【完結】男爵令嬢が気にくわないので追放したら、魔族に侵略されました

如月ぐるぐる

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20話

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 ◆魔界・支配者の城 マイヤー元男爵改め、マイヤー辺境伯◆

「ん? この階段かな?」

「そうね、これが最上階まで続いていそう」

 2人そろって階段を登っている。もちろん空を飛ぶことはできるのだが、それでは新婚旅行にならないので、しっかりと観光を忘れていない。

 前回の支配者の城との違いを楽しんでいるようだ。

 長い螺旋階段を登り、そろそろ景色にも飽きてきた頃に最上階に到着した。

「貴様らが、マイヤー、の家か?」

 最上階は思ったよりも広く、奥は暗くて見えない。

 しかし声は奥から聞こえてくる。

「こんな所で人の言葉が聞けるなんてね。今の支配者かい?」

「そう、だ。お前たち、を、倒すために、私が、生まれた」

 その声は枯れたような年寄りの声だが、なぜか2人が同時に喋っているようにダブって聞こえる。

「私達を? それは光栄だわ。だとしたら、悪魔の割には随分と若いのね」

 2人が奥に進むと、徐々に目が慣れてきて、声の主の姿が見えてきた。

 魔界の支配者は、精々10歳を過ぎたばかりの男の子、人間の子供の様だった。

「あら、あらあらあら、アナタ、これはどういう事かしら。子供なのにお爺さんみたいな声だし、悪魔なのに人間だわ」

「これは初めて見るな。服装も子供用だし、見た目だけでは悪魔には到底見えない」

「驚いた、か? 我が、真の支配者、だ」

 玉座で頬杖をつき、足を組んでいる子供。控えめに言ってカワイイ。

「キャー! アナタ! この子カワイイわ!!」

 魔界の支配者に走り寄り、両手で支配者の顔を挟み込むカタリナ。

 支配者の顔はタコのようになっている。

「やめんか!」

 必死にカタリナの手をどかす支配者。

「お前たちはいつもそうだ! 悪魔を悪魔と思わない所業……どれだけ悪魔が傷ついたと思っている!!」

 悪魔の悲痛な叫びが広間にこだまする。

 悪魔……不憫な子。

「そう言われても困るな。お前たち悪魔が弱いからいけないんだろう?」

「我々は弱くない! お前たちマイヤー家が強いだけだ!」

「それは理解しているけれど、だからと言って八つ当たりはいけないわ」

「く、くくくく、八つ当たりだと? それは今までの支配者が無能だったからだ! 私は違う! お前たちを研究し尽くして、お前たちの秘密にたどり着いたのだ!」

 マイヤー家の秘密……もしそれが本当ならば、マイヤー家と言えど油断は出来ないだろう。

 2人も流石に緊張を隠せず、生唾を飲む。

「お前たちの秘密、それは……人間だからだ!!!!」

 ……ニンゲン? してやったりな顔で指差す支配者に対し、頭が付いて行かない2人。

 人間だから……そこにどんな秘密があるのだろうか。

「きっと人間の体には秘密があるのだ。だから私は人間の体に受肉し、お前たちとの力の差を無くすことに成功したのだ!!」

「……人間の体だから、私達が強いと?」

「そうだ!」

「私達以外の人間は弱いわよ?」

「……え?」

 この悪魔、頭が良いと思ったらとんでもないポンコツだ。

 そしてもう一度支配者の顔を手で挟み込むカタリナ。

「……アナタ!! この子、本当に人間だわ! 魔力は高いけど、まごう事なき人間だわ!」

「なんと、支配者の意思が人に受肉するとは……なんとバカなのだ」

「ば、バカとはなんだバカとはぁ!」

 タコ顔で必死に抵抗する支配者。しかし少し力を入れたカタリナの手を外す事が出来ないでいる。

「ど、どうして? どうして人の体なのにこんなに弱いのだー!」

「お前、魔族たちに人を襲うように命令したんじゃないのか? 人間は弱いから、と」

「もちろんだ! 人は脆い、低級魔族でも簡単に……あ」

 やっと気づいたようだ。

 そして、自分のしてしまった事に絶望し、体を震わせている。

「じゃあ、じゃあマイヤー家はどうして……?」

「血筋だ」

「突然変異よ」

 マイヤー辺境伯は血筋、カタリナは一般市民として生まれ、特異な能力を発揮する突然変異だ。

 その言葉を聞いて、血の気が引いて行く支配者。もう……見ていられない。

「でもおかしいわね。こんなに弱い支配者なのに、どうして部下の悪魔は強かったのかしら」

「恐らくだが、支配者としての能力が、すべて悪魔に分散されてしまったのだ。だからこれほど無能力な支配者が出来てしまったんだろう」

 今度はマイヤー辺境伯に頬をつつかれている。

 すべての悪魔が強力になるほどの支配者の力。それらすべてを失った支配者は、もうどこからどう見ても普通の子供でしかなかった。

「や、やめろっ、やめろー!」

 大声を出して魔力を放出する。が、全てカタリナに吸収されてしまう。

「う~ん、ジェニファーの方が魔力が強いわね」

「いまので全力か? それだと宮廷魔術師と同程度しかないな」

 つまり、普通の人間よりも強い程度の魔力だ。……不憫なり。

「アナタ、私ね……男の子が欲しいわ」

 カタリナは頬を赤らめている。

「奇遇だな、私もだ」

 妙に張り切っているマイヤー辺境伯。

 そうして支配者(笑)の城を出て、2人は仲良く腕を組み、殲滅完了した夜の街に消えて行った。

 一人取り残された支配者はへたり込み、2人に手を伸ばそうとして、ガクリとうな垂れるのだった。
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