幽霊横丁へいらっしゃい~バスを降りるとそこは幽霊たちが住む町でした~

風雅ありす

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序幕

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真っ暗闇の中を一台のバスが走っていた。
窓から漏れる車内の黄色い明かりだけがぼんやりと浮かび上がり、街灯も何もない暗中を迷う事なく走り続けている。まるでバスの通った後に道が出来ていくようだ。
 しんと静まりかえった車外とは逆に、車内はざわざわと騒がしい。
立っている人はいないが、席は満席で、座っているのは、年寄りばかり。中には包帯を身体に巻いている人もいる。
まるでどこか楽しいピクニックにでも出掛けようとするような雰囲気だ。
そんな中、後部座席の真ん中に、四、五歳くらいの女の子がちょこんと腰掛けていた。床につかない両足をぶらぶらさせることなく揃えて、お行儀よく両手を膝の上に乗せている。

「お菓子食べるかい。おいしぃよ」

左前方から女の子へとお菓子の包みが差し出される。それは、確かに女の子の目にもおいしそうに写ったが、差し出された手から上の部分が半分透けて見える。
女の子は、静かに首を横に振った。

「お嬢ちゃん、どこまで行くの?」

 右隣に座っていた老婆が尋ねてきたが、女の子は困ったように首を傾げた。
何故なら、自分がどこへ向かっているのか解らなかったからだ。

『道を歩く時は、何か目印になるものを見付けて歩こうね。迷子にならないように』

 そう母親から教えられていたものの、窓の外は真っ暗で、目印になるものは見付かりそうもない。
質問した老婆が微笑みながら女の子の答えを待っているので、仕方なく女の子は口を開いた。

「お母さんをさがしているの」

「そう、小さいのに偉いねぇ」

 老婆は、女の子の答えに満足し、大きく頷いて見せた。

「もうお姉ちゃんだもん」

「いくつ?」

「5さい」

 女の子が小さな片手を広げて見せると、周囲に柔らかな笑みが広がった。
 そんな穏やかにも賑やかなバスの車内を女の子はじっと見渡した。
もしかしたら、この中に自分の母親がいるのではないかと期待して。
 しかし、女の子の目に入るのは、見知らぬ老人ばかり。
しかも、その誰もが完全な姿を留めておらず、身体が半分透けていたり、目や耳、腕や足など身体のどこか一部分が欠けていたりする。
中には、一見誰も座っていないように見える席からも声だけが聞こえいて、時折白い陰がちらちらと見えた。
 運転席には、制服を着た運転手の後ろ姿だけが見えていて、頭の部分が透けている。まるで透明人間が服だけを着て運転しているようだ。
それでもバスは止まることなく進んでいく。
 だが、女の子は少しも怖いとは思わなかった。

「お名前は、なんて言うの?」

 ふいに降ってきた質問に女の子が口を開きかけた時、それを遮るかのように低い怒鳴り声が聞こえた。

「答えちゃいかん。自分の名前を答えちゃ駄目だ。帰れなくなるぞ」

 いつの間にか女の子の目の前に、軍服を身に纏い、怖そうな顔をした男の人が立っていた。
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