできない」

 その言葉に、麗良がさっと表情を曇らせたことに、ラムファは気付かなかった。

「レイラのことは、パパが守るからね。アオバのことは忘れなさい」

 その時、麗良の頭の中で何かがぷつんと切れる音がした。

「どうしてそんなこと、あなたなんかに言われなきゃいけないのよ」

 ラムファは自分の失言に気付かず、きょとんとした顔をしている。

「何が守るよ、今までほったらかしにしてたくせに。
 今更突然現れて、勝手についてきて、勝手なことばかりして……」

 麗良は、肩を震わせて怒っていた。

「あんたなんか、大っ嫌い‼」

 それだけ言うと、麗良は、ラムファの顔も見ず、その場を駆け出した。
 青葉が支払いを終えて店から出て来た時、そこに麗良の姿はなく、この世の終わりとでもいうような悲壮な顔で立ち尽くす、大男の姿だけがあった。

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