137 / 139
第百三十七話
しおりを挟む
「シルビア? 本当に気が付いていないのかしら? それとも知っててとぼけているのかしら」
……なんの事でしょうか。
いえ、気が付いていないのではなく、気にしないようにしていました。
知っててとぼけていると思われても仕方がないでしょうね。
王宮のメイドに求められる能力は、メイドとしての基本能力はもちろん人として信頼できるかどうかが大切です。
その点でいえば私は全く問題ありません。
多くの貴族の下で働き、王子王女の元でも成果を出してきました。
信頼、能力、どちらともメイド長になる事が可能でしょう。
ですが問題が一つあります。
「フィガロさんを差し置いて私がメイド長になるには、どうしても超えられない壁があります」
「そうね。私は公爵家の三女。間違いなく貴族の血が流れているし、公爵家も長くエルグランド王国に仕えているから血筋は抜群に良いわね」
そうです。
元々王宮のメイドというのは貴族の次女や三女が少しでも良い出会いを求めて働くことが多いです。
平民もいますが、そちらは代々王宮に仕えている家族ぐるみのメイドや執事です。
完全に単独で王宮メイドになっているのは極わずか。
それに対して私は五歳の時に口減らしで男爵家に安く売られ、悪魔教の生贄リストにまで載っています。
普通のメイドならいいでしょう、しかしメイド長となると貴族令嬢の上の立場になってしまいます。
「やはり、無理だと考えます」
「その無理は立場の事よね? それなら何とでもなるから安心してちょうだい。つまり立場さえしっかりしたら問題は無いと、結論が出たんでしょう?」
「……それが一番の問題ではないでしょうか」
「ふふふ、今はそれが聞ければ十分だわ。ありがとうシルビア」
その後はフィガロさんの事や私の事、お互いの事を色々と話し合いました。
こうして自分の事や他人の事を話すなんてどれだけぶりでしょうか。
学園でプリメラやリバティ様と話をして以来じゃないかしら。
翌日になり、私は会議室に呼ばれて今回の作戦の成否を聞きました。
作戦は大成功。
グロリア様とシーマ様が行った作戦、それは反対連合の大国であるアフトヴァース国の瓦解作戦です。
アフトヴァース国は今でも複数の国が一つになった連邦国家ですが、そのアフトヴァース国の中にある複数の国におもむき、アフトヴァース国からの離反を進めたのです。
結果、まとめて一つの国扱いされていた国々は次々と反旗を翻し、中枢国だったアフトヴァースとワズ国以外は全て独立してしまいました。
私がつぶやいた「たとえ侵略が成功したとしても当時を生きていた人なんてもう居ないのですから、文化も人も違うのに一つにまとまるはずがない」から、侵略により連邦国家を作っていた事を利用して今回の作戦が出来た様です。
今回の離反劇でアフトヴァース国の国力は半分以下になり、軍事的・地理的にも大変な痛手となった事でしょう。
これにより参加希望連合の二国の要望である戦争の回避は達成、そして急いで統括的軍事同盟に参加する必要もなくなったため、反対連合の二国の言い分も達成しました。
統括的軍事同盟の言い分は滅茶苦茶なので無視でいいでしょう。
どこも戦争を起こさず、統括的軍事同盟に入る事も無く、少々反対連合の二国への対処は強引でしたが、離反した国々とは今後仲良くやっていけるでしょう。
エルグランド王国としては満点に近い結果ではないでしょうか。
各地へ散らばっていた殿下達も続々と帰還し、それぞれの健闘をたたえています。
ふぅ、これで一安心ですね。私がメイド長になる話も無くなるでしょうし、もう少し落ち着けば通常運行になるでしょう。
「シルビア……ただいま」
「お帰りなさいませセドリック様」
リック様がお帰りになり、会議室に入るなり私に帰還の挨拶をします。
本来ならばグロリア様にしなくてはいけませんが、たまたま入り口近くに私がいた事と、お疲れですので目に入った私に挨拶をしたのでしょうか。
おや? なぜ私の正面に立っているのですか? なぜ片膝をつくのですか??
「シルビア……今回の作戦が終わったら言おうと思っていた事……今伝えるよ」
「は、はい!? ななな、なんでしょうか?」
「シルビア……僕と結婚して欲しい」
会議室内が騒がしくなります。
驚いている、というよりも喜んでいるようです。
ええ、喜んでいます、私、私? 私はこんなに胸の鼓動が激しくなることがあるんですね、自分でもビックリしています。
そして嬉し過ぎて涙を流してしまいました。
「シルビア……返事を……き、聞かせてほしい」
口元を抑えていた両手をゆっくりおろし、涙を拭きながら答えます。
「わたっ、わたしっは、り、リッ」
こ、言葉が出てきません! 嬉しいんです! 早く返事をしたいんです! ですが言葉が出てきません! それに私は平民、リック様は王族、返事をしたいのにしたくない、言ってしまえば終わってしまいます、曖昧な関係ではいられなくなってしまいます!!
……なんの事でしょうか。
いえ、気が付いていないのではなく、気にしないようにしていました。
知っててとぼけていると思われても仕方がないでしょうね。
王宮のメイドに求められる能力は、メイドとしての基本能力はもちろん人として信頼できるかどうかが大切です。
その点でいえば私は全く問題ありません。
多くの貴族の下で働き、王子王女の元でも成果を出してきました。
信頼、能力、どちらともメイド長になる事が可能でしょう。
ですが問題が一つあります。
「フィガロさんを差し置いて私がメイド長になるには、どうしても超えられない壁があります」
「そうね。私は公爵家の三女。間違いなく貴族の血が流れているし、公爵家も長くエルグランド王国に仕えているから血筋は抜群に良いわね」
そうです。
元々王宮のメイドというのは貴族の次女や三女が少しでも良い出会いを求めて働くことが多いです。
平民もいますが、そちらは代々王宮に仕えている家族ぐるみのメイドや執事です。
完全に単独で王宮メイドになっているのは極わずか。
それに対して私は五歳の時に口減らしで男爵家に安く売られ、悪魔教の生贄リストにまで載っています。
普通のメイドならいいでしょう、しかしメイド長となると貴族令嬢の上の立場になってしまいます。
「やはり、無理だと考えます」
「その無理は立場の事よね? それなら何とでもなるから安心してちょうだい。つまり立場さえしっかりしたら問題は無いと、結論が出たんでしょう?」
「……それが一番の問題ではないでしょうか」
「ふふふ、今はそれが聞ければ十分だわ。ありがとうシルビア」
その後はフィガロさんの事や私の事、お互いの事を色々と話し合いました。
こうして自分の事や他人の事を話すなんてどれだけぶりでしょうか。
学園でプリメラやリバティ様と話をして以来じゃないかしら。
翌日になり、私は会議室に呼ばれて今回の作戦の成否を聞きました。
作戦は大成功。
グロリア様とシーマ様が行った作戦、それは反対連合の大国であるアフトヴァース国の瓦解作戦です。
アフトヴァース国は今でも複数の国が一つになった連邦国家ですが、そのアフトヴァース国の中にある複数の国におもむき、アフトヴァース国からの離反を進めたのです。
結果、まとめて一つの国扱いされていた国々は次々と反旗を翻し、中枢国だったアフトヴァースとワズ国以外は全て独立してしまいました。
私がつぶやいた「たとえ侵略が成功したとしても当時を生きていた人なんてもう居ないのですから、文化も人も違うのに一つにまとまるはずがない」から、侵略により連邦国家を作っていた事を利用して今回の作戦が出来た様です。
今回の離反劇でアフトヴァース国の国力は半分以下になり、軍事的・地理的にも大変な痛手となった事でしょう。
これにより参加希望連合の二国の要望である戦争の回避は達成、そして急いで統括的軍事同盟に参加する必要もなくなったため、反対連合の二国の言い分も達成しました。
統括的軍事同盟の言い分は滅茶苦茶なので無視でいいでしょう。
どこも戦争を起こさず、統括的軍事同盟に入る事も無く、少々反対連合の二国への対処は強引でしたが、離反した国々とは今後仲良くやっていけるでしょう。
エルグランド王国としては満点に近い結果ではないでしょうか。
各地へ散らばっていた殿下達も続々と帰還し、それぞれの健闘をたたえています。
ふぅ、これで一安心ですね。私がメイド長になる話も無くなるでしょうし、もう少し落ち着けば通常運行になるでしょう。
「シルビア……ただいま」
「お帰りなさいませセドリック様」
リック様がお帰りになり、会議室に入るなり私に帰還の挨拶をします。
本来ならばグロリア様にしなくてはいけませんが、たまたま入り口近くに私がいた事と、お疲れですので目に入った私に挨拶をしたのでしょうか。
おや? なぜ私の正面に立っているのですか? なぜ片膝をつくのですか??
「シルビア……今回の作戦が終わったら言おうと思っていた事……今伝えるよ」
「は、はい!? ななな、なんでしょうか?」
「シルビア……僕と結婚して欲しい」
会議室内が騒がしくなります。
驚いている、というよりも喜んでいるようです。
ええ、喜んでいます、私、私? 私はこんなに胸の鼓動が激しくなることがあるんですね、自分でもビックリしています。
そして嬉し過ぎて涙を流してしまいました。
「シルビア……返事を……き、聞かせてほしい」
口元を抑えていた両手をゆっくりおろし、涙を拭きながら答えます。
「わたっ、わたしっは、り、リッ」
こ、言葉が出てきません! 嬉しいんです! 早く返事をしたいんです! ですが言葉が出てきません! それに私は平民、リック様は王族、返事をしたいのにしたくない、言ってしまえば終わってしまいます、曖昧な関係ではいられなくなってしまいます!!
253
お気に入りに追加
1,742
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。
とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。
「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」
だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。
追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は?
すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。
小説家になろう、他サイトでも掲載しています。
麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる