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第2章 ダンジョン編

第10話

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「……!」

ゲオンは、瞬時にして目の前に舞い降りたベルティアを、見つめていた。

ゲオンの目が、驚きで、大きく見開かれている。

ベルティアは、先ほど出現させた金色の楕円形の円盤上にまたがり、一瞬にしてゲオンとトムワニのいる場所へと降り立った。

ゲオンの後ろには、飛ばされたショックで、巨大ワニのトムが伸びている。

「言ったでしょ?あなたよりも、私の方が、はるかに強いのよ。」

ベルティアは、自信ありげにそう告げると、ゲオンの傍を通り過ぎ、次にトムワニの元へと歩いてゆく。

…自分が…。大の男の自分が、1人の小さな少女に、遠くまで飛ばされた…。男としてのプライドをへし折られたゲオンの心は、沈み込んだ。涙目になりながら、颯爽と歩いてゆく1人の小さな金髪の美少女を、見つめているのだった。


ワニは、ベルティアの激しい拳をくらい、遠くまでぶっ飛ばされ、完全に伸びてしまっていた。

その自慢の大きな口も、締まっている。

「無理やり開かせないとダメね!」

独り言のように呟くと、ベルティアは、ワニの口元へと歩こうとした。

すると。

「待って!トムの口は、かなり重いと思う。俺が開いてあげるよ!」

いつ立ち直ったのか、先ほどまで落ち込んでいたゲオンが、トムの口に手をかけた。

ゲオンは、男らしさを挽回ばんかいしようとして、ワニの口を力いっぱい持ち上げんと、踏ん張った。両手と体中の筋肉に、ありったけの力を込める。
 
可愛い女の子の前では、恰好良く居たい!率直な男の本音からの行動だった。

だが。……ゲオンの努力空しく、いくら頑張っても、その巨大な洞穴の入り口のような口は、開かれなかった。

気絶した巨大ワニの口が、驚くほどに重かったからだ。
 
それはまるで、大きくて分厚い錆びた鉄の扉を、無理やりこじ開けるかのような感じだった。

「代わって!私がやるわ。」

ゲオンが何かを言ったが、聞こえぬふりを装う。ベルティアが、トムの大きな口へ、両手をかける。

「うぉーー――りゃー―――!開げぇぇぇぇー――――――――っ!!」

低い、ドスを聞かせた声を上げつつ、ゆっくり、ゆっくりとだが、彼女は確実にその大きな口を開いていった。


やがて、彼女が上に手を伸ばし、男の人でも入れるぐらいに開ききった瞬間、

「ゲオン!早く入って!」

グズグズしている男に半ばイラつきながら、ベルティアが言った。

「はっ…はいっ!!」

信じられぬものを見るような目でベルティアをちらちらと見ながら、ゲオンが入っていく。
 
それから、何も武装していない女の子のベルティアが続く。

そして、巨大洞穴のようなワニの口が、閉ざされたのだった。
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