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57話

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 ハロルド王太子が起き上がってきた。
 そう言えばロナウド副団長に引っ張られて飛んで行ったけど、大丈夫だったのかな。

「な……なぜだ、なぜだアトリア! 私は薬で操られていただけなのに、どうして君は私を受け入れないんだ!」

 苦しそうにベッドに手を付きながら立ち上がったけど、なぜ? なぜって、言わないと分からない?
 この際だからハッキリ言った方がいいのかな。

「なぜだと!? 貴様は愛する女を薬で操り、正気を奪い襲おうとしたのだぞ! そんな男を好きになる女など、どこの世界にいるというのだ!」

 あ、うん、セルジュが代弁してくれた。
 でもセルジュだけじゃ収まらなかった。

「ハロルド王太子、いえハロルド。薬で操られていたとはいえ、あなたは聖女様との婚約を破棄し国外追放しました。どうして受け入れられると御思いで?」

 アルバート神官長の言う通り、あの時すでに、私の心はハロルド王太子……ハロルドから離れていた。
 実は操られていました、って言われても無理。

「機会は有ったのかもしれません。しかし、あなたがアトリア聖女様に会いに来たのは薬を盛りに来た時のみ。本当にあなたは、アトリア聖女様を愛しておられるのですか?」

 そう、ハロルドの洗脳を解いた時に謝られたけど、それ以降は会っていない。
 メジェンヌ国王陛下は『私に執着している』と言っていたけど、その割に会いに来ていなかった。
 でも今回の事でもわかるけど、ハロルドは私に執着している。それは間違いない。

 どうして?

「帰ってくると思ってた……」

「え?」

「アトリアは僕を愛している、だから、操られていた事が分かれば、必ず戻ってくるんだ!」

 なにを……言っているの?
 帰ってくる? 追い出したのに? 追放されたのよ?

「私が間違ってましたと、許して下さいと頭を下げに来ると思っていた!」

 意味が分からない。
 普段からあまりしゃべらない人だったけど、こんなに分からない考えをしていたの?
 どうして、私が頭を下げないといけないの?

「ああ、そうか分かったぞ。こいつは悲劇のヒロイン気取りなんだ。自分は操られて思ってもない事を言わされた、可愛そうな僕。でも操られていたから悪くない、きっと周りも僕をかわいそうに思って慰めてくれる、ってな」

「なるほど、自分は悪くない、操られていた間の事は全て無効だ。だから全部マーテリーの所為にして、周りは理解してくれるはず、そう考えたのですか」

「何というか、私は口数が少なく誤解されやすいですが、そんな考え方をした事はありません」

 3人は理解できたみたい。
 男同士だから? でも全然タイプは違うけど。

「ねぇ、私って元同じ国の人と話してるつもりだったけど、違う国の人、ううん、人と話してる気がしないの」

「俺は幼児と話してる気分だ」

「私は異文明人です」

「私は飼い猫と」

 良かった、私が変なわけじゃなかった。
 もうこれ以上は話すだけ無駄、ロナウド副団長がハロルドを縛り上げ、街に連れて行く事にした。
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