【完結】男爵令嬢が気にくわないので追放したら、魔族に侵略されました

如月ぐるぐる

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19話

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 ◆魔界・マイヤー元男爵夫妻◆

「今回の支配者は、随分と豪華絢爛な城を作ったものだな」

「あ、アナタアナタ、ほらほらアレ、あれは歴代支配者じゃないかしら」

 最上階の少し下の階で、2人は大きな部屋の中で彫像を見つけた。

 そこには以前2人が倒した支配者と、恐らくはそれ以前の支配者であろう銅像が並んでいる。

 人型が多い様だが、中には4つ足や、丸い体に巨大な目玉がある者まで、実に様々だ。

「これは面白いな! 随分と精巧に作られているぞ」

「悪魔にも銅像なんて文化があったのね」

 そして、2人が倒した隣には、まだ像の無い土台だけが置かれている。

 台座には文字が刻まれているが、悪魔の文字なのか読めない。

「台座だけなのに、随分と豪華ね」

「歴代支配者の中でも、自分は特別だ、と言わんばかりだな」

「でも……悪魔って弱いくせに、どうして人間界を支配したがるのかしら」

「カタリナ、私達家族を基準にしてはいけないよ。ジェニファーですら装備を整えれば、支配者は無理でも、門番くらいは平気で倒せるだろう。しかし普通の人は……」

「そ、そうだったわね。ついつい3人で居る時間が長いから、それを基準に考えてしまったわ」

「私達ですら勘違いしてしまいそうになるんだ、ジェニファーは大変だろうなぁ」

 ◆王城・謁見の間 ジェニファー元男爵令嬢◆

「魔族は……強いのですか?」

 陛下が、ハインツ様が、3大公爵が、大きくうなずく。

「じゃあ私は……?」

「マイヤー家の血を色濃く受け継ぎ、悪魔をしのぐ力を持つ特別な存在じゃ」

 !!!!!!!

 し、知らなかったー! 私ってそんな危険人物だったの!?

 だってお父さまもお母さまも、弱いうちは力の制御をしっかりできるようになれ、って、私が弱い事前提で話をしているんだもの!

 じゃあ、じゃあこんな私をお嫁に貰ってくれる人なんて……はう!

 気を失いそうになる私を、ハインツ様が支えて下さった。

「大丈夫かいジェニファー。すぐには理解できなくても、ゆっくり理解していけばいいさ」

「ハインツ様……ハインツ様は、私が怖くないんですか?」

「ん? 私にとっては、ジェニファーはいつもカワイイ女の子だよ?」

 キュンときた。

 はぁ、やっぱりハインツ様はお優しいな。

 優しくてカッコよくて、私がマイヤー家じゃなければ、間違いなく求婚してた。

「ありがとうございます、ハインツ様」

 私の肩をを支えてくれてる手を握り、ハインツ様と見つめ合う。

 ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。

 でもそんな時間は直ぐに終わってしまう。

 ハインツ様は私を立たせ、意を決したような表情で、陛下に進言した。

「父上! お願いがあります! 私を王太子の座から……」

「だまれハインツ」

「父上!」

「今はその様な話をしている場合ではない!」

 ハインツ様が何を進言しようとしたのか、どうして陛下は頑なになられるのか、確かに今は国を護る事に専念しなきゃいけないけど。

 無下にされて、険しい顔で元の場所に戻るハインツ様。

 ハインツ様、もしも、もしも私の事でそんな表情になったのなら、私の事など気になさらないでください。

 王太子は国を継ぐ者。無くてはならない存在なのですから。

「対魔族については暫く気にする必要は無いだろう。かねてより懸念しておった件の話をしよう」

「へ、陛下? 対魔族の軍議はよろしいのですか? 今すぐには来なくても、魔界の門が開いている以上、しばらくしたら襲ってくるのではありませんか?」

 シャンク公爵の心配ももっともで、今はさっきの上級魔族のいう通り、しばらくはこの街に襲ってはこないだろう。

 でもその後は? 魔の森からは魔族が出続けているはずなのに。

「恐らくそろそろ終わるだろう。マイヤー元男爵が魔界に入って数日、以前ならすでに支配者を倒して戻って来ておる。今回も、遅くとも後数日で終わるじゃろう」

「そそそ、その様な希望的観測ではいけませんぞ陛下! ここは引き続き対魔族の軍議を優先させませんと!」

「ジェニファー嬢がいれば問題は無かろうよ。シャンク公爵、随分と他の話をしたく無い様だが、何かあったのか?」

 シャンク公爵……娘のローラ様を心配しているのか顔色が悪い。

 そうよね、気がふれたって話だし、今後は大変になるだろうな。

「な、何の事でございましょうか!? 私には何も悪いところなどございませぬ!」

 悪い所……? 何の話?

「ほほぉ、悪い所が無いと申すか。では私が教えてしんぜよう」

 あ、あれ? 陛下が恐い顔をしたかと思うと、不敵に笑った。

「シャンク公爵、貴公の罪は2つ。1つは国防の最重要人物であるマイヤー家を追放した事。そしてもう1つは、宝石の産出量を不正操作し、物流を滞らせたことじゃ」

「で、ですからそれは! マイヤー家の事は機密事項でしたし、男爵に対しては、私には決定権がございます! 宝石は……宝石は……その」

「そうか、ではシャンク公爵よ、マイヤーを追放した罪はどうするのじゃ?」

「へ、辺境伯……ですと?」

「そうじゃ、以前よりワシは、マイヤー家にはもっと高い爵位が必要だと考えていてな、諸国をまわり終えたらマイヤー元男爵と相談するつもりだったのじゃ。それを、お前は台無しにしてしまったな?」

 辺境伯? 確か辺境伯って公爵・侯爵に次いで第3位の爵位だっけ?

 確か国防に最重要な人物が受勲する爵位のはず。

 あ、魔の森からの守護か。

「へ、辺境伯!? そんな、辺境伯は陛下の勅命以外は拒否権がある……では、追放してしまった私は一体!!」

「ワシからは何も言えんな。マイヤー辺境伯が戻ったら、改めて相談するとしよう」

 シャンク公爵がガックリとうなだれる。

 な、なんだかカワイソウだけど、私が口出しする事でもないし。

「続いて宝石の産出量じゃが」

 シャンク公爵がビクッと反応し、恐る恐る顔を上げる。

「これは国家事業だから、お主の行為は国家への反逆ともとれる。これについての反論はあるか?」

「ほ、宝石は……マイヤー元男爵……辺境伯が、必要も無いのに、国防の為と偽っていたので……」

「それは魔の森の封印の為じゃと、以前説明をしたな?」

「……はい」

「お主は2つも国を揺るがす行為をした。事実、こうして国が魔族に襲われたのじゃ。その罪は計り知れん」

 謁見の間が静まり返る。

 さっきまで怒っていたハインツ様も、今は静かにうなずいている。

 あれ? シャンク公爵以外にも、顔が真っ青になってる貴族が何人もいる。どうしたんだろう。

「よってシャンク公爵の爵位を剥奪し、国家反逆罪として永久追放を言い渡す! なお、宝石の流通に手を貸した者にも、追って沙汰を言い渡す!」
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