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第十一話
しおりを挟む 試験発表から私の周辺は騒がしくなりました。
男子生徒のみならず、女生徒や教員まで寮に来た時はどうしようかと思いました。
でもしばらくしたら落ち着くでしょう。
「シルビア、礼儀作法の先生がぼやいていたわよ。「よりにもよってどうして私の試験の時に」って」
学校帰り、プリメラがそんな事をいってきました。
どうやら試験を受けなかった事を言っているようです。
「それを私に言われてもどうしようもありませんが、私は礼儀作法は得意ではありませんし、やはり生徒を奪われた気になるのでしょうか」
「違うわよ。あなたって元男爵の下でどんな教育を受けてきたの? あの先生が講義で注意をしないなんてアナタくらいよ?」
「? 真面目に講義を受けているからでは?」
「ワタクシだって真面目に受けているわよ!」
「すみませんそういう意味では」
「うんわかってる。わ・ざ・と」
ペロリと舌を出して笑っています。
ええ分かっていますとも、わかってて言いましたから。
そんなじゃれ合いのような話をしながら街を歩いていると、ふと何かが視界の隅に入った。
「どうしたのシルビア、いきなりどこを見てるの?」
「いえ、見たことのある人がいたように感じたのですが、気のせいだったようです」
「そう? あ、あのお店に入るわよ! あのアクセサリー見てみたいわ!」
それから数日間あの人を見かけた、やっぱり気のせいでは……ないの?
「シルビア! いい加減に教えてもらうわよ。一体誰を見たっていうの?」
寮の自室での夕食中、遂にプリメラがしびれを切らしました。
意識しないようにしていたけど、やっぱり態度に出ていたみたい。
「実は……元男爵を見ました」
「元男爵? シルビアが仕えていたポルテ元男爵の事?」
「はい。最初は他人の空似かと思いましたが、ここ数日間毎日見るようになりましたから間違いないと思います」
「ちょっと待ってよ、ポルテ元男爵は捕らえられたんじゃないの? 貴族の役割を果たさず遊び惚けてたんでしょ?」
「そのはずですが、私が知っているのは男爵家が取り潰しになった所までです。その後に捕らえられたという話しは聞いていません」
「シルビア、まさか逃げおおせてると思ってる?」
「元男爵一人では無理でしょう。しかし協力者が居たら……」
「それこそまさかよ! そんな事が出来るのは貴族だけ! しかもかなり有力な貴族じゃないと無理だわ!」
「そうですよね、普通に考えれば無理に決まっています。やっぱり他人の空似だったのでしょう。すみません、変な事を口走ってしまって」
少々強引に話を終わらせました。
これ以上プリメラに変な気を使わせるのは嫌だし、何よりも私が嫌だった。
私は今だに元男爵に縛られているのだろうか。
さらに数日が過ぎた頃、プリメラのお父様、アベニール辺境伯に呼ばれました。
アベニール様はご自分の領地にいると思っていたけど、今の時期は王都に滞在しているとの事だ。
そして呼ばれた理由だけど。
「ポルテ元男爵だが、どうやらサクシード侯爵の屋敷にいるという噂だ」
王都にあるアベニール様の屋敷にいくと居間に通されてそんな事を言われた。
「じゃあお父様、シルビアが見たっていうポルテ元男爵は本当にポルテ元男爵だったっていう事ですか?」
「実際にワシが見たわけではないが、その可能性は高いだろう」
元男爵が……王都にいる?
動悸が激しくなる、息が荒く、目の焦点が合わなくなる。
あれ? どうしたの私、確かに元男爵は苦手だったけど、こんな状態になる程だったの? だって元主人よ?
「……ビア」
目の前が歪む。
「シル……」
元男爵の声や顔を思い出し、吐き気を催す。
「シルビア!」
「は! プリメラ……どうしたんですか?」
「どうしたじゃないわよ! あなた顔が真っ青じゃない! 今にも倒れそうだわ」
顔が真っ青で倒れそう? そんなはずはありません、元男爵家で辛い日々を送っていても倒れた事など無いのだから。
「どうやらシルビアは心的外傷になっている様だな」
「トラウマ、ですか?」
「そうだ、兵士は戦場にいる時は何ともない。しかし街に戻ってきたら戦場の事を思い出して苦しむのだ。戦場から離れて初めて心の傷に気が付くのだ」
私は心に傷を負っている? 楽しく充実した日々を送っているのに、その傷は癒えていなかったのね。
じゃあ私はずっと元男爵の陰に怯えて暮らすの?
「しかしお父様、サクシード侯爵は元男爵をかばってどうするつもりですか?」
「わからん。調べてはいるが正直ポルテ元男爵の良いウワサを聞いた事が無いし、むしろ悪いウワサしかない。サクシード侯爵がかばう理由がわからんのだ」
サクシード侯爵と元男爵の関係……私の知識にはありませんが、ひょっとしたらあそこにならあるかもしれない。
「アベニール様、元男爵の屋敷の寝室、あそこに代々受け継がれている鉄の箱があります。鍵が無くて開けれませんが、ひょっとしたら中に手掛かりがあるかもしれません」
「そんな物があるのか? 屋敷は調べ尽くしたはずだが、そんな箱があるのなら確かめてみる価値はあるな。ラシーンに連絡を取ろう」
私を縛り付ける元男爵を振りほどくためには、何かきっかけが必要です。
サクシード侯爵との関係がわかれば少しは前進するかもしれません!
男子生徒のみならず、女生徒や教員まで寮に来た時はどうしようかと思いました。
でもしばらくしたら落ち着くでしょう。
「シルビア、礼儀作法の先生がぼやいていたわよ。「よりにもよってどうして私の試験の時に」って」
学校帰り、プリメラがそんな事をいってきました。
どうやら試験を受けなかった事を言っているようです。
「それを私に言われてもどうしようもありませんが、私は礼儀作法は得意ではありませんし、やはり生徒を奪われた気になるのでしょうか」
「違うわよ。あなたって元男爵の下でどんな教育を受けてきたの? あの先生が講義で注意をしないなんてアナタくらいよ?」
「? 真面目に講義を受けているからでは?」
「ワタクシだって真面目に受けているわよ!」
「すみませんそういう意味では」
「うんわかってる。わ・ざ・と」
ペロリと舌を出して笑っています。
ええ分かっていますとも、わかってて言いましたから。
そんなじゃれ合いのような話をしながら街を歩いていると、ふと何かが視界の隅に入った。
「どうしたのシルビア、いきなりどこを見てるの?」
「いえ、見たことのある人がいたように感じたのですが、気のせいだったようです」
「そう? あ、あのお店に入るわよ! あのアクセサリー見てみたいわ!」
それから数日間あの人を見かけた、やっぱり気のせいでは……ないの?
「シルビア! いい加減に教えてもらうわよ。一体誰を見たっていうの?」
寮の自室での夕食中、遂にプリメラがしびれを切らしました。
意識しないようにしていたけど、やっぱり態度に出ていたみたい。
「実は……元男爵を見ました」
「元男爵? シルビアが仕えていたポルテ元男爵の事?」
「はい。最初は他人の空似かと思いましたが、ここ数日間毎日見るようになりましたから間違いないと思います」
「ちょっと待ってよ、ポルテ元男爵は捕らえられたんじゃないの? 貴族の役割を果たさず遊び惚けてたんでしょ?」
「そのはずですが、私が知っているのは男爵家が取り潰しになった所までです。その後に捕らえられたという話しは聞いていません」
「シルビア、まさか逃げおおせてると思ってる?」
「元男爵一人では無理でしょう。しかし協力者が居たら……」
「それこそまさかよ! そんな事が出来るのは貴族だけ! しかもかなり有力な貴族じゃないと無理だわ!」
「そうですよね、普通に考えれば無理に決まっています。やっぱり他人の空似だったのでしょう。すみません、変な事を口走ってしまって」
少々強引に話を終わらせました。
これ以上プリメラに変な気を使わせるのは嫌だし、何よりも私が嫌だった。
私は今だに元男爵に縛られているのだろうか。
さらに数日が過ぎた頃、プリメラのお父様、アベニール辺境伯に呼ばれました。
アベニール様はご自分の領地にいると思っていたけど、今の時期は王都に滞在しているとの事だ。
そして呼ばれた理由だけど。
「ポルテ元男爵だが、どうやらサクシード侯爵の屋敷にいるという噂だ」
王都にあるアベニール様の屋敷にいくと居間に通されてそんな事を言われた。
「じゃあお父様、シルビアが見たっていうポルテ元男爵は本当にポルテ元男爵だったっていう事ですか?」
「実際にワシが見たわけではないが、その可能性は高いだろう」
元男爵が……王都にいる?
動悸が激しくなる、息が荒く、目の焦点が合わなくなる。
あれ? どうしたの私、確かに元男爵は苦手だったけど、こんな状態になる程だったの? だって元主人よ?
「……ビア」
目の前が歪む。
「シル……」
元男爵の声や顔を思い出し、吐き気を催す。
「シルビア!」
「は! プリメラ……どうしたんですか?」
「どうしたじゃないわよ! あなた顔が真っ青じゃない! 今にも倒れそうだわ」
顔が真っ青で倒れそう? そんなはずはありません、元男爵家で辛い日々を送っていても倒れた事など無いのだから。
「どうやらシルビアは心的外傷になっている様だな」
「トラウマ、ですか?」
「そうだ、兵士は戦場にいる時は何ともない。しかし街に戻ってきたら戦場の事を思い出して苦しむのだ。戦場から離れて初めて心の傷に気が付くのだ」
私は心に傷を負っている? 楽しく充実した日々を送っているのに、その傷は癒えていなかったのね。
じゃあ私はずっと元男爵の陰に怯えて暮らすの?
「しかしお父様、サクシード侯爵は元男爵をかばってどうするつもりですか?」
「わからん。調べてはいるが正直ポルテ元男爵の良いウワサを聞いた事が無いし、むしろ悪いウワサしかない。サクシード侯爵がかばう理由がわからんのだ」
サクシード侯爵と元男爵の関係……私の知識にはありませんが、ひょっとしたらあそこにならあるかもしれない。
「アベニール様、元男爵の屋敷の寝室、あそこに代々受け継がれている鉄の箱があります。鍵が無くて開けれませんが、ひょっとしたら中に手掛かりがあるかもしれません」
「そんな物があるのか? 屋敷は調べ尽くしたはずだが、そんな箱があるのなら確かめてみる価値はあるな。ラシーンに連絡を取ろう」
私を縛り付ける元男爵を振りほどくためには、何かきっかけが必要です。
サクシード侯爵との関係がわかれば少しは前進するかもしれません!
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