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55話
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レオン化学技術庁長官からもらった解毒剤を手に、3人はヴァルプール国へ馬を走らせる。
アトリア達は馬車だが、2日もあれば到着しているだろう。
「アル、お前は馬の扱いが上手くなったな!」
「聖女様とあちこち旅をしたからな、お陰で体力もついた」
「それならば遠慮はいりませんね。全速力で走らせましょう」
え? というアルバート神官長の表情をよそに、2人は更に馬を早く走らせる。
神官長は必死に付いて行くのが精いっぱいのようだ。
しかしそのお陰で、ヴァルプールへは半日ほどで到着した。
流石に3人とも疲れているようだが、今はそんな事を言ってる場合ではない。
まず向かったのは王城だ。
「これはこれはセルジャック王太子。どうされましたかな? 訪問の話は聞いておりませんが」
ヴァルプール国の国王が3人を出迎えたが、その表情は全く悪気が無い。
「うむ、実はな国王、ハロルド王太子がアトリア聖女を連れ帰ったのだ。ツバルアンナの薬を使って洗脳してな」
「な、なんですと!? しかしツバルアンナの薬は全て焼却処分されたはずでは?」
「残念ながら100%とはいかない様だ。まだどこかに残っているかもしれん。それで、ハロルド王太子はどこに居る? アトリア聖女を正気に戻し、連れ帰りたい」
「昨日メジェンヌ国から帰ってきたと聞きましたが、顔も見せずに出かけてしまいました」
「行き場所に心当たりはないか?」
「申し訳ありませんが」
「国王陛下、我々に城内や街中の調査権限を頂けますか?」
「構いませんとも。神官長様ならば、神殿も入れるようにいたしましょう」
これでヴァルプール国の、ほぼすべてを調べる事が可能になる。
ヴァルプール国王もツバルアンナの薬の被害者であり、正気になってからは進んで情報を提供している。
なのでハロルド王太子とグルではない……はずだ。
セルジャック王太子は城の中を、アルバート神官長は神殿・教会内を、ロナウド副団長は街中の調査を開始する。
城の中も街中も、目立つ馬車が止まっていればすぐに見つかるはずだ。
駐留している軍もフル活用し、一斉にヴァルプール内の捜索が始まった。
しかし1日探したものの、手掛かりすら見つからない。
「どうなっている。王家の馬車だぞ? 派手な装飾が施されているんだぞ? なぜ誰も見ていない」
「国王へは帰国の報が行っているから、戻っている事は間違いないのに」
「その報を伝えたのは誰なのでしょうか」
3人が顔を見合わせる。
国王に顔を見せていないのだから、代理人が来たはずだ。
つまり、城下町に入る必要が無い。
「「「別荘だ!」」」
国王にハロルド王太子の別荘の場所を聞き、山の中に入る。
別荘は山のふもとから少し登った場所、小さな湖があるらしい。
王族の別荘にふさわしく、山道だというのに道は舗装され、馬車でも簡単に通れるようになっている。
そろそろ日が暮れる頃、山の中から明かりが見えてきた。
そして別荘の前には……派手な装飾が施され、アトリアが乗り込んだ馬車が止まっている。
「見つけたぞ!」
「やはり別荘だったか」
「別荘に乗り込みます!」
入口で馬から飛び降り、乱暴に扉を開ける。
メイド達が悲鳴を上げるが、その姿を見て直ぐに頭を下げる。
「アトリアはどこだ!」
食事を終え、寝室のベッドで横になっているアトリア。
薄いネグリジェをまとった姿の横には、ハロルド王太子が座っている。
「アトリア……ああ、アトリア。私はずっと待ち望んでいたんだ、君と結ばれる事を。やっと夢がかなうよ」
アトリアの頬を指でなぞり、唇を愛おしそうに撫でている。
ハロルド王太子にされるがままのアトリアは、寝てはいない様だが反応が薄い。
顔を近づけ、ゆっくりと唇と唇が触れようとした時、ドアが破壊された。
「アトリア! 助けに来たぞ!!」
「聖女様!」
「アトリア聖女様!」
ドアを破壊して入ってきたのは3人だった。
驚いて動きが止まっているハロルド王太子だが、状況を理解したのか、アトリアに覆いかぶさろうとする。
「させません!」
ロナウド副団長が走り出し、ベッドを飛び越えると同時にハロルド王太子の首根っこを掴み、反対側へを引きずり落とす。
勢いよく背中から落ちたため、息が出来ず悲鳴もでない。
「な、なんですかアナタ達は! もう私に関わらないでください!」
アトリアが起き上がって指差している。
が、そんな事で怯む3人ではない。
「目を覚ませ! アトリア!」
「気を確かに! 聖女様!」
レオン化学技術庁長官から貰った瓶を投げつけ、見事に顔面に命中、瓶の中身がぶちまけられた。
「キャッ! 何をするのですか! 聖女たる私に……わた……く、くさい!!! 何この匂い!」
顔にかかった薬品の匂いに悶絶をうつアトリア。
必死に手で払っているが、それをさえぎる者が居た。
「お気を確かに、アトリア聖女様」
アトリアの背後からアゴを持ち上げ、瓶の中身を口の中に流し込み、口を閉じて鼻をつまむ。
「ロナウド……お前は悪魔か」
「セルジュでも、そこまではやらない」
「そうですか? 確実性を取ったのですが」
ゴクリと解毒剤を飲み込み、アトリアの口、鼻、耳からは湯気が出てきた。
「もぉ~、何よみんなして! 私の事を好きとか言っておきながら、どうしてこんな事するの!? もう、バカバカ、ばかー!」
今までとは明らかに違うアトリアの言動。
3人はそれに気づいて安堵し、アトリア本人も何かに気づいたようだ。
「あ、あれ? 私……あ、ああっ!!」
アトリア達は馬車だが、2日もあれば到着しているだろう。
「アル、お前は馬の扱いが上手くなったな!」
「聖女様とあちこち旅をしたからな、お陰で体力もついた」
「それならば遠慮はいりませんね。全速力で走らせましょう」
え? というアルバート神官長の表情をよそに、2人は更に馬を早く走らせる。
神官長は必死に付いて行くのが精いっぱいのようだ。
しかしそのお陰で、ヴァルプールへは半日ほどで到着した。
流石に3人とも疲れているようだが、今はそんな事を言ってる場合ではない。
まず向かったのは王城だ。
「これはこれはセルジャック王太子。どうされましたかな? 訪問の話は聞いておりませんが」
ヴァルプール国の国王が3人を出迎えたが、その表情は全く悪気が無い。
「うむ、実はな国王、ハロルド王太子がアトリア聖女を連れ帰ったのだ。ツバルアンナの薬を使って洗脳してな」
「な、なんですと!? しかしツバルアンナの薬は全て焼却処分されたはずでは?」
「残念ながら100%とはいかない様だ。まだどこかに残っているかもしれん。それで、ハロルド王太子はどこに居る? アトリア聖女を正気に戻し、連れ帰りたい」
「昨日メジェンヌ国から帰ってきたと聞きましたが、顔も見せずに出かけてしまいました」
「行き場所に心当たりはないか?」
「申し訳ありませんが」
「国王陛下、我々に城内や街中の調査権限を頂けますか?」
「構いませんとも。神官長様ならば、神殿も入れるようにいたしましょう」
これでヴァルプール国の、ほぼすべてを調べる事が可能になる。
ヴァルプール国王もツバルアンナの薬の被害者であり、正気になってからは進んで情報を提供している。
なのでハロルド王太子とグルではない……はずだ。
セルジャック王太子は城の中を、アルバート神官長は神殿・教会内を、ロナウド副団長は街中の調査を開始する。
城の中も街中も、目立つ馬車が止まっていればすぐに見つかるはずだ。
駐留している軍もフル活用し、一斉にヴァルプール内の捜索が始まった。
しかし1日探したものの、手掛かりすら見つからない。
「どうなっている。王家の馬車だぞ? 派手な装飾が施されているんだぞ? なぜ誰も見ていない」
「国王へは帰国の報が行っているから、戻っている事は間違いないのに」
「その報を伝えたのは誰なのでしょうか」
3人が顔を見合わせる。
国王に顔を見せていないのだから、代理人が来たはずだ。
つまり、城下町に入る必要が無い。
「「「別荘だ!」」」
国王にハロルド王太子の別荘の場所を聞き、山の中に入る。
別荘は山のふもとから少し登った場所、小さな湖があるらしい。
王族の別荘にふさわしく、山道だというのに道は舗装され、馬車でも簡単に通れるようになっている。
そろそろ日が暮れる頃、山の中から明かりが見えてきた。
そして別荘の前には……派手な装飾が施され、アトリアが乗り込んだ馬車が止まっている。
「見つけたぞ!」
「やはり別荘だったか」
「別荘に乗り込みます!」
入口で馬から飛び降り、乱暴に扉を開ける。
メイド達が悲鳴を上げるが、その姿を見て直ぐに頭を下げる。
「アトリアはどこだ!」
食事を終え、寝室のベッドで横になっているアトリア。
薄いネグリジェをまとった姿の横には、ハロルド王太子が座っている。
「アトリア……ああ、アトリア。私はずっと待ち望んでいたんだ、君と結ばれる事を。やっと夢がかなうよ」
アトリアの頬を指でなぞり、唇を愛おしそうに撫でている。
ハロルド王太子にされるがままのアトリアは、寝てはいない様だが反応が薄い。
顔を近づけ、ゆっくりと唇と唇が触れようとした時、ドアが破壊された。
「アトリア! 助けに来たぞ!!」
「聖女様!」
「アトリア聖女様!」
ドアを破壊して入ってきたのは3人だった。
驚いて動きが止まっているハロルド王太子だが、状況を理解したのか、アトリアに覆いかぶさろうとする。
「させません!」
ロナウド副団長が走り出し、ベッドを飛び越えると同時にハロルド王太子の首根っこを掴み、反対側へを引きずり落とす。
勢いよく背中から落ちたため、息が出来ず悲鳴もでない。
「な、なんですかアナタ達は! もう私に関わらないでください!」
アトリアが起き上がって指差している。
が、そんな事で怯む3人ではない。
「目を覚ませ! アトリア!」
「気を確かに! 聖女様!」
レオン化学技術庁長官から貰った瓶を投げつけ、見事に顔面に命中、瓶の中身がぶちまけられた。
「キャッ! 何をするのですか! 聖女たる私に……わた……く、くさい!!! 何この匂い!」
顔にかかった薬品の匂いに悶絶をうつアトリア。
必死に手で払っているが、それをさえぎる者が居た。
「お気を確かに、アトリア聖女様」
アトリアの背後からアゴを持ち上げ、瓶の中身を口の中に流し込み、口を閉じて鼻をつまむ。
「ロナウド……お前は悪魔か」
「セルジュでも、そこまではやらない」
「そうですか? 確実性を取ったのですが」
ゴクリと解毒剤を飲み込み、アトリアの口、鼻、耳からは湯気が出てきた。
「もぉ~、何よみんなして! 私の事を好きとか言っておきながら、どうしてこんな事するの!? もう、バカバカ、ばかー!」
今までとは明らかに違うアトリアの言動。
3人はそれに気づいて安堵し、アトリア本人も何かに気づいたようだ。
「あ、あれ? 私……あ、ああっ!!」
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