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63冷やかし 予感

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 翌日には国中にわたくしとロビーが婚約したと広まりました。
 聖女と勇者ですしね。
 あ、ロビーが勇者だという事はまだ知られていないのでした。
 その事を周囲の人に伝えようかと聞いてみると。

「勇者の力をもっと使いこなせるようになってから、その時に自分で伝えるよ」

 だそうです。
 そうですね、焦る必要はありませんし、勇者ではないからと反対される事でもありません。
 
「それにしても王太子の顔、面白くって笑いをこらえるのが大変だったぜ!」

「も~だめでしょ~マット。王太子も本気だったんだから」

「そうだよマット。そんなこと言うんだったら、ケイに告白する時には僕が指さして笑ってもいいの?」

「ま、ままままてロビー、ななななんで俺がケイにこくこく告白するんだってば!」

「ふぅ~ん……しないの?」

「そ、その内だよ! その内!」

 マットの顔が真っ赤です。そしてケイの顔も真っ赤です。
 この2人、幼なじみでずっと一緒に居た様ですが、未だに付き合っていません。
 
「恋愛に鈍すぎるのは相手に失礼ですよ? マット」

「「「フランがいう事じゃないな」」」

 全員がわたくしの言葉に突っ込んできました。
 なぜですか???

 冒険者ギルドへ行けば花吹雪が舞い、その裏では男性冒険者が泣き崩れ、神殿に行けばぜひ式は当神殿で! と念を押され、城に行けば聖王(国王)に残念そうな顔をされ、街を歩けばあちこちから声をかけられます。
 何でしょうか、流石にここまで祝福ムードになるとこそばゆいですね。

 とは言えすぐに結婚する訳でも無いので、今しばらくは通常通りの生活を続けましょう。

「フランはさ、結婚式でやりたい事とかある? 例えば凄く派手にしたいとか」

 家での昼食中、ロビーがそんな事を聞いてきました。
 結婚式でやりたい事、ですか……う~ん。

「これと言ってありませんが、やはりドレスはシンプルな物がいいですね。ですが……」

「ですか?」

「ドレスはシンプルでいいのですが、その……何着か着たいですね、色やデザインの違うものを数着」

「わ~いいね~それ~。フランだったら何を着ても似合うよ~」

「ありがとうございます。ケイだって何を着ても似合いますよ」

「フランの金髪は何を着てもえそうだな」

「ふふふ、レッドの黒髪も黒い鎧にとてもよく合っています」

 何でしょうか、いつもと同じ他愛もない会話なのですが、とても幸せを感じます。
 今ならば何を言われても平気な顔で聞き流せるでしょうね。

「そんで? 2人の初夜はいつなんだ?」

「ゲホッ!!!」

「ゴホッ、ゴホッ」

 ロビーをわたくしが咳き込みました。
 い、いきなり何を言っているのですかマットは!!!

「ヴぁ、マット? ゴホッ、いきなり何を言うのさ」

「そうよ~マット。私も気になってるけど聞かないように我慢してるんだから~」

「2人の初夜よりも、お前はケイとの関係を進展させたらどうだ?」

「レ、レッドにぃまで何言ってんだよ!?」

 まったくマットと来たら……ふぅ、やっと落ち着きました。
 何とか話がそれてくれたようで安心しました。
 初夜……ですか……ロビーとの?

 チラリとロビーを見ると、ロビーもわたくしを見ていました。
 目が合うと慌てて顔を逸らし、わたくしも気まずくて顔を逸らします。

 そ、そうですよね、婚約したのですから……その……近いうちに……。

 


 そんなノンビリとした日々を過ごしていましたが、ある日の事です、ロビーが修行に行きたいと言い始めました。

「突然どうしたのですかロビー。なぜ今になって修行をしたいなどと……今までそんな事を言った事は無かったではありませんか」

「うん、そうなんだけど……なぜかこう、無性に、まるで義務感のように修行をしないといけない気がして、居ても立っても居られないんだ」

「お前……まさかフランを捨てるんじゃないだろうな!」

「そんなはずが無いだろう! マットでも許さないぞ!」

「お、おうすまん」

「しかしなロビー、今の時期にそんな事を言い出すなんて、周りはそう思っても不思議はないぞ?」

「そ、それはそうだけど……ごめんフラン、決してそんな事は無いんだ」

「大丈夫です。わたくしはいつまでも待っていられます。しかし事情は説明して頂けませんか?」

「胸騒ぎがするんだ。先輩勇者や先輩聖女の皆はまだ大丈夫だって言ってたけど、早く勇者の力を自分の物にしないと、間に合わない……そう、急がないと間に合わない気がするんだ」

 間に合わない……それはつまり、異世界からの侵略が始まる事を意味しているのでしょう。
 しかし聖女のスキル【先見の明せんけんのめい】にはそんな予兆は無いので、近い未来には侵略されることは無いと思いますが。

 しかしロビーの勘ともいえる気持ちはどこから来るのでしょうか。
 勇者としての勘?

「ロビー、それはわたくしも共に修行をしても構いませんか? 強くなるのならば共に行動した方が良いと思いますが……」

「それも考えたんだけど、フランは聖女としての力を使いこなしていると思うんだ。だから急いで修行をする必要は無いと思ってるんだ。僕が……僕の勇者としての力を完全にするためのモノだから、きっとフランと同じ修業は出来ないと思う」

 そうですね、聖女と勇者とでは求められる能力が違います。
 修行をするにしても、先輩勇者や先輩聖女に鍛えてもらうのがいいのでしょうが、恐らくは別々の訓練となるでしょう。

「分かりました。しかしそれならば尚更、わたくしも鍛えなくてはなりません。ロビー1人が強くなり、わたくしがその力に付いて行けないのでは意味がありませんから」

「フラン……ごめん、結局巻きこんじゃったね。しかも式は暫くお預けになっちゃった」

「良いのです。心残りがあっては結婚どころではないでしょう。全てを終わらせて、満足したのちに式をあげましょう」

「そういう事なら仕方がないな。俺達は暫く3人で活動するとしよう」

 パーティーメンバーには迷惑をかけっぱなしですね。
 そうしてわたくしとロビーは修行をする事となりました。
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