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第4章 別れの時
第32話
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ベルティアは、とてつもなく明るく振る舞っていた。
ゲオンは、「ベルトルス」となった彼女の姿を目にしていたが、ベルティアには何も言わなかった。
そして、ゲオンもなるべく明るく振る舞うようにしていた。
しかし、ベルティアのその明るさは、異常なほどで、そんな彼女を目にするたびに、ゲオンは胸が痛む。
「ベルティア。大丈夫か?」
ゲオンは、彼女に声をかけた。
「大丈夫。いつもと同じよ。」
ベルティアは、にっこりとほほ笑みさえ浮かべる。
いつもよりも、かなり明るく振る舞うベルティアに、ゲオンの心が痛む。
ゲオンは、ベルティアの心が、耐えられないほどに強い悲しみを抱えているのを、深く感じ取っていたのだった。
ある時、9歳になる長男に留守番を任せると、ゲオンはベルティアを連れ出し、外へ出た。
辺りを夕日が赤く染めていた。
その吸い込まれるかのような緋色の光は、とてつもなく悲し気だった。
しばらく2人は、黙って歩いていたのだった。
が、
「ベルティア!今日は、美味しいものでも2人で、食べようか!」
ゲオンが、ベルティアに声をかける。
「あら、珍しいわね。滅多に外食しないのに。」
驚いた表情をする彼女を目にし、ゲオンは、少し照れたように顔を赤くする。
「それは。……お前の料理がいつもうまいから、それで、外食よりも、家で食う事が多かったんだ。
だけど、今日は少し気分を変えて、外で飯でも食おう!」
「いいけども。ひょっとして、私のこと、心配してくれているの?」
「当たり前だっ!!」
ベルティアの言葉に、思わずゲオンは、語気を強める。
いきなり語気を強めたゲオンに、彼女は、目を大きく見開いた。
「ベルティア。ミリアが亡くなったんだ。悲しいんじゃあないか?」
ゲオンが、複雑な表情で言葉を出す。
「あら。こんなこと、慣れているから大丈夫よ。」
彼女から、信じられない言葉が出た。
ゲオンは、ベルティアのその現実に、怒りが込み上げてくるのを抑えることができなかった。こんなことが、慣れているだって!?。それは、あまりにも辛すぎるではないか!!
「慣れているだって!?俺には、君が『慣れている』ようには、全然見えないよ。
かなり悲しくて苦しいんだろ?君はいつも、強がる癖があるから、俺は本当に、心配なんだ!」
ゲオンの激しい言葉に、ベルティアは、遠い目をしながら、夕暮れ時の景色を見渡した。
周囲の建物がオレンジ色に染まっていた。その姿はまるで、悲しみをはりつけたかのように、ベルティアの目には映る。
ベルティアは、オレンジ色の景色の中で、自分もオレンジに染まりながら、話し出す。
「…ミリファエル……。今回は、ミリアっていう女性に生まれ変わっていたけど、彼女は、ずっと私のために、生まれ変わってきてくれているの。
そして、人間界に生まれ変わってきた彼女と私が出会えて、ミリファエルが、私の事を思い出せれば、彼女も私と同じ天使の姿に戻り、一緒に永遠を過ごせる。
実は、そういう風になっているの。
…でも、今回の人生で生まれ変わってきてくれたミリファエルは、既に妻子持ちの中年の女の人になっていて。…私の手には、最初から届かなかった。」
ベルティアの瞳の中には、深い悲しみが浮かんでいる。
「そしてね。ずっとずっと長い間、このすれちがいが、続いているのよ。
ミリファエルは、私のために生まれ変わってきてくれるんだけど、一生出会えずに、彼女の方が寿命を終えるか、彼女に会えても、私のことを、思い出してはくれない。
…そんなことがずっと、延々と続いているの。
人々との出会いと死に別れの辛さ、そしてミリファエルとのすれ違いの出会いと別れ。私はずっと、それを経験してきているんで、もう、慣れている。何度も経験しているから、私は大丈夫よ。」
ベルティアは、優しい中に、憂いを含んだ瞳をゲオンに向けた。
次の瞬間、ベルティアの小さな体を、ゲオンの大きな体が抱きしめた。
「何度も経験だって!!?……そんなの、誰だって耐えられないほど、辛いに決まってるだろ!?ベルティア!!もう、『本音』を出してもいいんだ!」
「……。」
ゲオンの言葉に、ベルティアは、黙り込み、下を向いた。
ゲオンは、「ベルトルス」となった彼女の姿を目にしていたが、ベルティアには何も言わなかった。
そして、ゲオンもなるべく明るく振る舞うようにしていた。
しかし、ベルティアのその明るさは、異常なほどで、そんな彼女を目にするたびに、ゲオンは胸が痛む。
「ベルティア。大丈夫か?」
ゲオンは、彼女に声をかけた。
「大丈夫。いつもと同じよ。」
ベルティアは、にっこりとほほ笑みさえ浮かべる。
いつもよりも、かなり明るく振る舞うベルティアに、ゲオンの心が痛む。
ゲオンは、ベルティアの心が、耐えられないほどに強い悲しみを抱えているのを、深く感じ取っていたのだった。
ある時、9歳になる長男に留守番を任せると、ゲオンはベルティアを連れ出し、外へ出た。
辺りを夕日が赤く染めていた。
その吸い込まれるかのような緋色の光は、とてつもなく悲し気だった。
しばらく2人は、黙って歩いていたのだった。
が、
「ベルティア!今日は、美味しいものでも2人で、食べようか!」
ゲオンが、ベルティアに声をかける。
「あら、珍しいわね。滅多に外食しないのに。」
驚いた表情をする彼女を目にし、ゲオンは、少し照れたように顔を赤くする。
「それは。……お前の料理がいつもうまいから、それで、外食よりも、家で食う事が多かったんだ。
だけど、今日は少し気分を変えて、外で飯でも食おう!」
「いいけども。ひょっとして、私のこと、心配してくれているの?」
「当たり前だっ!!」
ベルティアの言葉に、思わずゲオンは、語気を強める。
いきなり語気を強めたゲオンに、彼女は、目を大きく見開いた。
「ベルティア。ミリアが亡くなったんだ。悲しいんじゃあないか?」
ゲオンが、複雑な表情で言葉を出す。
「あら。こんなこと、慣れているから大丈夫よ。」
彼女から、信じられない言葉が出た。
ゲオンは、ベルティアのその現実に、怒りが込み上げてくるのを抑えることができなかった。こんなことが、慣れているだって!?。それは、あまりにも辛すぎるではないか!!
「慣れているだって!?俺には、君が『慣れている』ようには、全然見えないよ。
かなり悲しくて苦しいんだろ?君はいつも、強がる癖があるから、俺は本当に、心配なんだ!」
ゲオンの激しい言葉に、ベルティアは、遠い目をしながら、夕暮れ時の景色を見渡した。
周囲の建物がオレンジ色に染まっていた。その姿はまるで、悲しみをはりつけたかのように、ベルティアの目には映る。
ベルティアは、オレンジ色の景色の中で、自分もオレンジに染まりながら、話し出す。
「…ミリファエル……。今回は、ミリアっていう女性に生まれ変わっていたけど、彼女は、ずっと私のために、生まれ変わってきてくれているの。
そして、人間界に生まれ変わってきた彼女と私が出会えて、ミリファエルが、私の事を思い出せれば、彼女も私と同じ天使の姿に戻り、一緒に永遠を過ごせる。
実は、そういう風になっているの。
…でも、今回の人生で生まれ変わってきてくれたミリファエルは、既に妻子持ちの中年の女の人になっていて。…私の手には、最初から届かなかった。」
ベルティアの瞳の中には、深い悲しみが浮かんでいる。
「そしてね。ずっとずっと長い間、このすれちがいが、続いているのよ。
ミリファエルは、私のために生まれ変わってきてくれるんだけど、一生出会えずに、彼女の方が寿命を終えるか、彼女に会えても、私のことを、思い出してはくれない。
…そんなことがずっと、延々と続いているの。
人々との出会いと死に別れの辛さ、そしてミリファエルとのすれ違いの出会いと別れ。私はずっと、それを経験してきているんで、もう、慣れている。何度も経験しているから、私は大丈夫よ。」
ベルティアは、優しい中に、憂いを含んだ瞳をゲオンに向けた。
次の瞬間、ベルティアの小さな体を、ゲオンの大きな体が抱きしめた。
「何度も経験だって!!?……そんなの、誰だって耐えられないほど、辛いに決まってるだろ!?ベルティア!!もう、『本音』を出してもいいんだ!」
「……。」
ゲオンの言葉に、ベルティアは、黙り込み、下を向いた。
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