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1巻
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しおりを挟むプロローグ 婚約破棄と国外追放ってセットですか?
「ロザリーは他国と共謀し、イノブルク国を我が物にしようとしている! ロザリーを追放するべきだ!」
フレデリック王太子が私を指差して、声高らかに言い放った。
今は国の重鎮が集まる、年に二回しかない会議の真っ最中。その席で王太子は、ロザリーを追放すべきだと言ったわ。ロザリーって私よね? 私って他国と共謀してたの?
場内はざわめき、私と王太子を交互に見て、一体何があったのか、と困惑している。
それはそうよね、本人である私が知らないんだもの、一体どういう事なんだろう。
「フレデリック王太子、聖女ロザリーが他国と共謀したというのは本当ですか?」
やっと公爵が聞いたけど、私も聞きたい。
他の人達も同じで、今まで騒いでた出席者が静かになって聞いている。
「本当だ、コレを見てくれ。ロザリーは国を裏切ったのだ。聡明な諸侯ならば、これを見れば裏切り者であるとすぐにわかるだろう」
王太子から渡された紙には、私の数々の悪行が書かれている。
その証拠も一緒に書いてあって、私ってこんな事したんだーと、感心してしまった。
あ、もちろん私はそんな事してないからね。
「コレが本当ならば、死刑が順当です。フレデリック王太子、追放ではなく処刑すべきでは」
「え? い、いやいや公爵、ロザリーには聖女としての功績がわずかだがあったのだ。その功績に免じて罪を軽減し、追放するくらいが適当だろう」
「追放? 時に王太子、以前あなたは聖女ロザリーの名声と功績に嫉妬しておられたが、その意趣返しではありますまいな?」
「な! 何を言っているのだ、公爵! わ、私がそのような事で国益を損なうと思っているのか⁉ 嘆かわしい!」
「では、なぜ追放などと中途半端な処罰になさるのですか?」
「それは彼女の行く先をゴスライン荒野にしようと考えているからだ」
ゴスライン荒野は雑草すら生えない死の大地だ。あんな所に行かされるなんて死刑を言い渡されたのと同じだ。
どうしてこうなったんだろう。
そういえば、今年に入ってからはフレデリック王太子とまともに話をしていないな。
十歳で聖女になってスグにフレデリック王太子と婚約して四年。数年後には結婚式を挙げるはずだったのに。
「聖女ロザリー、さっきから黙っているが、何か反論はないのか?」
さっきの公爵が話を振ってきた。言いたい事はたくさんあるけど、どれから話そうか。
「そうですね。まず、私は国を裏切ってなどおりません。今まで国のために誠心誠意尽くしてきたつもりです」
「嘘をついても無駄だ! ここに全ての証拠が揃っているのだからな!」
フレデリック王太子は手元に戻した紙を叩き、私を問い詰める。
「お前が裏切っていないと言うなら、ここに書かれている事は全て違うと証明してみせろ!」
やっていない事を証明するって、どうしたらいいの? その時間に何をしてたとか会った人とか、一々覚えていないわよ。
「できないのならお前の罪は確定だ! さっさと国から出ていくといい!」
王太子にそう言われた翌日、私は聖女の装束を奪われ、町娘の格好で街を追い出された。
私の薄い栗色の髪は肩にかかる程度で少しくせ毛、背丈は百四十センチメートルほどで細身の体、五歳頃から聖女候補として神殿で育てられたにしてはノンキとよく言われる。
世間知らずの私に、ゴスライン荒野で生きていく術などあるはずがない。
一応は死刑ではなく追放だから、身の回りの物くらいは持っていってもいいみたい。
数名の兵士に連れられて、ゴスライン荒野に入ってしばらくの場所で打ち捨てられた。
何ここ……本当に何にもないじゃない。砂漠じゃないけど、あるのは岩と硬い地面。サボテンもないのね。それにしても太陽が熱い。何とか大きな岩を見つけて日陰に入る。
「こんな場所じゃ生きていくのは無理ね。実質死刑って本当だったんだ」
地面に座り込んで、水筒の水を飲む。
食料は一日分しかないから、明日の夜には食べ物がなくなる。節約をしても……ここで食料なんて手に入らない。
私、ここで干からびて死んじゃうのかな。日中は体力を温存して、夜になったら何かないか探しに行こう。
悩んでいるうちにすっかり日が沈み、昼間とは打って変わって寒いほどだった。
「ううっ、暑いって聞いてたから、上着なんて持ってきてないよ」
イノブルクの王都の方を見ると、遠くで街灯りが輝いてる。
歴史のある国で聖女になるのは大変だったけど、追放されるのは簡単なのね。仕来りを気にしなくていいのは助かるけど!
腕をさすりながら歩き回るけど、どこまで行っても同じ景色しか見えない。
星を頼りにすれば方角はわかるけど、戻っても無駄だろうし、今は進むしかないか。
私は皓々と輝く月の下、たった一人で歩き始めた。
第一章 国家建設は聖獣と精霊と共に ~街作りと訪問客~
夜の荒野を一人で歩く私の後に、狼の群れが静かについてくるのに気がついたのは、逃げ場がなくなってからだった。
「え⁉ 何? 何なのコレ!」
一匹の狼が遠吠えをあげたため、驚いて振り向く。狼は半円状に私を囲んでいる。
十頭くらいかな、じわりじわりと距離を詰め、後ずさる私をゆっくりと追い詰める。
この距離だと走っても逃げられない。そもそも速さが違いすぎるから、距離があっても逃げられない。頭が混乱してくる。
どっ、どうしたらいいの? 私の足じゃ逃げられないから、狼がどっか行かないかな。
「しっ! しっしっ!」
手で追い払ったけど、そんな事で狼があきらめるはずもなく、私は腰を抜かしてへたり込んでしまった。やだよぅ……こんな所で死にたくないよぅ……やってもいない罪で追い出されて狼のエサになって死んじゃうの?
だいたい聖女って何よ! もう神様のバカ! 一生懸命お祈りしたじゃない! その結果がコレ⁉ バカバカ! 神様なんてもう信じない!
突然、目の前に光の柱が現れた。
この光は聖なる光……神様? 神様が私を助けてくれるの? バカって言ってごめんなさい!
細かった光の柱は徐々に太くなり、かなり太くなったあと、唐突に消えた。
あれ? これだけ? 助けてくれるんじゃ……あ。
「コンティオール!」
(見つけたぞロザリー。こんな所で泣きべそをかいているとはな。お前をからかうネタができた)
「こんな状況で泣くのは仕方がないでしょ! いいから助けて!」
現れたのは獅子の聖獣、コンティオールだ。純白の体毛に純白のたてがみ。高さは二メートルほど、体長は四メートルほどある、大型のライオンだ。
(ふっふっふ、それでは頭ナデナデをたくさんしてもらわないと割に合わないな)
「どれだけでもするから! 今は助けてよ!」
(承知!)
コンティオールが現れたことで、狼の群れは後ずさりした。けれど、コンティオールがひと睨みするとすべての狼が動きを止めた。彼は悠々と狼に近づく。
そして情け容赦なく首の骨をかみ砕き、私のもとに全ての狼の死骸を持ってくる。
(これでしばらくは食料に困らないな)
「え? コレを食べるの?」
(もちろんだ。さあ、頭を撫でてくれ)
私の前でしゃがんで頭を向ける。頭が大きいから手で撫でるというよりも、両腕を使って撫でる。目の間の鼻筋を撫でられるのが好きみたいで、手を広げて擦るように撫でてやる。
(ゴロゴロ。ゴロゴロ。もっと~)
「お前は猫か!」
(俺は猫だぞ)
そうだった。今でこそ大きな獅子の聖獣だけど、昔はネコだった。
身寄りのない私はネコを飼っていて、溺愛していた。そして私が聖女となったあの日、コンティオールも聖獣となったんだ。
神官様の話では、私の愛情を一身に受けたため、体内に聖なる力が蓄えられ、私が聖女となった影響がコンティオールにも出たのだろう、と。
正直良くわからないけど、こうしてコンティオールと話ができるのは嬉しい。
「あれ? そういえば国はいいの? アナタは崇められてたじゃない。それが気分が良いって言っていたのに」
(うむ、確かに気分が良かったぞ。ネコだった俺を、あんなに大事に扱うんだからな)
流石に撫で疲れたから、地面に座ってコンティオールによりかかってる。
「私が聖女じゃなくなったから、コンティオールの聖獣としての力も、なくなっちゃうかもしれないのに。国にいれば神殿の力で維持できるんだよ?」
(確かに俺には国と聖女が必要だ。だから決めたんだ、この地に国を作るとな)
「国を……作る⁉」
(ロザリー、お前は追放されてしまったから、他の国に行っても聖女にはなれない。だからこの地に国を作り、そこで聖女となるのだ)
「で、でもこんな何もない所だよ? 人だって私しかいないんだよ⁉ それよりもコンティオールは国に戻って、次の聖女と一緒にいた方が確実だよ!」
(バカめが、言わせるなよ)
「何をよ!」
(俺はお前の聖獣だ。他の誰が聖女になっても変わらない。お前以外に従うつもりはない)
「コンティオール……うん、ごめんね、ありがとう」
顔に抱き付いて撫でた。こうして不毛の地ゴスライン荒野で、コンティオールの聖獣としての力を維持するための国作りが始まった。
「でも、一体どうするの? 硬い地面と岩しかないよ?」
(まぁ任せろ。しかしお前の協力も必要だぞ)
「うん、それはもちろん」
コンティオールは立ち上がると、何かを探すように地面の匂いを嗅ぎ始める。
しばらくすると前足で地面を掘り始め、直径一メートルくらいの穴が開いた。
(よしロザリー、力を貸してくれ)
「え? うん、わかった」
コンティオールに近づき、私はその体に手を当てる。
まだ残っている聖女の力をコンティオールに流し込む。
コンティオールが穴に顔を突っ込み、ひと咆えすると地震のように地面が揺れ、何かが動く音がした。
「わわっ! 何なに? なにしたの?」
(拠点を作ったんだ。日中はこの中で過ごし、夜になったら活動しよう)
拠点、と言っても……あ、さっきの穴が階段になって地下に続いてる。階段を下りると、そこには大きな部屋ができていた。五メートル四方で、高さは四メートルくらいかな?
「大きな部屋だ! こんなの作れるんだ!」
(聖獣だからな! ガッガッガッガ)
コンティオールはイノブルクにいた時と変わらず変な笑い方だけど、やっぱり聖獣の力は強力だ。
どんな魔法使いでも、一瞬でこんな部屋は作れないんじゃない?
(わずかだが聖なる力の地脈が流れている。ここで休めば多少は聖女の力も回復するだろう)
「コンティオールすごい! カッコイイ! 流石私の聖獣!」
絶望していたのが嘘みたい! これなら何とかなるかもしれないね!
嬉しくなってコンティオールに抱き付いた。
(ガッガッガ、惚れるなよ?)
「もう惚れた! べた惚れした!」
たてがみに顔を埋めて頬ずりした。もう、なんていい子なんでしょ!
外に放置してある狼の死骸の血抜きをして、皮を剥いでいろいろと処理をした。
保存食にするには乾燥させないといけないけど、日中に外に出しておけばできそうだね。
すっかり深夜を通り越し、そろそろ夜明けの時間だ。
日中は地下で寝る事にしたけど、地下って涼しいんだね、昨日の暑さが嘘みたい。
でも問題が発生した。
「喉が渇いたな……」
そう、暑さはしのげても、飲み物がない。水筒の水は、昨日の日中に飲み干してしまった……
(うむ、俺も喉が渇いたな。どれ、少し探してみるとするか)
ヘソを上に向けて寝ていたコンティオールが立ち上がり、またあちこちの匂いを嗅ぎ始めた。
部屋の中を歩き回り……あれ? 何だか部屋が大きくなってない?
コンティオールが歩く先の壁は拡張され、部屋は段々と大きくなっていく。
立ち止まると床に向けてひと咆えし、そこに底が見えないほど深い小さな穴が開いた。
何か音がする。何だろう……穴を覗き込むとゴボゴボと音がする。そして。
「わ! 水だ! 水が噴き出してきた!」
細い穴を伝って水が噴き上げ、小さな水たまりができた。
(よし、この水は飲めるようだな)
「流石だね、コンティオール! やっぱりアナタは最高だよ!」
私がたてがみに抱き付くと、コンティオールは嬉しそうに笑っている。
ん? あれ? 何だかたてがみの位置が低いような?
前はジャンプしないと顔に届かなかったのに、今は真横にある。
「……⁉ コンティオール⁉ アナタ小さくなってない⁉」
(うむ、流石に今ので力を使い過ぎたようだ。今夜は活動できそうにない)
そっか……聖なる力がなくなると、ただのネコに戻っちゃうんだった。
今は余力があるからいいけど私の力も多くないし、地脈から得る力は微々たるものだ。
あまり力の乱用はしない方がいい。
「よし! じゃあ今夜は私一人でがんばるね! コンティオールは休んでてよ」
(すまんな……明日には多少は良くなっているはずだ)
そう言ってコンティオールは水を飲み、地脈に沿うように横になる。
今晩は小さくても良いから領地を決めよう!
夜になり、私は階段を登って外に出た。
ううっ、寒い! 昼間は灼熱で夜は極寒。でも大丈夫、狼の毛皮でコートを作っておいた。
狼のコートを羽織ると、あったか~い。そりゃ狼は平気で夜も動き回れるよね。
転がっている石を手に取り、地下室のある辺りの地面に石で傷を付ける。
地面が硬くてなかなか傷が付かないけど、何とかスジが入り、地下室の大体の大きさがわかった。
「中にいても広いと思ったけど、こんなに大きかったんだ」
奥行き二十メートル、横幅十メートルはありそうだ。
水を探すために拡張し、ここまで大きくなったんだね。
さて、地下室は快適だからいいけど、地上にも建物がないと国の領地らしくない。
石を削ってブロック状にし、積み上げて簡単な建物を作ろう。
大岩はゴロゴロしてるから、それに両手で持てるサイズの石を投げつけて、どっちかが壊れれば上手くいくかな? そう思って岩を投げつけるけど……
「ゼー、ハー、ゼー、ハー。ぜ、全然壊れない……石ってこんなに硬いのね」
両手を地面について、極寒のこの地で汗を流していた。
狼のコートを脱ぎ捨てて今度は投げつけるのではなく、頭上に持ち上げて叩きつけた!
岩同士がぶつかり大きな音を立てるけど……その衝撃は私の手を痺れさせただけ。
「う~、う~、腕が痺れるぅ~」
あまりの衝撃の強さに、私の腕はしばらく使いものにならなかった。
「どうしよう。このままじゃ一生地下で暮らす事になっちゃう」
【岩を壊せばいいの?】
「うん。レンガのサイズになれば、積み上げるのが楽なんだけど。……誰⁉」
突然知らない声で話しかけられ、慌てて後ろを振り向くと……水が浮いている。
私の頭よりも大きな水の塊が、空中に浮いて私に話しかけてきた。
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水が波打つと表面に小さな突起が一つ現れ、そこから極細の水が噴き出して岩を切り裂く。
こ、声は可愛らしかったけど、この水って超危険な存在なんじゃないの⁉
突然話しかけてきたけど、一応私を手伝ってくれたんだよね? 岩がみるみるうちにレンガサイズに切り裂かれていく。
は! まさか【手伝ったお礼にお前の身体を捧げな】とか言われないわよね⁉
(変な妄想をしているところすまんが、危険なものではないから安心しろ)
「コンティオール。この水のことを知ってるの?」
いつの間にかコンティオールが外に出てきていた。
【あ、そういえば自己紹介してなかったね。ボクは水の精霊だよ】
「水の精霊さん?」
【うん! 今まではこの地に水がなくて寝ていたんだけど、水が湧いたから目が覚めたんだよ】
「へぇ、じゃあ水がもっと増えたら、水の精霊もいっぱい出てくるの?」
【残念だけど、大昔に水の精霊のほとんどは他の場所に行っちゃったんだ。その時ボクは精霊になりたてで、ココから動けなかったんだよ】
「そうだったのね。一人で寂しかったでしょ? よしよし」
私は手を伸ばして頭を撫でようとしたけど、どこが頭? えっと、ここらへんかな?
【えへへ、お姉ちゃんありがとう】
適当に手を当てたけど当たっていたみたい。撫でているとコンティオールが頭を割り込ませた。
「ちょ、ちょっとコンティオール、何やってるのよ」
何も言わず水の精霊を撫でている手に、頭を擦りつけてくる。
はっは~ん、焼きモチ焼いてるな? カワイイやつよのう。
もう片方の手でコンティオールの頭を撫でると、ゴロゴロと気持ちよさそうに地面に伏せた。ペットが二匹になったみたいだ。
「あ、私はロザリー、水の精霊さんの名前は?」
【名前? ボクには名前なんてないよ】
「そうなの? でも水の精霊って呼ぶのは味気ないし……オードスルスってどう?」
【オードスルス? うん! ボクの名前はオードスルスだよ!】
(俺はコンティオールだ。よろしくな)
【よろしくね、パパ!】
「パパ?」
【うん! パパが水を出してくれたから、ボクは目覚めたんだよ! だからパパ!】
(ま、まて。俺は子供がいるような年ではないぞ)
「コンティオールパパ? 頑張ってね」
コンティオールが嬉しいような困ったような顔をしているので、私達はそれを見て笑う。
ふとコンティオールが周囲を見回す。どうやらまた狼の群れが来ているみたい。
でもコンティオールがいれば問題はなさそう。
【パパ、どうしたの?】
(狼の群れが来ている。少し待っていろ、何匹か狩ってくる)
コンティオールはそう言って三匹ほど捕まえてきた。他の狼は逃げていったみたい。
「お疲れ様。また食料が増えたね」
(干し肉にしたら保存もきく。あって困りはしないだろう)
昨日の今日だけど、皮も使えるし食料にもなるから確かに困らない。
けれど、それから連日狼の群れが襲ってくるようになった。流石に肉も皮も余ってきたから、途中からは追い返すだけにしている。
そしてさらなる問題が発生した。
「うわーん! お肉ばっかり嫌だー! 野菜食べたい野菜食べたい!」
朝昼晩、肉ばっかりの生活を送っているけど、もー無理! 野菜! 果物!
地下室で駄々っ子みたいに暴れる。だってこうでもしなきゃ耐えられないよ!
【ごめんね、お姉ちゃん。ボク、水しか出せないから】
(しかし困ったな、こんな場所で野菜など手に入らないぞ)
「そうだ、畑を作ろう! 幸い肥料になりそうな肉も骨もあるし、動物の血液も肥料になるハズ!」
いても立ってもいられず、私はオードスルスに作ってもらった石のツルハシを持って外に飛び出した。うん、今日もいいお月さま! 最近は寒さにも慣れちゃった!
「よーっし、どんどん耕すぞ!」
何だろう、とっても力が湧いてくる! これは私に畑を作れという啓示ね!
テンションが上がりまくった私は、一晩で百平米を耕していた。
オードスルスにお願いして水を撒き、狼の食べられない部位を粉々にして畑に撒いた。
「やったー! これで野菜が食べ放題! さらば肉! ハロー野菜!」
畑を前に、私は万歳三唱した。
ちなみに石のレンガを大量生産(?)できた事で、地下室の出入り口二か所と地下室の真上には簡単ながらも壁と屋根ができている。
崩落しないか心配だったけど、地下室は聖なる力で保護されていて崩れないらしい。
「これで明日には野菜が食べられるね!」
(食べられるはずがないだろう。どれだけ急激に成長するんだ。そもそも種も蒔いていないのに)
気持ちよく額の汗を拭っていたら、コンティオールに現実を突きつけられた。
わ、わかってるわよ、そう考えでもしないと、この先の希望がないのよ!
【お姉ちゃん、パパ、何か来たよ】
オードスルスに言われて周りを見ると、相も変わらず狼の群れが来ていた。
何なんだろうこの狼達。毎日追い払われてたまに仲間を殺されているのに、平気で現れる。
やっぱり私達をエサとして見てるのかな。でも圧倒的な強さのコンティオールに対峙して、勝てると思っているの?
(ふむ……ロザリー、背中に乗れ)
「え? いつもみたいに追い払わないの?」
(追い払うさ、いいから乗れ。オードスルスは待っていろ)
【はーい】
オードスルスは元気よく返事した。
私がコンティオールの背中に乗ると、今日は狼を威嚇して追い払っただけだった。
何で私を背中に乗せたの?
狼の群れが逃げていくと、コンティオールが走り出す。
逃げた一匹を追いかけてるみたいだ。
「どうするの?」
(まあ黙って見ていろ。舌を噛むぞ)
慌てて口をつぐむ。そういえば以前、コンティオールの背中に乗った時に、舌を噛んだんだ。あれは痛かった……
狼の後ろを離れないままずいぶんと走った。
どうしたんだろう、狼に追いつけないなんて普段のコンティオールからは考えられない。
実はあの狼は足が速いのかな。
岩と硬い地面だけの荒野をひたすら走り続け、一時間近く過ぎた頃、月明かりに照らされて何かが見えてきた。
あれは……森? 小さな丘の上に、たくさんの木が生えている。こんな場所に森だなんて……いったいどういう事? よく見ると他の狼も森を目指して走っている。ここが狼の巣なの?
「どうしてあそこだけ森になってるの? 周りは荒野なのに」
(恐らくオアシスなのだろう。森の中心に水が出ていて、その周辺だけ植物が生えたのだ)
あーなるほど。
「あ! じゃあ家の周りにも木が生えてくるの⁉」
(何十年後かには、生えてくるかもしれないな)
何十年……待っていられません。
丘に到着し、森の中に逃げ込む狼をさらに追いかける。この丘は頂上付近が窪んでいて、そこに池があった。そしてその近くには……狼の群れがいた。
「ね、ねぇ、コンティオール? まさかアレを全部倒すとか言わないわよね?」
狼の群れは巨大で、百匹は下らない。
流石にあんな数を相手にしたら危険だし、襲ってこないならこちらから襲いたくはない。
(向こうの出方次第だ)
ですよね~。
コンティオールがゆっくり前に出ると、群れのリーダーらしき狼も前に出てきた。
私にはわからないけど、コンティオールと狼は何か会話をしているみたい。
コンティオールは人語を理解し、動物とも会話ができる。
でも人間でコンティオールの声が聞こえるのは、コンティオールが認めた人だけ。
私と、追放されたイノブルク王国では飼育係の数名だけだった。
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