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第百三十七話

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「シルビア? 本当に気が付いていないのかしら? それとも知っててとぼけているのかしら」

 ……なんの事でしょうか。
 いえ、気が付いていないのではなく、気にしないようにしていました。
 知っててとぼけていると思われても仕方がないでしょうね。
 王宮のメイドに求められる能力は、メイドとしての基本能力はもちろん人として信頼できるかどうかが大切です。
 その点でいえば私は全く問題ありません。
 多くの貴族の下で働き、王子王女の元でも成果を出してきました。
 信頼、能力、どちらともメイド長になる事が可能でしょう。
 ですが問題が一つあります。

「フィガロさんを差し置いて私がメイド長になるには、どうしても超えられない壁があります」

「そうね。私は公爵家の三女。間違いなく貴族の血が流れているし、公爵家も長くエルグランド王国に仕えているから血筋は抜群に良いわね」

 そうです。
 元々王宮のメイドというのは貴族の次女や三女が少しでも良い出会いを求めて働くことが多いです。
 平民もいますが、そちらは代々王宮に仕えている家族ぐるみのメイドや執事です。
 完全に単独で王宮メイドになっているのは極わずか。
 それに対して私は五歳の時に口減らしで男爵家に安く売られ、悪魔教の生贄リストにまで載っています。
 普通のメイドならいいでしょう、しかしメイド長となると貴族令嬢の上の立場になってしまいます。

「やはり、無理だと考えます」

「その無理は立場の事よね? それなら何とでもなるから安心してちょうだい。つまり立場さえしっかりしたら問題は無いと、結論が出たんでしょう?」

「……それが一番の問題ではないでしょうか」

「ふふふ、今はそれが聞ければ十分だわ。ありがとうシルビア」

 その後はフィガロさんの事や私の事、お互いの事を色々と話し合いました。
 こうして自分の事や他人の事を話すなんてどれだけぶりでしょうか。
 学園でプリメラやリバティ様と話をして以来じゃないかしら。

 翌日になり、私は会議室に呼ばれて今回の作戦の成否を聞きました。
 作戦は大成功。
 グロリア様とシーマ様が行った作戦、それは反対連合の大国であるアフトヴァース国の瓦解作戦です。
 アフトヴァース国は今でも複数の国が一つになった連邦国家ですが、そのアフトヴァース国の中にある複数の国におもむき、アフトヴァース国からの離反を進めたのです。

 結果、まとめて一つの国扱いされていた国々は次々と反旗を翻し、中枢国だったアフトヴァースとワズ国以外は全て独立してしまいました。
 私がつぶやいた「たとえ侵略が成功したとしても当時を生きていた人なんてもう居ないのですから、文化も人も違うのに一つにまとまるはずがない」から、侵略により連邦国家を作っていた事を利用して今回の作戦が出来た様です。

 今回の離反劇でアフトヴァース国の国力は半分以下になり、軍事的・地理的にも大変な痛手となった事でしょう。
 これにより参加希望連合の二国の要望である戦争の回避は達成、そして急いで統括的軍事同盟に参加する必要もなくなったため、反対連合の二国の言い分も達成しました。
 統括的軍事同盟の言い分は滅茶苦茶なので無視でいいでしょう。

 どこも戦争を起こさず、統括的軍事同盟に入る事も無く、少々反対連合の二国への対処は強引でしたが、離反した国々とは今後仲良くやっていけるでしょう。
 エルグランド王国としては満点に近い結果ではないでしょうか。
 各地へ散らばっていた殿下でんか達も続々と帰還し、それぞれの健闘をたたえています。
 ふぅ、これで一安心ですね。私がメイド長になる話も無くなるでしょうし、もう少し落ち着けば通常運行になるでしょう。

「シルビア……ただいま」

「お帰りなさいませセドリック様」

 リック様がお帰りになり、会議室に入るなり私に帰還の挨拶をします。
 本来ならばグロリア様にしなくてはいけませんが、たまたま入り口近くに私がいた事と、お疲れですので目に入った私に挨拶をしたのでしょうか。
 おや? なぜ私の正面に立っているのですか? なぜ片膝をつくのですか??

「シルビア……今回の作戦が終わったら言おうと思っていた事……今伝えるよ」

「は、はい!? ななな、なんでしょうか?」

「シルビア……僕と結婚して欲しい」

 会議室内が騒がしくなります。
 驚いている、というよりも喜んでいるようです。
 ええ、喜んでいます、私、私? 私はこんなに胸の鼓動が激しくなることがあるんですね、自分でもビックリしています。
 そして嬉し過ぎて涙を流してしまいました。

「シルビア……返事を……き、聞かせてほしい」

 口元を抑えていた両手をゆっくりおろし、涙を拭きながら答えます。

「わたっ、わたしっは、り、リッ」

 こ、言葉が出てきません! 嬉しいんです! 早く返事をしたいんです! ですが言葉が出てきません! それに私は平民、リック様は王族、返事をしたいのにしたくない、言ってしまえば終わってしまいます、曖昧な関係ではいられなくなってしまいます!!
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